オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木

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オカン公爵令嬢は潜入する。

4話 美麗な父は苦悩する (3)

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「ピエナ学園、ムーンバタフライ……伝説のクソBLゲーム、まさかこの世界はクソゲーの集まりなの?」

 燈子さんはブツブツ言いながら歩き回る。麗ちゃんはプハッっと息を吐き、その両手を外した。どうやら空気を読んで笑うのを我慢していたようだ。

「燈子さんはどうしたんでしょう?」
「さあ、でも燈子さんは昔から、考え事をする時に歩き回る癖があるんだ。ああやって考えをまとめているんだろうね」

 そんな燈子さんも大好きだ。例え前世の職場で、檻の中で獲物を求めうろうろする熊のようだと陰口を叩かれていた姿だとしても……。

「ところで雅也さん、ルーナ王国ってどんな国なんですか?」
「ああ、ルーナは王国制じゃないよ。共和制なんだ」

 ふんふんと頷きながら目を輝かせる麗ちゃんは、真面目に聞こうとする姿勢が感じられる。
 だが、周辺諸国の事を知らないなんて、フォルトゥーナ王国の王太子妃教育はどうなっているんだと思わなくはないけれど、元アダルベルト王太子の婚約者であった燈子さんも知らないみたいだから、気にしないでおこう。

「ルーナ共和国は丸い島の東西南北に島が点在していてね。中央にある大きな島をピエナ、その北にある小さな島をクレシェンテ、東にある島がヌオヴァ、南にメッザ、西にカランテと言う島がそれぞれあって、ピエナを囲む4つの島の代表者が国を治めているんだよ」

「その代表者は王様じゃないんですね?」
「一応王族は名乗ってなく、自治領主と名乗っているが、世襲制だからね。自治領の王様と言った方が分かりやすいかもしれないね」

「じゃあ、その自治領主達がルーナ国を治めているんですね」
「そう……だからルーナ共和国。確かアダルベルトの誕生日の祝典にも来ていたよ。ヌオヴァ自治領の長男が。確か名前は……レオポルド・ヌオヴァだね。優秀な人材だと聞いているよ」

「へ~」
 うん、呑気だ!仮にも大陸で一番大きい国の王太子妃がこれで良いのだろうか。咲夜の為にも頑張ってこれから勉強してもらおう!頭は良いはずなんだから!

「レオポルド・ヌオヴァ……できた兄を憎む弟……。ねぇ雅也さん、そのレオパルドの弟の名前ってジェラルド?」

「ああ……確かそんな名前だったかな?兄と違って印象が薄くて……逆に良く知ってるね」

 さすが燈子さんだ……と思いつつ疑問も残る。ルーナ共和国の紋章も知らない燈子さんがなぜ、ジェラルドの名を知っているのか……。

 そんな僕の疑問を掻き消すように燈子さんは指を鳴らす。僕と麗ちゃんの視線を集めた燈子さんは、その赤い美しい唇をニヤリと持ち上げた。

「謎は解けたわ!」
「さすが、燈子さん!」
 手を叩く麗ちゃん。
 困惑する僕。謎?謎というのはあれだろうか。

「咲夜を拐った犯人の事かな?もしかして、ルーナ国の仕業に見せかけた別の犯人がいると言う事かな?」

「え?背中のマントに紋章があるからルーナ国の人だと思ってました……」
「え?違うの?」
 
 麗ちゃんだけではなく、燈子さんにまでそう言われるとは……。

「だってあまりにもあからさまじゃないか。ルーナ国はフォルトゥーナ王国よりは小国だけど、元は海賊達の集まりで抗戦的だと聞いている。だが、それを逆手にとって、ルーナ国の仕業だと見せかける国があってもおかしくないだろう?フォルトゥーナ王国は現在のところ大国だけど、その地位を狙っている国だって多いのだから」

 あ……ダメだ。僕の言葉は届いていない。その証拠にふたりの顔が、呆れ顔だ。

「雅也さんは考えすぎよ。アダルベルト様がいる限り、フォルトゥーナは大丈夫よ」
「そうですよ!いざとなったら私が、出て行きます!」
  
 ゲームでハイスペック王子としてアダルベルトが存在していたのは、聞いているから知っている。そして燈子さんが咲夜を“アダルベルト”と呼ぶときは、ゲームでのキャラクターを。咲夜と呼ぶときは、僕達の前世の子供である咲夜のことを言っているのは……知っている。だからアダルベルトと呼ぶときには、息子だと思っていないのだ。つまり嫉妬の対象だ!

 燈子さんと違って、麗ちゃんは常に咲夜くんと呼んでいる。つまり姿がどんなに変わろうと、麗ちゃんにとっては、咲夜は咲夜なんだろう。

「では……燈子さんがいう解けた謎は何かな?」
「あ!そうだった!雅也さんが話の腰を折るから!」
「ああ、ごめんね?」
 
 怒る燈子さんもかわいらしいけれど、やはりこの役所は咲夜が適任だ。僕には役不足だ。

「謎は解けたわ!つまりこの世界は、クソゲーの集まった世界なのよ!」

「え?どういうことですか?」
「ルーナ共和国は私がやった伝説のくそBLゲーム。『月に集う蝶達の宴』、略して『月蝶』、通称『ムーンバタフライ』の世界なのよ!」

(宴が消えた……)

 ああ、咲夜早く帰って来てくれ……僕はクラクラする頭を妄想で抱えた。
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