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第7章:再会編
事情聴取
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「そ、その…ホントに僕なんかでいいのか?」
少し落ち着くと、シオンが恐る恐るジンに尋ねてきた。
「ああ」
ジンは彼女の目を見て頷く。
「で、でも、ほら僕胸もこんなに小さいって言うか、か、壁だし、口調だって女の子っぽくないし、それにテレサみたいに……」
「何度も言わせんな。俺は、お前がいいんだ」
強い意志を込めて、ジンはシオンの言葉を遮る。
「……そっか。うん……そっか」
そうシオンは俯きながら呟く。顔は見えないが耳が真っ赤になっている事から、彼女が今どんな顔をしているか容易に想像できた。
「ねえ、もう一回……して?」
上目遣いに聞いてくる彼女に、ジンは堪えきれず、何度も何度もキスをして、ようやく顔を離す。お互いに息苦しくて真っ赤になった顔が気恥ずかしくもあり、喜ばしくもあった。
「え、えへへへ……な、なんかちょっと恥ずかしいな」
「ば、ばか、そういうことをわざわざ言うんじゃねえよ。こっちだって恥ずかしいんだよ」
ジンはシオンの言葉に一層顔が赤くなっているように感じた。
「う、うん。そうだな……そ、それで、あの…」
どもりながら目線をジンからそらしつつ、何かを言おうとしているシオンに、今までにないほどの優しい目を向けて続きを促す。
「僕たち、こ、恋人でいいんだよな?」
その言葉にジンは照れ臭そうに笑う。
「ああ、そうなってくれると嬉しい」
「えへへ、よろしく」
その様を見たジンは強く心に誓った。
絶対に離しはしない。絶対に彼女だけは守り抜く。例え誰が敵になったとしても。
~~~~~~~~~~
ノックの音がして、慌ててジンとシオンは体を離す。少し名残惜しく思うが、シオンはすぐに切り替えて、外にいる相手を招く。
「調子はどうだ? って、なんだ。仲直りでもしたのか?」
部屋の中に入ってきたアレキウスは、彼女の横に立っているジンを見て驚いた。彼の後ろにはスコットとハンゾーが付いてきていた。
「はい。まあ……ね?」
「ああ。うん」
シオンとジンの2人の間を流れる微妙な空気を察知して、アレキウスはニヤニヤと笑う。
「ほう。そいつはお邪魔だったかな?」
その言葉にシオンとジンは顔を真っ赤にする。
「がははは、そんな面初めて見たぞ!」
「団長。あまりからかってやるのも可哀想ですよ」
スコットが非難の目を向ける。
「まあ、そう言うなって。いつもムスッとしているこいつがこんな顔してたら誰だってからかいたくもなるさ!」
「……それは否定はしませんが」
「スコットさん!?」
スコットの言葉にシオンが驚く。いつもは真面目な彼がそのような事を言うとは彼女にも予想外だったのだ。
「アレキウス殿、とりあえず先ほど届いた話を2人にも伝えませんか?」
ハンゾーが2人に助け舟を出す。アレキウスは笑っていた顔を元に戻し、真面目な表情を作る。
「そうだな。2人とも悪かった」
「いや。それで話って何だ?」
ジンがアレキウスに尋ねる。
「陛下が討伐隊を編成した。2日でこの街に来るらしい。俺たちはそれまで奴の監視に当たることになった」
「……討伐隊」
ジンがその言葉に深刻な顔を浮かべる。シオンは心配そうな顔でそっと彼の手を握った。
「ああ。だからその前にお前たちに知っている事を話してもらおうと思ってな。奴とお前たちの関係は一体何なんだ?」
そういえば自分たちが疑われていた事をジンとシオンは思い出す。色々とあったせいで2人はすっかり忘れていた。
「まずはシオン。お前から話せ」
アレキウスがシオンに喋るよう促す。
「……あの人は、僕の命の恩人です。まだ小さかった頃に、オルフェンシアに罹った僕のために命の半分を捧げてくれたんです。そのおかげで僕は今こうして生きています」
