上 下
70 / 90
オカン公爵令嬢は潜入する。

18話 卓球対決

しおりを挟む
 白くて小さなボールが高い音を鳴り響かせながら、飛び交う。それ受けるのは小さなラケット。

「負けない、負けないんだから‼︎」

 今の叫び声はティベリオだ。その言葉を受けて俺は、不適な笑みを浮かべる。

「これでこの学園のエースとは……レベルが知れると言うものだね‼︎」

 言葉と同時に強くピンポン球を打ち返す。鋭いスピードでネットスレスレに飛んだ球は、台のギリギリにかろうじて当たった。そしてその球を受けようとして、ティベリオはこけた。見事に顔から転けた。なのに起き上がったティベリオは膝小僧から血が流れてる。あんなに見事に顔から転けて、鼻血が出ないとは『仕様』とは素晴らしい。

 そして俺も卓球を今世ではもちろん、前世でもやったことがなかったけれど、勝てた!さすがハイスペック王太子アダルベルト!運動神経抜群な俺ってかっこいい。

「君の負けだね……みずみずしい緑の葉はその瞳も同じように濡れるのかな?」
 なんだこの台詞?とは思うが気にしないでおこう。俺はオカンの操り人形。考えちゃいけない!

「な……泣くわけないだろう!悔しくなんかないんだから!」

 泣いてるし……顔は真っ赤だし、忙しい子だなぁ。

 しかも、この体育館は人だかりになってキャーキャーうるさいし、本当に俺は何をやっているのだろう。

 オカンの指示で体育館に来た俺は、卓球をやっているティベリオに目を付けられた。卓球で勝負だ!と脈絡もなく言われ、なし崩し的に始まった勝負はあっさりと俺の勝利で終わった。しかもどこから聞きつけてきたのか、わらわらと見学客も集ってる状態だ。

(さてさてデータは?)

 緑;ティベリオ・クレシェンテ  
 好感度62% 親密度 0% 恋愛度 0%
 
 ……2上がってる。負けて悔しがっているのに上がるってなんだろう。変態さんなんだろうか。俺には良く分からない。

 あ……オカンから続け様に指示が来る。

 まずは床で三角座りをするティベリオに視線を合わせ……つまり俺も跪けば良いんだな?え?うんこ座りはやめろ?うんこ座りってなんだろう……オカン世代の言葉かな?片膝付きで座れと怒られた。

 はいはい、これで良いんですね?そして髪を耳に右手でかけろ?

 なんの意味があるのかな?
 
 やるけどさ!そしてフッと笑ってから、少し斜め上から見下げろ。

 はいはい、これで良いですか?どうでも良いけど指示が細いかいな!そして台詞は……

「悔しがった姿も醜いな。君のような醜い人間を初めて見たよ……」

 って、こんなこと言ったらダメじゃない?人の尊厳を傷つけるよ?おかしいでしょ!オカン!!っと心の中で突っ込むけれど、俺の想像とは逆にティベリオは、ポゥっと頬を染めてる。変態さんの考えていることは分からない。

「僕のことをまた、馬鹿にしたな!しかもなんて酷いことを言うんだ!」

 と言ってティベリオは怒るけど……

 緑;ティベリオ・クレシェンテ  
 好感度80% 親密度 0% 恋愛度 0%

 データが爆上がりだ。本心では酷いことを言われて喜んでいるらしい。これはデータが見えないと分からなかった。

 おっと……オカンからの指示が来た。今度はグッと近づいて耳打ちしろと言う。そして言う言葉は……

「君の涙は他の人間に見せるべきではないな。私の前でだけで鳴く君が見たいものだ」

 どう言う意味?俺には良く分からないけど、ティベリオは真っ赤になってる。更に追加で指示がくる。ティベリオの前髪をひとつまみして、軽く引っ張って手を離せ?なんだそれ?
 
 じゃあ、やってみよう――そう思って、前髪をひとつまみしようと手を差し伸べてた段階で、ティベリオが自身の頭をグッと押さえた。

 どうして?そんな必死な顔をされたら摘むことなんてできない。まるで髪を触ると全てが終わってしまう様に拒否する彼を見ているとできない。そこまで無神経にオカンの人形はなれない……。

 どうしたら良いのか……そう思っていたらオカンから指示が来た。ほっぺを触れ……それならできそうだ。すっと指で触ると……随分と柔らかい。男の肌?これが?

 そしてティベリオは……真っ赤だ。茹蛸みたいだ。男同士だから、そんなに照れなくて良いのに。

「アダルベルト王子の馬鹿!エッチ‼︎変態‼︎」

……変態呼ばわりされてしまった。

緑;ティベリオ・クレシェンテ  
 好感度85% 親密度 5% 恋愛度 0%

 でもデータは上がってる。不思議な子だなぁ。

 そう思ってるうちにティベリオは走って体育館を出て行ってしまった。
 体育館シューズのままだけど、良いのかなぁ……。

《追いかけなさい‼︎》

 オカンの指示が明確だ。仕方ないので走り出す。鞭で撃たれた馬のように。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...