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オカン公爵令嬢は潜入する。
10話 攻略対象者No.4
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次にオカンの指示で向かった先は屋上だ。ターゲットNo.4のティベリオ・クレシェンテがいるらしい。オカンの事前情報では『ショタ』。
その一言で終わった。
屋上の扉を開けると言い争ってるふたりがいた。
どうでも良い事だけど、また日本の学校の屋上みたいだ。この国の世界観はどうなっているんだろう。全体的には中世ヨーロッパ調なのに、所々で日本が出てくる。
気を取り直して前を向く。向かって右側にいるのが小さいのが、ターゲットのティベリオ・クレシェンテらしい。髪の色が緑だ。あの色には見覚えがある。高速道路の標識の緑だ!現実にいると少しヒく。目の色は黄緑だし、肌は白いし……なんだかちょっと……言っちゃ悪いけれど怖い。
そして左側にいる彼は……オカンいわく、モブだから放っておけと言われた。なんだかかわいそうだ。
言い争っている会話は聞きたくないけど、自然と聞こえてしまう。
「ティベリオ!オレと言うものがありながら、他の男とも付き合ってるって本当か⁉︎」
「そうだよ。だって僕はこんなに可愛いもの。みんなのアイドルだもの。みんなが僕と付き合いたがってるんだから仕方ないでしょ?」
「そんな……オレの事を好きだって言ってくれたのは嘘だったのか?」
「えー、そんなのみんなに言ってる事だよ。なんで自分だけ特別って思ったの~?こんなにかわいい僕と付き合えてるだけで幸せでしょ?それなのに自分だけの物にしたいなんて、わがままだと思わない?」
うん!ティベリオ、ムカつく!
そもそもそんなに言うほどかわいいだろうか?確かに目はぱっちりしているけれど……そんな言うほどではないだろう。
オカンがここのキャラには触手が動かないって言ってたけれど、確かになんか微妙なんだよな。かっこ悪いとは言わないけれど、かっこ良くもなく、かわいいとも言えなくもないけれど、それほどか?と突っ込みたくなる。
だってコスタンツァの方がかわいいし、オヤジの方が綺麗だ。そして断然アダルベルトの方がカッコいい。
つまりこれがオカンが言う画力の差かも知れない。
そんな事をぼーっと考えている間にも、男同士の痴話喧嘩は進んでる。
「俺の心を弄んだな!許さない!」
あ……モブ男(仮名)がナイフ出してきた!それはルール違反だ!
咄嗟に身体が動くのは、子供の頃から絶え間なく続けていた訓練の賜物だ。モブ男(仮名)の右手首を掴み、そのままぐいっと持ち上げ、ナイフを取り上げる。
俺はアダルベルトの仮面のまま、軽くため息をつく。
「これはルール違反だ。君はことの重大さが分かっているのか?」
「――――――」
返事はない。代わりに涙目で俯いた。つまり分かっているんだろう。
なんだか可哀想になってきた。失恋の痛みは、少なからず分かっているつもりだ。恋した相手にあんなに言われるなんて、とても辛い事だろう。
「君にあんな相手は相応しくない。君にはもっと相応しい良い相手がいるはずだ。あんな奴は忘れて幸せになるべきだと……そう思わないかい?」
「は……はひい」
どもってる……。
そんなにあんなのが良いのだろうか。なんだかとても気の毒だ。人を愛することは悪いことではないはずなのに。
肩を抱き寄せると同時にグッと抱きしめてあげた。俺の方が頭一個分背が高いから、ちょうどうまくおさまった。こうしてみると背が高いのも悪くない。幸い男同士だ。問題ないだろう……。
「泣いて良いよ。気がすむまで。彼には見せたくないだろう?」
「――――」
返事はまたもやない。でも僅かに震える肩が物語っているようだ。彼の心からの嘆きを。
「アダルベルト王太子!僕よりもそんなのが良いって言うの⁉︎」
ティベリオが背後でうるさい。
そしてオカン達からの指示も来ない。やはりここは俺の思うようにやるべきだろう。
「私は人の心を踏み躙るような人間が一番嫌いだ。そう言う意味では君よりも彼の方が好ましいだろう」
全くもって、頭にくる!オカンになんと指示されようともああいった男を攻略なんかする気はない!
