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23話 目覚め
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フカフカの布団だ。
目を覚ますと柔らかい布団に包まれている事に気づく。
周囲を見回すと私は天蓋つきのベットに寝ていることが分かった。ピンクや黄色の花柄の刺繍をされた繊細なレースのカーテン。
天蓋付きのベッド……。
昔、まだ家族に愛されていた頃、使っていた事を思い出す。
布団から手を出す。開く、閉じる。相変わらず細い腕と指だけど健康だ!ちゃんと動く。
気怠い体に激励しながら、起き上がると随分と広い部屋にいる事が分かった。
窓に差し込む温かい日の光は、薄いレースのカーテンで遮られ、大理石の床に繊細な模様を残している。緑と黄緑のカーペットの上には、猫足のかわいいソファセット。その間にある無垢材で作られたテーブルも丸くてかわいい。
ベッドの脇にあるテーブルの上の花瓶にはチューリップ。大好きな花だ。
全体的にかわいくて温かく部屋。死ぬ予定だったのに、起きたら知らない部屋にいる。でも怖くない。心が満たされる気がする。
(優しい神様、ありがとうございます)
心が温かくなる。神様にお礼を言えたのはいつぶりだろう。
ふと着ている物を見る。すべすべした触り心地の、光沢のあるパジャマ。これはシルクとかいうやつじゃないだろうか。当て布だらけのボロボロの服から大出世だ!
キョロキョロしてると、扉が開いた。
「あら?もう起きたのね。良かったわ」
入って来たのは、赤茶色の髪に紫の目の女性。
覚えがある。この人、前にぶつかった人と一緒にいた人。
「あなたは丸3日寝ていたのよ。定期的にポーションを補給していたから、体力は戻っていると思うわ。失礼するわね」
その女の人はベッドに腰掛け、私の額に手を当てる。おでこがほんのり温かい。
「思ったより回復が早くて良かったわ。軽い食事から始めましょうね。頑張ったわね」
そう言いながら私の頭を撫でる手は優しい。どうしてだろう。怖くない。そっと彼女を垣間見る。
日の光に当たった部分が金に光る赤茶色の髪と、アメシストの様な紫色の大きい切長の瞳、長いまつ毛。整った鼻、赤く塗られた厚みのある唇。
(改めて見ると本当に綺麗。こんな綺麗な人、初めて見たわ)
「あの……」
心がくすぐったくて、どうして良いか分からず、下を向いたまま声をかける。
「あ!ごめんなさいね。説明が必要よね」
彼女は膝にあった私の手を取り、胸の高さまで持っていく。それに釣られて、私の顔も上を向く。彼女の紫色の瞳が目に入る。
「わたくしの名前は、エヴァンジェリーナ・サヴィーニよ。サヴィーニ公爵家の長女よ。わたくし達はメルキオルリ伯爵家で虐げられた貴女を見つけて助けたの。良く頑張ったわね」
笑う彼女は艶やかだけど優しい。
心地よい声、優しい手。だから怖くない。
「わ、私はコスタンツァ・メルキオルリです。い、一応、メルキオルリ伯爵の娘です」
喉の奥がくっつく感じがして、うまく言えなかった。エヴァンジェリーナ様は優しく笑いお水をくれた。少し温かい水を飲む。
「コスタンツァ・メルキオルリね!んーー。ではあなたの事はコス、んーーーコンツァも捨てがたいけど、よし!コス嬢って呼んで良い?あ、わたくしの事はエヴァで良いわ」
「え?そんな、私は何でも良いですが、エヴァンジェリーナ様を略すなんて無理です」
「わたくしが良いって言ってんだから良いの!しかも、貴方はわたくしより偉くなるかも知れないわよ?」
(どう言うことなんだろう)
公爵家と伯爵家では家格が違う。いくら当人がそう言っていても、気軽には返事はできない。そんな事は学校を出ていない私でも知ってる。
「でも……」
「でもでも言うのは嫌いよ!さ!コス嬢!」
「え?でもそんな」
「言いなさい!」
「あ、え、エヴァ嬢」
「合格よ!よろしく。コス嬢。ご飯食べてから状況説明するわ」
エヴァ嬢がそう言うと、扉がノックされ、メイドさんが食事を運んできた。ベッドにサイドテーブルが用意され、食事が置かれる。まるでお姫様になったかの様だ。用意されたご飯を食べるのは何年ぶりだろう。
用意された食事はミルク粥とフルーツ。ミルク粥なんて、何年ぶりだろう。
食べて良いのか心配になってエヴァ嬢を見る。「食べさせて欲しいの?」って言われた!慌ててスプーンでミルク粥をすくう。
少し甘く優しい味がする。小さく切られた野菜は私の体のためなのかな?
