World End

nao

文字の大きさ
上 下
211 / 273
第8章:王国決戦編

定期報告

しおりを挟む
「さてと、そろそろ一旦国に連絡を入れるとするか。兵を遣すように言わなきゃいけねえしな」

 床にはシクシクと顔を両手で隠して泣くゴウテンと、それを慰めながら謝罪しながら彼の背中を摩ってするミコトがいた。

「ひ、酷いです、ミコト様。お、俺を盾にするなんて……」

「ごめんってば。後でなんでも言う事一つ聞いてあげるからさ。機嫌直してよ」

「絶対ですからね」

「あ、でもエロいのはダメだよ。一応アタシも巫女だから清純でなきゃいけないし」

 冗談半分のその言葉にゴウテンは慌てる。

「ちょっ、ミコト様!?」

 何せ彼女の後ろには鬼が控えていたからだ。

「あ? ゴウテンてめぇミコトちゃんに手ぇ出そうとしてたのか?」

「い、いえ。そんな、滅相もありません!」

「じゃあ、ミコトちゃんにはそんな魅力もねぇってのか?」

「いいえ! いつも誘惑されています!」

「ならやっぱり手ぇ出そうとしてんじゃねぇか!!」

「ひ、ひぃぃぃ!」

 伸びてくるコウランの手を必死に掻い潜って、ゴウテンは部屋から転がるように逃げ出した。

「それじゃあ、兵を呼ぶついでにゴウテンを潰してくるわ」

 どう見ても後者の目的の方が比重は大きいのだが、ジンもハンゾーもミコトもそれには一切触れず、コウランが部屋から出て行くのを見送った。

「……ミコト様。流石にゴウテンが可哀想です」

「ああ。本当に」

 ハンゾーとジンの咎めるような視線に、ミコトは一瞬気まずそうにしてから、気を取り直し、舌をぺろりと出して、

「ア、アタシ知―らない!」

と、可愛らしく言った。

 しばらくして、ボロボロになったゴウテンが戻ってきた。どうやらコウランに絞られたらしい。酷く疲れているようだった。

「お、お疲れー」

 ミコトがそう言うと、ゴウテンは僅かに恨めしそうな瞳を向けるも、すぐに肩を落として盛大な溜息を吐いた。

「じゃ、じゃあ、俺はちょっと出てくるわ」

 そんな彼を見て、気まずそうにしながらもジンは部屋を出ようとする。

「デート?」

「さあな」

 背後から投げかけてきたミコトの言葉を流すと、ジンは目的地へと向かった。

~~~~~~~~

『久しぶりだな。しばらく連絡をして来ないから死んだかと思っていたぞ』

 人も入って来ないような路地裏で、ジンは以前エデンから出る時にティファニアから譲り受けていた連絡用の黒い小さな球、『サラトの球体』を取り出していた。これは連絡手段を持たないジンに下賜されたものである。最後に使用してからかれこれ2年ほど経っていた。

「サリオンさん、ごめん。でも、最近までいた場所では何故か使えなかったんだ」

 ジンはこれまでの話をざっくりと話す。ウィルが死んだと聞かされてから『サラトの球体』を使えば、その話を聞かされると思い、それが怖くて使えなかった事。魔人と遭遇した事。カムイ・アカツキの国で訓練をした事。姉の事。法魔の事。そしてこれから起ころうとしている事。それらを報告する。

『ふむ。まあ、お前の気持ちを考えればそう思ってしまう事もわかる。だがどんなに悲しくても、こちらからはお前に呼びかけることが出来ないのだから、定期的に連絡はしてくれ。ティファニア様も随分と心配されておられたのだぞ』

 サリオンの言うことは正しかった。彼らからジンに呼びかける事は難しい。どんなタイミングになるか読めないからだ。仮に命懸けの戦いをしている時に重なれば、ジンの死ぬ確率を上げてしまう可能性がある。

「ごめん」

『……まあいい。しかしカムイ・アカツキの国か。恐らくその国に張られた結界が干渉していたのだろうな』

「かもしれないな」

『だが丁度良い時に連絡をしてくれた』

「どういう事だ?」

『4日前、神剣マタルデオスの所有者、つまり勇者が現れた』

「なんだと!?」

 思わず声が大きくなる。幸いな事に近くに誰もいないため、聞いている者はいなかった。

「……本当なのか?」

『ああ、メザル共和国に潜入中の使徒から連絡があった。確実と言って良いだろう』

「どんな奴か分かるか?」

『容姿は逆立った青い短髪に、金色の瞳。背丈は170後半センチほどで体型はスラリとしているが、適度に引き締まっているそうだ。また4人の共を連れているらしい。それから一番大事なことがある』

「なんだ?」

『人格が破綻しているということだ。神剣を手に入れてまだ4日だというのに、既に無辜の民が数十名殺害されているらしい。人を人とも思っていない屑を勇者に選ぶとはフィリアも相変わらず狂っているな』

「マジか……今どこにいるか分かるか?」

『分からない。監視に付いていた者から1日おきに受けていた連絡が突然無くなったのだ。恐らくその者に殺されたのだろう。今他の者が調査をしているが、どうやらその男はまだ生きているようだ』

「使徒が簡単に殺されたって言うのか」

『ああ、元々勇者は四魔を打倒し、エデンに侵略する為に創られた存在だからな。圧倒的な力を持っていると考えていい。それこそ四魔と同等か、それ以上のな』

「……そうか」

『気をつけろよ。もし出会ったら、逃げる事も考慮に入れておけ』

「分かっている。無理はしないさ。多分ね」

『……その言葉を忘れるなよ。お前はいつも無理しすぎるからなぶぎゃっ!』

「サ、サリオンさん!?」

『もう! サリオンったら、ジン君から連絡が来たのになんで私を呼ばないのかしら。あっ、ジン君。久しぶりね!』

 向こうから聞き覚えのある声が聞こえてくる。僅かに舌足らずで、幼い少女のような声だ。すぐに誰か分かり、ジンは思わず微笑む。

「ええ、お久しぶりです。ティファニア様」

『もう! 固いわよ、ティファで良いって言ってるでしょ!』

 頭の中でプリプリと怒っているティファニアの顔が浮かぶ。

「そうでした。ティファ様はお元気でしたか?」

『ええ。そっちはどう?』

「俺もです」

 それからしばらくの間、ジンはティファニアと談笑を続け、気がつけば日が落ちていた。

「それじゃあ、そろそろ切ります」

『分かったわ。サリオンからも聞いているだろうけど、勇者には本当に気をつけてね。かなりの曲者らしいから』

「はい。ありがとうございます」

『バイバイ』

 ティファニアがそう言うと『サラトの球体』は徐々に光を失っていき、やがて元の黒い球に戻った。

「狂った勇者……か」

 ジンはボソリと呟いた。

