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オカン公爵令嬢は潜入する。

27話 仕様が無くなる時

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 俺を貫いたのは静電気の様な微弱な魔力での攻撃だ。その魔力を逆探知するように探る。辿れないようにしてるのか色んな人を経由してる。コンピュータのウイルスみたいだ。あちらこちらに痕跡を残すことで本体を見つけにくくしてる。

 ゲームはしない俺だけど、プログラミングは好きだった。医者を目指していた俺はこれからの医療にも必要だと思って積極的に学んだ。この世界の魔法もプログラミングに似てる。魔法を組み合わせ必要な魔力を乗せる。前世の記憶が戻ってからの俺の魔法は更に研ぎ澄まされたと言っても良い。ヘンテコ魔法を使う麗やオカンには色んな意味で勝てないけど、繊細な魔法は俺の方が上手くできる。

 だから俺はどんどん魔力を辿っていく。絡まった糸のような魔力を追っていくと終着点が見えた。赤い魔力だ。それなりに大きい。この魔力には覚えがある。そして見えたのは赤茶色のサラサラとした髪……。
 
 もうすぐ正体が分かる‼︎と思ったと同時に弾かれた。


「咲夜‼︎」
「――――っ‼︎」
 オヤジの叫び声に目を瞬く。そしてそんな俺の目に一番初めに飛び込んできたのは……。

金;アダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレ
好感度75% 親密度 62% 恋愛度 40%

 俺のオヤジへの好感度が増えてる‼︎
 密着度を表す親密度については分かる。オヤジは弾かれた俺を抱え込むようにしているからだ。だから仕方ない。だけど好感度が増えるって……俺がオヤジを好きになっている理由が分からない。
 いや、今は好感度は無視しよう。大事なのはそこじゃない。

「オヤジ、俺は?」
「ああ、咲夜が敵を感知していたことは分かっているよ。そしたら咲夜がいきなり弾かれるように飛んできたからびっくりしたよ」

「うん、あともう少しという所で弾かれた。初めの攻撃とは桁違いな威力でびっくりしたよ」

「初め?」
「攻撃は2回来たんだ。静電気みたいな攻撃と、最後の攻撃」

「ああ、ではそれで周りは気絶したのかな?見てご覧、僕たち以外はみんな気絶しているし、風景も変わったよ」

 オヤジに言われて周りを見る。確かにウーゴも、そして廊下にいた生徒も、教室から俺たちを覗いていた生徒たちも気絶している。

 そしてよく見ると景色も変わっている。さっきまでは現実味のない世界だった。壁や廊下には埃もシミもヒビすらもなく、窓ガラスは曇りひとつすらない。だけど今は違う。長く使われている校舎の壁は少し黄ばみ、目立たない程度のヒビもある。掃除していても常に生徒が歩く廊下の隅には埃もあるし、なんならゴミだって落ちている。そして窓から見える空の色は鮮やかに眩しく美しい。

「オヤジも『仕様』が解けたね?」
 オヤジの青銅色の髪がサラサラと靡いている。血のように赤い瞳も健在だ。さっきまでは金髪に青い眼をしていたのに。
 
「咲夜もだね。ちゃんと金眼に戻ったよ。おめでとう」
「そうなんだ……良かった。これで国に帰れるよ」

「生徒たちの制服を見てご覧。こうして見ると、今までの現実感のなさが良く分かるね」
 
 目の前で倒れているウーゴの制服を見るとには当たり前のように皺がある。そういえばさっきまで制服には皺ひとつなかった。そして先ほどまで忘れていた違いもちゃんと見えた。

「なんだっけ、確か制服って金の刺繍が男性、銀の刺繍が女性だっけ?」

「完全に思い出したね。金は太陽で男性を表し、銀は月で女性を表す。そしてこの国は成人するまで男装する義務がある。海賊がルーツであるこの国は女性が拐われる事を避けるために、昔からこの風習を守っているんだ」

「うん、そうだったね。そして攻略対象の4人は皆、女性だ。ウーゴ・メッザ以外は!」

「そうだよ。だから僕にオちない……そう思わなければやってられないよね?」

 落ち込むオヤジを無視して、俺はウーゴを覗く。白地に金の刺繍と金のボタン。確かに男性の証。そしてさっきまで海苔みたいなのっぺりした黒髪だったのが、ツヤツヤした黒髪へと変わっている。今まで男性だと思っていた学園の生徒たちも、よく見ると違いが分かる。

 普通の世界に戻った……にも関わらず、どうして俺のオヤジへの数値が見えるんだろう?それだけが謎だ。

「この数値があるということは、完全には敵の魔法が解けていないようだね」
 ウーゴのオヤジへの数値を見る。
 
黒;ウーゴ・メッザ
好感度32% 親密度 0% 恋愛度 0%

「…………爆下がりだね」
「男だからね……」

 悔しそうに語るオヤジに、俺は思わず吹き出した。
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