「あー、マジか。それってグルードがやった事だよな?」
「ええ。父があの人に依頼したと思います」
「マジかー。聞きたく無かったぜ」
アレキウスは頭をボリボリと掻いた。仮にも一国の宰相が娘を救うためとはいえ、禁忌に手を染めたのだ。貴族連中が色々と悪巧みをしていようとも、彼にはどうでもいいが、グルードのスキャンダルは彼らを助長させる可能性がある。使徒であるイース王に表立って反乱する馬鹿はいないと信じたいが、利権に目が眩んだ人間は何をするか分からないのが世の常である。
「今の話を他に知っている奴はいるか?」
「恐らくいないと思います。父もさすがにその辺りは抜かりないかと」
「まあ、あいつならそこは信頼できるか。スコット、これはここだけの話にしておくぞ。ハンゾー殿もお願いできるか?」
「了承した」
「それじゃあ、ジン。お前の方は?」
アレキウスがジンに目を向ける。ジンは暫し黙り、それから口を開いた。
「あの魔人の名はナギ。俺の……俺が昔殺した姉だ」
その言葉にアレキウスとスコットが目を丸くし、シオンとハンゾーが目を伏せた。
「どういう事だ?」
「……今から10年前、俺は魔人になりかけた姉をこの手で殺したんだ。確かにこの手で」
ジンは自分の両掌に目を落とす。何年経ってもあの時の生々しい感触は鮮明に思い出す事が彼にはできた。
「ちょっと待て。お前の話が事実だとして、あの魔人になった奴が単なるお前の姉のそっくりさんって事じゃねえのか?」
「いや、あの人は俺と姉しか知らない記憶を持っていた。それに単なるそっくりで済ませられないほど、余りにも似過ぎている」
「うん? じゃあ一体どういう事なんだ? 確かに殺したと言ったよな?」
「ああ。しっかりと首の骨を折って、死ぬのをはっきりと確かめた。それに最後までは確認できなかったけど、知り合いが火で燃やしたらしい」
「なら、あの魔人は一体何なんだ?」
「恐らくだけど、あいつは……あいつは複製体だ」
複製体とは魔物や魔人の研究の過程で偶然に発見された禁忌の産物である。人体を細胞以下のレベルまで調べた結果発見された人間を形成する因子を、様々な術や薬を用いて同じ人間を複製する。この理論を提唱した人間をアレキウスは知っていた。
「複製体だと!? あり得ねえ。あれを作る技術は失われたはずだ!」
何せ処分したのは彼自身だったのだから。アレキウスはかつて兄のように慕った男を思い出す。
「失われたかどうかは知らないが、俺の推測が間違っていなければ、あの人は俺の姉から生み出された物だ。何よりも魔人になった姿が余りにも似ている」
「……だがそれなら一体誰があんな悍しい研究を引き継いだんだ」
アレキウスはボソリと呟く。イヴェル・リーラーとその一派は全員死んでいるはずだった。
「分からない。ただ、可能性として1人いる」
「誰だ?」
「あの人が父親と言っていた存在だ」
「父親?」
「ああ、俺達姉弟には父親がいなかった。それに魔人に転じるまであの人は俺との記憶を持っていなかった。だが魔人に転じた途端、それを思い出した。つまり、あの人が本当に姉の複製体だと仮定するなら……」
「その父親って奴が怪しいわけか」
「ああ」
ジンはアキレウスに頷く。
「何か手掛かりになるような事は聞いたか?」
「いや、何も」
ナギと話した時、父親の話をする事を禁止されていると言っていた事をジンは思い出した。今思えば、それはその父親という謎の存在が正体を隠すためだったのだろう。
「複製体に魔人化実験か。どうやら今回の件はかなり根が深そうだな」
どちらもイヴェル・リーラーの負の遺産だ。それを別の人間がそれぞれ行なっているとは考えにくい。つまり、同一人物がそれらの実験をしている可能性がかなり高いとアレキウスは考える。
「魔人化実験?」
「ああ、魔人は通常似たような特徴を持った奴はそうそういない。だが今回の件も含めると、同じ因子を持った魔人が10年前と2年前の事件も含めて3体も現れている。短い期間でこれは普通ありえねえ」
