47 / 90
47話 最終決戦(1)
しおりを挟む
台本をもらった俺達は1週間、台詞回しや殺陣の練習をした。
そして、戦いに戻る。
氷の魔法を駆使しオヤジではなく――魔王(仮)の放つ氷の魔法を相殺する。
麗は俺を魔法で補助している設定だ。実際はできないので今、俺の体に付与されている様々な補助魔法は、玉座の間の外にいるオヤジの部下が頑張ってかけている。
次は剣を何度か打ち合わせながら、地面に炎の柱を建てて魔王(仮)を襲わせる。が、その作戦は失敗して炎の柱を避けた魔王(仮)に左腕を切り落とされる。だったな。これもオカンのため、我慢だ!俺!!
想像より高い悲鳴が起こって目を見張る。オカンの悲鳴だ。俺の腕はオカンの目の前に落ちた。そこは計算通りだ。オカンは捕縛されたままだ。逃れようと体を必死に捩っている。涙で顔はぼろぼろだ。全ては計算通り……そうなんだけど、この心の痛みは、騙していると言う罪悪感はどこに持って行けば良いのか!
俺に迫るオヤジを見る。こちらを見る表情はオカンには見えない。だからなのだろう。辛そうな表情だ。勝利の神は冷徹らしい。勝利の為に感情を捨てさせる。
「アダル様!」
駆け寄ろうとした麗は、オヤジの魔法が床に炸裂し、動けなくなる。麗の表情も真に迫っている。
そうだよね。俺が切られたのは本当だし、オカンの涙も本当だ。だけど一時の感情に流されてはいけない。だから!
次は俺の台詞だ!
「手しか切り落とせないのか。思ったより弱いな。魔王」
そして立ち上がりながら、腕に回復魔法をかける。オヤジの言う通りだ。この世界は素晴らしい。切られた腕も元通りになる。
次はオヤジの台詞だ。
「順番に切り落として、婚約者の前に並べてあげよう。そうすれば彼女も君に諦めがつくだろう」
「セヴェーロ!言うこと聞くから、私を好きにして良いから、アダル様を!咲夜を助けて!お願いだから‼︎」
ああ、手を切られる事よりも、オカンの言葉が一番胸に刺さり、痛い。
剣を打ち合わせながらオヤジに呟く。
「オヤジ、俺、これ以上できる自信がない」
「僕もだよ。でも燈子さんが死ぬ方が辛いから、だから一緒に頑張ろう」
オカンが神に助けを求めるのが早いのか、俺の心が折れるのが早いのか。
――勝てる自信がない!
「神様!助けてください!神様‼︎」
台本外の麗の台詞に、俺とオヤジは剣を打ち合わせながら、お互いに頷き合う。そうか!その手もあったのか!
「神なんて助けてくれる訳ないわ!祈ったって無駄よ!セヴェーロ!私を好きにすれば良いって言ってんでしょ!早く咲夜から離れなさいよ‼︎」
オカンの怒号が飛ぶ。
あれ?この時点でまだそれを言うの⁉︎計算外だ‼︎
「オヤジ?これダメじゃない?」
剣を合わせて、お互いに睨み合ったフリをしながら話す。
「この作戦が成功する確率が下がった。思った以上に燈子さんが頑固だ!」
「じゃあ、どうすんの⁉︎俺はもう無駄に体を切られんの嫌だからね‼︎」
「1回……死んだフリする?」
「死んだフリ?オカンは医療系魔法が完璧だろう?バレるぞ⁉︎」
「その辺は僕が魔法で誤魔化してあげるよ。そもそも燈子さんは今、魔法を封印されてるしね」
「分かった。じゃあ、どうする?」
「このまま刺すね!」
オヤジの呑気な台詞に俺は間抜けな声を上げる。
「へ?」
返事をする間もなく、俺の胸に深々と剣が刺さった。でも……痛くない。まったく痛くないし外傷もないけど、剣が刺さった所から、血が溢れてく。
幻影魔法かよ!オヤジ!これができるなら、初めからしてよ。
「抜くから倒れてね」
口の端を持ち上げて笑うオヤジを見て、やっとオヤジの本当の気持ちが分かった気がした。オヤジは俺に――アダルベルトに嫉妬をしてたんだ!
