5 / 33
第5話 えすえぬえすでバズりたい
しおりを挟む
「チャタロー、しゃんぽに行くよ?」
紗枝ちゃんの言葉に反応し、私はアンアンと歓喜の声を上げる。しっぽは大きくフリフリ。
犬としての私は完成したと言って良いだろう。鳴き声のバリエーションを増やせたのは、私の努力のたまものだ。
初めはキャンキャンとしか鳴けなかった。
次にアンアンと言えるようになった。
ワンっと声を上げたときには、涙が出そうになった。
グルルっと威嚇する声を出せたのは紗枝ちゃんのお陰だ。紗枝ちゃんを虐めようとしたわんこを排除しようとしたからできたことだ。
確実に犬生を満喫できている。できれば次はアオーンと遠吠えをしたいものだ。
家族の要望には応えている。
お手、お座り、マテ、伏せ、バーン、あごのせ、からのキュン!(なぜキュンなのか分からないが、要は指で作ったハートの中に鼻を突っ込むことだ)そして、ちょっというのが恥ずかしいが、ちんちん(これは言葉に照れてしまう、元人間だからね)も出来るようになった。
まぁ、こんなでも元人間。簡単にできることだが、そこは私も馬鹿ではない。何度も間違えるふりをして、会得したように見せかけた。
あとはTVや、SNSを見て紗枝ちゃんのご両親がかわいいと言いながら見ている犬の寝相も、できるだけやろうとしている。
ワンモナイトは簡単だ。頭をお尻に向けて、くるっと丸くなって寝れば良い。
ご両親は私の写真をいっぱい撮って、SNSにあげていた。
枕を使って寝るのはお手の物だ。元人間の私が、一番落ち着く寝方だ。
だがあれだけは恥ずかしくてできずにいる。通称へそてん!要は仰向けになって寝ることだが、そうすると恥部をおっぴろげて見せることになってしまう。確かに私は犬だ。だが元人間だ。しかもおじさんだ。
かわいい紗枝ちゃんや、美人のお母さんの前でそんな姿は見せられない。
わいせつ罪で捕まってしまう。いや、犬なんだけど……。
だが人はだんだんと器に引っ張られていくのだろうか……。
◇
お父さんのスマホのシャッター音に目を覚ました私は、自分の格好に驚いた。
目を開けたら床が見えた。後頭部?頭頂部?良く分からないが頭は床についていた。背中も床だ。いや、私はふっかふかの高級ベッドを用意して頂いているので、正確にはその上だが。
前足は天井を向いている。後ろ脚は……なんかだらんとしている。そして自慢のモフモフ尻尾は体の下敷き……。
ああ、恥ずかしい!私とあろうものが!恥部をおっぴろげて、だらしなく寝てしまうとは!
確かに、今日は初のドッグランデビューで疲れていた。
何故か知らないが、人(犬?)なっつこい犬に追いかけられて、私は必死に逃げた。だが周囲には仲良く追いかけっこしているように見えたのだろう。誰も助けてくれなかった。
これでも元人間だ。強気になって『コラっ』と言って叱れば良かったのかもしれない。だが、元人間だからこそ言えなかった。なぜなら自分より年下と思われる(犬の年齢は分からないが、人生と犬生を足せば確実に私が年上だろう)かわいいわんこを叱ることなんてできない。
ましてや私の相手はドッグランの常連さん。代わって私は新人。新入社員の分際で、上司に逆らうことは許されない!という若手の頃の癖が抜けない元サラリーマン。
なんていうのは全て言い訳。自分より大きいわんこに迫られると怖くて、怖くて足が勝手に逃げ出した。
元人間なのに!もう私の本能は犬なのだろうか⁉
キャウンキャウンと鳴きながら逃げていると、異変を感じたお父さんが救出してくれた。
もう嫌だ嫌だと嘆き、お父さんの顔をぺろぺろすることで、ドッグランから去ることができた。
うん、と言うか、私は自分の子供より(いや、独身だからいないけどね)若い男の人をなめまくってしまったのか……。今更だが、改めて想像すると心の底から申し訳ない。いや、今の私は犬なんだけど……。
ああ、でも私を助けてくれたお父さんが満足そうに私の写真をSNSにアップしている。私は犬なんだから、たまにはサービスショットでやってみることにしよう。
こうして、徐々に身も心も犬になっていくのだろう。いや、もうきっと私は犬だな。犬。
お父さん越しにあるTVに写るのは、私の銅像の除幕式。そこで山根君が号泣している。あれほど公式の場でコスプレはだめだと言ったのに……。まぁ、それももう過去の事。私はもう死んでいるのだから。犬なのだから。
紗枝ちゃんの言葉に反応し、私はアンアンと歓喜の声を上げる。しっぽは大きくフリフリ。
犬としての私は完成したと言って良いだろう。鳴き声のバリエーションを増やせたのは、私の努力のたまものだ。
初めはキャンキャンとしか鳴けなかった。
次にアンアンと言えるようになった。
ワンっと声を上げたときには、涙が出そうになった。
グルルっと威嚇する声を出せたのは紗枝ちゃんのお陰だ。紗枝ちゃんを虐めようとしたわんこを排除しようとしたからできたことだ。
確実に犬生を満喫できている。できれば次はアオーンと遠吠えをしたいものだ。
家族の要望には応えている。
お手、お座り、マテ、伏せ、バーン、あごのせ、からのキュン!(なぜキュンなのか分からないが、要は指で作ったハートの中に鼻を突っ込むことだ)そして、ちょっというのが恥ずかしいが、ちんちん(これは言葉に照れてしまう、元人間だからね)も出来るようになった。
まぁ、こんなでも元人間。簡単にできることだが、そこは私も馬鹿ではない。何度も間違えるふりをして、会得したように見せかけた。
あとはTVや、SNSを見て紗枝ちゃんのご両親がかわいいと言いながら見ている犬の寝相も、できるだけやろうとしている。
ワンモナイトは簡単だ。頭をお尻に向けて、くるっと丸くなって寝れば良い。
ご両親は私の写真をいっぱい撮って、SNSにあげていた。
枕を使って寝るのはお手の物だ。元人間の私が、一番落ち着く寝方だ。
だがあれだけは恥ずかしくてできずにいる。通称へそてん!要は仰向けになって寝ることだが、そうすると恥部をおっぴろげて見せることになってしまう。確かに私は犬だ。だが元人間だ。しかもおじさんだ。
かわいい紗枝ちゃんや、美人のお母さんの前でそんな姿は見せられない。
わいせつ罪で捕まってしまう。いや、犬なんだけど……。
だが人はだんだんと器に引っ張られていくのだろうか……。
◇
お父さんのスマホのシャッター音に目を覚ました私は、自分の格好に驚いた。
目を開けたら床が見えた。後頭部?頭頂部?良く分からないが頭は床についていた。背中も床だ。いや、私はふっかふかの高級ベッドを用意して頂いているので、正確にはその上だが。
前足は天井を向いている。後ろ脚は……なんかだらんとしている。そして自慢のモフモフ尻尾は体の下敷き……。
ああ、恥ずかしい!私とあろうものが!恥部をおっぴろげて、だらしなく寝てしまうとは!
