World End

nao

文字の大きさ
上 下
271 / 273
第9章:再起編

結界装置

しおりを挟む
 イブリスの提案は実に単純で、結界生成の封術具にジンが無神術の結界をこめていけばいいというものだった。しかし問題はジンが結界を作成する事を得意としていない事だった。せいぜい半径10メートルの球状結界を張れる程度であり、とてもではないが半径2キロの球状結界など張る事はできなかったからだ。

「いや、それは流石に無理だ。俺には到底できない」

「いやいやその前に、今無神術の使い手と言ったか?」

 犬人のウォルがその目を大きく見開いた。だがそれは彼だけでなく、他も同様の反応だった。

「ハヤト様の息子なだけでなく、完全なるラグナの使徒だとは。最後に無神術の使い手が現れたのは何百年前だ?」

「確か、カムイ・アカツキ様が最後だそうだから少なくとも800年は前のはずよ。私の祖母が会ったという話を聞いた事があるわ」

 長命なエルフのネフィークはこの集まった中では最年長で250歳ほどだ。彼女の祖母は950歳ほどであり、最長で1000年は生きるというエルフの中でも高齢な方だ。今はエデンの妖精女王ティファニアの国であるティターニアで暮らしているという。

「カムイ様の血筋から完全なる使徒が生まれるのは、まあ、納得と言えば納得か」

 ドワーフのストラティオが髭を触りながら頷く。

「完全なる使徒?」

 聞き慣れない言葉に思わずジンは尋ねる。

「完全なる使徒とは、簡単に言えばラグナ様より無神術と権能を与えられた存在を指します。一般の使徒はあくまでも強大な力を持つのみですが、完全なる使徒は神にも届きうる力を持つのです。何せ女神フィリアを倒すためだけに生み出された存在ですから」

 アカデミーの学長で狐人のエコールがその疑問に答えた。

「それよりも話を戻しましょう。まずは対策を立てないと。本当に無神術を使えるとして、イブリスだったかしら。どのようなプランがあるの? 彼は大きな結界を張れないと言っているけど」

 アトルム人のコルトゥーラが逸れかけていた話の軌道修正をするためにイブリスに質問する。

「はい、手段としては結界発生装置を連結させて大結界を作ります」

 そう言いながらイブリスは床に置いていた鞄から四角いガラスの箱を取り出した。それは一片50センチほどの大きさの正方形の箱であり、中には各面にピッタリと当たるほどの大きさの黒いガラスで出来たような半透明の球体が一つ入っていた。

「それは?」

 初めて見る装置にコルトゥーラが不思議そうな顔を浮かべる。

「これはソール様が持っていた結界の無神術が封じ込められていた封術具を解析し、模倣したものです。技術的な問題で劣化版と言えますし、無神術自体は込められていないので、この状態では何の意味もありませんが」

「つまり側だけあって、中身が入っていないという事ですかい?」

 猫人のカートルの質問にイブリスは頷いた。

「ならそれが機能するかは分からないんじゃないですかい?」

「ええ、ですから今からジン君に協力してもらえたらと思います」

「ちょっと待ってくれ。それはどれくらい用意できているんだ? 直径20メートルの球状結界しか張れないそうじゃないか。一体いくつ必要になるんだ?」

 ウォルの質問は至極真っ当なものだった。いくら結界を張る手段があったとしても、今から大量生産するには時間がかかりすぎる。

「一つ作る事自体はそんなに時間はかかりません。材料はあるのでせいぜい30分程度で作れます。ただ術を封印するとなるとどれくらい時間がかかるかは不明です。ジン君の体調も見なければならないので。数の試算としては……40000個ほど必要ではないかと」

「……とてもじゃないが現実的な数字ではないな」

「はい。増幅させる機能や術が込められればいいのですが、流石にそれは無理ですし。でも時間をかけてでもやるべきではないでしょうか?」

「それしかなさそうだな」

「その装置の強度はどの程度のものなんだ?」

 ウォルとイブリスの会話を聞いていたジンが尋ねる。

「装置自体の強度はかなりのものだと思うよ。かなりの出力に耐えうるように出来ているからね」

「それならもっと数を減らせるかもしれない」

「それはどうやって?」

 イブリスからの質問にジンは一度自分の右掌に目を落としてから、顔を上げる。

「俺の権能は『強化』。あらゆる物、事象、術を何倍にも増幅させる力だ」

~~~~~~~

 その後の実験の結果、結界発生装置は最大100倍までの強化に耐えうることが判明した。それにより、40000個必要なはずだった装置はその100分の1である400個で十分になった。また一つ当たりにかかる時間は2時間程度だったので、2ヶ月ほどで賄える計算となった。

「それではとりあえず、結界装置は出来次第順次設置していき、結界が張れていない所は戦士を動員するという事で良いな」

 ウォルの発言に全員が賛同した頃にはもう日も暮れていた。これで解散となるはずだったが、ふとジンは先ほどの話で出てきた自分の父親だというハヤトの事が気になった。

「なあ、ストラティオさん。俺の親父はどんな人だったんだ?」

 帰る準備をしていたストラティオにそう質問する。

「うむ? そうさなぁ。一言で言えばハヤト様は独特の魅力がある御方だった」

「独特の魅力って?」

「どう言えばいいかのう……。どれ、一つ儂が初めてあの御方と会った時の話でもするとしようかのう……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...