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第8章:王国決戦編
お茶の時間
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ジンとシオンはオリジンの街を歩き回っていた。ミコトとゴウテンは初めて見る街並みを興味深く眺めており、いかにもお上りさんといった様子で、あれこれ動き回っていた為、いつの間にか逸れていた。ハンゾーはそんな彼らを探すと言って、空気を読んでくれたらしく、ジンとシオンを二人きりにしてくれたのだ。そんなこんなで、ジンは周囲を見ながら2年前の記憶と擦り合わせていた。
「2年だとあまり変わった事はなさそうだな」
「そうだね。あ、でも以前行ったカフェの2号店が出来たんだけど、そっちにパティシエが行っているのか、少しレベルが落ちてるんだ」
「ああ、あそこか」
初めてテレサ達と会った時に連れて行ってもらった店を思い出す。正直ジンの舌は小さい頃に姉が最大限努力して調理したものを食べていたとはいえ、それでも限界があったので、貧乏舌だった。もちろん辛いや酸っぱいなど、極端なものを理解できるのでマリアの赤い料理を食べる事は出来なかったのだが。
「……今度行ってみない?」
「ああ」
「……ねえ今の話聞いてた?」
「え、あ、ああ、もちろん」
「嘘! じゃあ僕がなんて言ったか覚えている?」
そうは言われても、先程まで回顧していたジンだ。わかるはずがなかった。
「えっと、カフェの話だよな?」
それを聞いてシオンは怒った。
「やっぱり全然聞いてなかったじゃないか!」
「わ、悪かったって。そんなにかりかりするなよ」
「かりかりなんてしてないよ!」
シオンが余計に怒った為、ジンはなんとか彼女を宥め続けた。
~~~~~~~~
「はぁ、もういいよ。あのな、学校に一度行ってみないかって言ったんだ」
ようやく落ち着いたシオンがため息まじりで提案してきた事にジンは顔をしかめる。シオンとは偶然出会ってしまった為、結果的には彼にとってそれはとても喜ばしい再会となったのだが、本来彼は彼女にも友人達にも会うつもりは無かった。会いたい気持ちはあるが、彼らがジンにとっての弱みだと思われたら、確実に彼らは相手に狙われるからだ。
「いや、できればあまり会いたくないな」
「……やっぱり巻き込みたく無いから?」
「ああ」
「……そっか」
シオンはジンの言葉に少し寂しそうに答えた。拒否したジンの顔が少し辛そうに見えたからだ。思いを断ち切って学校から去った彼に、酷な提案をしてしまった事に気がついて、少し後悔をしていた。
「まあ、取り敢えずどこかでゆっくりしたいな。いい店知ってるか?」
「も、もちろん! この辺りだと、あそこかな」
頭の中で様々な情報を整理する。テレサやマルシェに連れられてこの街中を歩き回ったので、ある程度の情報は仕入れていた。
「付いてきて」
そう言って歩き出す彼女に、ジンは恐る恐る手を伸ばし、その手に触れた。意図を理解した彼女は少し照れながら手を握った。
「え、えへへ」
照れた笑いを浮かべる彼女に少し顔を背けながら、ジンは彼女の手を、指を絡めてしっかりと握った。いつもは凛とした表情を浮かべる彼女がそれを崩している事に、少し笑みを溢した。
~~~~~~~~
「あああああ、疲れたああああああ!」
カフェの席でぐったりとしているマルシェを無視して、アルトワールがパラリと本のページをめくった。
「疲れた疲れた疲れた疲れたああああああ!」
それでも彼女がマルシェを無視していると、さらに騒ぎ出した。アルトワールは仕方なくパタンと読んでいた本を閉じた。
「はぁ、何? 何かあったの?」
酷く興味無さそうに尋ねるが、マルシェはようやくアルトワールが質問してくれた事に笑顔を浮かべた。
