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オカン公爵令嬢は潜入する。
20話 謎解きの時間(1)
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……重い。体がとてつもなく重い。この重さには覚えがある。俺の大好きだった愛犬のラッキーが健在な頃に、良く俺の上に乗って寝ていた。その重さに似ている。
重い、重いと言って文句を言っていたけれど、俺はラッキーと一緒に寝るのが大好きだった。ラッキーの温かさに包まれて寝ると嫌なことも全て忘れてしまう。もう、ラッキーと一緒に寝ることはできないはずなのに、その重さを、温かさを感じるなんて……。
そっと目を開けると、銀色の柔らかそうな髪が見えた。
「……麗?」
声をかけたが返ってきたのは安らかな寝息だった。
目を開けたら麗が横に寝てるなんて、なんて幸せなんだろう。
ん?なぜ、俺は寝ているんだろう?そう言えば、最後に強烈な落雷を受けた。良く生きているもんだ。
「私達に感謝しなさい」
ふと枕元に現れたのは、腕組みをしたオカンだ。横にはオヤジもいる。
「麗ちゃんはきっと疲れて起きないよ。とりあえず咲夜は起きなさい、話があるから」
「あ……うん」
オヤジに促されて起き上がるけど、確かに麗はピクリとも動かない。
ベッドから出て、立ち上げると自身の身体の軽さに驚いた。
「……魔力が戻ってる?」
「そうだね、戻ったはずだよ。そう聞いたから」
「聞いた?誰に?」
まるで犯人を知っているかのように言うオヤジには違和感しかない。訝しがりながら見ていると、オカンがため息を大きくついた。
「これから話す事は私と雅也さんは知ってた事よ。そして、そうね、アダルベルトの両親も少しは知ってるわ。知らなかったのはあんたと麗ちゃんだけ」
「どういう……」
分からないことが多い中、さらに謎が追加された。だけど、きっと答えはすぐ出るはずだ。今すぐに。
◇◇◇◇◇◇
俺の寮の部屋には皆で話せるテーブルはない。更に麗には聞かせられないとのことで、俺達は保健室に転移した。
俺とオカンはベッドに、オヤジは当然のように肘置きのついた保険医用の椅子に座った。足をゆったり組んだオヤジが……なぜかメガネをつけて、防音魔法を張り巡らせた。
「オヤジ……なんでメガネ……」
「雰囲気作りは大事だろう?」
大事だろうか……。いや考えるのはやめよう。
そもそも外には真っ暗な闇が広がるばかり。今日は月のない夜だから、窓の外は暗い。照明の明かりに照らされたオヤジは、怪しい美しさを誇る。
というか……もう突っ込みたくないけれど、照明が蛍光灯だよ……。どうなってるんだろう。俺の故郷のフォルトゥーナは魔法石を使ったランプなのに、おかしいじゃないか。
「照明が気になるかのかな?」
「いや……気になることをあげていたら、キリがないよ……でもどうせ『仕様』なんでしょ?」
俺の言葉にオカンが、あまりにも大きい溜め息をついた。
「本当に、相変わらずぼうっとしてのんびりしてる子よね。そんなわけないでしょう?ここはゲームじゃなくて、現実よ!ゲ・ン・ジ・ツ‼︎」
「お……オカンがそれを言うの?俺にやたらめったら仕様、シヨウって言っておいて!」
「仕方ないじゃない……麗ちゃんを誤魔化さなきゃいけなかったんだから」
「麗?なんで麗が出てくるの?」
オカンとオヤジは顔を見合わせた。そしてオヤジが、ふっと笑った。
「謎解きの時間だ……咲夜」
なぜ、そんな勿体ぶって……とは思うけど、オヤジには昔からこう言うところがある。俺はまったく小説は読まないけれど、実はオヤジの趣味は推理小説を読んで、あらを探す事だ。実はかなり性格が悪い。
「咲夜は誰がアダルベルト王太子の魔法を封印したか分かるかな?」
「え?だってそれは俺を連れさった人でしょ?あのシルクハット被ってマントつけたハロウィン仕様の人」
この国にハロウィンがあるかは謎だけど、そうとしか言いようがない。だってあんな格好は今世でも前世でも、ハロウィンでしか観たことがなかった。
「普通の人が僕達の魔力を封印できると思っているのかい?ましてや君は試練の神の加護を受けているものだ。僕達と同じ神の加護を受けたものじゃないと厳しいよ」
「そうなの?じゃあ、誰?もしかしてまたオヤジ?」
「僕がそれをする利点は?」
「…………ありません」
おお、オヤジの血の様な赤い目に睨まれてしまったら、ヘビに睨まれた蛙の様に、ゾクっとしてしまい、ついつい敬語になってしまう。本当に今世のオヤジの見た目は恐ろしい。