エヴァンジェリーナが、オカンが、アダルベルトの婚約者だったから!だから平気で痛めつけれたんだな!
思ったより嫉妬深い親の一面に気付き、八つ当たりだ‼︎ふざけんな‼︎ とは思いつつ、親孝行な俺は頑張って全身の力を抜いて、受け身を取らない様に倒れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
咲夜の体に深々と剣が刺さる。場所は体の中心。助かる確率は……。
剣がゆっくり抜かれる。スローモーションの様に倒れる体。受身すら取ってないじゃない!
力なく床に倒れる。一度床に打ち付けられた体が、少し浮いて、再び床に落ちる。また、失うの?また、私のせいで死んでしまうの?また、私が、殺してしまう。
(それは――――嫌だ‼︎)
燃えるように熱くなる体に驚く。体の内の奥深くに何かを感じる。これは……剣。私の剣‼︎分かっている様に手を掲げる。手に剣が顕現する。そう、私には力がある‼︎
そして、戦いに戻る。
氷の魔法を駆使しオヤジではなく――魔王(仮)の放つ氷の魔法を相殺する。
麗は俺を魔法で補助している設定だ。実際はできないので今、俺の体に付与されている様々な補助魔法は、玉座の間の外にいるオヤジの部下が頑張ってかけている。
次は剣を何度か打ち合わせながら、地面に炎の柱を建てて魔王(仮)を襲わせる。が、その作戦は失敗して炎の柱を避けた魔王(仮)に左腕を切り落とされる。だったな。これもオカンのため、我慢だ!俺!!
想像より高い悲鳴が起こって目を見張る。オカンの悲鳴だ。俺の腕はオカンの目の前に落ちた。そこは計算通りだ。オカンは捕縛されたままだ。逃れようと体を必死に捩っている。涙で顔はぼろぼろだ。全ては計算通り……そうなんだけど、この心の痛みは、騙していると言う罪悪感はどこに持って行けば良いのか!
俺に迫るオヤジを見る。こちらを見る表情はオカンには見えない。だからなのだろう。辛そうな表情だ。勝利の神は冷徹らしい。勝利の為に感情を捨てさせる。
「アダル様!」
駆け寄ろうとした麗は、オヤジの魔法が床に炸裂し、動けなくなる。麗の表情も真に迫っている。
そうだよね。俺が切られたのは本当だし、オカンの涙も本当だ。だけど一時の感情に流されてはいけない。だから!
次は俺の台詞だ!
「手しか切り落とせないのか。思ったより弱いな。魔王」
そして立ち上がりながら、腕に回復魔法をかける。オヤジの言う通りだ。この世界は素晴らしい。切られた腕も元通りになる。
次はオヤジの台詞だ。
「順番に切り落として、婚約者の前に並べてあげよう。そうすれば彼女も君に諦めがつくだろう」
「セヴェーロ!言うこと聞くから、私を好きにして良いから、アダル様を!咲夜を助けて!お願いだから‼︎」
ああ、手を切られる事よりも、オカンの言葉が一番胸に刺さり、痛い。
剣を打ち合わせながらオヤジに呟く。
「オヤジ、俺、これ以上できる自信がない」
「僕もだよ。でも燈子さんが死ぬ方が辛いから、だから一緒に頑張ろう」
オカンが神に助けを求めるのが早いのか、俺の心が折れるのが早いのか。
――勝てる自信がない!
「神様!助けてください!神様‼︎」
台本外の麗の台詞に、俺とオヤジは剣を打ち合わせながら、お互いに頷き合う。そうか!その手もあったのか!