「あのね、最近救護院に騎士含めて患者が大量に来るの。しかも大怪我して。魔獣とか、魔物とかの被害によるものだって分かっているんだけどさあ。それでも限度ってものがあるでしょ。こんな事なら救護の授業なんて選択するんじゃなかったぁ」
マルシェ達3年は自分達の進路を考慮して授業を選択できる。その為、将来は救護院に勤めようと考えていた彼女は迷わずその授業を取ったのだ。しかしその授業は課外活動と称して、僅かばかりの賃金で過酷な労働させるというものだった。
「先輩達皆、良い授業だったから取った方がいいって言ってたのにぃ」
彼女に嘘の情報を教えた先輩達に恨みのこもった声でブツブツと不満を言う。
「見事に騙されたみたいね」
「うう……」
「他に何かある? 無いなら本を読みたいんだけど」
「うわーん、アルるんが冷たいよぉ」
わざわざ泣いた振りをしながら、チラチラと目の前にあるケーキを見るマルシェの意図をアルトワールは察した。
「はあ、分かったよ。何が良いの?」
「ええ!? そんな、悪いよ」
態度を態とらしく切り替えた彼女に若干イラつくも、アルトワールはそれを表に出さない。それを見せればマルシェが余計に喜ぶのをこの2年と少しで彼女はよく学んでいたのだ。
「茶番はいいから、早くして」
「うーん、アルるんがそこまで言うなら、そうだなぁ」
そんな事を言いながら、マルシェはウェイターを呼ぶと、店で一番高いパフェを頼んだ。
「はあ!? ちょっと、何そんな高いの頼んでんのよ!」
「ふふふ、私の話を無視していた罰です」
「……はあ、あの本を買おうと思っていたのに」
彼女は自分の手持ちと今後購入する本の値段を比べて、ため息を吐いた。
「あの本って、あの暗いやつ? 禁忌のなんとかっていう」
「ええ、『禁忌の研究全書』ね。絶版になったから、あんたの所で仕入れてもらって、取り置きをお願いしてたやつ。読みたかったのになぁ」
珍しく不満気な様子を隠さない彼女にマルシェが笑う。商人の娘である彼女は友人とはいえ、金銭面にはシビアであるべきだ。だが、どうもアルトワールには弱くなってしまうのは、恐らく彼女のこういうギャップのせいなのだろうとマルシェは思う。
「仕方ないなぁ。少し安く売ってあげようか?」
それでも当然ながら、あくまでも安くするだけで、あげる事は出来ない。しかし、その言葉でパッとアルトワールの顔が輝いた。
「本当に!? やった!」
余程読みたかったらしく、アルトワールは大喜びをした。普段は見せない満面の笑みまで浮かべている。
「でも、なんでそんな本を読みたいの? なんか暗そうじゃない」
「大した理由は特に無いんだけどね。今の魔獣や魔物が増えている感じが、なんか意図的な感じがしてね。それで、かなり昔だけど魔物に関する理論を唱えた人がいたらしいのよ。その本なら何か書いてないかと思って」
「ふーん、でも確かにここ1ヶ月で一気に増えたよね。魔獣や魔物の被害」
「ええ、異常な程にね」
「もしかして、誰かが魔物を作ってるとか?」
「分からない。でもその可能性はあるかもしれない」
「まあ、その辺りはシオンくんが調べているはずだよね」
「……ねえ、話は変わるし今更なんだけど、なんでシオンのことはあだ名で呼ばないの? あんた適当に人の名前呼ぶじゃない」
「えー、本当に今更だね。いいでしょう、話してあげましょう。これにはね、海より深い事情があるんですよ」
「へぇ。どんな?」
「あれは8歳ぐらいかなぁ。あたし、親の仕事に付いて行って何度かあの子の家に行ったんだけど、シオンくんがいつも男の子の格好してたんだよね。それですっかり男の子だと思い込んでたんだ。もう、中等部でスカートを履いていた彼女を見た時、思わず何度も見ちゃったよ。なんで男の子が女の子の制服を着ているのかってね。でももうずっとシオンくんて言ってたから今更変えられなくて、という訳ですよ」
