オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木

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オカン公爵令嬢は潜入する。

24話 オカンとオヤジの愛

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 画面に映るのは、俺が初めにジェラルドに会った場所。学校にあるロココ調ちっくの廊下。そこには血のように赤い薔薇を望むオヤジとジェラルドの姿がある。オヤジは当然のように、ジェラルドの顎を掴み、腰に手を回す。

「血のように紅い薔薇は君の白い肌に良く映えるだろう。誰にも見られない場所で、君は僕にその姿を愛でさせてくれるのかな?」
「は……はい」

 どさっと言う音が聞こえ……画面からNo.1攻略対象、赤信号のジェラルドの姿が消えた。

 赤;ジェラルド・ヌォヴァ 
 好感度100% 親密度 10% 恋愛度 0%

 さすがオヤジ、言葉と視線でジェラルドを落としてしまった。
 
 カメラ目線でフッと笑うオヤジにイラつきながらも、オカンを見ると、してやったりと言った表情で笑ってる。全く嫉妬などしていないように見える。むしろ自分の指示でオヤジがジェラルドを落としたものだから、ご満悦だ

 無理な気がしてきた。オカンがオヤジに嫉妬するなんてあり得ない。オカンの言葉で言うところの無理ゲーだ!

「わー、さすが雅也さん!あっという間」

 そう言う麗の目に映るのは攻略対象No.2 ストーカーのロメオに近づいて、もう気絶させているオヤジの姿だ。

 青;ロメオ・カランテ 
 好感度100% 親密度 0% 恋愛度 0%

 確かにすごい。もう攻略した。そして、そんなオヤジを見てオカンは――ガッツポーズしてる。嫉妬のしの字も見られない。

 現在、俺と麗とオカンは保健室で『写しますよ。ウツオくん』という名のタブレットを見てる。そしてなぜか俺が辿った方法でオヤジは攻略対象者を落としていってる。俺がやってきたことはなんだったんだろう……そう思うけれど、オカンはゲームがリセットされたのよ、と言うし麗も納得してるので黙っておくことにした。

「それにしても今世のオヤジはすごいね。廊下を歩く人もみんなオヤジに興味津々じゃない。あ――あの人なんかオヤジに手を振ってるよ?オヤジも笑顔で手を振ってるね?」

 解説しながらオカンを見ると……鼻で笑った……。
 全く嫉妬してない。嫉妬のかけらも見れない。これはもう諦めた方が良い気がする……。

「雅也さんは昔からモテますよね?」

「そうでしょう~、雅也さんは昔から人気者なのよ。でも雅也さんは残念ながら私だけにしか興味がないの!」
 オカンが鼻息をふふんと鳴らす。

 なんだかこれは黙って聞いていた方が良い予感がする。

「でた~、燈子さんの雅也さんへの遠回しな惚気!」

「ふふふ、雅也さんにアタックしてふられた女どもの嫉妬の視線を浴びるのが昔から快感だったのよ。今世でもその気分が味わえて最高だわ!」

(変態だ……ここに変態がいる……)

「看護師さんの間でも良く言われてましたよ。なんで雅也さんは燈子さんがあんなに好きなの?って。燈子さんの余裕な態度がまたムカつく~って」

「知ってたわよ~。知っていて雅也さんが同僚とご飯を食べに行くのを許していたんだもの。ふふふ。色仕掛けをしようが何をしようが雅也さんが私以外を好きになるわけがないのにね」

「出た出た~、追加の惚気~って、このやりとりも久しぶりですね~」

「昔は良くしてたわよね。懐かしいわ」

「え……オカンはわざとオヤジが食事に行くのを許していたの?」
 驚いて言葉が出てしまった俺をふたりがジッと見る。

「そう言えば……いたわね。咲夜が……」
「ずっといましたよ?燈子さんは忘れていたんですか?」

「忘れていたわ~。相変わらず空気みたいな子よね……でもそうよ。わざとよ。悪い?」

「いや……うん、だったら良いよ」

 オヤジへの報告はこれで良いのだろうか……。オカンは嫉妬はしていない。けれどオヤジの周囲の人間からの嫉妬を心地よく受けることに生きがいを感じてる。オカンにとっては今の環境は最高だろう。魅惑的なオヤジに引き寄せられるように群がる人々の羨望の的なのだろうから。実に歪んだ愛情だ。

 どうやら俺には母の意味不明な愛は理解できないし、父の粘着質な愛も理解できないようだ。良かった。似なくて。
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