オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木

文字の大きさ
上 下
41 / 90

41話 アダルベルト目覚める

しおりを挟む
 咲夜君が起きたのは、あの人の言葉の通り翌日だった。

 燈子さんが男の人と消えた後、ウルティモに教えてもらって狼煙を上げた。自分の内から溢れる魔力は私に自信をくれた。

 アダル様に回復魔法を掛けながら待っていると、聖騎士団と聖魔法師団の人達が来てくれて、無事に咲夜君と城に戻ることができた。
 
 城に戻った私を待っていたのは王様とエヴァのお父さん。二人には全ての出来事を話した。

 アダルベルト様は男の人に負けたこと。
 エヴァは戦利品として連れて行かれたこと。
 私も誘われたけど断ったこと。
 
 エヴァの事と男の人の事は、その日の内に公式発表された。男の人には『魔王』と言う名称が与えられた。

 理由としては2つある。アダルベルト様が戦っている姿を、多くの国民が見ていたから。そしてもう一つは、黒い城が姿を現したから。黒い城の登場は『魔王』の登場と同時期だったので『魔王城』と言う名称で正式発表された。
 魔王城は大陸の中央アウローラ山に顕現した。アウローラ山は昔から不可侵の山だったらしい。
 なぜなら山を登ろうとすると、気が付いたら裾野に戻るから。いつしか信仰の対象となり誰も近づかなくなった。

 人の目に多く映ってしまった為、隠しておくことができず、早々での発表となった。

 世の中が騒がしくなってきた様に感じる。落ち着かない。早く咲夜君に起きて欲しい。元気になって欲しい。と神様に祈っていたら、咲夜君の目が覚めた。

 優しい神様はいつも私のお願いを聞いてくれる。


「あ、麗……。ここは?」
「咲夜君⁉︎王妃様!咲夜君が‼︎」
 アダル様の部屋のソファで休んでいた王妃様が駆け寄ってくる。

 今この部屋には私と王妃様とアダル様の3人。私は王妃様に前世の話をして、連れてきてもらった。『あなたがウララ様なのね』って言われた。とても綺麗で優しい王妃様。アダル様に良く似ている。

「アダル‼︎目が覚めたのですね」
 アダル様はゆっくり起き上がった。片手で何かを探している。ヴィアラッテアだ!
 ヴィアラッテアを掴み私を、王妃様を交互で見る。

「俺は、負けたんですね……。やつはセヴェーロはどこへ。この国は…………」

 自信なさげに目を伏せるアダル様はヴィアラッテアを握りしめてる。アダル様にとってヴィアラッテアがどんなに大事な存在かが分かる。

「魔王はセヴェーロと言うのですね。彼には『魔王』と言う呼称が与えられました。魔王は戦利品としてエヴァンジェリーナ嬢を連れ去りました。それ以外の被害はありません」

 王妃様が凛として声でアダル様に告げた。と同時にアダル様が起き上がる。

(止めなきゃ‼︎)
 私は必死にアダル様に縋り付く。

「ダメ。アダル様、まだちゃんと治ってない!」
「離せ!オカンを助けに行かないと!」
「どうやってですか?貴方は負けたのですよ?アダル……」

 王妃様の一言で、崩れ落ちるように咲夜君はベッドに座った。私はアダル様の体から離れる。すると辛そうな咲夜君の表情が見えて、心が痛む。

「幸い我が国の被害はエヴァンジェリーナ嬢一人だけです。あなたが負けたことにより、王侯会議は難航しています。このまま静観しろとの発言もあるくらいです。エヴァンジェリーナ嬢一人で済めば、安いものだろうと」
「母上……」

「もちろん、わたくしはそうは思いません。ここで静観してしまえば、国民の信頼を失うでしょう。近隣諸国にも侮られる事になります。幸いな事に議会の大半はこの意見です。ですが、ここから建設的な意見が出ず止まっています。理由は分かりますね?」
「私が……負けたからですね」

 悔しそうなアダル様の表情に涙が出そうになる。確かに魔王は、彼は、無傷だった。アダル様と違って……。

「そうですね。次は勝てますか?アダル?」
「俺…いや私では勝てないと思います」
「コスタンツァ様、貴女は魔王に勝てますか?」

 王妃様が私を見る。突然の質問に戸惑う。今の私は魔法を使える。だからかな?答えがはっきり分かる。

「私――勝てると思います。たぶん、私のほうが強いです」
「え?麗!なんでそんなあっさり」

「咲夜君、私ね。魔法が使えるようになったの。実は咲夜君の後に魔王とも戦ったの。あの時は錯乱状態だったから、うまく戦えなかったけど。咲夜君が戦い方を教えてくれれば、もっともっと強くなれるよ。魔王なんてコテンパンにやっつけちゃう。咲夜君は私に守られてればいいんだよ」

「嫌だよ!それ!俺が麗を守りたいよ」
「じゃあ一緒に闘おうよ!どっちが先に魔王を倒すか競争だね!」

「では決まりですね!母はこれから今の話を王侯会議でぶちまけて来ます」
 王妃様が立ち上がり、私と咲夜君を見て、にっこり笑った。

(かっこいい~)

「ぶちまけるって、母上、いつの間にそんな言葉を……」
「ぶちまけちゃってください!文句いうやつは、私のパンチをお見舞いしちゃいます。私のパンチは強いですよ~。ひと振りでこの城を壊せる自信があります。人間なんてぺっちゃんこです!」

「ぺっちゃんこって……麗――」
「頼もしいわね。それも言ってくるわ。では二人きりになるけど、昔は恋人でも今はまだ他人よ!節度は守りなさいね」
 王妃様はそう言いながら、早足で部屋を出て行った。

 赤くなる私。咲夜君は、こんなとこまでオカンの影響がってブツブツ言ってる。燈子さんは素敵な人だもの。だからみんな影響されちゃうんだよ!

 なんだろう……事態は好転していないのに、咲夜君が起きただけで、それだけでうまくいく気がして来た。 
 
 私はきっと愛する人達のためなら、なんでもできる。できちゃう!怖い者はない!
しおりを挟む
G-EG1MBQS9XD
感想 5

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...