「浅っ!」
単なる勘違いから来ていた事に思わずアルトワールは驚く。
「浅くないよ。こっちだって凄く驚いたんだから。初恋だったのに、まさか女の子だったなんて」
「ええええ!?」
次いで来たマルシェの爆弾発言にアルトワールは目を丸くした。
「は、初恋? 初恋ってあの?」
「うん、そうそう。あの頃のシオンくんって女の子に優しいし、イケメンだし、運動も出来たしで、格好良かったんだよ。いやー、あたしじゃなくても惚れてたね、あれは」
「はぁ、ここ最近で一番驚いたわ」
「いやぁ、照れるね」
恥ずかしそうに、頭をポリポリと掻いてから、マルシェはふと店の外を見た。
「あれ、シオンくんだ。誰かと歩いてる」
街中でも目立つ銀色のポニーテイルが揺れていた。
「え、嘘、あれ手、つないでない?」
「はあ、まさか、あの子がそんな事するわけないでしょ。あんなにあいつに未練タラタラなのに。と言っても、まさかあのクソ男とでは流石に無いでしょうけど」
アルトワールの頭にディアスの顔が過ぎる。ただの貴族の三男坊が偶然のおかげで跡取りになったくせに、何を勘違いしているのか、シオンの婚約者にもなったのだ。顔以外、性格もまともでない男が大切な友人であるシオンと結婚しようとしているというのは、流石に友人として許せなかった。何よりも、2年前からの彼女の苦しみを知り、自身も深く後悔していたからこそ、表には出さないがアルトワールはシオンに幸せになって欲しいと思っていた。
「うわ、シオンくん、めっちゃ笑顔だ」
「どうせ父親とじゃないの? あの子結構ファザコンだし」
そう言って、マルシェの指差している方に目を向けてみると、アルトワールは持っていた本を落とした。
「あ、あれ、ジンじゃない?」
「え、あ、本当だ!」
2年ぶりに見た友人がシオンと手を繋いで幸せそうにしている事に、2人は唖然とした。
「ととと、取り敢えずルースに知らせなきゃ!」
「え、ええ、そうね」
「アルるん、2人を見張ってて。あたしがあいつを呼ぶから!」
そう言うが早いか、マルシェは水法術で『水鏡』を作り出した。
「2年だとあまり変わった事はなさそうだな」
「そうだね。あ、でも以前行ったカフェの2号店が出来たんだけど、そっちにパティシエが行っているのか、少しレベルが落ちてるんだ」
「ああ、あそこか」
初めてテレサ達と会った時に連れて行ってもらった店を思い出す。正直ジンの舌は小さい頃に姉が最大限努力して調理したものを食べていたとはいえ、それでも限界があったので、貧乏舌だった。もちろん辛いや酸っぱいなど、極端なものを理解できるのでマリアの赤い料理を食べる事は出来なかったのだが。
「……今度行ってみない?」
「ああ」
「……ねえ今の話聞いてた?」
「え、あ、ああ、もちろん」
「嘘! じゃあ僕がなんて言ったか覚えている?」
そうは言われても、先程まで回顧していたジンだ。わかるはずがなかった。
「えっと、カフェの話だよな?」
それを聞いてシオンは怒った。
「やっぱり全然聞いてなかったじゃないか!」
「わ、悪かったって。そんなにかりかりするなよ」
「かりかりなんてしてないよ!」
シオンが余計に怒った為、ジンはなんとか彼女を宥め続けた。
~~~~~~~~
「はぁ、もういいよ。あのな、学校に一度行ってみないかって言ったんだ」
ようやく落ち着いたシオンがため息まじりで提案してきた事にジンは顔をしかめる。シオンとは偶然出会ってしまった為、結果的には彼にとってそれはとても喜ばしい再会となったのだが、本来彼は彼女にも友人達にも会うつもりは無かった。会いたい気持ちはあるが、彼らがジンにとっての弱みだと思われたら、確実に彼らは相手に狙われるからだ。
