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第9章:再起編
創世記
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これから世界の始まりの話をしよう。ああ、世界と言っても父さんとおばさんが創ったこの世界ではないよ。その前の神様。つまり僕のおじいさんとおばあさんの話だ。彼らこそが世界の始まりであり、彼らの子供であった父さんとおばさんによって哀れにも倒され、全てを奪われた原初の神々だ。そう、父さんとおばさんは簒奪者に過ぎなかったんだ。その話を今から君に教えてあげよう。
その昔、世界は虚無だった。全ての始まりはたった一柱の神によるものだった。闇の中から生まれ落ちたその神はまず空と大地を生み出した。空には位置を少しずつ変えていく光の球が作り出され、光と時間という概念が誕生した。一方で、大地は草一本も生えない不毛の土地だった。さらに生物に必要な空気すら存在しなかった。あらゆる生物は存在すら許されない。そんな環境で神は1億年をたった一人で過ごし続けた。動く事もなく、ただそこに横たわり存在するだけの物体だった。
だがその状況は唐突に変化した。その神を覗き込んでくる存在が現れたのだ。大地を作って以降、初めて目を動かした神は混乱した。何も存在しない静謐な世界を壊す存在が現れたからだ。
2番目に現れた神は空気を作った。1番目の神と話すにはその言葉を伝えるための手段が必要だったからだ。こうして始まりの神は誕生してから一億年経ってようやく自分の口から音が出る事を知った。さらに2番目の神は言葉を生み出した。二柱は会話をする術を得て、様々な事を話した。
まず始まりの神が2番目の神に尋ねたのは、なぜ存在しているのかという事だった。この世界は彼一人の為に創り出されたものだったからだ。すると2番目の神は答えた。彼が彼女を生み出したのだと。永い永い孤独の果てに1番目の神は無意識で力を分けて彼女を創造したのだと言った。この言葉で、彼は彼女と自分に違いがある事を知った。そうして性別という概念が生まれた。さらに二柱は恋人として互いに名をつけた。原初の神はアスルと名乗るようになり、その恋人であり原初の神から生み出された女神はラーフと名乗るようになった。
それからさらに1億年の月日を過ごした。その過程で彼らは不毛な大地に生命を生み出した。そこを彼らは楽園と名づけ、そこに生まれた生命を愛でた。ただし、そこはまだ動物がまともに住めるような場所ではなかった。生命体といっても彼らに肉体という器はなく、神達の体からこぼれ落ちた力の残滓によって生み出された魂のみの存在であった。確かにそこにいるのに会話をする事も触れる事も出来ない不完全な生命体だった。
またしばらく時が過ぎ、ついに彼らはその生命体に肉体を与える事に成功した。そうして最初に誕生したのが額に角を持つ生命、鬼神と呼ばれる者達だった。種族に神の名を入れる事を許可されたように、彼らは強靭な肉体を持ち、その力は山すらも一撃で破壊出来るほどだった。しかし、二柱の神々はすぐに鬼神が失敗作である事に気がついた。なぜなら力を持って生まれただけの彼らには品性、知性が存在しなかったからだ。
神に肉体を創られた事に増長した鬼神達が他の魂達を傷つけ始めたのだ。その事に怒ったラーフは鬼神達の力を封じ、彼らを楽園から追放した。それ以降鬼神達は封じられた力で生き延びる為に、楽園から迷い出た魂を喰らう吸魂鬼と成り果て、大地を彷徨う様になった。
鬼神達を追放したアスルとラーフは今度こそまともな生命体を創ろうとし、自分達の力を分け与えてさらに三柱の神を創造した。それが真面目で平等なオルフェ、慈愛に満ちたフィリア、そして最後に悪戯好きなロキである。アスルとラーフは彼らと共に幸せな生活を送る事になった。しかしそれは長く続かなかった。ロキとフィリアがラーフを殺害したのだ。オルフェは後になってその事を知った。そしてアスルも。
フィリアが楽園の外をお忍びで出た時、彼女は1匹の吸魂鬼と出会い、仲良くなった。そうして彼女の両親であるアスルとラーフが何をしたのか、吸魂鬼から聞く事になった。一方の視点からの話など信ずるに値しない。オルフェが出会っていたならそう判断し、直接アスルとラーフに話を聞きに行って真実を知るだろう。だがフィリアはそうせずに、代わりにロキにその内容を話して聞かせた。
悪戯好きなロキはその話を聞いて、フィリアの恐怖心を煽った。鬼神の次に捨てられるのは自分達だと言ったのだ。そうして慈愛に満ちた彼女は生命を喪失する事への恐怖から疑心暗鬼に陥り、アスルとラーフを逆恨みする様になった。こうした誤解の末にフィリアはラーフを殺し、それをロキは笑いながら手伝った。その事を知ったアスルは激しく怒り、フィリアとロキを殺そうとした。その結果楽園は荒れ果て、天は光を失い、またしても闇の世界が訪れ、世界の秩序が乱れた。
