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第9章:再起編
結界装置
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イブリスの提案は実に単純で、結界生成の封術具にジンが無神術の結界をこめていけばいいというものだった。しかし問題はジンが結界を作成する事を得意としていない事だった。せいぜい半径10メートルの球状結界を張れる程度であり、とてもではないが半径2キロの球状結界など張る事はできなかったからだ。
「いや、それは流石に無理だ。俺には到底できない」
「いやいやその前に、今無神術の使い手と言ったか?」
犬人のウォルがその目を大きく見開いた。だがそれは彼だけでなく、他も同様の反応だった。
「ハヤト様の息子なだけでなく、完全なるラグナの使徒だとは。最後に無神術の使い手が現れたのは何百年前だ?」
「確か、カムイ・アカツキ様が最後だそうだから少なくとも800年は前のはずよ。私の祖母が会ったという話を聞いた事があるわ」
長命なエルフのネフィークはこの集まった中では最年長で250歳ほどだ。彼女の祖母は950歳ほどであり、最長で1000年は生きるというエルフの中でも高齢な方だ。今はエデンの妖精女王ティファニアの国であるティターニアで暮らしているという。
「カムイ様の血筋から完全なる使徒が生まれるのは、まあ、納得と言えば納得か」
ドワーフのストラティオが髭を触りながら頷く。
「完全なる使徒?」
聞き慣れない言葉に思わずジンは尋ねる。
「完全なる使徒とは、簡単に言えばラグナ様より無神術と権能を与えられた存在を指します。一般の使徒はあくまでも強大な力を持つのみですが、完全なる使徒は神にも届きうる力を持つのです。何せ女神フィリアを倒すためだけに生み出された存在ですから」
アカデミーの学長で狐人のエコールがその疑問に答えた。
「それよりも話を戻しましょう。まずは対策を立てないと。本当に無神術を使えるとして、イブリスだったかしら。どのようなプランがあるの? 彼は大きな結界を張れないと言っているけど」
アトルム人のコルトゥーラが逸れかけていた話の軌道修正をするためにイブリスに質問する。
「はい、手段としては結界発生装置を連結させて大結界を作ります」
そう言いながらイブリスは床に置いていた鞄から四角いガラスの箱を取り出した。それは一片50センチほどの大きさの正方形の箱であり、中には各面にピッタリと当たるほどの大きさの黒いガラスで出来たような半透明の球体が一つ入っていた。
「それは?」
初めて見る装置にコルトゥーラが不思議そうな顔を浮かべる。
「これはソール様が持っていた結界の無神術が封じ込められていた封術具を解析し、模倣したものです。技術的な問題で劣化版と言えますし、無神術自体は込められていないので、この状態では何の意味もありませんが」
「つまり側だけあって、中身が入っていないという事ですかい?」
猫人のカートルの質問にイブリスは頷いた。
「ならそれが機能するかは分からないんじゃないですかい?」
「ええ、ですから今からジン君に協力してもらえたらと思います」
「ちょっと待ってくれ。それはどれくらい用意できているんだ? 直径20メートルの球状結界しか張れないそうじゃないか。一体いくつ必要になるんだ?」
ウォルの質問は至極真っ当なものだった。いくら結界を張る手段があったとしても、今から大量生産するには時間がかかりすぎる。
「一つ作る事自体はそんなに時間はかかりません。材料はあるのでせいぜい30分程度で作れます。ただ術を封印するとなるとどれくらい時間がかかるかは不明です。ジン君の体調も見なければならないので。数の試算としては……40000個ほど必要ではないかと」
「……とてもじゃないが現実的な数字ではないな」
「はい。増幅させる機能や術が込められればいいのですが、流石にそれは無理ですし。でも時間をかけてでもやるべきではないでしょうか?」
「それしかなさそうだな」
「その装置の強度はどの程度のものなんだ?」
ウォルとイブリスの会話を聞いていたジンが尋ねる。
「装置自体の強度はかなりのものだと思うよ。かなりの出力に耐えうるように出来ているからね」
「それならもっと数を減らせるかもしれない」
「それはどうやって?」
イブリスからの質問にジンは一度自分の右掌に目を落としてから、顔を上げる。
「俺の権能は『強化』。あらゆる物、事象、術を何倍にも増幅させる力だ」
~~~~~~~
その後の実験の結果、結界発生装置は最大100倍までの強化に耐えうることが判明した。それにより、40000個必要なはずだった装置はその100分の1である400個で十分になった。また一つ当たりにかかる時間は2時間程度だったので、2ヶ月ほどで賄える計算となった。
「それではとりあえず、結界装置は出来次第順次設置していき、結界が張れていない所は戦士を動員するという事で良いな」
ウォルの発言に全員が賛同した頃にはもう日も暮れていた。これで解散となるはずだったが、ふとジンは先ほどの話で出てきた自分の父親だというハヤトの事が気になった。
「なあ、ストラティオさん。俺の親父はどんな人だったんだ?」
帰る準備をしていたストラティオにそう質問する。
