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オカン公爵令嬢は潜入する。
23話 オヤジの悩み
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「どう思う?」
「質問の趣旨が見えないよ?なにがどう思うの?」
オヤジが頭を一振りすると、元の姿に戻った。そして長いサラサラした髪がふわっと浮いて、当たり前の様にきれいに背中にまとまった。シャンプーのCMみたいだ。そして相変わらず、不思議な髪色だ。きっとオヤジをCMに起用していたら、その商品は爆売れだろう。
「燈子さんがまったく嫉妬してない様に見えるんだけど、どう思う?」
「恋バナ⁉︎」
驚いた声をあげる俺を無視する様にオヤジは当然のように俺の隣に座る。
(なんだか嫌だ)
前世のオヤジはほんわかした雰囲気だったから、隣に座ってもなんとも思わなかったけど、今世のオヤジは変に蠱惑的だから、できるならば近くにいたくない。
「咲夜……君は今世の僕の容姿をどう思う?」
「どう……思う……って」
やめて欲しい!じっ――っと見つめられると、なんだか胸が締め付けられる様にキュッとするし、それとは正反対に頭は何も考えずぼうっと熱を帯びていく。
「ちょ……近い、オカンの嫉妬と見た目になんの関係があるんだよ!そもそも、オカンは昔っから嫉妬とは無縁の人間だったでしょ!」
「息子ですら……こうなのに……」
ぶつぶつ言いながら離れて行くオヤジに胸を撫で下ろしつつも、なんとなく惜しいと思ってしまう。そう思えてしまう今のオヤジの色気は恐ろしい。
「確かに昔から燈子さんは嫉妬とは無縁だった。僕が職場の仲間と食事に行っても、大学の同級生と会っても、なんなら近所の奥さん達と食事に行っても嫉妬をしてもらえなかった」
オヤジに前職は看護師だ。俺の世代では男で看護師を目指す子もいたけれど、オヤジの世代ではレアだ。だから職場でも大学でも周りは女性だらけだ。と言うことは食事会では男はオヤジだけだったろう。
それにしても近所の人とも食事に行っていたとは……オヤジのコミュニケーション能力は恐ろしい。
「だけど前世の僕の見た目は平凡でモテる方ではなかった。良い人ねって言われる事が多かった。もちろん、アプローチされた経験の1度や2度や何十回もあるけれど」
初耳だ……。でも確かに周りは女性だらけなんだから、そうなってもおかしくない。ただ、何十回ってどう言う事だろう。俺は前世はオヤジに良く似た顔だったけど、モテた覚えなんてないのに。『咲夜君は良い人なんだけど』はいっぱい言われたけど……。
「……それを俺に言われても……。オヤジを信頼しているんじゃないの?そもそもオヤジだってオカンが職場の人と飲みに行っても気にしてなかったじゃない?オカンは勉強のため出張も多かったし、海外にも行ったりしてたけど、オヤジも普通に送り出していたでしょう?お互いに信頼している証だと俺は思っていたけど?」
「僕は平気なふりをしていただけだ……。その証拠に燈子さんが飲み会や出張先から帰ってから、何があったか、誰とあったか根掘り葉掘り聞きだしていた。なのに燈子さんはいつも僕には何も聞いてくれなかった」
「……そうだったんだね、知らなかったよ」
転生してから知ったことは多いけど、まさかオヤジとオカンの夫婦関係をここで知ることにはなるとは思わなかった。
俺は傍若無人で暴走機関車で、深く考えずに突っ走ってハマる天然なオカンを、オヤジが操作しているのかと思っていた。でも実際は違うらしい。
親のこんな話を聞くことになるとは……俺も成長した証なのだろう。
「今世の僕は、誰も彼もの視線を惹きつけ、愛を語られ、思うがままに相手を操ることだってできる魅力的な姿だ。しかも燈子さんの好みのはずだ。麗ちゃんだってそれは保証してくれている。……だからこそ嫉妬してくれると思っていたのに、なのに……全く嫉妬する素振りもない。今回だって麗ちゃんは咲夜に対してあんなに嫉妬したキャラになったと言うのに、燈子さんから引き出せた言葉は『効率が良い』だった。すごく――悔しい」
「うん……」
どう言えば良いのだろう。成長したからこそ話してくれているのは分かる。だけど、それに対しての答えを出すには、俺はあまりにも経験不足だ。
「そこで咲夜に頼みがある!」
「あ――うん、何?」
「僕は明日からここで全力で攻略対象者を攻略する。だから咲夜は燈子さんが嫉妬してるのかどうかを見定めて欲しい!」
……オヤジが必死だ。そうなると協力するのが良いだろう。
「分かった!良いよ」
「よし、これで咲夜への頼み一つが消えた」
「ひとつ?まだあるの?」
「もうひとつは、燈子さんが献身の神を信じるように協力して欲しい、だ」
「……は?まだ――信じてないの?だってオヤジが愛の神や試練の神の話をしていても否定してないじゃない!」
「燈子さんにとっては近所のおじさん、おばさんと同じ感覚でしかない。だから頼んだよ?咲夜」
にっこり笑うオヤジは昔と変わらない口調で、でももう隠す気もない腹黒さを見せながら、俺の肩を叩く。
オカンに神を信じさせる?