世界の秩序を守るため、そして妹であり恋人でもあったフィリアを救うためにオルフェは怒り狂ったアスルを倒す決断をした。しかし彼らには絶対神であるアスルと戦う手段がなかった。生み出された彼らの力はアスルに届き得なかった。そこで彼らはアスルの分身体でもあり、彼から直接分かれたラーフの死体から神器を創り出した。元々はアスルと同じ肉体だったものだ。アスルにとって強力な毒になり得る三つの神器が生み出される事となった。それが神剣マタルデオス、封神鏡ラーフ・ソーブ、そして最後にもう一つ。
この争いの中でロキが命を落とすも、その力をオルフェが引き継ぎ、この三つの神器とともにアスルを打倒する事に成功した。その後、生き残った二柱の神はアスルから奪った権能を使って、新たな世界を楽園の上に創り出した。楽園は天を新たな大地に覆われて完全なる闇の世界になった。そこに生きる者は皆、神々に見放され、捨て置かれた。
しばらくして新たな命を創り出した二柱はすぐに魂が飽和状態に陥った事を知った。魂は次から次へと創り出されるのに、それを処理する場所がなかった。そこで彼らは優れた魂と穢れた魂を分け、前者を転生に利用し、後者をかつての楽園に送るシステムを生み出した。余分なものは捨てればいい。そうすれば最終的に素晴らしい世界が待っているはずだったからだ。さらに都合の良い事に、楽園には吸魂鬼と成り果てた鬼神達がいた。彼らは餌となる魂を食い尽くし、滅びの運命にあった。しかしこのシステムにより、彼らは魂を喰らい、生き続けられる様になった。
やがて楽園と呼ばれた大地は地獄という名へと変えられた。穢れた魂の終着点としてかつての楽園は使われる様になったのだ。フィリアが狂ったために世界が二分にされ、オルフェとフィリアが決別したのはそのおよそ1万年の後の事である。
アスルは一人、封じられて魂だけの存在になってからも、鏡の中で何度も思い返していた。妻であるラーフが殺害された事を。そしてそれを実行した自分と彼女の子供であるオルフェとフィリアの事を。何度も何度も何度も、繰り返し思い出していた。全ては復讐の為に。全ては愛するラーフの為に。例えその身が滅んだとしても、必ず復讐を成し遂げる。それだけが彼の生きがいとなった。
創世記はこうして終わる。だが今から始まるのは創世記の続きの物語だ。彼はまだ鏡から抜け出したばかりで酷く脆弱だ。それが力を取り戻した時、この世界がどうなるのか。そしてそんな世界で、哀れなジン君はどの様に道化を演じてくれるのか。それが楽しみだ。
なんてね。
その昔、世界は虚無だった。全ての始まりはたった一柱の神によるものだった。闇の中から生まれ落ちたその神はまず空と大地を生み出した。空には位置を少しずつ変えていく光の球が作り出され、光と時間という概念が誕生した。一方で、大地は草一本も生えない不毛の土地だった。さらに生物に必要な空気すら存在しなかった。あらゆる生物は存在すら許されない。そんな環境で神は1億年をたった一人で過ごし続けた。動く事もなく、ただそこに横たわり存在するだけの物体だった。
だがその状況は唐突に変化した。その神を覗き込んでくる存在が現れたのだ。大地を作って以降、初めて目を動かした神は混乱した。何も存在しない静謐な世界を壊す存在が現れたからだ。
2番目に現れた神は空気を作った。1番目の神と話すにはその言葉を伝えるための手段が必要だったからだ。こうして始まりの神は誕生してから一億年経ってようやく自分の口から音が出る事を知った。さらに2番目の神は言葉を生み出した。二柱は会話をする術を得て、様々な事を話した。
まず始まりの神が2番目の神に尋ねたのは、なぜ存在しているのかという事だった。この世界は彼一人の為に創り出されたものだったからだ。すると2番目の神は答えた。彼が彼女を生み出したのだと。永い永い孤独の果てに1番目の神は無意識で力を分けて彼女を創造したのだと言った。この言葉で、彼は彼女と自分に違いがある事を知った。そうして性別という概念が生まれた。さらに二柱は恋人として互いに名をつけた。原初の神はアスルと名乗るようになり、その恋人であり原初の神から生み出された女神はラーフと名乗るようになった。
それからさらに1億年の月日を過ごした。その過程で彼らは不毛な大地に生命を生み出した。そこを彼らは楽園と名づけ、そこに生まれた生命を愛でた。ただし、そこはまだ動物がまともに住めるような場所ではなかった。生命体といっても彼らに肉体という器はなく、神達の体からこぼれ落ちた力の残滓によって生み出された魂のみの存在であった。確かにそこにいるのに会話をする事も触れる事も出来ない不完全な生命体だった。