確かに、今日は初のドッグランデビューで疲れていた。
何故か知らないが、人(犬?)なっつこい犬に追いかけられて、私は必死に逃げた。だが周囲には仲良く追いかけっこしているように見えたのだろう。誰も助けてくれなかった。
これでも元人間だ。強気になって『コラっ』と言って叱れば良かったのかもしれない。だが、元人間だからこそ言えなかった。なぜなら自分より年下と思われる(犬の年齢は分からないが、人生と犬生を足せば確実に私が年上だろう)かわいいわんこを叱ることなんてできない。
ましてや私の相手はドッグランの常連さん。代わって私は新人。新入社員の分際で、上司に逆らうことは許されない!という若手の頃の癖が抜けない元サラリーマン。
なんていうのは全て言い訳。自分より大きいわんこに迫られると怖くて、怖くて足が勝手に逃げ出した。
元人間なのに!もう私の本能は犬なのだろうか⁉
キャウンキャウンと鳴きながら逃げていると、異変を感じたお父さんが救出してくれた。
もう嫌だ嫌だと嘆き、お父さんの顔をぺろぺろすることで、ドッグランから去ることができた。
うん、と言うか、私は自分の子供より(いや、独身だからいないけどね)若い男の人をなめまくってしまったのか……。今更だが、改めて想像すると心の底から申し訳ない。いや、今の私は犬なんだけど……。
ああ、でも私を助けてくれたお父さんが満足そうに私の写真をSNSにアップしている。私は犬なんだから、たまにはサービスショットでやってみることにしよう。
こうして、徐々に身も心も犬になっていくのだろう。いや、もうきっと私は犬だな。犬。
お父さん越しにあるTVに写るのは、私の銅像の除幕式。そこで山根君が号泣している。あれほど公式の場でコスプレはだめだと言ったのに……。まぁ、それももう過去の事。私はもう死んでいるのだから。犬なのだから。
10
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
閑職窓際公務員、出向先はゲームです!?~仮想現実作られ数年、眠れる羊は夢を見る~
かんひこ
SF
──七年前、東京のある大学がフルダイブ技術を発明させた。世界に、新しい時代の幕が上がる。
フルダイブ技術発明から七年後、総務省の片隅でこそこそ仕事に勤しんでいた男・北条充《ほうじょうみつる》三十一歳は、ある日突然、大臣からじきじきに出向を命じられる。
ヨルムンガンドオンライン
サービス開始から一年半を迎えたこのフルダイブMMORPGの仮想世界。
オフィスビルのサラリーマン生活から一転、剣と魔法のファンタジーワールドに飛ばされた彼の運命は……!?
「にっ、逃げろぉぉぉぉ!!!!」
※他サイトにも同時掲載しております。あらかじめご了承下さい。
※当作品は、《ユメカガク研究所MMORPG制作・運営委員会》によるシェアワールドとなっております。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
お布団から始まる異世界転生 ~寝ればたちまちスキルアップ、しかも回復機能付き!?~
雨杜屋敷
ファンタジー
目覚めるとそこは異世界で、俺は道端でお布団にくるまっていた
思わぬ″状態″で、異世界転生してしまった俺こと倉井礼二。
だがしかし!
そう、俺には″お布団″がある。
いや、お布団″しか″ねーじゃん!
と思っていたら、とあるスキルと組み合わせる事で
とんだチートアイテムになると気づき、
しかも一緒に寝た相手にもその効果が発生すると判明してしまい…。
スキル次第で何者にでもなれる世界で、
ファンタジー好きの”元おじさん”が、
①個性的な住人たちと紡ぐ平穏(?)な日々
②生活費の為に、お仕事を頑張る日々
③お布団と睡眠スキルを駆使して経験値稼ぎの日々
④たしなむ程度の冒険者としての日々
⑤元おじさんの成長 等を綴っていきます。
そんな物語です。
(※カクヨムにて重複掲載中です)
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる