オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木

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オカン公爵令嬢は潜入する。

7話 攻略対象者No.3

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 廊下を歩くと自分がどれだけ注目を集めているのか良く分かる。だけどその注がれる視線の理由は分からない。

 俺は大国フォルトゥーナ王国の唯一の後継者だから、昔から注目はされていた。お陰で人の視線に晒されるのは慣れっこだ。

 見られることに慣れている俺は、自然と指の先まで洗練された動きができてしまう。
 女性の視線を釘付けにすることはいつものことだし、同性のやっかみも良くあることだ。尊敬されたり、媚び諂われたりと、王族と言うのは中々大変だ。いつもそう思ってた。

 だがこのピエナ学園ではいつもと違う。

 今、すれ違った腕を組んで歩くふたりは俺の事をぽーっとした目で見ている。その頬も赤い。しかも背後から、「かっこいい!」、「惚れる……」とか聞こえる。
 中庭と反対側にある教室の中からも熱っぽい視線を感じる。やっぱり、「素敵……」とか、「愛人で良いから……」とか、「遊びでも良い…」って、いや、何言ってるの⁉︎もっと自分を大事にしなさい!

 さらにさらに、中庭の植え込みには俺をストーカーしてる奴だっている始末だ!なんでストーカーって分かるかって?俺と同じ速度で、植え込みの先を歩いてるからだよ!隠れながら!アホな子か!
 
 なんでこんな風に誰も彼もからこんな視線を送られきゃいけないんだ!ここはなのに‼︎

 もちろん、オカン達詰め込世代と違って、ゆとり教育で育った俺には受け入れる広さがある。同棲相手の恋だって、お互いが好き同士なら良いと思うし、女性がズボンを好んだって、男がスカートを履いたって、そこは好みだから良いと思う。そもそも俺のランドセルの色は赤だったし、麗は紺が使いたかったと言っていた。

 うん、少し話しがズレたが、つまり言いたいことは人には好みがあるという事だ。なのにこのピエナ学園では誰も彼もが俺に熱っぽい視線を送ってくる。そんな皆が俺に恋するっておかしいだろ?男同士とか以前の問題だ!
 
《――――――――》 

 ああ、また指示がきた。俺だって、色々ゆっくり考えたいのに……。

 植込みに隠れている男(ストーカー)に目を向ける。今度は信号機の青色だ。そしてメガネしてる。この世界にメガネってあったんだ。しかしこの国の人間の髪色はみんな原色に近くて気持ち悪いな。

 確かターゲットNo.3、ロメオ・カランテ。
 カランテ自治領首の三男。メガネしてるから顔の判別はつきにくいが、賢そうな顔をしている気がする。隠れている植込みから身体の1/3が見えてるし、特に頭は丸見えだから本当に賢いかは怪しいけれど……。

 とにかく近付けとうるさいので、やはりコートを翻して彼の方に向かう。右手はズボンのポッケに入れて、左手はダランとする。また、ダランだ。なんだろう、さっきからダランの指示が多い。

「やぁ、何をしているのかな?」
 俺も聞きたいことだから、ぜひ聞こう!まぁ、俺をストーカーしてると答えることはないだろうけど。

 そもそもこんな血のような紅薔薇の植込みに、青い頭が隠れているから無駄に目立って仕方ない。しかも片膝ついてるから、ズボンが汚れてる。そういえばさっき用務員さんが水撒きしていたな。

「な――なにも――」

 ……声が上擦ってる。顔が俺を見ないように斜め上に上がったわりには、視線がガッツリ俺の胸あたりを見てるし……気持ちわる!

《――――――――》

 そして飛んでくる指示に辟易する。それは俺のキャラじゃないんだけれど……。

「美しい紅薔薇の中に可憐に咲く青い花が見えたから、気になって来たんだけれど、君はその華の名前が分かるかな?」
 いや、なにこの台詞。オカンも良く思いつくよ。

 じっと艶っぽく見つめろと指示が出る……マジか。仕方ないからメガネでも見つめよう。

 メガネはプラチナの枠っぽいけど、この世界にこれだけ精巧な細工ができるのだろうか?シルバーかな?でもシルバーだとまめに磨かなきゃいけないって、前世でバンドやっていた友達が言っていたけれど。

 なんて考えていたら、もう帰れと指示がきた。メガネの人で良かった。そうじゃなければ、こんなにジッと人を見つめられない。

 しかし、何の返事も返さないメガネだったな。名前のひとつでも言うかと思ったのに。

 そのとき、後ろからドサっという音が聞こえた。どうやら気絶したようだ。普段なら助けに行くんだけどやめておこう。オカンの指示に逆らうと後が怖い。
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