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第13話 ふりがな多くて分からない(3)
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犬ですか?
イケメンに問われた言葉が、頭の中で反芻する。
犬ですか?いや、犬でしょう。まごうことなき犬すよ。
チャンピオンの両親から産まれた、血統正しい犬ですけど?
犬種はポメラニアン。ウルウルした瞳がかわいいと、若い女の子から言われました。
「…………犬……ですよ?」
あざとい!と言われるために覚えた首を傾げるポーズと共に肯定の言葉をつむぎ出した!
だって『犬』だしね!
でもイケメンにはあざといポーズは通じないらしい。あちらも首を傾げてこちらをじっと見る。
「私にはそう見えないのですが……」
え?どう言うことですか⁉︎も、もしや、もしや!犬に見えてるのは、私と紗枝ちゃんだけ?こちらの世界の住人には、人間に見えているのか⁉︎しかも、ただの人間じゃなくて大河原敏行、52歳に見えてるのか⁉︎
そう言えば魔物達が、食べ応えがありそうだと言っていた!小型犬であるポメラニアンには肉が少ししかないが、人間だった大河原敏行には良い感じの脂身がある。いつも腹を撫でながら、A4等級の霜降り肉だと思っていたから!
いやいや待て!そうだったらまずい!公全わいせつ罪だ!
52才のおっさんが、全裸で、四つ足で、森の中を走るなんて!想像するだけで申し訳なく、面目が立たない!
「貴方様は大神王では?」
「おおかみおう?」
エルフさんがなんか言い出した。『おおかみおう』って、つまり狼の王様だよね?
犬に見えているのは安心したけれど、どう考えても狼には見えないでしょ?どこからどう見てもかわいいポメラニアンでしょ!
「ええ、大神王……フェンリル様の後継者ですよね?」
「狼王はロボですよね?」
「――ロ、ロボ?」
どうやらシートン動物記を知らないらしい。まぁ、ここ異世界だしね。
シートン動物記は私の幼少期のバイブルだった。特に狼王ロボの話は素晴らしかった。何度読んでも泣けた。
山根君はシートン動物記を知らなかったけど。『誰っすか?それ』って言われたけれど!
「貴方から溢れる神力は素晴らしいので、てっきり次代大神王様かと……」
しんりょく?
うん、また知らない言葉が出てきた。なんだか山根君と会話をしてるみたいだ。
身力、新緑、深緑、心力……きっと身力だな!こっちの世界に来てから、自分でも驚くほど走れるし、跳べるからね!
「犬ですから当然です!」
「私が知ってる犬は、ワンとしか言えませんが……」
……あら、こちらの世界でも同じらしい。
今更だけど、ワンと言ってみようか……いや、無理だな。今更、恥ずかしい。
「今も私と神力を使って会話をしていらっしゃいますよね?それでも大神王様ではないと仰るのですか?」
さてどうしよう。ここでの選択肢はふたつ。
ひとつは『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』と言うから聞くこと。
もうひとつは知ったかぶりで流すことだ。
山根君に会う前の私は、知らない事は正直に聞くべきだと思っていた。
知らないのだから仕方ない。なぜなら世の中には分からないことが沢山ある。聞くことで知ることができれば、それは新たな発見であり、出会いだ。素晴らしいことだと思っていた。
だから山根君が私の部下になった時も、彼の言葉の中から知らない単語が出てきた時に、都度都度聞いていた。
そして知った。世の中には理解が及ばないものが沢山あると。
山根君の説明が下手だったのも――まぁ、あるんだけど、それ以前にひとつの質問に対して20分以上、説明にかかるのも問題だった。
いつだったか山根君が『推し』と言うから、『それはなんだい?』って聞いた。
するとそこから始まったのが、彼の好きなアニメやらゲームやら、なんかその他諸々のキャラクターへの語りだ。その時間2時間!業務時間は8時間だから、四分の1が彼の語りで終わってしまったわけだ。
最終的に『ああ、好きなキャラクターだね?』と言ったら、『違うっす!推しって言うのは――!』と言い返され、またそこから彼の熱い語りが始まった。そこで午前の勤務時間が終わった。きっと周りにはサボっていると思われただろう。
4時間かけても『推し』と『好き』の違いは分からなかった。好きか、大好きの違いな気がするが、どうやらおじさんである私には分からないらしい。
お昼の鐘が鳴ったのを感謝した事だけはよく覚えている。
つまりだ。なんとなく山根君のようにカタカタルビをいっぱい使うこの青い髪の……名前忘れた……さんに、長々語られたら困ってしまうということだ。だったら聞かない方が良い。
つまりこのまま流すに限る!おじさんの理解力は低いのだ!
