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オカン公爵令嬢は潜入する。
15話 元気な彼女の本音
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部屋を飛び出して行った咲夜君を見送る。
(怒っちゃったかな?)
前世の私の夢はこの家族の輪に入ること。ずっと憧れていた温かい家庭。
前世の本当の家族は裕福ではあったけど、病気でいつ死ぬか分からない私のことを避けていた。特に弟が産まれてからは月に一度、義務にようにお見舞いに来てくれていた。使いきれないほどのお金を置いていくために。
そんな私が腐らずに生きていけたのは、咲夜君のお陰、そして雅也さん、燈子さんのお陰。
三角家の家族があんなだった私を温かく受けいれてくれたから、病院の看護師さんにも、お掃除のおばちゃんにも、ヘルパーさん達にも優しくできた。生きている間は笑顔で感謝の言葉を言って、皆に『あの子は良い子だったね』って言って欲しくて頑張っていた。痛い思いも、苦しい思いも心のうちに隠して。
でもきっと私が隠していたと思っていた心は、咲夜君には気付かれていたと思う。
咲夜君はいつも『頑張ってるね、でも俺の前では頑張らなくて良いんだよ?弱音をいっぱい吐いて、心を楽にして欲しいな。だって俺は麗がどんな風でも好きだから』、そう言ってくれていた。
雅也さんだって、『麗ちゃんはまだ子供なんだから、大人に甘えて良いんだよ。将来は僕達の家族になるんだから、なおのこと頼って欲しいな』、そう言って私の頭を撫でてくれた。
燈子さんは『くよくよしてる暇があったら、漫画や小説を読みなさい。ゲームをしなさい。人が生きている間に出会える本やゲームには限りがあるのだから、いっぱいやらなきゃ損よ!』って言って、いつも病室に本やゲームを持ち込んで、私の担当の先生に怒られていた。
優しくて、楽しくて、頼り甲斐のある家族。大好きな家族。
今世でも私は本当の家族に嫌われた。そして殺されかけた。それを助けてくれたのは咲夜君と燈子さん。受け入れてくれたのは咲夜君。前世から変わらず大好きな人。
(嫌われちゃったかな?)
調子に乗っていたとは思う。嬉しくて嬉しくて、この家族の輪に入れた事が本当に嬉しくて、はしゃいでしまっていた自覚はある。
嫌われたかもと思うと、途端に怖くなる。自然にうるうるしてくる目を誤魔化すために上を向くいていると、雅也さんと燈子さんの声が近くで聞こえた。
「いくら咲夜の反応が可愛いからって、やり過ぎたね」
「そうかもね……とは思うけどやめられないわ~。だって咲夜の反応が良いんだもの」
「昔からちっとも変わらないからね。僕達の子供なのに、どうしてあんなに純粋に育ったんだろうね」
「本当ね。麗ちゃんも、巻き込んでごめんね。大丈夫?」
燈子さんはずるい。そんな風に聞かれたら……。
「うう゛ぅ、咲夜くん、私のこと嫌いになっちゃったかなぁ」
ああ、だめだった。やっぱり溢れてしまった。ポロポロ溢れる涙は止まることを知らないみたい。そうなったらもうだめだ。今の甘ったれな私は耐えることができない。だって嘘は疲れる。自分を誤魔化す生き方をこの人たちの前ではもうできない。
「やだ。麗ちゃんったら、それだけは絶対にないわよ」
燈子さんがぎゅっと抱きしめてくれる。そしてその顔が私の頭の上に載る。包み込まれるような優しさに、更に涙が溢れてしまう。
「そうだね、麗ちゃんが愛想をつかさない限り、咲夜は絶対に麗ちゃんを離すことはないよ。咲夜は昔から本当に好きなものは、譲らないからね」
雅也さんは私の横に座り、背中をぽんぽんと優しく叩いてくれる。
前世で入院していた時にも、良くこうやって慰めてくれていた。
「本当?だって……私……いつも咲夜君をこまらせて……るよぅ」
「女は男を困らせてなんぼよ!それに耐えられない男なんて、ぽいっとしなさい!」
「そういうことを言っちゃだめだよ、燈子さん!でもね、咲夜は困らせる麗ちゃんごと好きだから大丈夫だよ。麗ちゃんが何をしたって、どんな姿だって好きだよ」
「本当?」
「「本当!」」
ハモった!ふたりは嘘は言わない。私には絶対に!
そう確信すると元気が出てくる!勇気も湧いてくる。そして、やっぱり咲夜君に会いたくなる!燈子さんにぎゅっとされるのは安心できて幸せな気持ちだけど、やっぱり咲夜君にぎゅっとされたい。飛び出そうになる心臓に翻弄されるけど、それでも抱きしめられたい。
「私……追いかける!」
スタッと立ち上がり、拳を握り締めると、やるべきことが見えてくる。しなきゃいけないことが頭の中を支配する。
「そうね、それは麗ちゃんの役目ね」
「咲夜を頼むね」
ふたりの声援を受けた私は転移する。
目標は私の大好きな人……咲夜君!