「つまり、誰かが意図的に同じ魔物の因子を用いて魔人を作ろうとしているという事か」
「ああ」
その時、ふとジンに疑問が生じる。
『姉ちゃん、複製体、魔人化の実験、それに……何だ、この言葉に出来ない違和感は?』
しかし、何かが掴めそうな所でアレキウスが話しかけてきた。
「しっかし、お前があのオリジンのスラムで魔人を倒したガキだとは思わなかったぜ」
「……なぜそれを?」
「まあ状況証拠と名前からだな。ナギという魔人、それにその弟のジン。どちらも10年前の調査で出てきた名前だ」
「……そうか」
「とりあえず、情報提供感謝する」
アレキウスはジンに頭を下げた。
「では、これでジン様の嫌疑は晴れたと考えて良いのかな?」
「悪いなハンゾー殿。そいつはまだだ。ただ、俺はお前を白だと思っている。それだけは言っておくぞ」
ハンゾーはその言葉を聞いて顔をしかめるが、ジンは頷いた。
「これから討伐隊が来ると言っていたけど、討伐に行く時は俺も付いていってもいいか?」
「いや、悪いがそれはできない。白だとは思うが、お前がその時になって何をするか分からないからな」
アレキウスはすまなそうな顔を浮かべる。
「……そうか」
ジンは拳をギュッと握りしめた。シオンが心配そうな顔で彼を見つめるが、ジンはそれに気がつかなかった。
「まあ、どんな状況になるか分からねえ。討伐隊が着くよりも先に奴が動き出す可能性も高い。というよりそっちの方がかなりありえる。もしかしたらお前に力を借りる事があるかもしれねえ。何せ相手は法魔だからな。その時は頼む。それまでは大人しくしていてくれ」
「ああ、分かった」
アレキウスはそれを聞くとスコットに目配せする。
「それじゃあ、仕事があるんでこれで失礼する。おっと、シオン、お前は召集がかかるまで休んでいていいぞ」
「ほ、本当ですか!」
シオンが食い気味に尋ねると、彼はニヤリと笑った。
「ああ、せっかく男が出来たのに、邪魔をするほど野暮じゃねえよ。まあ程々にな。召集かかった時に色々とヤりすぎてヘトヘトだと迷惑だからな」
何を意味しているか察して、シオンは顔を赤くした。
「そ、そんな事しません!」
「がははははは! せいぜい祭りに行くだけにしとけよ!」
そうしてアレキウスはスコットを引き連れて部屋から出て行った。それを確認すると、ジンはハンゾーに目を向ける。
「ハンゾー」
「はっ、今の話をミコト達にも伝えておいてくれ」
「了解いたしました」
そう言うと、ハンゾーも部屋からそそくさと出て行き、中には2人だけになった。暫しの沈黙が流れたのち、ジンは気を取り直して、シオンに顔を向けた。
「さてと……この前のやり直しをしないか?」
「うん!」
元気よく頷くシオンに頬を緩ませながら、ジンは彼女と共に兵舎を出て、街へと向かった。
少し落ち着くと、シオンが恐る恐るジンに尋ねてきた。
「ああ」
ジンは彼女の目を見て頷く。
「で、でも、ほら僕胸もこんなに小さいって言うか、か、壁だし、口調だって女の子っぽくないし、それにテレサみたいに……」
「何度も言わせんな。俺は、お前がいいんだ」
強い意志を込めて、ジンはシオンの言葉を遮る。
「……そっか。うん……そっか」
そうシオンは俯きながら呟く。顔は見えないが耳が真っ赤になっている事から、彼女が今どんな顔をしているか容易に想像できた。
「ねえ、もう一回……して?」
上目遣いに聞いてくる彼女に、ジンは堪えきれず、何度も何度もキスをして、ようやく顔を離す。お互いに息苦しくて真っ赤になった顔が気恥ずかしくもあり、喜ばしくもあった。
「え、えへへへ……な、なんかちょっと恥ずかしいな」
「ば、ばか、そういうことをわざわざ言うんじゃねえよ。こっちだって恥ずかしいんだよ」
ジンはシオンの言葉に一層顔が赤くなっているように感じた。
「う、うん。そうだな……そ、それで、あの…」