またしばらく時が過ぎ、ついに彼らはその生命体に肉体を与える事に成功した。そうして最初に誕生したのが額に角を持つ生命、鬼神と呼ばれる者達だった。種族に神の名を入れる事を許可されたように、彼らは強靭な肉体を持ち、その力は山すらも一撃で破壊出来るほどだった。しかし、二柱の神々はすぐに鬼神が失敗作である事に気がついた。なぜなら力を持って生まれただけの彼らには品性、知性が存在しなかったからだ。
神に肉体を創られた事に増長した鬼神達が他の魂達を傷つけ始めたのだ。その事に怒ったラーフは鬼神達の力を封じ、彼らを楽園から追放した。それ以降鬼神達は封じられた力で生き延びる為に、楽園から迷い出た魂を喰らう吸魂鬼と成り果て、大地を彷徨う様になった。
鬼神達を追放したアスルとラーフは今度こそまともな生命体を創ろうとし、自分達の力を分け与えてさらに三柱の神を創造した。それが真面目で平等なオルフェ、慈愛に満ちたフィリア、そして最後に悪戯好きなロキである。アスルとラーフは彼らと共に幸せな生活を送る事になった。しかしそれは長く続かなかった。ロキとフィリアがラーフを殺害したのだ。オルフェは後になってその事を知った。そしてアスルも。
フィリアが楽園の外をお忍びで出た時、彼女は1匹の吸魂鬼と出会い、仲良くなった。そうして彼女の両親であるアスルとラーフが何をしたのか、吸魂鬼から聞く事になった。一方の視点からの話など信ずるに値しない。オルフェが出会っていたならそう判断し、直接アスルとラーフに話を聞きに行って真実を知るだろう。だがフィリアはそうせずに、代わりにロキにその内容を話して聞かせた。
悪戯好きなロキはその話を聞いて、フィリアの恐怖心を煽った。鬼神の次に捨てられるのは自分達だと言ったのだ。そうして慈愛に満ちた彼女は生命を喪失する事への恐怖から疑心暗鬼に陥り、アスルとラーフを逆恨みする様になった。こうした誤解の末にフィリアはラーフを殺し、それをロキは笑いながら手伝った。その事を知ったアスルは激しく怒り、フィリアとロキを殺そうとした。その結果楽園は荒れ果て、天は光を失い、またしても闇の世界が訪れ、世界の秩序が乱れた。
世界の秩序を守るため、そして妹であり恋人でもあったフィリアを救うためにオルフェは怒り狂ったアスルを倒す決断をした。しかし彼らには絶対神であるアスルと戦う手段がなかった。生み出された彼らの力はアスルに届き得なかった。そこで彼らはアスルの分身体でもあり、彼から直接分かれたラーフの死体から神器を創り出した。元々はアスルと同じ肉体だったものだ。アスルにとって強力な毒になり得る三つの神器が生み出される事となった。それが神剣マタルデオス、封神鏡ラーフ・ソーブ、そして最後にもう一つ。
この争いの中でロキが命を落とすも、その力をオルフェが引き継ぎ、この三つの神器とともにアスルを打倒する事に成功した。その後、生き残った二柱の神はアスルから奪った権能を使って、新たな世界を楽園の上に創り出した。楽園は天を新たな大地に覆われて完全なる闇の世界になった。そこに生きる者は皆、神々に見放され、捨て置かれた。
しばらくして新たな命を創り出した二柱はすぐに魂が飽和状態に陥った事を知った。魂は次から次へと創り出されるのに、それを処理する場所がなかった。そこで彼らは優れた魂と穢れた魂を分け、前者を転生に利用し、後者をかつての楽園に送るシステムを生み出した。余分なものは捨てればいい。そうすれば最終的に素晴らしい世界が待っているはずだったからだ。さらに都合の良い事に、楽園には吸魂鬼と成り果てた鬼神達がいた。彼らは餌となる魂を食い尽くし、滅びの運命にあった。しかしこのシステムにより、彼らは魂を喰らい、生き続けられる様になった。
やがて楽園と呼ばれた大地は地獄という名へと変えられた。穢れた魂の終着点としてかつての楽園は使われる様になったのだ。フィリアが狂ったために世界が二分にされ、オルフェとフィリアが決別したのはそのおよそ1万年の後の事である。
アスルは一人、封じられて魂だけの存在になってからも、鏡の中で何度も思い返していた。妻であるラーフが殺害された事を。そしてそれを実行した自分と彼女の子供であるオルフェとフィリアの事を。何度も何度も何度も、繰り返し思い出していた。全ては復讐の為に。全ては愛するラーフの為に。例えその身が滅んだとしても、必ず復讐を成し遂げる。それだけが彼の生きがいとなった。
創世記はこうして終わる。だが今から始まるのは創世記の続きの物語だ。彼はまだ鏡から抜け出したばかりで酷く脆弱だ。それが力を取り戻した時、この世界がどうなるのか。そしてそんな世界で、哀れなジン君はどの様に道化を演じてくれるのか。それが楽しみだ。
なんてね。
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