(怒っちゃったかな?)
前世の私の夢はこの家族の輪に入ること。ずっと憧れていた温かい家庭。
前世の本当の家族は裕福ではあったけど、病気でいつ死ぬか分からない私のことを避けていた。特に弟が産まれてからは月に一度、義務にようにお見舞いに来てくれていた。使いきれないほどのお金を置いていくために。
そんな私が腐らずに生きていけたのは、咲夜君のお陰、そして雅也さん、燈子さんのお陰。
三角家の家族があんなだった私を温かく受けいれてくれたから、病院の看護師さんにも、お掃除のおばちゃんにも、ヘルパーさん達にも優しくできた。生きている間は笑顔で感謝の言葉を言って、皆に『あの子は良い子だったね』って言って欲しくて頑張っていた。痛い思いも、苦しい思いも心のうちに隠して。
でもきっと私が隠していたと思っていた心は、咲夜君には気付かれていたと思う。
咲夜君はいつも『頑張ってるね、でも俺の前では頑張らなくて良いんだよ?弱音をいっぱい吐いて、心を楽にして欲しいな。だって俺は麗がどんな風でも好きだから』、そう言ってくれていた。
雅也さんだって、『麗ちゃんはまだ子供なんだから、大人に甘えて良いんだよ。将来は僕達の家族になるんだから、なおのこと頼って欲しいな』、そう言って私の頭を撫でてくれた。
燈子さんは『くよくよしてる暇があったら、漫画や小説を読みなさい。ゲームをしなさい。人が生きている間に出会える本やゲームには限りがあるのだから、いっぱいやらなきゃ損よ!』って言って、いつも病室に本やゲームを持ち込んで、私の担当の先生に怒られていた。
優しくて、楽しくて、頼り甲斐のある家族。大好きな家族。
今世でも私は本当の家族に嫌われた。そして殺されかけた。それを助けてくれたのは咲夜君と燈子さん。受け入れてくれたのは咲夜君。前世から変わらず大好きな人。
(嫌われちゃったかな?)
調子に乗っていたとは思う。嬉しくて嬉しくて、この家族の輪に入れた事が本当に嬉しくて、はしゃいでしまっていた自覚はある。
嫌われたかもと思うと、途端に怖くなる。自然にうるうるしてくる目を誤魔化すために上を向くいていると、雅也さんと燈子さんの声が近くで聞こえた。
「いくら咲夜の反応が可愛いからって、やり過ぎたね」
「そうかもね……とは思うけどやめられないわ~。だって咲夜の反応が良いんだもの」
「昔からちっとも変わらないからね。僕達の子供なのに、どうしてあんなに純粋に育ったんだろうね」
「本当ね。麗ちゃんも、巻き込んでごめんね。大丈夫?」
燈子さんはずるい。そんな風に聞かれたら……。
「うう゛ぅ、咲夜くん、私のこと嫌いになっちゃったかなぁ」
ああ、だめだった。やっぱり溢れてしまった。ポロポロ溢れる涙は止まることを知らないみたい。そうなったらもうだめだ。今の甘ったれな私は耐えることができない。だって嘘は疲れる。自分を誤魔化す生き方をこの人たちの前ではもうできない。
「やだ。麗ちゃんったら、それだけは絶対にないわよ」
燈子さんがぎゅっと抱きしめてくれる。そしてその顔が私の頭の上に載る。包み込まれるような優しさに、更に涙が溢れてしまう。
「そうだね、麗ちゃんが愛想をつかさない限り、咲夜は絶対に麗ちゃんを離すことはないよ。咲夜は昔から本当に好きなものは、譲らないからね」
雅也さんは私の横に座り、背中をぽんぽんと優しく叩いてくれる。
前世で入院していた時にも、良くこうやって慰めてくれていた。
「本当?だって……私……いつも咲夜君をこまらせて……るよぅ」
「女は男を困らせてなんぼよ!それに耐えられない男なんて、ぽいっとしなさい!」
「そういうことを言っちゃだめだよ、燈子さん!でもね、咲夜は困らせる麗ちゃんごと好きだから大丈夫だよ。麗ちゃんが何をしたって、どんな姿だって好きだよ」
「本当?」
「「本当!」」
ハモった!ふたりは嘘は言わない。私には絶対に!
そう確信すると元気が出てくる!勇気も湧いてくる。そして、やっぱり咲夜君に会いたくなる!燈子さんにぎゅっとされるのは安心できて幸せな気持ちだけど、やっぱり咲夜君にぎゅっとされたい。飛び出そうになる心臓に翻弄されるけど、それでも抱きしめられたい。
「私……追いかける!」
スタッと立ち上がり、拳を握り締めると、やるべきことが見えてくる。しなきゃいけないことが頭の中を支配する。
「そうね、それは麗ちゃんの役目ね」
「咲夜を頼むね」
ふたりの声援を受けた私は転移する。
目標は私の大好きな人……咲夜君!
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