「行こう!ここは君のいる場所ではない」
抱きしめていたモブ男(仮名)から身体を離し、肩を抱いて屋上の扉を開け、学園内に戻る。ティベリオがぎゃーぎゃー言ってるが無視だ!気分を害されるとはこのことだ!
扉を閉めると当然だが静かになった。モブ男(仮名)を覗きこむと……顔が赤い。あれ?泣いてない?
「あ――あの、ぼ……僕は――」
「アダルベルト王太子様!」
呼ばれた声には覚えがある。やはりそうだ。屋上に続く階段の下には麗がいる。確か今の名は……
「どうかしたのか?コスタンツォ?」
そうだ、コスタンツォだ。こちらの世界での名前、コスタンツァの『ア』が『オ』に変わっただけ。そして麗とオカンは男装して俺の従者として転校してきたんだった。
「国から手紙が届いています。早めにお戻りを」
思ったより演技がうまい。なんだか分からないけど、モブ男(仮名)に手を振って、足早に階段を降り、麗の横に並び、先導されるがままに歩く。
「咲夜くん、完璧!」
「え?」
小声で満足げに親指を上げる麗には違和感しかない。挙句、オカンからもレンオくん越しにお褒めの言葉も頂いている。やればできるって言われてるけど、なんのこと?
「ティベリオは自分本意のキャラ設定だから、無視したり怒ったりするのが正解なんだって」
「そ――なんだ……」
意味が分からない。けれど正解だったらしい。
「あれ?じゃあなんで麗は来たの?」
「だって、あのままだと咲夜くんは彼と付き合う流れになりそうだったんだもの」
口を尖らせた麗は……かわいすぎる!嫉妬だ!嫉妬しないかと思ってたけど、嫉妬してくれたんだ!あれ?でも……。
「まさか!男同士だよ?慰めただけだよ」
フッと笑って見せる。だってあり得ない。そんな俺の能天気さを打ち消すように、麗が後ろを指差す。
「あれ見てもそう言うの?」
そっと後ろを見ると……あ、あの視線は……。
「命令!不用意に接触禁止!」
「り……了解!」
その命令は魂に刻み込もう。そう心に決めた。
その一言で終わった。
屋上の扉を開けると言い争ってるふたりがいた。
どうでも良い事だけど、また日本の学校の屋上みたいだ。この国の世界観はどうなっているんだろう。全体的には中世ヨーロッパ調なのに、所々で日本が出てくる。
気を取り直して前を向く。向かって右側にいるのが小さいのが、ターゲットのティベリオ・クレシェンテらしい。髪の色が緑だ。あの色には見覚えがある。高速道路の標識の緑だ!現実にいると少しヒく。目の色は黄緑だし、肌は白いし……なんだかちょっと……言っちゃ悪いけれど怖い。
そして左側にいる彼は……オカンいわく、モブだから放っておけと言われた。なんだかかわいそうだ。
言い争っている会話は聞きたくないけど、自然と聞こえてしまう。
「ティベリオ!オレと言うものがありながら、他の男とも付き合ってるって本当か⁉︎」
「そうだよ。だって僕はこんなに可愛いもの。みんなのアイドルだもの。みんなが僕と付き合いたがってるんだから仕方ないでしょ?」
「そんな……オレの事を好きだって言ってくれたのは嘘だったのか?」
「えー、そんなのみんなに言ってる事だよ。なんで自分だけ特別って思ったの~?こんなにかわいい僕と付き合えてるだけで幸せでしょ?それなのに自分だけの物にしたいなんて、わがままだと思わない?」
うん!ティベリオ、ムカつく!
そもそもそんなに言うほどかわいいだろうか?確かに目はぱっちりしているけれど……そんな言うほどではないだろう。
オカンがここのキャラには触手が動かないって言ってたけれど、確かになんか微妙なんだよな。かっこ悪いとは言わないけれど、かっこ良くもなく、かわいいとも言えなくもないけれど、それほどか?と突っ込みたくなる。
だってコスタンツァの方がかわいいし、オヤジの方が綺麗だ。そして断然アダルベルトの方がカッコいい。
つまりこれがオカンが言う画力の差かも知れない。
そんな事をぼーっと考えている間にも、男同士の痴話喧嘩は進んでる。
「俺の心を弄んだな!許さない!」
あ……モブ男(仮名)がナイフ出してきた!それはルール違反だ!