複雑な味が絡み合う繊細な味に涙が出る。泣きながら食べる私を、エバァ嬢は優しく撫でてくれた。
食事の後、エヴァ嬢はこれまでの事を教えてくれた。
メルキオルリ伯爵家から救出された私は、王城の客間に運ばれた事。
聖剣ヴィアラッテアの天啓により、私を助けた事。
私が聖剣ウルティモの主人である事。
父であるメルキオルリ伯爵は爵位を剥奪され、これから裁判で刑に処されるらしい。母や妹もこれから裁判で裁かれる。今は3人とも牢獄に入れられているらしい。
「あとね、メルキオルリ伯爵の爵位はコスが継いだから」
色々驚いたけど、それが一番びっくりした!
(ちょっと欲しくないかも)
◇◇◇◇◇◇◇◇
エヴァは毎日来てくれた。段々仲良くなっていく私達。私の体もエヴァのお陰で日に日に良くなっていく。とても嬉しい。
骨と皮だけだった手足には適度に肉が付いてきた。頬もふっくらして、窪んでいた目元には張りがでてきた。自分でもお化けみたいだって思ってたから、嬉しい。鏡を見るのが楽しくなってきた。前世の私の願いを叶える為に、もうちょっと大きくならないかなぁと思えるくらいに贅沢になってきた。
髪はメイドさんが整えてくれて、手入れもしてくれた。私の髪はとても汚かっただろうに、嫌がらず丁寧にやってくれた。『大変でしたね』と涙声でこっそり言われた。
やっと見れるようになってきた、と思う。エヴァやメイドさんは美少女だと言ってくれるけど、どうだろう。エヴァみたいな美人に言われてもピンとこない。エヴァを見てるとお子ちゃまな自分が嫌になる。
ある日、エヴァが私のおでこに手を当て、怪訝な表情をする。こんな表情でも美人ってずるい。
「ねぇ、コス。関節が痛いとかない?」
「別に何も感じないよ?」
そう言えば痛いってどんな感覚だったけ。頭の奥がじんわり重くなる。
「感じないのがおかしいのよ。あなたは今、熱があるの。微熱だけどね。そして急激な成長痛で関節が痛いはずなの!」
「へー。熱があるんだ。知らなかった。昔はこの位でも働いてたよ?あと関節?なんか確かに違和感はあるけど、痛いかどうかは分かんないなぁ」
エヴァが私にデコピンをする。
「なに?」
「痛い?痛くない?」
「痛いかどうかは分からないの。痛いって事が分からなくて。昔は知ってたんだけど、忘れたわ」
「そう……」
そう言うとエヴァは私の頭を撫でてくれた。エヴァに撫でられるのは、すごく好き。心が温かくなる。
「まぁ、その辺は私の専門分野じゃないから、あいつに任せましょう」
「あいつ?」
「とりあえず、コスは寝る!はい!ベッド、布団!!」
「子守り歌、歌って?そしたら寝る」
「甘えん坊ね。コスは」
文句を言いながらも、エバァはいつも歌ってくれる。
この世界の歌。知らない歌。でも素敵な歌。優しい声。この声を聞いてると、いつも眠くなる。怖い夢も、見ない。
目を覚ますと柔らかい布団に包まれている事に気づく。
周囲を見回すと私は天蓋つきのベットに寝ていることが分かった。ピンクや黄色の花柄の刺繍をされた繊細なレースのカーテン。
天蓋付きのベッド……。
昔、まだ家族に愛されていた頃、使っていた事を思い出す。
布団から手を出す。開く、閉じる。相変わらず細い腕と指だけど健康だ!ちゃんと動く。
気怠い体に激励しながら、起き上がると随分と広い部屋にいる事が分かった。
窓に差し込む温かい日の光は、薄いレースのカーテンで遮られ、大理石の床に繊細な模様を残している。緑と黄緑のカーペットの上には、猫足のかわいいソファセット。その間にある無垢材で作られたテーブルも丸くてかわいい。