「昔からしんりょくには定評がありまして!」
つまりこう言っておけば良い筈だ!
「やはり、大神王……フェンリル様の後継者ですよね?」
おっと、その言葉を忘れていた。
ふぇんりるってなんだろう。
狼王の後に続く言葉だし、『様』がついているからには、狼王のお名前がふぇんりるさんなのだろうか。
狼王だけどロボじゃない。だが待てよ?私の世界とこの世界は違うのだ。だからつまりこちらの世界の狼王がフェンリルさんではないだろうか!きっとそうだ、そうに決まっている!
そもそも犬の先祖は狼だと聞いたことがあるような気がする。となると、もしかしたら、ひょっとして、どこかでつながっているかも知れない。そのフェンリルさんとも!
「そう言えば、私の父から聞いたことがあるかもしれません。父方の叔父の叔母の妹の嫁いだ先のご先祖様がフェンリルさんって言ってた気がします!」って完全に嘘言ってる!大河原敏行52歳!犯罪歴がない事だけが自慢だったのに!
「すみません、全部嘘です。何もわからないです。一から教えてください……」
青い髪のお兄ちゃんから、乾いた笑いが漏れた。
イケメンに問われた言葉が、頭の中で反芻する。
犬ですか?いや、犬でしょう。まごうことなき犬すよ。
チャンピオンの両親から産まれた、血統正しい犬ですけど?
犬種はポメラニアン。ウルウルした瞳がかわいいと、若い女の子から言われました。
「…………犬……ですよ?」
あざとい!と言われるために覚えた首を傾げるポーズと共に肯定の言葉をつむぎ出した!
だって『犬』だしね!
でもイケメンにはあざといポーズは通じないらしい。あちらも首を傾げてこちらをじっと見る。
「私にはそう見えないのですが……」
え?どう言うことですか⁉︎も、もしや、もしや!犬に見えてるのは、私と紗枝ちゃんだけ?こちらの世界の住人には、人間に見えているのか⁉︎しかも、ただの人間じゃなくて大河原敏行、52歳に見えてるのか⁉︎
そう言えば魔物達が、食べ応えがありそうだと言っていた!小型犬であるポメラニアンには肉が少ししかないが、人間だった大河原敏行には良い感じの脂身がある。いつも腹を撫でながら、A4等級の霜降り肉だと思っていたから!
いやいや待て!そうだったらまずい!公全わいせつ罪だ!
52才のおっさんが、全裸で、四つ足で、森の中を走るなんて!想像するだけで申し訳なく、面目が立たない!
「貴方様は大神王では?」
「おおかみおう?」
エルフさんがなんか言い出した。『おおかみおう』って、つまり狼の王様だよね?
犬に見えているのは安心したけれど、どう考えても狼には見えないでしょ?どこからどう見てもかわいいポメラニアンでしょ!
「ええ、大神王……フェンリル様の後継者ですよね?」
「狼王はロボですよね?」
「――ロ、ロボ?」
どうやらシートン動物記を知らないらしい。まぁ、ここ異世界だしね。
シートン動物記は私の幼少期のバイブルだった。特に狼王ロボの話は素晴らしかった。何度読んでも泣けた。
山根君はシートン動物記を知らなかったけど。『誰っすか?それ』って言われたけれど!