「いや、できればあまり会いたくないな」
「……やっぱり巻き込みたく無いから?」
「ああ」
「……そっか」
シオンはジンの言葉に少し寂しそうに答えた。拒否したジンの顔が少し辛そうに見えたからだ。思いを断ち切って学校から去った彼に、酷な提案をしてしまった事に気がついて、少し後悔をしていた。
「まあ、取り敢えずどこかでゆっくりしたいな。いい店知ってるか?」
「も、もちろん! この辺りだと、あそこかな」
頭の中で様々な情報を整理する。テレサやマルシェに連れられてこの街中を歩き回ったので、ある程度の情報は仕入れていた。
「付いてきて」
そう言って歩き出す彼女に、ジンは恐る恐る手を伸ばし、その手に触れた。意図を理解した彼女は少し照れながら手を握った。
「え、えへへ」
照れた笑いを浮かべる彼女に少し顔を背けながら、ジンは彼女の手を、指を絡めてしっかりと握った。いつもは凛とした表情を浮かべる彼女がそれを崩している事に、少し笑みを溢した。
~~~~~~~~
「あああああ、疲れたああああああ!」
カフェの席でぐったりとしているマルシェを無視して、アルトワールがパラリと本のページをめくった。
「疲れた疲れた疲れた疲れたああああああ!」
それでも彼女がマルシェを無視していると、さらに騒ぎ出した。アルトワールは仕方なくパタンと読んでいた本を閉じた。
「はぁ、何? 何かあったの?」
酷く興味無さそうに尋ねるが、マルシェはようやくアルトワールが質問してくれた事に笑顔を浮かべた。
「あのね、最近救護院に騎士含めて患者が大量に来るの。しかも大怪我して。魔獣とか、魔物とかの被害によるものだって分かっているんだけどさあ。それでも限度ってものがあるでしょ。こんな事なら救護の授業なんて選択するんじゃなかったぁ」
マルシェ達3年は自分達の進路を考慮して授業を選択できる。その為、将来は救護院に勤めようと考えていた彼女は迷わずその授業を取ったのだ。しかしその授業は課外活動と称して、僅かばかりの賃金で過酷な労働させるというものだった。
「先輩達皆、良い授業だったから取った方がいいって言ってたのにぃ」
彼女に嘘の情報を教えた先輩達に恨みのこもった声でブツブツと不満を言う。
「見事に騙されたみたいね」
「うう……」
「他に何かある? 無いなら本を読みたいんだけど」
「うわーん、アルるんが冷たいよぉ」
わざわざ泣いた振りをしながら、チラチラと目の前にあるケーキを見るマルシェの意図をアルトワールは察した。
「はあ、分かったよ。何が良いの?」
「ええ!? そんな、悪いよ」
態度を態とらしく切り替えた彼女に若干イラつくも、アルトワールはそれを表に出さない。それを見せればマルシェが余計に喜ぶのをこの2年と少しで彼女はよく学んでいたのだ。
「茶番はいいから、早くして」
「うーん、アルるんがそこまで言うなら、そうだなぁ」
そんな事を言いながら、マルシェはウェイターを呼ぶと、店で一番高いパフェを頼んだ。
「はあ!? ちょっと、何そんな高いの頼んでんのよ!」
「ふふふ、私の話を無視していた罰です」
「……はあ、あの本を買おうと思っていたのに」
彼女は自分の手持ちと今後購入する本の値段を比べて、ため息を吐いた。
「あの本って、あの暗いやつ? 禁忌のなんとかっていう」
「ええ、『禁忌の研究全書』ね。絶版になったから、あんたの所で仕入れてもらって、取り置きをお願いしてたやつ。読みたかったのになぁ」
珍しく不満気な様子を隠さない彼女にマルシェが笑う。商人の娘である彼女は友人とはいえ、金銭面にはシビアであるべきだ。だが、どうもアルトワールには弱くなってしまうのは、恐らく彼女のこういうギャップのせいなのだろうとマルシェは思う。
「仕方ないなぁ。少し安く売ってあげようか?」
