World End

nao

文字の大きさ
上 下
249 / 273
龍の章

レヴィとカミーラ3 痛み

しおりを挟む
「あんた、最近、どこで何してんのよ?」

 後ろから声をかけられた。その声だけで誰かすぐに分かり、一瞬うんざりするが、その顔を彼女に見られればいじめられるのは分かっていた。その表情を消して、恐る恐る彼女の方に向く。案の定そこにいたのはマリツィアさんだった。

「マ、マリツィアさん」

 マリツィアさんはこの屋敷の古株だ。女の私でも綺麗だと思うほどの容姿をしている。だけどそれとは裏腹にマリツィアさんは誰よりも残酷だった。旦那様に気に入ってもらうためなら何でもするのだ。少し前にも旦那様の気に入られた子がマリツィアさんに嵌められて、怒り狂った旦那様に殺された。マリツィアさんは自分がやったとは言っていないけど、皆わかっていた。彼女に目をつけられれば命はない。だから私達はなるべく彼女を刺激したり、旦那様に気に入られすぎたりしないように注意していた。

「何? 私が聞いてるのに、何で黙ってんの?」

「え……えっと……」

 私は口ごもる。なんて言えばいいんだろう。あの人……レヴィさんを匿っている事がバレたら、きっと私は旦那様に殺される。

「もしかして、旦那様を裏切ってるの?」

 その言葉にゾッとする。その質問が意味する事は一つだ。

「ち、違います! そんな事しません!」

 慌てて否定するけど、マリツィアの目は獲物を見つけたかのようだった。

「そう? それならよかったわ」

 ニッコリと笑う彼女を見て、私は背筋が凍る思いがした。このままここにいると何をされるか分からない。ついていない事に、マリツィアさんは私を目の敵にしている。こっちは望んでいないのに、私は旦那様に気に入られているからだ。隙があれば、何をされるか分からない。

「それじゃあ、今日の夜もよろしくね」

「は、はい」

 マリツィアさんは私の返事も聞かずに踵を返すと去って行った。

「……逃げなきゃ」

 でも、どこに逃げればいいんだろう。お父様もお母様もいない。私を助けてくれる人はどこにもいない。それに、私が逃げればレヴィさんはどうなるんだろう。あの人はまだ私が側にいないとダメなのに。あの人には私が必要なんだ。あの人を助けられるのは私だけなんだ。だから、私はあの人を助けないといけないんだ。それに、私はあの人から真実をまだ聞いていない。

「レヴィさんも一緒に……」


 その晩、私は旦那様や他の人達が寝たのを確認してから、こっそりと部屋を抜け出した。バレないように物音を立てないように、何とか進む。以前逃げ出す事を想像した時に、警備の巡回のタイミングを確かめた事があった。それを思い出しながら、屋敷の中を進む。そして、日中に開けておいた窓からこっそり外に出た。

 屋敷を囲う外壁には外につながる穴があった。私はいつもそこを出て、小川に行っていた。だからいつものように私はその穴から外に出た。

「ぶふぅ、どうやらマリツィアの言う通りだったようだな」

 その声を聞いて、私は背筋が凍るような思いをした。恐る恐る顔を上げると、そこには豚のような顔のご主人様が、いやらしく笑っていた。

「ええ、私も彼女の計画を知った時は驚きましたわ。まさか大恩あるご主人様から逃げようだなんて」

「ふぅ、ふぅ、全く嘆かわしいぞ、カミーラ。あれほど愛してやったというのに」

 ご主人様から目が離せない。体が震えて、ガチガチという音が聞こえてくる。それが自分の歯が鳴らす音だと気づいた。

「あ、わ、私……」

「ぶふぅ、言い訳は聞かん。わしを傷つけた罰、受けてもらうぞ。何、心配するな。お前はわしのお気に入りだからな。殺しまではせん。殺しまではな」

「ひっ」

 声が喉の奥から漏れ出る。口の中がカラカラだ。

「たまには私にも楽しませていただけませんか?」

「ぶひひ、全くお前も悪趣味な女だ。いいだろう、一緒に楽しもうではないか。おい、連れて行け」

 ご主人様は後ろに控えていた二人の兵士に命令した。彼らを縋るように見る。だけど二人は気まずそうな顔を一瞬浮かべただけで、私を立たせると、そのまま拷問部屋に連れて行った。

「ぶふふふ、本当に残念だ。お前にこいつらを使わないといけないとはな」

 目の前にはずらりと拷問器具が並べられている。

「さてと、まずはどれからにするか。マリツィアはどれがいい?」

 楽しそうに道具を撫でながら、マリツィアさんを見る。マリツィアさんは繁々と道具を見てから一つ取り上げた。

「まずはこれからではいかがでしょうか?」

 鉄製の梨のような物を私の前に掲げてニッコリと笑った。

~~~~~~~~

 身体中が痛い。痛くて苦しくて、どうにかなりそうだった。突然体が解放される。ドサリと地面に転がる。何とか残った目で周りを見ると、ご主人様達はいびきをかいて寝ていた。何故という疑問の前に体を何とか立たせて歩き出す。屋敷内は不思議なほどに静かだった。まるで私以外起きている人はいないみたいだった。

 私は森を目指した。レヴィさんの元へ。だけど、もうどこを歩いているのか分からなかった。

~~~~~~~~

 痛みを感じなくて、目を開けると心配そうにレヴィさんが覗き込んでいた。

「レ……ヴィ……さん」

 私は彼の名前を呼ぶ。レヴィさんは私に本当に嬉しそうな笑顔を浮かべながら、私を強く抱きしめた。だけどとても優しくて、心が温かくなった。思わず涙が溢れた。

「よかった。本当によかった」

 レヴィさんが優しくそう言った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

入れ替わりノート

廣瀬純一
ファンタジー
誰かと入れ替われるノートの話

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

処理中です...