オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木

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オカン公爵令嬢は潜入する。

9話 保健室の麗しい住人(2)

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「なに?オカン……」
 諦めてオカンをじっと見る。どうしてわざわざ男装してやってきたのかと聞いたら、男子校と言えば、男装して潜入に決まってるじゃない。鉄板よ!と言われた。

 そんなオカンはエヴァルドと言う名前で、俺のクラスに転入してきた。麗の名前はコスタンツォだ。麗も同じクラスだ。こんな時期に3人も転入っておかしくないか?と思ったけど、ふたりは俺の従者という名目で入学した。

 文句のひとつも言おうと思ったが、いけしゃあしゃあと保健室にいたオヤジを見た時に、どうでも良くなった。

「私は指示したわよね?ジェラルドを顎を掴んで、吐息がかかるような距離で言葉を言えって!あんた、息でも臭いの?」

「そんなの出来るわけないだろ!オカンはなにを考えてるんだ⁉︎」

 そんな恥ずかしい事を良く息子に命令出来るものだ!しかも恋人が見てる前でなんて出来るわけがない!そして俺の息は臭くない!たぶん‼︎

「その位できないで、どうやってハーレム築くのよ!我を捨てて、演技してるつもりでやりなさい!それでも完璧王太子アダルベルトなの⁉︎」

「アダルベルトは関係ないだろ!そもそもあのキザったらしい意味が分からない台詞を噛まずに笑わずに言えただけ褒めてくれ!」

「私の考えた台詞が気に入らないって言うのー!」

「じゃあ、オカンがやれば良いだろう!俺がハーレム築く必要ないだろう!」

「あんたじゃなきゃ意味ないって言ってるでしょ!私だってもっとかっこよくて、素敵な相手だったら、代わってるわよ!でもこのゲームのキャラは中途半端な見た目だから、触手が動かないの‼︎」

「触手ってなんだよ!オカンはタコかイカなのか⁉︎」

「誰が軟体動物じゃ!興味が湧かないって意味に決まってるでしょ!」

「それは……興味が湧いたら、攻略すると言うことかな?」

 オヤジが割って入ってきた。笑ってるけど怒ってる。

 この表情は前世の頃から良くしていた。オヤジはかなり嫉妬深い。こういう時は三十六計逃げるに如かず。オヤジとオカンの喧嘩には関わらないのが、我が家のルールだ。

 一触即発なふたりを尻目に一歩、二歩と距離を取り、そのまま麗の隣へと行く。オヤジからタブレット、もといウツオ君を譲り受けて、それを食い入るように見てる。ウツオ君には俺が写っているをしかもさっきジェラルドに恥ずかしい台詞と言ってたやつだ。

「やっぱりアダルベルトさま、かっこいい~」
「そ……そう?」
 あ、これはかなり嬉しい感想だ。転生して良かった。
 
「うん。咲夜君もそう思わない?」
「ん?んん?俺とアダルベルトは同一人物だけど?」

「うーん、そうなんだけど何か違うよね。だってこのアダルベルト様は背中に花を背負ってるもの」
「はな?」

 ウツオ君を見るが当然、俺の背中には花などない。あるのは普通の風景だ。

「本当に花があるわけじゃないよ~。後ろに花を背負ってるみたいに、素敵に見えるって比喩だよ~」

「ああ、そういうことね」
 俺は漫画もアニメもゲームも小説すら読まないから、その手の言葉は分からない。オカンと違って麗は的確に教えてくれるからとても助かる。

「なんかね、咲夜君は確かにアダルベルト様の見た目なんけど、こうやって話していると咲夜君としか思えないの。でも外交の時とか、このスチルもそうなんだけど、演技している時はアダルベルト様なんだな~って思えるの」

「それは――分かるよ。確かに俺だって、これは俺じゃないなって思うし、外交の時とか王侯会議とか、まぁ、その他諸々の王族として出席する時はアダルベルトの仮面を被るって思ってやってるし」

「ふふ、じゃあ咲夜君を知っているのは私だけなんだね。嬉しいな」

 ああ、こんな風に思ってはいけないんだろうけど、麗が一緒に転生してくれて良かった。麗がいなかったっら俺はどうなっていたんだろう。王族として義務感で結婚していたのだろうか。アダルベルトの仮面を一生涯被り続けたまま……。


「咲夜……雅也さんが見本を見せてくれるそうよ」
「うわ!オカン、びっくりさせるなよ!」

 せっかく良い気持ちになっていたのに、背後からぬっと出てきたからびっくりする!それにしても、その頬が赤く蒸気しているように見えるのは気のせいだろうか。

「見本?なんのこ……と?」

 言葉が止まったのには理由がある。なぜなら、オヤジがなぜかその長い髪をゆったりを掻き上げ、俺をじっとりとした目で見ているからだ。その視線に自然と釘付けになってしまう。

 徐々に近づくオヤジから逃れることができない。金縛りにあうとはこの事ではないだろうか!
 早くなる鼓動。冷や汗。そして荒くなる呼吸。自分で自分が制御できない!

 そんな俺の状況など分かっているようにオヤジが俺の腰に手を回し、そのまま身体が寄せられていく。更に顎まで掴まれた!

 まるで蜘蛛の巣に捉えられた獲物のようだ。それとも悪魔に魅入られた、哀れな生贄なのだろうか。逃れる術がないとはまさにこの事だ!

「僕はね……愛でられるより、愛でたいんだ。それが特に美しい華ならば――」

「ヒェ……」
 思わずでた情けない声は仕方ない事だと思う。そして麗……俺にも見えたよ、オヤジの後ろの華が。妖艶な彼岸花が!
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