~~~~~~~~

「なるほど、勇者が現れたのか」

 宿に戻ったジンは、先程サリオンから聞いた話をコウラン達にも話した。部屋の中にはコウランとハンゾーしかおらず、ミコトとゴウテンは外に食事に行ったらしい。案の定、話を聞いたコウランとハンゾーは難しい顔を浮かべた。

「陛下、これは強引にでも鎧を盗んだ方がいいのでは?」

「そうしたいのは山々だが、隠し場所もわからねぇし、どんな罠を宝物庫に仕掛けているかも分からねぇ。その勇者達がこの国を目指しているかも分からない段階なら、こちらから手を出すのはあまり得策とは言えねぇな」

「しかし、ジン様が得た情報だと人格が破綻しているそうではないですか。失敗して、相手に鎧が渡った場合、さらに手をつけられなくなるのでは?」

「そうなんだよなぁ。どうするか……」

 2人は頭を悩ますが答えは出なかった。

「じゃあ、俺、また外出るから」

「ええ、行ってらっしゃいませ」

「おう」

 ジンは2人に見送られて、部屋を出て、宿屋からシオンと約束したレストランへと向かった。

「……それで、シオンと言ったか? どういう子なんだ?」

「可愛らしい子ですよ。それに、互いに深く思い合っています」

「へぇ、そういえばアカツキの血が混じっているんだったか?」

「ええ、アカリ様の付き人だったツクヨを覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、ツクヨさんか。覚えているよ」

 コウランは姉のアカリの一つ上で、コウランの事も可愛がってくれた女性の顔を思い出す。彼にとってもう1人の姉のような人だった。

「あの者の娘が彼女だそうです」

「へぇ、ツクヨさんのねぇ。確かに面影があったな。しっかし世界は狭いな」

「全くもって、その通りですな」

 まるで何もかもが運命に仕組まれているかのようだった。

「まあ、今度ジンにはしっかり話を聞くとして、今は勇者について考えないとな」

「そうですね。いかがいたしましょうか」

「……とりあえず、所在地だけでも確認してぇ。メザルに潜伏しているトウマに連絡して情報を集めさせろ」

「了解いたしました」

「任せた。そんじゃあ俺は一旦国に戻る」

「はっ!」

 そうしてコウランはハンゾーに命令を下すと、首にかけていた『転移の勾玉』を服の下から取り出し、一瞬にして消えた。この勾玉は一度行ったことのある場所なら何処へでも3箇所まで行くことが出来る物であり、アカツキの秘宝の一つである。誰が造ったかは不明だが、普段は宝物庫に保管されている。

「さてと、わしも何か食べに行くか」

 部屋の中に1人取り残されたハンゾーはそう呟くと、部屋から出て階下の食堂に向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...