咄嗟に身体が動くのは、子供の頃から絶え間なく続けていた訓練の賜物だ。モブ男(仮名)の右手首を掴み、そのままぐいっと持ち上げ、ナイフを取り上げる。
俺はアダルベルトの仮面のまま、軽くため息をつく。
「これはルール違反だ。君はことの重大さが分かっているのか?」
「――――――」
返事はない。代わりに涙目で俯いた。つまり分かっているんだろう。
なんだか可哀想になってきた。失恋の痛みは、少なからず分かっているつもりだ。恋した相手にあんなに言われるなんて、とても辛い事だろう。
「君にあんな相手は相応しくない。君にはもっと相応しい良い相手がいるはずだ。あんな奴は忘れて幸せになるべきだと……そう思わないかい?」
「は……はひい」
どもってる……。
そんなにあんなのが良いのだろうか。なんだかとても気の毒だ。人を愛することは悪いことではないはずなのに。
肩を抱き寄せると同時にグッと抱きしめてあげた。俺の方が頭一個分背が高いから、ちょうどうまくおさまった。こうしてみると背が高いのも悪くない。幸い男同士だ。問題ないだろう……。
「泣いて良いよ。気がすむまで。彼には見せたくないだろう?」
「――――」
返事はまたもやない。でも僅かに震える肩が物語っているようだ。彼の心からの嘆きを。
「アダルベルト王太子!僕よりもそんなのが良いって言うの⁉︎」
ティベリオが背後でうるさい。
そしてオカン達からの指示も来ない。やはりここは俺の思うようにやるべきだろう。
「私は人の心を踏み躙るような人間が一番嫌いだ。そう言う意味では君よりも彼の方が好ましいだろう」
全くもって、頭にくる!オカンになんと指示されようともああいった男を攻略なんかする気はない!
「行こう!ここは君のいる場所ではない」
抱きしめていたモブ男(仮名)から身体を離し、肩を抱いて屋上の扉を開け、学園内に戻る。ティベリオがぎゃーぎゃー言ってるが無視だ!気分を害されるとはこのことだ!
扉を閉めると当然だが静かになった。モブ男(仮名)を覗きこむと……顔が赤い。あれ?泣いてない?
「あ――あの、ぼ……僕は――」
「アダルベルト王太子様!」
呼ばれた声には覚えがある。やはりそうだ。屋上に続く階段の下には麗がいる。確か今の名は……
「どうかしたのか?コスタンツォ?」
そうだ、コスタンツォだ。こちらの世界での名前、コスタンツァの『ア』が『オ』に変わっただけ。そして麗とオカンは男装して俺の従者として転校してきたんだった。
「国から手紙が届いています。早めにお戻りを」
思ったより演技がうまい。なんだか分からないけど、モブ男(仮名)に手を振って、足早に階段を降り、麗の横に並び、先導されるがままに歩く。
「咲夜くん、完璧!」
「え?」
小声で満足げに親指を上げる麗には違和感しかない。挙句、オカンからもレンオくん越しにお褒めの言葉も頂いている。やればできるって言われてるけど、なんのこと?
「ティベリオは自分本意のキャラ設定だから、無視したり怒ったりするのが正解なんだって」
「そ――なんだ……」
意味が分からない。けれど正解だったらしい。
「あれ?じゃあなんで麗は来たの?」
「だって、あのままだと咲夜くんは彼と付き合う流れになりそうだったんだもの」
口を尖らせた麗は……かわいすぎる!嫉妬だ!嫉妬しないかと思ってたけど、嫉妬してくれたんだ!あれ?でも……。
「まさか!男同士だよ?慰めただけだよ」
フッと笑って見せる。だってあり得ない。そんな俺の能天気さを打ち消すように、麗が後ろを指差す。
「あれ見てもそう言うの?」
そっと後ろを見ると……あ、あの視線は……。
「命令!不用意に接触禁止!」
「り……了解!」
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