オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木

文字の大きさ
上 下
75 / 90
オカン公爵令嬢は潜入する。

23話 オヤジの悩み

しおりを挟む
「どう思う?」
「質問の趣旨が見えないよ?なにがどう思うの?」

 オヤジが頭を一振りすると、元の姿に戻った。そして長いサラサラした髪がふわっと浮いて、当たり前の様にきれいに背中にまとまった。シャンプーのCMみたいだ。そして相変わらず、不思議な髪色だ。きっとオヤジをCMに起用していたら、その商品は爆売れだろう。

「燈子さんがまったく嫉妬してない様に見えるんだけど、どう思う?」
「恋バナ⁉︎」

 驚いた声をあげる俺を無視する様にオヤジは当然のように俺の隣に座る。

(なんだか嫌だ)

 前世のオヤジはほんわかした雰囲気だったから、隣に座ってもなんとも思わなかったけど、今世のオヤジは変に蠱惑的だから、できるならば近くにいたくない。

「咲夜……君は今世の僕の容姿をどう思う?」
「どう……思う……って」

 やめて欲しい!じっ――っと見つめられると、なんだか胸が締め付けられる様にキュッとするし、それとは正反対に頭は何も考えずぼうっと熱を帯びていく。

「ちょ……近い、オカンの嫉妬と見た目になんの関係があるんだよ!そもそも、オカンは昔っから嫉妬とは無縁の人間だったでしょ!」

「息子ですら……こうなのに……」

 ぶつぶつ言いながら離れて行くオヤジに胸を撫で下ろしつつも、なんとなく惜しいと思ってしまう。そう思えてしまう今のオヤジの色気は恐ろしい。

「確かに昔から燈子さんは嫉妬とは無縁だった。僕が職場の仲間と食事に行っても、大学の同級生と会っても、なんなら近所の奥さん達と食事に行っても嫉妬をしてもらえなかった」

 オヤジに前職は看護師だ。俺の世代では男で看護師を目指す子もいたけれど、オヤジの世代ではレアだ。だから職場でも大学でも周りは女性だらけだ。と言うことは食事会では男はオヤジだけだったろう。

 それにしても近所の人とも食事に行っていたとは……オヤジのコミュニケーション能力は恐ろしい。

「だけど前世の僕の見た目は平凡でモテる方ではなかった。良い人ねって言われる事が多かった。もちろん、アプローチされた経験の1度や2度や何十回もあるけれど」
 
 初耳だ……。でも確かに周りは女性だらけなんだから、そうなってもおかしくない。ただ、何十回ってどう言う事だろう。俺は前世はオヤジに良く似た顔だったけど、モテた覚えなんてないのに。『咲夜君は良い人なんだけど』はいっぱい言われたけど……。

「……それを俺に言われても……。オヤジを信頼しているんじゃないの?そもそもオヤジだってオカンが職場の人と飲みに行っても気にしてなかったじゃない?オカンは勉強のため出張も多かったし、海外にも行ったりしてたけど、オヤジも普通に送り出していたでしょう?お互いに信頼している証だと俺は思っていたけど?」

「僕は平気なふりをしていただけだ……。その証拠に燈子さんが飲み会や出張先から帰ってから、何があったか、誰とあったか根掘り葉掘り聞きだしていた。なのに燈子さんはいつも僕には何も聞いてくれなかった」

「……そうだったんだね、知らなかったよ」

 転生してから知ったことは多いけど、まさかオヤジとオカンの夫婦関係をここで知ることにはなるとは思わなかった。
 俺は傍若無人で暴走機関車で、深く考えずに突っ走ってハマる天然なオカンを、オヤジが操作しているのかと思っていた。でも実際は違うらしい。

 親のこんな話を聞くことになるとは……俺も成長した証なのだろう。

「今世の僕は、誰も彼もの視線を惹きつけ、愛を語られ、思うがままに相手を操ることだってできる魅力的な姿だ。しかも燈子さんの好みのはずだ。麗ちゃんだってそれは保証してくれている。……だからこそ嫉妬してくれると思っていたのに、なのに……全く嫉妬する素振りもない。今回だって麗ちゃんは咲夜に対してあんなに嫉妬したキャラになったと言うのに、燈子さんから引き出せた言葉は『効率が良い』だった。すごく――悔しい」

「うん……」
 どう言えば良いのだろう。成長したからこそ話してくれているのは分かる。だけど、それに対しての答えを出すには、俺はあまりにも経験不足だ。

「そこで咲夜に頼みがある!」
「あ――うん、何?」

「僕は明日からここで全力で攻略対象者を攻略する。だから咲夜は燈子さんが嫉妬してるのかどうかを見定めて欲しい!」

……オヤジが必死だ。そうなると協力するのが良いだろう。


「分かった!良いよ」
「よし、これで咲夜への頼み一つが消えた」

「ひとつ?まだあるの?」

「もうひとつは、燈子さんが献身の神を信じるように協力して欲しい、だ」

「……は?まだ――信じてないの?だってオヤジが愛の神や試練の神の話をしていても否定してないじゃない!」

「燈子さんにとっては近所のおじさん、おばさんと同じ感覚でしかない。だから頼んだよ?咲夜」

 にっこり笑うオヤジは昔と変わらない口調で、でももう隠す気もない腹黒さを見せながら、俺の肩を叩く。

 オカンに神を信じさせる?

 この作られた世界を攻略するより、そちらの方が絶対大変だ!
しおりを挟む
G-EG1MBQS9XD
感想 5

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

処理中です...