ベッドの脇にあるテーブルの上の花瓶にはチューリップ。大好きな花だ。
全体的にかわいくて温かく部屋。死ぬ予定だったのに、起きたら知らない部屋にいる。でも怖くない。心が満たされる気がする。
(優しい神様、ありがとうございます)
心が温かくなる。神様にお礼を言えたのはいつぶりだろう。
ふと着ている物を見る。すべすべした触り心地の、光沢のあるパジャマ。これはシルクとかいうやつじゃないだろうか。当て布だらけのボロボロの服から大出世だ!
キョロキョロしてると、扉が開いた。
「あら?もう起きたのね。良かったわ」
入って来たのは、赤茶色の髪に紫の目の女性。
覚えがある。この人、前にぶつかった人と一緒にいた人。
「あなたは丸3日寝ていたのよ。定期的にポーションを補給していたから、体力は戻っていると思うわ。失礼するわね」
その女の人はベッドに腰掛け、私の額に手を当てる。おでこがほんのり温かい。
「思ったより回復が早くて良かったわ。軽い食事から始めましょうね。頑張ったわね」
そう言いながら私の頭を撫でる手は優しい。どうしてだろう。怖くない。そっと彼女を垣間見る。
日の光に当たった部分が金に光る赤茶色の髪と、アメシストの様な紫色の大きい切長の瞳、長いまつ毛。整った鼻、赤く塗られた厚みのある唇。
(改めて見ると本当に綺麗。こんな綺麗な人、初めて見たわ)
「あの……」
心がくすぐったくて、どうして良いか分からず、下を向いたまま声をかける。
「あ!ごめんなさいね。説明が必要よね」
彼女は膝にあった私の手を取り、胸の高さまで持っていく。それに釣られて、私の顔も上を向く。彼女の紫色の瞳が目に入る。
「わたくしの名前は、エヴァンジェリーナ・サヴィーニよ。サヴィーニ公爵家の長女よ。わたくし達はメルキオルリ伯爵家で虐げられた貴女を見つけて助けたの。良く頑張ったわね」
笑う彼女は艶やかだけど優しい。
心地よい声、優しい手。だから怖くない。
「わ、私はコスタンツァ・メルキオルリです。い、一応、メルキオルリ伯爵の娘です」
喉の奥がくっつく感じがして、うまく言えなかった。エヴァンジェリーナ様は優しく笑いお水をくれた。少し温かい水を飲む。
「コスタンツァ・メルキオルリね!んーー。ではあなたの事はコス、んーーーコンツァも捨てがたいけど、よし!コス嬢って呼んで良い?あ、わたくしの事はエヴァで良いわ」
「え?そんな、私は何でも良いですが、エヴァンジェリーナ様を略すなんて無理です」
「わたくしが良いって言ってんだから良いの!しかも、貴方はわたくしより偉くなるかも知れないわよ?」
(どう言うことなんだろう)
公爵家と伯爵家では家格が違う。いくら当人がそう言っていても、気軽には返事はできない。そんな事は学校を出ていない私でも知ってる。
「でも……」
「でもでも言うのは嫌いよ!さ!コス嬢!」
「え?でもそんな」
「言いなさい!」
「あ、え、エヴァ嬢」
「合格よ!よろしく。コス嬢。ご飯食べてから状況説明するわ」
エヴァ嬢がそう言うと、扉がノックされ、メイドさんが食事を運んできた。ベッドにサイドテーブルが用意され、食事が置かれる。まるでお姫様になったかの様だ。用意されたご飯を食べるのは何年ぶりだろう。
用意された食事はミルク粥とフルーツ。ミルク粥なんて、何年ぶりだろう。
食べて良いのか心配になってエヴァ嬢を見る。「食べさせて欲しいの?」って言われた!慌ててスプーンでミルク粥をすくう。
少し甘く優しい味がする。小さく切られた野菜は私の体のためなのかな?
