World End

nao

文字の大きさ
上 下
206 / 273
第8章:王国決戦編

再会記念パーティー

しおりを挟む
「それで……俺らに何か言うことあるんじゃねえか?」

 ジンを立たせながらも、ルースはジロリと睨む。

「……悪かったよ。なにも言わずにいなくなって」

 すぐに何の事か思い至ったジンは素直に彼らに頭を下げる。

「それで、どうしていなくなったの? 私たちに秘密でさ」

 そう尋ねてくるマルシェにジンは顔を向ける。

「あの時、俺がいれば皆を巻き込むと思ったんだ。だから逃げた。大事な人達を俺のせいで失うのはもう耐えられなかったから」

「……あの時に来た奴の目的はやっぱりあんただったわけ? 知り合いっぽかったからそうじゃないかと思ってはいたけどさ」

「ああ、アルトワールの言う通りだ。あいつは……レヴィは俺の育ての親の息子で……そんで龍魔の魂をその身に宿している男だ」

「龍魔の魂? つまりあいつは龍魔そのものってわけじゃないの?」

 ジンの言葉に疑問を持ったアルトワールがさらに尋ねる。

「それは……」

「ああもう、面倒臭え話は後だ後! 今は再会を祝して飯でも食いに行こうぜ! まさか食えないとか言わないよな?」

 先ほどまでシオンの家で食事をしていた為、正直満腹だったのだが有無を言わせないようなルースの様子に仕方無くジンは頷いた。

「よし! じゃあ、あたしのお勧めの店を紹介してしんぜよう! 付いて来て!」

 どんどんと先頭に立ったマルシェが歩き出したので、ジン達は彼女の後について店に向かった。

~~~~~~~

「も、もう、食えねえ……」

 ズボンのベルトまで緩めてもキツイほどにどんどん食べさせられて、ジンは正直今にも吐き出しそうな状態だった。初めの内は料理に舌鼓を打っていたのだが、途中からルース達に無理矢理口の中に料理や酒を突っ込まれるようになったのだ。

「なに言ってんだよ。これは再会記念だぜ? その主役が料理を残してどうすんだよ」

「そうそう。せっかく安くて美味しいお店に連れてきたんだから、最後までしっかりと味わって食べてよね」

「……まあ、頑張れ」

「うっぷ……」

 ジンは何かを言おうとするが、口を開けば今にも食べた物を戻しそうになる為、口を開ける事すら出来ない。だが丁度その時、彼の横を救世主が通り過ぎようとした。

「あれ? ジンじゃん。こんなところでなにしてるの?」

 ゴウテンを引き連れたミコトが意気揚々と店に入ってきたのだ。

「……ミ、ミコ……うぷっ」

「随分顔色悪いけど、大丈夫?」

「あのぉ、ジン君の知り合いですか?」

「え? あ、うん。ジンの従妹のミコトです。で、こっちは一応あたしの許嫁のゴウテン」

「許嫁のゴウテンです」

 許嫁と紹介されて嬉しそうな顔を浮かべるゴウテンを無視して、ミコトがマルシェに尋ねる。

「それで、ジンが何かしたんですか?」

~~~~~~~~

「なるほど、確かにそれはこいつが悪いですね」

「ああ、全く」

 ルース達3人の話を聞いて頷き、ジンを非難するミコト達は御相伴に与り、頼まれていた料理を次から次へと消化していった。

「辛いと逃げるなんて、男として最低ですよね。しかもあんなに可愛い女の子を泣かせるなんて」

 口の中に揚げた鳥を放り込みながら、ミコトが不満を漏らす。不思議な事に料理がどんどん消えていくのに、その食べ方は妙に上品だった。彼女の食事の勢いに圧倒されつつも、マルシェが尋ねる。

「可愛い女の子って、シオン君の事知っているの?」

「うん? 知っているも何も今一緒に旅をしている最中だよ?」

「そうなの!? え、何で何で?」

「えっと、何でかって言うと……」

「ミコト!」

「あ……ごめん。理由は言えない感じなんだよね。旅は道連れ世は情けっていうか、まあ偶然というか」

 ゴウテンが短く注意をしたので、ミコトは言葉を引っ込めた。

「ふーん。ねえねえ、旅の途中はジン君とシオン君、どんな感じだった?」

「どんな感じ?」

 テーブルにマルシェは身を乗り出して尋ねる。ルースはダウンしているジンの背中をさすり、アルトワールはいつの間にか本を取り出して読んでいたが、しっかりとどちらも聞き耳を立てている。

「うん、いちゃいちゃしてた?」

「ああ、うん。ちょいちょい旅の最中もこっそりと手を繋いだりとか、陰でキスしたりとか、夜に2人でいなくなってしばらく帰って来なかったりとか、明け方まで話し込んだりとか、まあ色々してたよ。こっちが気付いている事に気がついていない感じだったから、正直気不味かったけどね、ね?」