それでも当然ながら、あくまでも安くするだけで、あげる事は出来ない。しかし、その言葉でパッとアルトワールの顔が輝いた。
「本当に!? やった!」
余程読みたかったらしく、アルトワールは大喜びをした。普段は見せない満面の笑みまで浮かべている。
「でも、なんでそんな本を読みたいの? なんか暗そうじゃない」
「大した理由は特に無いんだけどね。今の魔獣や魔物が増えている感じが、なんか意図的な感じがしてね。それで、かなり昔だけど魔物に関する理論を唱えた人がいたらしいのよ。その本なら何か書いてないかと思って」
「ふーん、でも確かにここ1ヶ月で一気に増えたよね。魔獣や魔物の被害」
「ええ、異常な程にね」
「もしかして、誰かが魔物を作ってるとか?」
「分からない。でもその可能性はあるかもしれない」
「まあ、その辺りはシオンくんが調べているはずだよね」
「……ねえ、話は変わるし今更なんだけど、なんでシオンのことはあだ名で呼ばないの? あんた適当に人の名前呼ぶじゃない」
「えー、本当に今更だね。いいでしょう、話してあげましょう。これにはね、海より深い事情があるんですよ」
「へぇ。どんな?」
「あれは8歳ぐらいかなぁ。あたし、親の仕事に付いて行って何度かあの子の家に行ったんだけど、シオンくんがいつも男の子の格好してたんだよね。それですっかり男の子だと思い込んでたんだ。もう、中等部でスカートを履いていた彼女を見た時、思わず何度も見ちゃったよ。なんで男の子が女の子の制服を着ているのかってね。でももうずっとシオンくんて言ってたから今更変えられなくて、という訳ですよ」
「浅っ!」
単なる勘違いから来ていた事に思わずアルトワールは驚く。
「浅くないよ。こっちだって凄く驚いたんだから。初恋だったのに、まさか女の子だったなんて」
「ええええ!?」
次いで来たマルシェの爆弾発言にアルトワールは目を丸くした。
「は、初恋? 初恋ってあの?」
「うん、そうそう。あの頃のシオンくんって女の子に優しいし、イケメンだし、運動も出来たしで、格好良かったんだよ。いやー、あたしじゃなくても惚れてたね、あれは」
「はぁ、ここ最近で一番驚いたわ」
「いやぁ、照れるね」
恥ずかしそうに、頭をポリポリと掻いてから、マルシェはふと店の外を見た。
「あれ、シオンくんだ。誰かと歩いてる」
街中でも目立つ銀色のポニーテイルが揺れていた。
「え、嘘、あれ手、つないでない?」
「はあ、まさか、あの子がそんな事するわけないでしょ。あんなにあいつに未練タラタラなのに。と言っても、まさかあのクソ男とでは流石に無いでしょうけど」
アルトワールの頭にディアスの顔が過ぎる。ただの貴族の三男坊が偶然のおかげで跡取りになったくせに、何を勘違いしているのか、シオンの婚約者にもなったのだ。顔以外、性格もまともでない男が大切な友人であるシオンと結婚しようとしているというのは、流石に友人として許せなかった。何よりも、2年前からの彼女の苦しみを知り、自身も深く後悔していたからこそ、表には出さないがアルトワールはシオンに幸せになって欲しいと思っていた。
「うわ、シオンくん、めっちゃ笑顔だ」
「どうせ父親とじゃないの? あの子結構ファザコンだし」
そう言って、マルシェの指差している方に目を向けてみると、アルトワールは持っていた本を落とした。
「あ、あれ、ジンじゃない?」
「え、あ、本当だ!」
2年ぶりに見た友人がシオンと手を繋いで幸せそうにしている事に、2人は唖然とした。
「ととと、取り敢えずルースに知らせなきゃ!」
「え、ええ、そうね」
「アルるん、2人を見張ってて。あたしがあいつを呼ぶから!」
そう言うが早いか、マルシェは水法術で『水鏡』を作り出した。
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