World End

nao

文字の大きさ
上 下
197 / 273
第7章:再会編

激闘

しおりを挟む
 ジンの全身に竜の紋様が現れる。それと同時に、彼は肉体を強化していく。

【それは……なるほど、あやつめ、なんの為に来たのかと思ったら、この為に来たのか】

 レトは瞬時にその姿が誰の仕業なのかを理解した。

【まあ、良い。さあ、命を賭してかかってこい】

「言われなくても!」

 ジンは腰に差していた一対の短剣を引き抜くと駆け出す。ウィリアムとアレキウスが補助に回ろうと動き出そうとして立ち止まる。

「これ、邪魔しない方がいいっすね」

「ああ、みたいだな。動きを見極めて加勢するしかねえ」

 あまりの速さに余計な介入をすればジンを妨害する事になるのをすぐに悟ったのだ。何しろ、アレキウスは片腕を折り、ウィリアムも法術を多用したことにより、疲労が蓄積している。満身創痍な2人にはジンとレトの戦いに割って入れるほどの余力が残っていない。

「はあああああああ!」

 ジンが飛んできた豪炎を足を止めずにかがみ込んで回避すると、そのまま斬りかかる。しかし彼の下から突如岩の壁が物凄い勢いで盛り上がり、それが腹に直撃し、宙に高く浮かぶ。

「ぐふっ!?」

【ほら、よけろ】

 浮かんだ彼に向かって風の刃が飛んでくる。

「ちっ!」

 ジンは空中で器用に体を捻って、ギリギリのところで回避する。

【ほう、躱したか。ならばどんどんいくぞ】

「くそが!」

 着地までの数秒が長く感じるほど、次から次へと、縦横斜めの風の斬撃が襲いかかってくる。しかしジンは空中で体を動かし続け、なんとか全て回避し、着地する。そして着地した瞬間に爆発したかのような跡を残して、地面を思いっきり蹴ると、今度こそレトに斬りかかった。

「はあああああああ!」

 斜め下から上へ交差するように両手に持つ短剣を振る。僅かに体に刃先が触れた事をジンが感じた瞬間に、違和感を覚え、咄嗟に剣を手放した。

【やるではないか。この体に傷をつけられるかと思ったぞ】

 ジンの目の前には、いつの間にか青い『炎鎧』を発動させたレトがいた。凄まじい熱気が周囲を覆い、息をすれば肺が燃えるほどだ。短剣はその炎に巻き込まれ、熱された鋼の様にドロドロに溶けていった。

~~~~~~~~~~~

「アレクさん!」

ウィリアムが叫ぶと、アレキウスはすぐさまその意図を理解し、彼に近寄る。それを確認すると、ウィリアムは力を振り絞って、水の球体を作り上げ、2人を包む。だが球体は作ったそばからどんどん蒸発していった。

「しまった!」

ウィリアムがジンの事を思い出し、思わず叫ぶ。だがアレキウスはそんな彼に向かって首を振った。

「安心しろ。どうやら大丈夫みてえだ」

「え?」

 ウィリアムが水蒸気の向こうの光景を見る。うっすらとだが2つの人影が向かい合っているのが見えた。

~~~~~~~~~~~~

「その剣、けっこう高価なやつなんだけど」

 ジンの短剣はアカツキの名工が作製し、献上した国宝である。魔核は魔物ではなく、魔人の物が使われており、剣に込められた術も、その威力もかつてジンが持っていた、初めて倒した魔物から作り上げた短剣よりも遥かに上だった。だがそれも目の前の規格外の化物からすると大した物では無かったという事だ。

【そうか。それは悪い事をした】

「まあ、いいさ。武器なら他にもある」

 ジンは空中に分厚い氷で出来た剣を空間を覆い尽くす様に無数に作り出す。

「行け!」

 彼の声とともに、無数の氷剣がレトに向かって動き出す。だが近づけば近づくほどに、氷は溶けていき、彼女に到達する前に水蒸気となって消え去っていった。

【空間を埋め尽くす氷の剣か。良いアイディアだが、そんなものが通じると思うか?】

 水蒸気で見えないが向こう側にいるはずのジンに向かって、馬鹿にした様に話しかける。

「そいつはどうかな?」

 しかしその返事は自分の真下から聞こえてきた。

【なっ!?】

「お返しだ!」

 そのまま限界まで強化した右拳が下から伸びてきて、レトの胸部に突き刺さる。骨を砕く音とともにレトが軽く浮く。すぐさまジンは体勢を整えると、レトに向かって後ろ回し蹴りを放った。