「神なんて助けてくれる訳ないわ!祈ったって無駄よ!セヴェーロ!私を好きにすれば良いって言ってんでしょ!早く咲夜から離れなさいよ‼︎」
オカンの怒号が飛ぶ。
あれ?この時点でまだそれを言うの⁉︎計算外だ‼︎
「オヤジ?これダメじゃない?」
剣を合わせて、お互いに睨み合ったフリをしながら話す。
「この作戦が成功する確率が下がった。思った以上に燈子さんが頑固だ!」
「じゃあ、どうすんの⁉︎俺はもう無駄に体を切られんの嫌だからね‼︎」
「1回……死んだフリする?」
「死んだフリ?オカンは医療系魔法が完璧だろう?バレるぞ⁉︎」
「その辺は僕が魔法で誤魔化してあげるよ。そもそも燈子さんは今、魔法を封印されてるしね」
「分かった。じゃあ、どうする?」
「このまま刺すね!」
オヤジの呑気な台詞に俺は間抜けな声を上げる。
「へ?」
返事をする間もなく、俺の胸に深々と剣が刺さった。でも……痛くない。まったく痛くないし外傷もないけど、剣が刺さった所から、血が溢れてく。
幻影魔法かよ!オヤジ!これができるなら、初めからしてよ。
「抜くから倒れてね」
口の端を持ち上げて笑うオヤジを見て、やっとオヤジの本当の気持ちが分かった気がした。オヤジは俺に――アダルベルトに嫉妬をしてたんだ!
エヴァンジェリーナが、オカンが、アダルベルトの婚約者だったから!だから平気で痛めつけれたんだな!
思ったより嫉妬深い親の一面に気付き、八つ当たりだ‼︎ふざけんな‼︎ とは思いつつ、親孝行な俺は頑張って全身の力を抜いて、受け身を取らない様に倒れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
咲夜の体に深々と剣が刺さる。場所は体の中心。助かる確率は……。
剣がゆっくり抜かれる。スローモーションの様に倒れる体。受身すら取ってないじゃない!
力なく床に倒れる。一度床に打ち付けられた体が、少し浮いて、再び床に落ちる。また、失うの?また、私のせいで死んでしまうの?また、私が、殺してしまう。
(それは――――嫌だ‼︎)
燃えるように熱くなる体に驚く。体の内の奥深くに何かを感じる。これは……剣。私の剣‼︎分かっている様に手を掲げる。手に剣が顕現する。そう、私には力がある‼︎
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
【完結】ガラクタゴミしか召喚出来ないへっぽこ聖女、ゴミを糧にする大精霊達とのんびりスローライフを送る〜追放した王族なんて知らんぷりです!〜
櫛田こころ
ファンタジー
お前なんか、ガラクタ当然だ。
はじめの頃は……依頼者の望み通りのものを召喚出来た、召喚魔法を得意とする聖女・ミラジェーンは……ついに王族から追放を命じられた。
役立たずの聖女の代わりなど、いくらでもいると。
ミラジェーンの召喚魔法では、いつからか依頼の品どころか本当にガラクタもだが『ゴミ』しか召喚出来なくなってしまった。
なので、大人しく城から立ち去る時に……一匹の精霊と出会った。餌を与えようにも、相変わらずゴミしか召喚出来ずに泣いてしまうと……その精霊は、なんとゴミを『食べて』しまった。
美味しい美味しいと絶賛してくれた精霊は……ただの精霊ではなく、精霊王に次ぐ強力な大精霊だとわかり。ミラジェーンを精霊の里に来て欲しいと頼んできたのだ。
追放された聖女の召喚魔法は、実は精霊達には美味しい美味しいご飯だとわかり、のんびり楽しく過ごしていくスローライフストーリーを目指します!!
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない
当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。
だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。
「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」
こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!!
───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。
「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」
そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。
ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。
彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。
一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。
※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる