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42話 勇者と聖女

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「おかしなこと言うね、王妃様。だってここにはヴィアラッテアもウルティモもいるのにね」

 麗がニコニコ笑いながらウルティモを掲げる。
 ウルティモが大きくなっている。
 そうか……もう麗は魔法を使えるから、ペンダントである必要はないわけだ。

[声が聞こえないから仕方がないことです。アダル殿、体調はどうだ?]
[私が癒したんですよ!大丈夫にきまってます!ね!アダル様]
「ああ、もうすっかり元通りだ。喉が渇いてお腹がすいたくらいにね」

 俺の言葉を聞いた麗がぴょこんとベッドから飛び降りる。
「飲み物持ってくるね。あと軽食があるの。後で食べようと思って取っておいたの。一緒に食べようよ」
 そう言って執務机にある飲み物とサンドイッチを取りに行く。パタパタと走る姿がとてもかわいい。

 麗がいてくれて良かった。いなかったら俺は誰が止めてもオカンを助けに行っていっただろう。俺が弱いせいで、俺が負けてしまったせいでオカンは連れ去られてしまったのだから……。

「はい。咲夜君、どうぞ」
 麗が水を差し出してくれる。そのお盆の上にはサンドイッチとフルーツ、そしてなぜかケーキが載っている。
 俺にとってケーキは軽食ではないんだけど……とは思ったけど、ニコニコ笑ってる麗を見ていたら、突っ込めない。
 
 もらった水を飲むと自分の喉が乾いてる事に気付いた。疲労と緊張、つまりストレスだ。

 自分で自分を分析する余裕はあるみたいだ。 セヴェーロが最後に放った雷撃は、俺の結界を吸収し、その魔力を攻撃に上乗せしていた。どんな魔法の公式を使えば、あんなことができるのか……。悔しいけど、俺には思いつかない。

 麗の視線を感じて見ると、なんだか熱い視線を送ってる。見ていて分かる。この熱視線は俺にじゃない、アダルベルトに送ってるんだ!そう思うと嬉しさ半分、苛立ち半分の気分になり思わずデコピンをしてみた。

「いたい‼︎」
 そう言って麗がオデコを押さえてる。

 痛みが分かる様になってる?オカンの話だと体と心が乖離してるって聞いたけど……。良い事だと思った。麗は前を向いて歩いてる。俺も前を向かないと!

「なに、ジロジロ見てんの?そのサンドイッチちょうだい」
 照れ隠ししながら、麗に甘える。なんだかこの感覚は懐かしい。

「どうぞ!王様からもらったケーキもあるよ」
「父上のケーキなの⁉︎じゃあ遠慮しておく」
「なんで?美味しいよ?」
「激甘だろ?」
「それが良いんだよ。咲夜君は昔から甘いものダメだよね~」
[そうなんですか?知らなかったです]
「そうなんだよ、ヴィアラッテア。咲夜君のお父さんもケーキが大好きでね。ケーキバイキングに連れて行かれて、お父さんがケーキを20個食べたのを見てから、苦手になったんだって」
[面白いですね]
 麗とヴィアラッテアが呑気におしゃべりをする。この光景は前世ではなかったけど、ほのぼのとして安心する。
 ここにオカンがいれば、言うことはないのに……。

「そうそう、咲夜君、私思うんだけど、魔王って雅也さんじゃないかな?」

 麗の再びの爆弾発言に思わず咽せる!

「な、なんでそんなこと!だって似てもにつかないし!」
「それ咲夜君が言うの?見た目は私も咲夜君も前世と全然ちがうよ?」
「え?でも、俺、攻撃されたし……」

「そっかぁ。じゃあ違うかな?雅也さんが咲夜君を攻撃するわけないもんね。たださ、魔王がエヴァを見る目が、なんか優しい気がしたの。ただ、それだけの理由なの。忘れて」

「うん、いや、確かにまだオヤジだけが見つかってないし、もしかして俺と同じで記憶が戻ってないとか?」

「あー!それあるかも!無意識で求めてる、みたいな?素敵ね、愛ね!」

「オカンは勘でオヤジを見つけるって言ってたから、もしかして今頃正体が分かっている可能性があるかも?」

「やだ!咲夜君、燈子さんの勘があたる訳ないじゃない!あの人の勘ほどアテにならないものはないって、良く雅也さんが言ってたよ。勘で動いて道に迷うなんて日常茶飯事って聞いてるよ」

 麗の言葉に声が出ない!
 そうだった……。忘れてた。オカンは人を覚えるのが苦手だ!しかも勘で暴走して良く壁にぶち当たってた!
 そもそも、何年一緒にいてもオカンはラッキーと他のゴールデンを見分けられなかった!俺はなんでオカンの勘を信じようと思ったのか!……いや、単にオカンに逆らえなかったせいかも知れないけど……。その可能性が高いけど!

[エヴァ殿の件で話がある]
 ウルティモが改まった声を出す。なんだか神妙な雰囲気に見える。剣だけど……。

「どうしたの?ウルティモ」
[エヴァ殿は聖女だ]
「あーーーーーーー‼︎」

 突然の麗の叫び声に驚いて、耳を塞ぐ。
「え?なに、麗。ウルティモの言葉に驚いてるのに、大声を出さないで!」

「思い出したの、咲夜君!攻略サイトにあったの‼︎ エヴァンジェリーナは聖女の子孫だって!」

「聖女?王家が勇者で、サヴィーニ公爵家が聖女の子孫ってこと?確かにサヴィーニ公爵はこの国を起こした勇者の親友の弟が起こしたって聞いてはいるけど」

「そうなの⁉︎」
「そうだよ。魔王を倒す時に犠牲になった親友の弟に爵位を与えたって聞いてるよ」

「……そうなんだ……。だからエヴァは聖女なのかな?」

[そもそもが違います。神の加護を受けた者は、聖剣の持ち主なれます。つまりここで言うアダル殿とコス様です。男性であれば、勇者。女性であれば聖女と言う呼称になります]

 ウルティモが俺達の会話に入って来る。
「神の加護って何?」

[コス様には神のご加護があるはずです。コス様の些細な願いは神により、叶えられているはずです]

「あ……そうか。優しい神様ね」
「優しい?試練ばかりな気がするけど?」
 なんか俺と麗の神への認識が違う。俺は神託を受ける度に寝込んでいるんだよ?優しさなんてない!

[コス様の守護神は、慈愛の神です。そしてアダル殿の守護神は、試練の神です]
「あ……うん、なんか納得した」
 そうか……だから神託と共に寝込むくらいの試練を与えるんだ。

 正直前世では神なんて信じていなかった。だけど神託を受ける身となっては信じるしかない。そしてこの世界の神は知られる事を極端に嫌がる。だから大聖堂の教皇ですら、神々の事を詳しくは知らない。よくよく考えれば変な話だと思う。オカンがいればゲームの世界だから仕方ないとか言いそうだけど……。

「この世界の神聖文字は4文字。俺は『偶像崇拝を好まない神々』と言う文言を当たり前のように聞いて育ったから、神は4柱なのかとは思っていたけど違う?」
[そうです。だから聖剣は4本あります。ヴィアラッテア、私、セヴェーロが持っていたスピラーレ。最後の一本は、エヴァ殿の体内に封印されています]
「封印?なぜ?」
[分かりません。ですが以前、エヴァ殿を見た時に聖剣ヴィータの波動を感じました]
「ヴィータ……。俺は前にオカンの常時魔法を解いたけど、気付かなかったけど?」
[聖剣同士は共鳴します。つまり聖剣でなければ気付けません]
「ちなみにヴィータの神は?」
[献身の神です]
 
 献身……意外ではない。納得できる。オカンはいつだって我先に怪我した人を助けようとする。エヴァ嬢が作った医療系分析魔法もそうだ。全ては人を助ける為だ。
 猪突猛進で暴走機関車なオカンだけど、前世で救急医だった時も、いつも目の前の患者を救おうと頑張っていた。そのひたむきで一生懸命なオカンを尊敬していたことは確かだ。

[私の記憶ですとヴィータはヴェリタ国にあったはずです。どうしてエヴァ嬢の体内にあるのか……]
 ウルティモの不思議そうな声に疑問を持つ。

「ヴェリタ国?知らない国だけど?」
[初めのご主人様達の国です。私もご主人様達もそこから来ました]
 ずっと黙っていたヴィアラッテアが話す。

「ヴィアラッテア……ご主人様達って言った?」
[はい、すべてお話します]

 ヴィアラッテアとウルティモが淡く光り出した。
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