どもりながら目線をジンからそらしつつ、何かを言おうとしているシオンに、今までにないほどの優しい目を向けて続きを促す。
「僕たち、こ、恋人でいいんだよな?」
その言葉にジンは照れ臭そうに笑う。
「ああ、そうなってくれると嬉しい」
「えへへ、よろしく」
その様を見たジンは強く心に誓った。
絶対に離しはしない。絶対に彼女だけは守り抜く。例え誰が敵になったとしても。
~~~~~~~~~~
ノックの音がして、慌ててジンとシオンは体を離す。少し名残惜しく思うが、シオンはすぐに切り替えて、外にいる相手を招く。
「調子はどうだ? って、なんだ。仲直りでもしたのか?」
部屋の中に入ってきたアレキウスは、彼女の横に立っているジンを見て驚いた。彼の後ろにはスコットとハンゾーが付いてきていた。
「はい。まあ……ね?」
「ああ。うん」
シオンとジンの2人の間を流れる微妙な空気を察知して、アレキウスはニヤニヤと笑う。
「ほう。そいつはお邪魔だったかな?」
その言葉にシオンとジンは顔を真っ赤にする。
「がははは、そんな面初めて見たぞ!」
「団長。あまりからかってやるのも可哀想ですよ」
スコットが非難の目を向ける。
「まあ、そう言うなって。いつもムスッとしているこいつがこんな顔してたら誰だってからかいたくもなるさ!」
「……それは否定はしませんが」
「スコットさん!?」
スコットの言葉にシオンが驚く。いつもは真面目な彼がそのような事を言うとは彼女にも予想外だったのだ。
「アレキウス殿、とりあえず先ほど届いた話を2人にも伝えませんか?」
ハンゾーが2人に助け舟を出す。アレキウスは笑っていた顔を元に戻し、真面目な表情を作る。
「そうだな。2人とも悪かった」
「いや。それで話って何だ?」
ジンがアレキウスに尋ねる。
「陛下が討伐隊を編成した。2日でこの街に来るらしい。俺たちはそれまで奴の監視に当たることになった」
「……討伐隊」
ジンがその言葉に深刻な顔を浮かべる。シオンは心配そうな顔でそっと彼の手を握った。
「ああ。だからその前にお前たちに知っている事を話してもらおうと思ってな。奴とお前たちの関係は一体何なんだ?」
そういえば自分たちが疑われていた事をジンとシオンは思い出す。色々とあったせいで2人はすっかり忘れていた。
「まずはシオン。お前から話せ」
アレキウスがシオンに喋るよう促す。
「……あの人は、僕の命の恩人です。まだ小さかった頃に、オルフェンシアに罹った僕のために命の半分を捧げてくれたんです。そのおかげで僕は今こうして生きています」
「あー、マジか。それってグルードがやった事だよな?」
「ええ。父があの人に依頼したと思います」
「マジかー。聞きたく無かったぜ」
アレキウスは頭をボリボリと掻いた。仮にも一国の宰相が娘を救うためとはいえ、禁忌に手を染めたのだ。貴族連中が色々と悪巧みをしていようとも、彼にはどうでもいいが、グルードのスキャンダルは彼らを助長させる可能性がある。使徒であるイース王に表立って反乱する馬鹿はいないと信じたいが、利権に目が眩んだ人間は何をするか分からないのが世の常である。
「今の話を他に知っている奴はいるか?」
「恐らくいないと思います。父もさすがにその辺りは抜かりないかと」
「まあ、あいつならそこは信頼できるか。スコット、これはここだけの話にしておくぞ。ハンゾー殿もお願いできるか?」
「了承した」
「それじゃあ、ジン。お前の方は?」
アレキウスがジンに目を向ける。ジンは暫し黙り、それから口を開いた。
「あの魔人の名はナギ。俺の……俺が昔殺した姉だ」
その言葉にアレキウスとスコットが目を丸くし、シオンとハンゾーが目を伏せた。
「どういう事だ?」
「……今から10年前、俺は魔人になりかけた姉をこの手で殺したんだ。確かにこの手で」
ジンは自分の両掌に目を落とす。何年経ってもあの時の生々しい感触は鮮明に思い出す事が彼にはできた。
「ちょっと待て。お前の話が事実だとして、あの魔人になった奴が単なるお前の姉のそっくりさんって事じゃねえのか?」
