World End

nao

文字の大きさ
上 下
268 / 273
第9章:再起編

遺跡

しおりを挟む
 崩壊した都市に次々と生物が集まる。彼らは皆望むように瘴気に身を投じていった。瘴気に触れる度に彼らは生命力を吸い上げられたかのように急激に力を吸収され、瞬く間に干からびたミイラのようになった。吸い上げられた彼らの魂や生命力はそのまま瘴気に乗って、その源へと向かう。結界に開いたわずかな隙間から瘴気は吸収した魂と生命力を、中にいる存在へ届ける。

【これで30か。まだ先は長いな】

 アスルは吸い取った瘴気に含まれている魂から記憶を読み取る。

【くだらんな。こんなの奴らが生み出される為にラーフは死んだのか】

 アスルがふと顔を上げてこちらを見る。離れているはずなのに目が合っているのが分かる。心の底からゾクゾクする。

【ふっ】

 まるで僕の事を鼻で笑うかのようだ。それからアスルはまた運ばれてきた魂に手を伸ばし、それを吸収した。

【これで31】

 そう呟きながら、アスルはまた魂に刻まれた記憶を読み込み始めた。

~~~~~~~~

【何しているの?】

 突然後ろから話しかけられたので、振り向くとおばさんがいた。おじいさんに関心を向けすぎていたみたいだ。

【少し下界を見ていてね。おばさんも……】

 そこまで言って僕は言うのを止めた。おばさんはまだおじいさんの復活に気づいていない。これほど世界が狂いだしているのに、彼女は自分の見たいものだけしか見ない。それならば僕がすべき選択は一つだけだ。

【私も、何?】

【いや、なんでもないよ】

 だってこっちの方が絶対面白い。

【そう? それにしても早くあの子達戦いを始めないのかしら】

おばさんは呑気にそう言って、これから四魔達によって引き起こされる戦争を思い浮かべて微笑んだ。それを見て僕も微笑み返した。だっておばさんがどうなるのか、今からも楽しみで仕方ないからさ。

なんてね。

~~~~~~~~

 アルツの話を聞いた後、ジンとイブリスはソールに連絡を取り、ラウフ・ソルブの鏡の様子を見に行く事を伝えた。ソールはそれを聞いて鏡の封印の地で合流する手筈となった。

「取り敢えず、車で移動する事にしたけど、あんた運転大丈夫なのか?」

 ジンがイブリスに尋ねると、彼女は自信満々に胸を叩いた。

「馬鹿にするなよ。これでもこの国にいる運転手の中で一二を争う腕だと自負している。おっと、あったあった」

 今彼らがいるのはイブリスの部屋の中だった。部屋の中はしばらく掃除がされていないのかかなり汚かった。彼女は下着やら衣服やら、食べたゴミやら資料の束やらといった様々なものが散らばった部屋の中を漁って鍵を見つけ出した。

「さてと、自慢の車を見せてやる」

 そう言うとイブリスはジンを引き連れて車庫に向かった。

~~~~~~~

 その車の形状は他の物と比べてかなり異質だった。他の車は馬車に近く、箱のような形をしている。しかし目の前にある車は全く違った。まず車の高さが低い。せいぜいジンの胸元あたりまでしかない。車体は横に長く流れるようで、青空のように冴えた青色をしている。それにタイヤも他の物と比べて倍以上に太い。まるでこの自動車だけ未来にあるようだ。

「最高速度は馬の平均速度の約2倍! 1日でまあ燃費が酷くて他の車が雷球一つで済む距離を進むのにこいつは5つ必要なんだけどな。だけどとにかく速い。それに尽きる」

 そう言いながら、イブリスは自動車の前についた蓋を開けて燃料が入ったエンジン部分を見せながら説明を始めた。だが複雑な機械であるため、ジンには何も理解できなかった。ただ彼の心はとてもくすぐられていたため、彼女の説明を熱心に聞いた。

「なあ、運転してみてもいいか?」

 ジンはワクワクしながら尋ねる。運転した事は一度も無いが、それでもそんな欲求に駆られた。イブリスはそんな彼にニコリと笑う。

「調子こいてんじゃねえぞ。カスが」

 静かに紡がれた言葉の中に潜んだ背筋の凍るような殺気を感じ、思わずジンは怯んだ。

~~~~~~~

「見えてきたぞ」

 自動車に乗って街を出た二人は3時間程して、ラウフ・ソルブの鏡が封印された遺跡にやってきた。そこには何本もの折れた石柱が立ったり倒れたりしており、家の跡のような壁の名残もそこかしこに見られた。ソールが言っていたように、ここがかつて栄えたとされる、デゼルト王国の名残である事が見て取れた。

 遺跡に車で近づくと、遺跡の前にはソールがいた。どうやら先について待っていたらしい。

「ようやく来たか。久しぶりだね、イブリス」

「ああ。それで鏡はどうなっていた? もう確認したんだろう?」

 イブリスの質問に、ソールは深刻そうな顔を浮かべた。

「……それがまずい事になった。身を屈めて付いて来てくれ」

 その言葉をジンとイブリスは不思議に思うが、ソールに「早く」と言われたので彼女に付き従った。そうして彼らは異常な光景を目にする事となる。

「なんだ、あれは?」

 ジンがボソリと呟く。だがイブリスも言葉を失っていた。

「結界の中から瘴気が溢れ出しているようだ」

 代わりにソールが答える。

「いや、そうだとしても、なんであんなに人が死んでいるんだ?」

 彼の言うように、結界を囲うように人々の死体が転がっていた。その数をざっと数えると30人程だった。影から覗いていると、隠れている自分達の横を誰かが横切った。そちらに目を向けると10歳ぐらいの少女が意思のない人形のようにゆらゆらと瘴気に引き寄せられるように近づき、それに触れる。途端に彼女は生命力を奪われたかのように干からびて倒れた。ピクリとも動かない事から死んだ事が容易に想像できた。

「分からない。だがさっきあの結界の中に誰かがいるのを確認した」

「どういうことだ? あの結界は誰にも触れさせない為に張ったんだろう?」

「ええ、つまりは……」

「その人影とやらは鏡の中から出てきたという事か」

 イブリスの言葉にソールは首肯する。

「何が出てきたのかは分からないが、碌でもなさそうなのは間違いない」

「……アスル」

「何か知っているのか?」

 ボソリと呟いた言葉に、イブリスが質問する。

「いや、具体的な事は知らない。ただフィリアとオルフェが倒した原初の神で、あの鏡にはその時に封じたその神の魂が眠っているらしい。鏡の呪いと、この砂漠はその魂によって引き起こされたそうだ」

「なるほど、つまり今結界の中にいるのはその原初の神であり、何かしらの理由で瘴気を操って人々の力を吸収しているんだね」

 ソールが興味深そうに言う。

「多分な。だが倒すなら弱体化している今しかない。オルフェとフィリアが協力してようやく半分を封じたんだ。とてもじゃないがこの機を逃せば倒せなくなるかもしれない」

「……イブリス。あんたはこの事をカロレの街にいる司令部に伝えてくれ。非常事態が起こったとね」

「分かった。ソール、ジン、気をつけて」

 イブリスはそう言うと遺跡の入り口まで戻り、車に乗ってカロレの街を目指した。

「さてと、少し近づいて様子を見ようか」

 その提案にジンは頷き、ソールに付いてもう少し結界が見えやすい位置に移動した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...