複雑な味が絡み合う繊細な味に涙が出る。泣きながら食べる私を、エバァ嬢は優しく撫でてくれた。
食事の後、エヴァ嬢はこれまでの事を教えてくれた。
メルキオルリ伯爵家から救出された私は、王城の客間に運ばれた事。
聖剣ヴィアラッテアの天啓により、私を助けた事。
私が聖剣ウルティモの主人である事。
父であるメルキオルリ伯爵は爵位を剥奪され、これから裁判で刑に処されるらしい。母や妹もこれから裁判で裁かれる。今は3人とも牢獄に入れられているらしい。
「あとね、メルキオルリ伯爵の爵位はコスが継いだから」
色々驚いたけど、それが一番びっくりした!
(ちょっと欲しくないかも)
◇◇◇◇◇◇◇◇
エヴァは毎日来てくれた。段々仲良くなっていく私達。私の体もエヴァのお陰で日に日に良くなっていく。とても嬉しい。
骨と皮だけだった手足には適度に肉が付いてきた。頬もふっくらして、窪んでいた目元には張りがでてきた。自分でもお化けみたいだって思ってたから、嬉しい。鏡を見るのが楽しくなってきた。前世の私の願いを叶える為に、もうちょっと大きくならないかなぁと思えるくらいに贅沢になってきた。
髪はメイドさんが整えてくれて、手入れもしてくれた。私の髪はとても汚かっただろうに、嫌がらず丁寧にやってくれた。『大変でしたね』と涙声でこっそり言われた。
やっと見れるようになってきた、と思う。エヴァやメイドさんは美少女だと言ってくれるけど、どうだろう。エヴァみたいな美人に言われてもピンとこない。エヴァを見てるとお子ちゃまな自分が嫌になる。
ある日、エヴァが私のおでこに手を当て、怪訝な表情をする。こんな表情でも美人ってずるい。
「ねぇ、コス。関節が痛いとかない?」
「別に何も感じないよ?」
そう言えば痛いってどんな感覚だったけ。頭の奥がじんわり重くなる。
「感じないのがおかしいのよ。あなたは今、熱があるの。微熱だけどね。そして急激な成長痛で関節が痛いはずなの!」
「へー。熱があるんだ。知らなかった。昔はこの位でも働いてたよ?あと関節?なんか確かに違和感はあるけど、痛いかどうかは分かんないなぁ」
エヴァが私にデコピンをする。
「なに?」
「痛い?痛くない?」
「痛いかどうかは分からないの。痛いって事が分からなくて。昔は知ってたんだけど、忘れたわ」
「そう……」
そう言うとエヴァは私の頭を撫でてくれた。エヴァに撫でられるのは、すごく好き。心が温かくなる。
「まぁ、その辺は私の専門分野じゃないから、あいつに任せましょう」
「あいつ?」
「とりあえず、コスは寝る!はい!ベッド、布団!!」
「子守り歌、歌って?そしたら寝る」
「甘えん坊ね。コスは」
文句を言いながらも、エバァはいつも歌ってくれる。
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