「ああ、うらやま……確かにこっちがうんざりするような仲の良さだったよ」

「きゃあ! そんなシオン君、見たかったなぁ! あ、そうだ。シオン君とはいつから一緒に旅をしているの? 2人はいつから付き合い出したの? 馴れ初めとかって知ってる?」

「旅を始めたのと付き合い出したのは2ヶ月近く前ぐらいからかな。馴れ初めねぇ。一応知ってはいるんだけど、言っていいのかなぁ」

「いいじゃんいいじゃん。言っちゃえ言っちゃえ!」

「お、おい、マルシェ」

「まあ、別にジンも何も言って来ないし、いいよね! えっとね……」

「ミ、ミコト。さすがにそれは……」

 ジンは食べ過ぎたのと、ワインをしこたま飲まされたのとで、既に軽くいびきをかいて寝ていた。一応ルースがマルシェに声をかけるも当然のことながら彼女は無視する。ゴウテンもさすがに哀れに思ったのか、ミコトを止めようと声をかけるが、そんな言葉を素直に聞く彼女では無い。

 そうして、いつの間にかマルシェとすっかり仲良くなったミコトは、話せる部分だけ洗いざらい話し、それをきゃあきゃあと騒ぎながらマルシェが、本に視線を落としながらもページをめくる手を完全に止めているアルトワールが、深く眠っているジンを可哀想な目で見つめながらルースとゴウテンがしっかりと最後まで聞き続けた。

~~~~~~~~

「うわぁ、いいなぁ。すごい運命的で、ロマンチックで。憧れちゃうなぁ。ね、アルるん?」

「……別に」

 少し想像したのか本から覗かせる耳を軽く赤らめながらそう答える。だがマルシェはアルトワールが定期的に恋愛小説を、それもベタベタなロマンス小説を読んでいる事を知っていた。そんな彼女が劇的な恋愛話に関心が無い訳がないので、少し満足気な笑みを浮かべる。その様子に気づいて、アルトワールはいっそう顔を赤くしながら軽く舌打ちをして、そっぽを向いた。

「他には他には?」

 マルシェはさらに話を聞こうとミコトに顔を近づける。

「もう、もう止めてやってくれ。これ以上聞いてやらないでやってくれ」

「ああ、ミコトもそれ以上は話してやるな」

 ルースとゴウテンはあまりにもジンが可哀想で、顔を手で覆っていた。

「えぇ、もっと聞きたいよぉ」

「そうそう、もっと話したいよぉ」

「もう、いい加減にしてやってくれよ!」

「アルも2人を止めてやれよ!」

「……別に」

 しかしルースとゴウテンの願いも虚しく、ジンとシオンの知る事なく、事細かに旅の間にあった出来事をミコトはマルシェとアルトワールに話し続けた。

~~~~~~~~

「いやぁ、いろんな話をしてくれてありがとう! すっごく楽しかった!」

 店から出ると、ほくほく顔のマルシェがミコトに話しかけた。

「いえいえ、こっちも誰かに話したかったから丁度よかったわぁ」

「ああ、そっか。さすがにシオン君とジン君の話を2人には出来ないし、旅の面子には他に女の子がいないんだっけ」

「うん、そうなの。だから2人の初々しい話を誰かに話したくて話したくて。今日はマルシェさん達に会えてよかった」

「マルシェさんなんて堅苦しいから、マルシェでいいよぉ」

「本当? じゃあ、あたしのこともミコトって呼んでね。アルトワールさんも、アルトワールって呼んでもいいかな?」

「ええ、それで……」

「あ、この子はアルるんって呼んであげてね」

「分かった。よろしく、アルるん!」

「……よろしく」

 楽しくおしゃべりを続けるマルシェ達の横で、ゴウテンにルースが話しかける。

「おい、ゴウテン」

「何だ?」

「ジンのフォローを頼んだ」

「……ああ。そっちもマルシェとやらのコントロールを頼んだぞ」 

「……おう。必ず、出来れば、多分、頑張るよ」

「……お互い、惚れた女があんなんだと苦労するな」

「……分かるか。でもよぉ、そんなこと言うなよな。心が折れそうになるわ」

「全くだ。ははは!」

「あはは!」

 2人は笑い合うも、その声が途切れる。

「「……はぁ」」

 眠りこけているジンに肩を貸しながら、ルースとゴウテンはお互いにため息をついた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

傾国の悪女、リーゼロッテの選択

千 遊雲
ファンタジー
傾国の悪女、リーゼロッテ・ダントは美しすぎた。 第一王子を魅了して、国の王位争いに混乱をもたらしてしまうほどに。 悪女として捕まったリーゼロッテだが、彼女は最後まで反省の一つもしなかった。 リーゼロッテが口にしたのは、ただの一言。「これが私の選択ですから」と、それだけだった。 彼女は美しすぎる顔で、最後まで満足げに笑っていた。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

処理中です...