この作られた世界を攻略するより、そちらの方が絶対大変だ!
「質問の趣旨が見えないよ?なにがどう思うの?」
オヤジが頭を一振りすると、元の姿に戻った。そして長いサラサラした髪がふわっと浮いて、当たり前の様にきれいに背中にまとまった。シャンプーのCMみたいだ。そして相変わらず、不思議な髪色だ。きっとオヤジをCMに起用していたら、その商品は爆売れだろう。
「燈子さんがまったく嫉妬してない様に見えるんだけど、どう思う?」
「恋バナ⁉︎」
驚いた声をあげる俺を無視する様にオヤジは当然のように俺の隣に座る。
(なんだか嫌だ)
前世のオヤジはほんわかした雰囲気だったから、隣に座ってもなんとも思わなかったけど、今世のオヤジは変に蠱惑的だから、できるならば近くにいたくない。
「咲夜……君は今世の僕の容姿をどう思う?」
「どう……思う……って」
やめて欲しい!じっ――っと見つめられると、なんだか胸が締め付けられる様にキュッとするし、それとは正反対に頭は何も考えずぼうっと熱を帯びていく。
「ちょ……近い、オカンの嫉妬と見た目になんの関係があるんだよ!そもそも、オカンは昔っから嫉妬とは無縁の人間だったでしょ!」
「息子ですら……こうなのに……」
ぶつぶつ言いながら離れて行くオヤジに胸を撫で下ろしつつも、なんとなく惜しいと思ってしまう。そう思えてしまう今のオヤジの色気は恐ろしい。
「確かに昔から燈子さんは嫉妬とは無縁だった。僕が職場の仲間と食事に行っても、大学の同級生と会っても、なんなら近所の奥さん達と食事に行っても嫉妬をしてもらえなかった」
オヤジに前職は看護師だ。俺の世代では男で看護師を目指す子もいたけれど、オヤジの世代ではレアだ。だから職場でも大学でも周りは女性だらけだ。と言うことは食事会では男はオヤジだけだったろう。
それにしても近所の人とも食事に行っていたとは……オヤジのコミュニケーション能力は恐ろしい。
「だけど前世の僕の見た目は平凡でモテる方ではなかった。良い人ねって言われる事が多かった。もちろん、アプローチされた経験の1度や2度や何十回もあるけれど」
初耳だ……。でも確かに周りは女性だらけなんだから、そうなってもおかしくない。ただ、何十回ってどう言う事だろう。俺は前世はオヤジに良く似た顔だったけど、モテた覚えなんてないのに。『咲夜君は良い人なんだけど』はいっぱい言われたけど……。
「……それを俺に言われても……。オヤジを信頼しているんじゃないの?そもそもオヤジだってオカンが職場の人と飲みに行っても気にしてなかったじゃない?オカンは勉強のため出張も多かったし、海外にも行ったりしてたけど、オヤジも普通に送り出していたでしょう?お互いに信頼している証だと俺は思っていたけど?」
「僕は平気なふりをしていただけだ……。その証拠に燈子さんが飲み会や出張先から帰ってから、何があったか、誰とあったか根掘り葉掘り聞きだしていた。なのに燈子さんはいつも僕には何も聞いてくれなかった」
「……そうだったんだね、知らなかったよ」
転生してから知ったことは多いけど、まさかオヤジとオカンの夫婦関係をここで知ることにはなるとは思わなかった。
俺は傍若無人で暴走機関車で、深く考えずに突っ走ってハマる天然なオカンを、オヤジが操作しているのかと思っていた。でも実際は違うらしい。
親のこんな話を聞くことになるとは……俺も成長した証なのだろう。
「今世の僕は、誰も彼もの視線を惹きつけ、愛を語られ、思うがままに相手を操ることだってできる魅力的な姿だ。しかも燈子さんの好みのはずだ。麗ちゃんだってそれは保証してくれている。……だからこそ嫉妬してくれると思っていたのに、なのに……全く嫉妬する素振りもない。今回だって麗ちゃんは咲夜に対してあんなに嫉妬したキャラになったと言うのに、燈子さんから引き出せた言葉は『効率が良い』だった。すごく――悔しい」
「うん……」
どう言えば良いのだろう。成長したからこそ話してくれているのは分かる。だけど、それに対しての答えを出すには、俺はあまりにも経験不足だ。
「そこで咲夜に頼みがある!」
「あ――うん、何?」
「僕は明日からここで全力で攻略対象者を攻略する。だから咲夜は燈子さんが嫉妬してるのかどうかを見定めて欲しい!」
……オヤジが必死だ。そうなると協力するのが良いだろう。
「分かった!良いよ」
「よし、これで咲夜への頼み一つが消えた」
「ひとつ?まだあるの?」
「もうひとつは、燈子さんが献身の神を信じるように協力して欲しい、だ」
「……は?まだ――信じてないの?だってオヤジが愛の神や試練の神の話をしていても否定してないじゃない!」
「燈子さんにとっては近所のおじさん、おばさんと同じ感覚でしかない。だから頼んだよ?咲夜」
にっこり笑うオヤジは昔と変わらない口調で、でももう隠す気もない腹黒さを見せながら、俺の肩を叩く。
オカンに神を信じさせる?
この作られた世界を攻略するより、そちらの方が絶対大変だ!
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