オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木

文字の大きさ
上 下
66 / 90
オカン公爵令嬢は潜入する。

14話 知らないの?

しおりを挟む
「はい、はい!座って、座って!そして咲夜は床に正座!」

 オカンが手を叩きながら俺達に指示を出す。その指示を受けて、オヤジはゆったりとリクライニングチェアに座り、麗はベッドに飛び乗って座った。麗のほっぺはぷっくり膨らんでいる。怒りの原因は俺にあると見た。

 そして、俺はそんな麗とオカン怒りを察して指示の通りに床に正座した。位置はベッドの前。オカンが俺の前で、麗は後ろ。

「で?咲夜……言いたいことは分かってるわね?」

「…………」
 言いたくない時は黙っているに限る。オカンの指示がないことを良い事にロメオに好き勝手やって、あげく好感度を落として、その後に助けてもらったんだから、怒られるに決まってる。

 だったら黙っておくに限る――これは前世の頃からの教訓だ。

「――これで分かったわよね?あんたはゲーム初心者なの。だからあんたはキャラになりきって、プレイヤー母と麗の指示に従うべきなの!分かる?分かったわね!返事は?」

「………………」
 言いたくない。この場合の返事は『YSEマム』が正解だ。だけど言いたくない。だって後ろには麗がいる。そんな意味不明な言葉は言いたくない。

「どうしたの?返事は?もしかして咲夜……あんた……」

 もしかして俺の照れを察してくれた?空気をちっともまったく全然読めないオカンだけど、そこは一応、俺の親だ。もしかしたら奇跡を起こしてくれたのかも知れない。

「いまさら反抗期?転生してやっと?やだ……嬉しいじゃない!」

 まったく読んでくれなかかった……それだけではなく……。

「反抗期が来て嬉しいってなんだよ!おかしいだろ‼︎」

「えー、だってあんたが産まれた時に母は妄想してたのよ?きっと大きくなったら苛烈な反抗期が来て、クソババアとか言われるんだわ……とか、ベッドの下にエロ本を隠していて、それを見つけて困っちゃうんだわ……とか、でもあんたって両方ともなかったからつまらなかったのよね~」

「エ……エロ本って……オカン、もしかして、俺が学校に行ってる間に……」
「探したわよ?だってそれが母の仕事でしょ?」

(仕事?母の?何言ってんの?)
 驚きすぎて声が出ない俺に対してオカンのカミングアウトは続く。

「まずは、定番のベッドの下でしょう?そこがないからクローゼット探って、それもないから本箱の中の本も一冊、一冊めくって、そこもないからあんたのPC立ち上げて履歴も探して……それでもないから、あんたのスマホを夜にのぞいたけど何もないし……」

「待って!スマホって⁉︎夜ってなに⁉︎」
 突っ込みどころ満載だけど、まずはそこだ!このオカンは何がしていたか分からない!

「あんたのご飯に睡眠薬混ぜて、ぐっすり眠ったところでのぞいたの。顔認証って便利よね?それより咲夜はちゃんと雄なの?どうやってはっさ……

「ざけんな、オカン‼︎何やってんだよ!それが母親のする事かよ!」

「何言ってんのよ?母だからするんでしょ?私の職場の人は一度はみんな息子のエロ本を探してたわよ?」

「お……オカンの職場の人は異常だよ!って言うか、プライバシーの問題だろ!いや―それ以前に倫理観の問題だろうが‼︎人としておかしいだろ!」

「親子間にプライバシーなんてあるわけないでしょう?そもそも倫理観って何よ?犯罪犯してるわけでもないのに……」

「犯罪だよ!親子でだって立派な犯罪だよ!そもそもなんでオヤジは止めなかったんだよ!」

「だって、それが母の仕事だって、職場の人が言ってたからね」

 にっこり……じゃないだろう!

 同じ男なんだから、それが嫌なことくらいは分かって良いんじゃないだろうか。と言うか、オカンの職場は本当にどうなっているんだよ!頭がおかしい人の集まりのなのか……いや、待てよ。オカンの職場は県内でも有数な総合病院だった。そこの職場の人全員が同じ考えな訳がない。だって職員数も半端ないはずだから!つまり!

「嘘つくなくよ!そんなわけないだろう!そもそもオカンの病院は社員数だってすごいいるじゃないか。全員がそんなおかしいこと言ってるわけないだろう!どうせ類友だろ?」

「そんなことはどうだって良いのよ!それであんたはオカズはどうしてたの?ちゃんと子供の作り方知ってるの?」

「――――――なっ!!」

 まさか母親にこんなこと言われるなんて……。どうしてこんなにデリカシーがないんだろう。
 そして、忘れていた……確か俺の後ろには……。

 ゆっくりゆっくり振り返る俺の顔は赤いだろうか、それとも青いだろうか、それすらも分からない。でも冷や汗が出ているから青い気がする。だけど顔はやたら熱い。心臓は飛び出そうな位、バクバク言っている。お陰で気分は最悪だ、まさか愛おしい彼女にこんな話を聞かれるなんて……。

 そして俺と麗の視線が交わる。麗は普通の顔してる……そして、いつもの雰囲気で……

「咲夜君……知らないの?」

(――――!!!!)

 嘘だろ⁉︎なぜ可愛い彼女に、しかも前世から想いあって、今世でまで恋をした彼女にこんなことを言われなけれないけないのか!

「――っつ!」

 俺は部屋を飛び出した。
 もうここにはいられない!
しおりを挟む
G-EG1MBQS9XD
感想 5

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

処理中です...