おも~くため息をついたオヤジはメガネクイッと持ち上げて、その口を開いた。
「君の魔力を封印したのは、試練の神だよ」
「へ?」
予想外な言葉に、俺は間抜けな声をあげた。
重い、重いと言って文句を言っていたけれど、俺はラッキーと一緒に寝るのが大好きだった。ラッキーの温かさに包まれて寝ると嫌なことも全て忘れてしまう。もう、ラッキーと一緒に寝ることはできないはずなのに、その重さを、温かさを感じるなんて……。
そっと目を開けると、銀色の柔らかそうな髪が見えた。
「……麗?」
声をかけたが返ってきたのは安らかな寝息だった。
目を開けたら麗が横に寝てるなんて、なんて幸せなんだろう。
ん?なぜ、俺は寝ているんだろう?そう言えば、最後に強烈な落雷を受けた。良く生きているもんだ。
「私達に感謝しなさい」
ふと枕元に現れたのは、腕組みをしたオカンだ。横にはオヤジもいる。
「麗ちゃんはきっと疲れて起きないよ。とりあえず咲夜は起きなさい、話があるから」
「あ……うん」
オヤジに促されて起き上がるけど、確かに麗はピクリとも動かない。
ベッドから出て、立ち上げると自身の身体の軽さに驚いた。
「……魔力が戻ってる?」
「そうだね、戻ったはずだよ。そう聞いたから」
「聞いた?誰に?」
まるで犯人を知っているかのように言うオヤジには違和感しかない。訝しがりながら見ていると、オカンがため息を大きくついた。
「これから話す事は私と雅也さんは知ってた事よ。そして、そうね、アダルベルトの両親も少しは知ってるわ。知らなかったのはあんたと麗ちゃんだけ」
「どういう……」
分からないことが多い中、さらに謎が追加された。だけど、きっと答えはすぐ出るはずだ。今すぐに。
◇◇◇◇◇◇
俺の寮の部屋には皆で話せるテーブルはない。更に麗には聞かせられないとのことで、俺達は保健室に転移した。
俺とオカンはベッドに、オヤジは当然のように肘置きのついた保険医用の椅子に座った。足をゆったり組んだオヤジが……なぜかメガネをつけて、防音魔法を張り巡らせた。
「オヤジ……なんでメガネ……」
「雰囲気作りは大事だろう?」
大事だろうか……。いや考えるのはやめよう。
そもそも外には真っ暗な闇が広がるばかり。今日は月のない夜だから、窓の外は暗い。照明の明かりに照らされたオヤジは、怪しい美しさを誇る。
というか……もう突っ込みたくないけれど、照明が蛍光灯だよ……。どうなってるんだろう。俺の故郷のフォルトゥーナは魔法石を使ったランプなのに、おかしいじゃないか。
「照明が気になるかのかな?」
「いや……気になることをあげていたら、キリがないよ……でもどうせ『仕様』なんでしょ?」
俺の言葉にオカンが、あまりにも大きい溜め息をついた。
「本当に、相変わらずぼうっとしてのんびりしてる子よね。そんなわけないでしょう?ここはゲームじゃなくて、現実よ!ゲ・ン・ジ・ツ‼︎」
「お……オカンがそれを言うの?俺にやたらめったら仕様、シヨウって言っておいて!」
「仕方ないじゃない……麗ちゃんを誤魔化さなきゃいけなかったんだから」
「麗?なんで麗が出てくるの?」
オカンとオヤジは顔を見合わせた。そしてオヤジが、ふっと笑った。
「謎解きの時間だ……咲夜」
なぜ、そんな勿体ぶって……とは思うけど、オヤジには昔からこう言うところがある。俺はまったく小説は読まないけれど、実はオヤジの趣味は推理小説を読んで、あらを探す事だ。実はかなり性格が悪い。
「咲夜は誰がアダルベルト王太子の魔法を封印したか分かるかな?」
「え?だってそれは俺を連れさった人でしょ?あのシルクハット被ってマントつけたハロウィン仕様の人」
この国にハロウィンがあるかは謎だけど、そうとしか言いようがない。だってあんな格好は今世でも前世でも、ハロウィンでしか観たことがなかった。
「普通の人が僕達の魔力を封印できると思っているのかい?ましてや君は試練の神の加護を受けているものだ。僕達と同じ神の加護を受けたものじゃないと厳しいよ」
「そうなの?じゃあ、誰?もしかしてまたオヤジ?」
「僕がそれをする利点は?」
「…………ありません」
おお、オヤジの血の様な赤い目に睨まれてしまったら、ヘビに睨まれた蛙の様に、ゾクっとしてしまい、ついつい敬語になってしまう。本当に今世のオヤジの見た目は恐ろしい。
おも~くため息をついたオヤジはメガネクイッと持ち上げて、その口を開いた。
「君の魔力を封印したのは、試練の神だよ」
「へ?」
予想外な言葉に、俺は間抜けな声をあげた。
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