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36話 襲撃(4)
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剣と剣が重なり合う音が上空に響き渡る。
「いい反応だ。謝罪しよう。思ったより経験はあるようだ。井の中の蛙であることは、撤回しないけどね」
「それは、ありがとうと言うべきかな?」
腕に力を入れて、上から重圧を与える剣を振り払う。セヴェーロはその勢いのまま後ろへ飛ぶ。
王都に追加で張った結界は氷柱を防ぎ切ったようだ。
あとはこの男を排除するだけ。
「セヴェーロ、貴方は随分と卑劣な戦い方を好むのだな。貴方は私を井の中の蛙というが、人質ばかり攻撃して私と一騎打ちできない貴様は、腑抜けのようだな」
「安い挑発だ。だが、乗ってあげよう」
空を飛ぶセヴェーロが中段から真一文字に剣を払う。俺は向かい来る剣より生じた衝撃波を、上に弾き飛ばす。と同時に迫ってくるセヴェーロの上段からの剣を、下から受け止める。セヴェーロの背後に無数のかまいたちが生じる。俺の背後には鋭い光を放つ氷の塊を作る。同時に放った魔法は相殺された。その間にも剣での攻防は続く。
(ヴィアラッテアが俺を回復してくれている。時間を稼げば俺の勝ちだ)
「やはり剣の腕は大したものだ。魔法も淀みなく使えるようだね。繰り出す種類も多い」
「お褒めに預かり光栄だな。貴様もなかなかのものだ」
攻防を繰り返しながら徐々に場所を移していく。うまく誘導できたようだ。人気のない荒野まで来れた。でもそれだけだ。
何合打ち合ったか分からない剣での攻防、魔法の相殺。致命的な傷はないものの、裂傷は負う。だが対するセヴェーロは傷一つない。余裕の笑みも変わらない。自分との力量の差に歯噛みする。
こんな自分が最強だと思っていたなんて!思い上がりも甚だしい‼︎
セヴェーロが地面に降り立つ。俺も地面に足をつける。と同時にセヴェーロに迫り、切りかかる。時間を開けてはダメだ。次々に攻撃を繰り出さなければ負けてしまう!
剣を打ち合わせる!左右上下と攻めていくが、やつの余裕の笑みは崩れない!
なぜ息切れもせずに、笑みを湛えたまま戦い続ける事ができるのか!俺は魔力もかなり削られている!体力もだ!ヴィアラッテアが回復していれているのに!
焦りは混乱を呼び、無駄に体力を削り、憔悴していく。ヴィアラッテアの声の聞こえない……。
「焦っているね。やはり経験不足だね」
更にセヴェーロの上から目線の言葉に苛立ちを感じる。自分で自分が押さえられない!まるで子供ようだ。王太子教育では何があっても冷静でいろと教わった。
だけど、この状況で!この心境で!いったいどうすれば冷静でいられるのか!
剣を一旦引き、後ろに飛び、息を整える。
焦るなと言い聞かせる。自分には帰りを待つ人達がいる。そう――例えば撤退も戦略の一つだ。
「遅まきながら気づいたのかな?そう……君は逃げる事もできた。だが逃げなかった、初めて自分と戦う事ができる相手と戦うのは楽しかったかい?」
やはり全てを分かっているかのように憫笑する。
その思いがないとは言えない。全力で戦える相手……そんな相手は今までいなかった。
「さあ?もう貴様に興味が失せただけかも知れないぞ?」
どんな時でも強気である事は大事だ。自分の心の内が読まれている事を気付かれては、いけない。冷静になれと、ヴィアラッテアの柄をぎゅっと握りしめる。ヴィアラッテアが応えてくれるように温かくなる。
「そうか……でも残念だね。時間だ」
セヴェーロから笑みが消える。冷酷な赤い目が光る。
咄嗟に身構える。
(何かくる!)