【くはっ】

 レトはその勢いで背面に吹き飛び、壁に激突する。しかし、放出する熱によって瓦礫が瞬時に溶け、壁にぶつかっても大きなダメージはなかった。それでもジンによって放たれた蹴りで甚大なダメージを負っていた。

 そんなレトから目を一瞬だけ外し、ジンは自分の右掌を見つめる。骨を砕く確かな感触と、誰が相手なのかという考えが頭の中で一瞬よぎるが、ギュッと拳を握りしめ、雑念を消し去る。

【く、くく、くはははは! 良い! 良いぞ! これこそ我が望んでいた戦い! やはり戦いはこうでなくては!】

 レトが笑いながらヨロヨロと立ち上がる。肋骨を折ったはずな上に、下手すれば心臓や肺は破裂しているはずだ。しかし、当然の様に動けるあたり、既に治ったと考えるべきだろう。

【気付いているか? あそこの使徒が全力で水の結界で身を包まなければならない空間で、お主だけが何もせずにいられていることに】

 ジンはその言葉で自分の拳と足を見てみる。靴は溶けているが、拳も足も火傷一つない。

「マジかよ」

【全くもってあやつは良い置き土産を残していったわ! 『龍麟』を持つ者に炎は効かぬよなあ! くははははは!】

 その言葉で、ジンはレヴィにも炎がまともに効かない事を思い出した。龍には炎に対する耐性が存在しているのだ。そこまで考えて違和感を覚える。『なぜノヴァは俺にこの力を?』とジンは疑問に思うが、現状答えなど見つからない。すぐに頭を切り替える。

【ならば攻め方を変えねばなるまいな】

 そう言うと、レトは『炎鎧』を解除した。そして今度は『風衣』と『岩籠手』を体と腕に纏う。

「なんのつもりだ?」

【なに、法魔であっても、肉弾戦ができるというところを見せてやろうと思ってな】

 レトが心底楽しそうに笑う。『龍鱗』は炎だけではなく、法術全般に耐性がある。その為、傷を与えるには遠距離よりも近距離から殴り合う方が効果的だとレトは考えたのだった。

「ああ、そうかよ!」

 しかしジンはすぐさま後方に飛んで距離を取ると、先ほどと同じく空間を氷の大剣で覆い尽くす。まだ熱い空間が一気に冷え始める。

「くらえ!」

 再び、一斉に放たれた氷剣がレトに迫る。

【くく、くはははははははは!】

 だがそれらを風で加速させた猛烈な速さの拳で正面から叩き壊し、背後から飛んできたものは風で絡め取り、ジンへと飛ばす。しかし吹き飛ばされたものはすぐに軌道を変えて再度レトに向かってくる。

【追尾性か!】

「ご名答」

 それに気がついたレトは笑いながらも、冷静に飛んでくる氷剣に対応する。

「おかわりだ!」

【良いぞ、良いぞ良いぞ!】

 だがジンは氷剣の中に雷の槍を潜める。何も知らないレトは反射的に飛んできたそれに拳を叩きつけた。凄まじい電流が彼女の体を駆け巡る。

【ぐうううう!?】

 体と意識が痺れて一瞬だけ風に綻びが出来る。ジンはそこを狙って、鋼鉄の槍を作り出すと思いっきり投擲する。黒い影が宙を切り裂き、風を突き抜けて、レトの腹部に突き刺さる。

「まだっ、まだあああああ!」

 ジンはすぐにもう一本作り出すと、今度は頭目掛けて投擲する。放たれた槍をレトは何も出来ずにそのまま眉間で受け止める。そして槍は勢いを止めずに彼女の頭を貫通すると、そのまま背後の壁に突き刺さった。

「はあ、はあ、はあ」

 大技の連発に流石にジンも息が切れる。片膝をついて、顔を苦しそうに歪めながら、レトを睨む。頭を仰け反らせているものの、倒れるそぶりがない。それが意味することは……

【なんだ。もう終わりか?】

 ゆっくりと体を起こしたレトの額は肉が蠢いて、修復を開始していた。額から口元に垂れた血をしたでペロリと舐め掬う。

【くくく、先の言葉を撤回しよう。お前は我の前に立つ資格のある戦士だ。この手で殺して喰えぬことが惜しいくらいだ】

 その言葉にジンの脳裏で『贄』と『フィリア』という2つの言葉が思い浮かぶ。

「ああ、そうかよ」

【まあ、しかし】

 レトが笑う。

【腕や脚の一本ぐらいはつまみ喰いしても構わんよな?】

 その瞬間、レトの指先から光が放たれ、ジンの左腕が肩から斬り飛ばされた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...