「うむ? そうさなぁ。一言で言えばハヤト様は独特の魅力がある御方だった」
「独特の魅力って?」
「どう言えばいいかのう……。どれ、一つ儂が初めてあの御方と会った時の話でもするとしようかのう……」
「いや、それは流石に無理だ。俺には到底できない」
「いやいやその前に、今無神術の使い手と言ったか?」
犬人のウォルがその目を大きく見開いた。だがそれは彼だけでなく、他も同様の反応だった。
「ハヤト様の息子なだけでなく、完全なるラグナの使徒だとは。最後に無神術の使い手が現れたのは何百年前だ?」
「確か、カムイ・アカツキ様が最後だそうだから少なくとも800年は前のはずよ。私の祖母が会ったという話を聞いた事があるわ」
長命なエルフのネフィークはこの集まった中では最年長で250歳ほどだ。彼女の祖母は950歳ほどであり、最長で1000年は生きるというエルフの中でも高齢な方だ。今はエデンの妖精女王ティファニアの国であるティターニアで暮らしているという。
「カムイ様の血筋から完全なる使徒が生まれるのは、まあ、納得と言えば納得か」
ドワーフのストラティオが髭を触りながら頷く。
「完全なる使徒?」
聞き慣れない言葉に思わずジンは尋ねる。
「完全なる使徒とは、簡単に言えばラグナ様より無神術と権能を与えられた存在を指します。一般の使徒はあくまでも強大な力を持つのみですが、完全なる使徒は神にも届きうる力を持つのです。何せ女神フィリアを倒すためだけに生み出された存在ですから」
アカデミーの学長で狐人のエコールがその疑問に答えた。
「それよりも話を戻しましょう。まずは対策を立てないと。本当に無神術を使えるとして、イブリスだったかしら。どのようなプランがあるの? 彼は大きな結界を張れないと言っているけど」
アトルム人のコルトゥーラが逸れかけていた話の軌道修正をするためにイブリスに質問する。
「はい、手段としては結界発生装置を連結させて大結界を作ります」
そう言いながらイブリスは床に置いていた鞄から四角いガラスの箱を取り出した。それは一片50センチほどの大きさの正方形の箱であり、中には各面にピッタリと当たるほどの大きさの黒いガラスで出来たような半透明の球体が一つ入っていた。
「それは?」
初めて見る装置にコルトゥーラが不思議そうな顔を浮かべる。
「これはソール様が持っていた結界の無神術が封じ込められていた封術具を解析し、模倣したものです。技術的な問題で劣化版と言えますし、無神術自体は込められていないので、この状態では何の意味もありませんが」
「つまり側だけあって、中身が入っていないという事ですかい?」
猫人のカートルの質問にイブリスは頷いた。
「ならそれが機能するかは分からないんじゃないですかい?」
「ええ、ですから今からジン君に協力してもらえたらと思います」
「ちょっと待ってくれ。それはどれくらい用意できているんだ? 直径20メートルの球状結界しか張れないそうじゃないか。一体いくつ必要になるんだ?」
ウォルの質問は至極真っ当なものだった。いくら結界を張る手段があったとしても、今から大量生産するには時間がかかりすぎる。
「一つ作る事自体はそんなに時間はかかりません。材料はあるのでせいぜい30分程度で作れます。ただ術を封印するとなるとどれくらい時間がかかるかは不明です。ジン君の体調も見なければならないので。数の試算としては……40000個ほど必要ではないかと」
「……とてもじゃないが現実的な数字ではないな」
「はい。増幅させる機能や術が込められればいいのですが、流石にそれは無理ですし。でも時間をかけてでもやるべきではないでしょうか?」
「それしかなさそうだな」
「その装置の強度はどの程度のものなんだ?」
ウォルとイブリスの会話を聞いていたジンが尋ねる。
「装置自体の強度はかなりのものだと思うよ。かなりの出力に耐えうるように出来ているからね」
「それならもっと数を減らせるかもしれない」
「それはどうやって?」
イブリスからの質問にジンは一度自分の右掌に目を落としてから、顔を上げる。
「俺の権能は『強化』。あらゆる物、事象、術を何倍にも増幅させる力だ」
~~~~~~~
その後の実験の結果、結界発生装置は最大100倍までの強化に耐えうることが判明した。それにより、40000個必要なはずだった装置はその100分の1である400個で十分になった。また一つ当たりにかかる時間は2時間程度だったので、2ヶ月ほどで賄える計算となった。
「それではとりあえず、結界装置は出来次第順次設置していき、結界が張れていない所は戦士を動員するという事で良いな」
ウォルの発言に全員が賛同した頃にはもう日も暮れていた。これで解散となるはずだったが、ふとジンは先ほどの話で出てきた自分の父親だというハヤトの事が気になった。
「なあ、ストラティオさん。俺の親父はどんな人だったんだ?」
帰る準備をしていたストラティオにそう質問する。
「うむ? そうさなぁ。一言で言えばハヤト様は独特の魅力がある御方だった」
「独特の魅力って?」
「どう言えばいいかのう……。どれ、一つ儂が初めてあの御方と会った時の話でもするとしようかのう……」
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