オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木

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26話 聖剣ウルティモ(1)

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 明日は聖剣ウルティモに会いに行こうと、エヴァに言われた。エヴァがワクワクしているのが分かる。

 『アイタソ』の悪役令嬢だよね?とたまに心配になる。

 エヴァンジェリーナ・サヴィーニ公爵令嬢。
 『アイタソ』では徹底的にヒロインを虐める役だった。教科書を破る、制服を隠す、階段から突き落とす。鉄板のイタズラしかしないのかよ!と、思わず突っ込んだ覚えがある。
 アダルベルト王子に一目惚れし、親の権力を使って婚約を結び、贅沢三昧な残念なキャラだった。

 ところが現実のエバァは、サバサバしていて、権力をひけらかしたりしない。
 顔はびっくりするほど美人だ。スタイルも抜群。でも、その動きがオヤジ?と思えるほど、オッサンくさい。
 大きいくしゃみ、大きいあくび、ペンを鼻と口の間に挟む、ペンを耳に挟む、あぐらをかく、頭をガリガリ掻く、大股で歩く、他にもあげればキリがない。なんて残念な美人なんだろう。

 でもこっちのエヴァの方が好きだ。

「明日はアダル様が来るから、かわいくしましょう」
 エヴァがドレスを私に合わせる。
 成長痛(?)が治まったらしい私は、一気に背が伸びた。体も女性らしくなった……と思う。胸は、エヴァには負けるけど少しは大きくなった。

「アダルベルト王太子は、エヴァの婚約者じゃないの?」
「ああ、そのうち婚約解消するわよ。私にもあいつにも他に好きな人がいるし」
「そうなの?」
「そうなの」
 ニッコリ笑うエヴァ。その表情には嘘はない。エヴァは好きな人がいるんだ。その内、教えてくれるかな?

 会話の間にも色々なドレスが合わせられる。何着用意したの?

「やっぱり、ピンクのこれにしましょう!本当は黄色か紫を着せたいけど、まだ早いもんね」
「なんでその色?」
「ん?そのうち分かるわ」
 意味深に笑うエヴァ。エヴァは同い年なのに、お母さんみたいだ。燈子さんを思い出す。

「シルバーの髪に、緑の目、ピンクのドレス!うん、かわいいわ。宝石はどうしようかな~」
 エヴァは楽しそうだ。エヴァが楽しそうだと私も嬉しい。

 ピンクのドレスを見る。プリンセスラインのかわいいドレスだ。スカートには沢山のレースが重ねられている。腰の後ろの大きなリボンには、チューリップを模した刺繍。大好きな花だ。

「宝石くらいは良いでしょう。これにしまししょう!アメシスト!」

 大きなアメシストの周りにダイヤモンドが散りばめられた、金細工のネックレスが出てきた。え?これ絶対高いよね?
「こんなの使えないよ!」
 私は叫ぶ!落としたら大変だ!弁償できない‼︎

「大丈夫、大丈夫!私からのお祝いよ。受け取って!」
「でも」
「私のプレゼントを受け取らないなんて、あり得ないでしょう?」
「あ、ありがとう」
 エヴァの最終勧告だ。逆らっちゃいけない。

 こんな素敵なドレスとネックレスで、アダル様と会えるなんて幸せだ。

 アダルベルト王太子は『アイタソ』の、ある意味主人公だ。とにかく殺される。ゲームのエンディングは誰を選んでも、最終的に出てくるスチルはアダルベルト王太子の死顔だった。今考えると変なゲームだ。

 確か、逆ハーの後にRPGになったんだよね。その時にヒロインの正体が分かるんだよね。意外だったなぁ。あれは。

「コス?これから忙しくなるから、先にご飯食べて」
 エヴァの声に我に返る。
「忙しくなる?だって、ウルティモに会いに行くのは明日でしょ?」
「だからよ。今日はこれから髪型決めて、そのあと徹底的にコスを磨くわよ」
 手を叩くエヴァ。扉からメイドさんがいっぱい入ってきた。

 あ……これラノベとか漫画で良く見たやつだ。色々想像と違った異世界転生だけど、これはあるんだ。

「ドレスとネックレスはこれよ。まずは髪型と靴。その他宝石を選ぶわよ。終わったら徹底的に磨きなさい!」
 エヴァがメイドに指示する。あー、これ逃げられないやつだ。

 その日、私は色々いじられ、磨かれた。お陰で緊張することなく、ぐっすり寝れた。
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