「貴方から溢れる神力は素晴らしいので、てっきり次代大神王様かと……」
しんりょく?
うん、また知らない言葉が出てきた。なんだか山根君と会話をしてるみたいだ。
身力、新緑、深緑、心力……きっと身力だな!こっちの世界に来てから、自分でも驚くほど走れるし、跳べるからね!
「犬ですから当然です!」
「私が知ってる犬は、ワンとしか言えませんが……」
……あら、こちらの世界でも同じらしい。
今更だけど、ワンと言ってみようか……いや、無理だな。今更、恥ずかしい。
「今も私と神力を使って会話をしていらっしゃいますよね?それでも大神王様ではないと仰るのですか?」
さてどうしよう。ここでの選択肢はふたつ。
ひとつは『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』と言うから聞くこと。
もうひとつは知ったかぶりで流すことだ。
山根君に会う前の私は、知らない事は正直に聞くべきだと思っていた。
知らないのだから仕方ない。なぜなら世の中には分からないことが沢山ある。聞くことで知ることができれば、それは新たな発見であり、出会いだ。素晴らしいことだと思っていた。
だから山根君が私の部下になった時も、彼の言葉の中から知らない単語が出てきた時に、都度都度聞いていた。
そして知った。世の中には理解が及ばないものが沢山あると。
山根君の説明が下手だったのも――まぁ、あるんだけど、それ以前にひとつの質問に対して20分以上、説明にかかるのも問題だった。
いつだったか山根君が『推し』と言うから、『それはなんだい?』って聞いた。
するとそこから始まったのが、彼の好きなアニメやらゲームやら、なんかその他諸々のキャラクターへの語りだ。その時間2時間!業務時間は8時間だから、四分の1が彼の語りで終わってしまったわけだ。
最終的に『ああ、好きなキャラクターだね?』と言ったら、『違うっす!推しって言うのは――!』と言い返され、またそこから彼の熱い語りが始まった。そこで午前の勤務時間が終わった。きっと周りにはサボっていると思われただろう。
4時間かけても『推し』と『好き』の違いは分からなかった。好きか、大好きの違いな気がするが、どうやらおじさんである私には分からないらしい。
お昼の鐘が鳴ったのを感謝した事だけはよく覚えている。
つまりだ。なんとなく山根君のようにカタカタルビをいっぱい使うこの青い髪の……名前忘れた……さんに、長々語られたら困ってしまうということだ。だったら聞かない方が良い。
つまりこのまま流すに限る!おじさんの理解力は低いのだ!
「昔からしんりょくには定評がありまして!」
つまりこう言っておけば良い筈だ!
「やはり、大神王……フェンリル様の後継者ですよね?」
おっと、その言葉を忘れていた。
ふぇんりるってなんだろう。
狼王の後に続く言葉だし、『様』がついているからには、狼王のお名前がふぇんりるさんなのだろうか。
狼王だけどロボじゃない。だが待てよ?私の世界とこの世界は違うのだ。だからつまりこちらの世界の狼王がフェンリルさんではないだろうか!きっとそうだ、そうに決まっている!
そもそも犬の先祖は狼だと聞いたことがあるような気がする。となると、もしかしたら、ひょっとして、どこかでつながっているかも知れない。そのフェンリルさんとも!
「そう言えば、私の父から聞いたことがあるかもしれません。父方の叔父の叔母の妹の嫁いだ先のご先祖様がフェンリルさんって言ってた気がします!」って完全に嘘言ってる!大河原敏行52歳!犯罪歴がない事だけが自慢だったのに!
「すみません、全部嘘です。何もわからないです。一から教えてください……」
青い髪のお兄ちゃんから、乾いた笑いが漏れた。
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