オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木

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オカン公爵令嬢は潜入する。

14話 知らないの?

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「はい、はい!座って、座って!そして咲夜は床に正座!」

 オカンが手を叩きながら俺達に指示を出す。その指示を受けて、オヤジはゆったりとリクライニングチェアに座り、麗はベッドに飛び乗って座った。麗のほっぺはぷっくり膨らんでいる。怒りの原因は俺にあると見た。

 そして、俺はそんな麗とオカン怒りを察して指示の通りに床に正座した。位置はベッドの前。オカンが俺の前で、麗は後ろ。

「で?咲夜……言いたいことは分かってるわね?」

「…………」
 言いたくない時は黙っているに限る。オカンの指示がないことを良い事にロメオに好き勝手やって、あげく好感度を落として、その後に助けてもらったんだから、怒られるに決まってる。

 だったら黙っておくに限る――これは前世の頃からの教訓だ。

「――これで分かったわよね?あんたはゲーム初心者なの。だからあんたはキャラになりきって、プレイヤー母と麗の指示に従うべきなの!分かる?分かったわね!返事は?」

「………………」
 言いたくない。この場合の返事は『YSEマム』が正解だ。だけど言いたくない。だって後ろには麗がいる。そんな意味不明な言葉は言いたくない。

「どうしたの?返事は?もしかして咲夜……あんた……」

 もしかして俺の照れを察してくれた?空気をちっともまったく全然読めないオカンだけど、そこは一応、俺の親だ。もしかしたら奇跡を起こしてくれたのかも知れない。

「いまさら反抗期?転生してやっと?やだ……嬉しいじゃない!」

 まったく読んでくれなかかった……それだけではなく……。

「反抗期が来て嬉しいってなんだよ!おかしいだろ‼︎」

「えー、だってあんたが産まれた時に母は妄想してたのよ?きっと大きくなったら苛烈な反抗期が来て、クソババアとか言われるんだわ……とか、ベッドの下にエロ本を隠していて、それを見つけて困っちゃうんだわ……とか、でもあんたって両方ともなかったからつまらなかったのよね~」

「エ……エロ本って……オカン、もしかして、俺が学校に行ってる間に……」
「探したわよ?だってそれが母の仕事でしょ?」

(仕事?母の?何言ってんの?)
 驚きすぎて声が出ない俺に対してオカンのカミングアウトは続く。

「まずは、定番のベッドの下でしょう?そこがないからクローゼット探って、それもないから本箱の中の本も一冊、一冊めくって、そこもないからあんたのPC立ち上げて履歴も探して……それでもないから、あんたのスマホを夜にのぞいたけど何もないし……」

「待って!スマホって⁉︎夜ってなに⁉︎」
 突っ込みどころ満載だけど、まずはそこだ!このオカンは何がしていたか分からない!

「あんたのご飯に睡眠薬混ぜて、ぐっすり眠ったところでのぞいたの。顔認証って便利よね?それより咲夜はちゃんと雄なの?どうやってはっさ……

「ざけんな、オカン‼︎何やってんだよ!それが母親のする事かよ!」

「何言ってんのよ?母だからするんでしょ?私の職場の人は一度はみんな息子のエロ本を探してたわよ?」

「お……オカンの職場の人は異常だよ!って言うか、プライバシーの問題だろ!いや―それ以前に倫理観の問題だろうが‼︎人としておかしいだろ!」

「親子間にプライバシーなんてあるわけないでしょう?そもそも倫理観って何よ?犯罪犯してるわけでもないのに……」

「犯罪だよ!親子でだって立派な犯罪だよ!そもそもなんでオヤジは止めなかったんだよ!」

「だって、それが母の仕事だって、職場の人が言ってたからね」

 にっこり……じゃないだろう!

 同じ男なんだから、それが嫌なことくらいは分かって良いんじゃないだろうか。と言うか、オカンの職場は本当にどうなっているんだよ!頭がおかしい人の集まりのなのか……いや、待てよ。オカンの職場は県内でも有数な総合病院だった。そこの職場の人全員が同じ考えな訳がない。だって職員数も半端ないはずだから!つまり!

「嘘つくなくよ!そんなわけないだろう!そもそもオカンの病院は社員数だってすごいいるじゃないか。全員がそんなおかしいこと言ってるわけないだろう!どうせ類友だろ?」

「そんなことはどうだって良いのよ!それであんたはオカズはどうしてたの?ちゃんと子供の作り方知ってるの?」

「――――――なっ!!」

 まさか母親にこんなこと言われるなんて……。どうしてこんなにデリカシーがないんだろう。
 そして、忘れていた……確か俺の後ろには……。

 ゆっくりゆっくり振り返る俺の顔は赤いだろうか、それとも青いだろうか、それすらも分からない。でも冷や汗が出ているから青い気がする。だけど顔はやたら熱い。心臓は飛び出そうな位、バクバク言っている。お陰で気分は最悪だ、まさか愛おしい彼女にこんな話を聞かれるなんて……。

 そして俺と麗の視線が交わる。麗は普通の顔してる……そして、いつもの雰囲気で……

「咲夜君……知らないの?」

(――――!!!!)

 嘘だろ⁉︎なぜ可愛い彼女に、しかも前世から想いあって、今世でまで恋をした彼女にこんなことを言われなけれないけないのか!

「――っつ!」

 俺は部屋を飛び出した。
 もうここにはいられない!
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