上空に雷鳴が轟き、黒い稲妻が落ちる。防ごうと張った障壁が稲妻に吸収されるように消える。
(そんな、馬鹿な‼︎)
そして、稲妻は無数の剣となり俺の体に降り注ぐ。激痛が身体に走り、体内まで焼ける。その余りにもの痛みで、声を上げることしかできない‼︎
「まだまだ、だな」
セヴェーロが呟いた言葉は、俺には届かなかった。
「いい反応だ。謝罪しよう。思ったより経験はあるようだ。井の中の蛙であることは、撤回しないけどね」
「それは、ありがとうと言うべきかな?」
腕に力を入れて、上から重圧を与える剣を振り払う。セヴェーロはその勢いのまま後ろへ飛ぶ。
王都に追加で張った結界は氷柱を防ぎ切ったようだ。
あとはこの男を排除するだけ。
「セヴェーロ、貴方は随分と卑劣な戦い方を好むのだな。貴方は私を井の中の蛙というが、人質ばかり攻撃して私と一騎打ちできない貴様は、腑抜けのようだな」
「安い挑発だ。だが、乗ってあげよう」
空を飛ぶセヴェーロが中段から真一文字に剣を払う。俺は向かい来る剣より生じた衝撃波を、上に弾き飛ばす。と同時に迫ってくるセヴェーロの上段からの剣を、下から受け止める。セヴェーロの背後に無数のかまいたちが生じる。俺の背後には鋭い光を放つ氷の塊を作る。同時に放った魔法は相殺された。その間にも剣での攻防は続く。
(ヴィアラッテアが俺を回復してくれている。時間を稼げば俺の勝ちだ)
「やはり剣の腕は大したものだ。魔法も淀みなく使えるようだね。繰り出す種類も多い」
「お褒めに預かり光栄だな。貴様もなかなかのものだ」
攻防を繰り返しながら徐々に場所を移していく。うまく誘導できたようだ。人気のない荒野まで来れた。でもそれだけだ。
何合打ち合ったか分からない剣での攻防、魔法の相殺。致命的な傷はないものの、裂傷は負う。だが対するセヴェーロは傷一つない。余裕の笑みも変わらない。自分との力量の差に歯噛みする。
こんな自分が最強だと思っていたなんて!思い上がりも甚だしい‼︎
セヴェーロが地面に降り立つ。俺も地面に足をつける。と同時にセヴェーロに迫り、切りかかる。時間を開けてはダメだ。次々に攻撃を繰り出さなければ負けてしまう!
剣を打ち合わせる!左右上下と攻めていくが、やつの余裕の笑みは崩れない!
なぜ息切れもせずに、笑みを湛えたまま戦い続ける事ができるのか!俺は魔力もかなり削られている!体力もだ!ヴィアラッテアが回復していれているのに!
焦りは混乱を呼び、無駄に体力を削り、憔悴していく。ヴィアラッテアの声の聞こえない……。
「焦っているね。やはり経験不足だね」
更にセヴェーロの上から目線の言葉に苛立ちを感じる。自分で自分が押さえられない!まるで子供ようだ。王太子教育では何があっても冷静でいろと教わった。
だけど、この状況で!この心境で!いったいどうすれば冷静でいられるのか!
剣を一旦引き、後ろに飛び、息を整える。
焦るなと言い聞かせる。自分には帰りを待つ人達がいる。そう――例えば撤退も戦略の一つだ。
「遅まきながら気づいたのかな?そう……君は逃げる事もできた。だが逃げなかった、初めて自分と戦う事ができる相手と戦うのは楽しかったかい?」
やはり全てを分かっているかのように憫笑する。
その思いがないとは言えない。全力で戦える相手……そんな相手は今までいなかった。
「さあ?もう貴様に興味が失せただけかも知れないぞ?」
どんな時でも強気である事は大事だ。自分の心の内が読まれている事を気付かれては、いけない。冷静になれと、ヴィアラッテアの柄をぎゅっと握りしめる。ヴィアラッテアが応えてくれるように温かくなる。
「そうか……でも残念だね。時間だ」
セヴェーロから笑みが消える。冷酷な赤い目が光る。
咄嗟に身構える。
(何かくる!)
上空に雷鳴が轟き、黒い稲妻が落ちる。防ごうと張った障壁が稲妻に吸収されるように消える。
(そんな、馬鹿な‼︎)
そして、稲妻は無数の剣となり俺の体に降り注ぐ。激痛が身体に走り、体内まで焼ける。その余りにもの痛みで、声を上げることしかできない‼︎
「まだまだ、だな」
セヴェーロが呟いた言葉は、俺には届かなかった。
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