オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木

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オカン公爵令嬢は潜入する。

33話 決戦(3)

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 オヤジがなぜ焦っているのか分からず、俺は女性陣の会話に聞き耳を立てる。

「アダルベルト王太子一択でしょ!アダルベルトしか勝たん‼︎」

「確かにアダルベルトは良いですけど……セヴェーロも良くないですか?色気たっぷりで」

「悪くないけど……ここは私もやっぱり正統なアダルベルトかしら?」

「やっぱり!そこは絶対にアダルベルトでしょう?実際の姿を見てびっくり。あの美しさはいかんでしょう!美しくて賢くて強くて、とにかく秀一!生きる美!神降臨だわ!」

「中身が咲夜だからそこまでか?と思わなくはないけど、まぁ分かるわ。確かにアダルベルトモードの時とかかなり良い」

「いやいや、水晶玉で見てたけど咲夜君モードの時も惚れる。あの見た目で天然っぷりが更に佳き」

「あんたも好きものね?」

「あれも良かった……気絶してる時……金色の長いまつ毛が頬に影を作って、更に少し開いたピンク色の唇。官能的で……本当に引き込まれた……じっくり隅々まで見たくて、でも神にそれはダメって言われたけど、でも我慢できなくて……でもまだ……大丈夫じゃないかな……?ギリギリいける?まだまだ愛でれる?もっとじっくり体の隅々まで……もっともっと」

 なんかレオポルドがぶつぶつ言い始めた。怖いと言うか気持ち悪い。

 これがオヤジが言う危険信号かと思い、俺は再びオカンとレオポルドの間に戻った。レオポルドの目がギョロッと動き、俺を捕らえる。

「やだ、抑えていた本性が出てきた系?喧嘩売ったり、仲良くしたり、執着愛になったり、精神不安定系?」 

「いや、オカン冷静に判断しないで。普通じゃないよ?」

「そうね……確かに正気じゃないみたいね。魔力が暴走してるわ」
 
 うっとりした表情をするレオポルドは確かに普通じゃない。その証拠にレオポルドの魔力で部屋の灯りがホラー映画のように不気味な点滅を始めた。それだけじゃない。妙に空気が重くなった部屋の距離感が曖昧だ。そしてそんな訳の分からない状態の部屋の中で、血走った目のレオポルドが俺ににじりよる。

「魔力の暴走かしら?ホッとしたと同時に気が抜けるってよくあることよね。話してて思ったんだけど、この子ってどのゲームに転生していたか知りたかったみたいじゃない?知りたかったから自分が使える以上の魔力を使って自国をゲームにした。でもそんな使い方無理があるに決まってるわよね?」

「オカン、何を冷静に解説してるの⁉︎」

 レオポルドとの距離が近い!もうこれは、0距離だ!肩を掴んで距離を離そうとするけれど、魔力が暴走しているせいか、力強くて離れない!男装しているとは言え女性だ。あまり乱暴なことはしたくない。
 もう敵ではないのだから。オカンの言う通り、魔力の暴走でこうなっただけなんだから。

「ああ、生アダルベルト様良い香り。ダメダメ、アダル様にはコスタンツァが……。でも生アダル様、良い匂い、たまんない……ああ、やっぱり一番の推し……生アダル様……ああ、気絶していたアダル様も素敵だったけど、やっぱり動いているアダル様が一番……」

「気絶してる間にアダルベルトに何かしたの?」
 オカンが楽しくて仕方ない顔をしてる!
  
「ついつい、触ってしまったんです。その顔、髪、そして唇……そして――

 レオポルドの言葉の途中で麗から魔力がドッと吹き出した。その勢いには流石にオカンも怯む。俺だってびっくりだ。また攻撃されるかもしれない‼︎
 
「許せない!咲夜君に何をしたの⁉︎私だってまだ触ってないのに‼︎」

「そういう問題⁉︎」

 なんて突っ込んでる場合じゃない!麗から吹き出した魔力で建物が吹き飛ぶ!
 そう思った瞬間、オカンが声を上げた。

「はい!転移~‼︎」

 聞き覚えのある技名だ――そう思ったのも束の間、俺たちは上空に浮いていた。透明で球体のそれに見覚えがある。前回、魔王と戦った時の、オカンのヘンテコ魔法だ!
 
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