「いや、あの人は俺と姉しか知らない記憶を持っていた。それに単なるそっくりで済ませられないほど、余りにも似過ぎている」
「うん? じゃあ一体どういう事なんだ? 確かに殺したと言ったよな?」
「ああ。しっかりと首の骨を折って、死ぬのをはっきりと確かめた。それに最後までは確認できなかったけど、知り合いが火で燃やしたらしい」
「なら、あの魔人は一体何なんだ?」
「恐らくだけど、あいつは……あいつは複製体だ」
複製体とは魔物や魔人の研究の過程で偶然に発見された禁忌の産物である。人体を細胞以下のレベルまで調べた結果発見された人間を形成する因子を、様々な術や薬を用いて同じ人間を複製する。この理論を提唱した人間をアレキウスは知っていた。
「複製体だと!? あり得ねえ。あれを作る技術は失われたはずだ!」
何せ処分したのは彼自身だったのだから。アレキウスはかつて兄のように慕った男を思い出す。
「失われたかどうかは知らないが、俺の推測が間違っていなければ、あの人は俺の姉から生み出された物だ。何よりも魔人になった姿が余りにも似ている」
「……だがそれなら一体誰があんな悍しい研究を引き継いだんだ」
アレキウスはボソリと呟く。イヴェル・リーラーとその一派は全員死んでいるはずだった。
「分からない。ただ、可能性として1人いる」
「誰だ?」
「あの人が父親と言っていた存在だ」
「父親?」
「ああ、俺達姉弟には父親がいなかった。それに魔人に転じるまであの人は俺との記憶を持っていなかった。だが魔人に転じた途端、それを思い出した。つまり、あの人が本当に姉の複製体だと仮定するなら……」
「その父親って奴が怪しいわけか」
「ああ」
ジンはアキレウスに頷く。
「何か手掛かりになるような事は聞いたか?」
「いや、何も」
ナギと話した時、父親の話をする事を禁止されていると言っていた事をジンは思い出した。今思えば、それはその父親という謎の存在が正体を隠すためだったのだろう。
「複製体に魔人化実験か。どうやら今回の件はかなり根が深そうだな」
どちらもイヴェル・リーラーの負の遺産だ。それを別の人間がそれぞれ行なっているとは考えにくい。つまり、同一人物がそれらの実験をしている可能性がかなり高いとアレキウスは考える。
「魔人化実験?」
「ああ、魔人は通常似たような特徴を持った奴はそうそういない。だが今回の件も含めると、同じ因子を持った魔人が10年前と2年前の事件も含めて3体も現れている。短い期間でこれは普通ありえねえ」
「つまり、誰かが意図的に同じ魔物の因子を用いて魔人を作ろうとしているという事か」
「ああ」
その時、ふとジンに疑問が生じる。
『姉ちゃん、複製体、魔人化の実験、それに……何だ、この言葉に出来ない違和感は?』
しかし、何かが掴めそうな所でアレキウスが話しかけてきた。
「しっかし、お前があのオリジンのスラムで魔人を倒したガキだとは思わなかったぜ」
「……なぜそれを?」
「まあ状況証拠と名前からだな。ナギという魔人、それにその弟のジン。どちらも10年前の調査で出てきた名前だ」
「……そうか」
「とりあえず、情報提供感謝する」
アレキウスはジンに頭を下げた。
「では、これでジン様の嫌疑は晴れたと考えて良いのかな?」
「悪いなハンゾー殿。そいつはまだだ。ただ、俺はお前を白だと思っている。それだけは言っておくぞ」
ハンゾーはその言葉を聞いて顔をしかめるが、ジンは頷いた。
「これから討伐隊が来ると言っていたけど、討伐に行く時は俺も付いていってもいいか?」
「いや、悪いがそれはできない。白だとは思うが、お前がその時になって何をするか分からないからな」
アレキウスはすまなそうな顔を浮かべる。
「……そうか」
ジンは拳をギュッと握りしめた。シオンが心配そうな顔で彼を見つめるが、ジンはそれに気がつかなかった。
「まあ、どんな状況になるか分からねえ。討伐隊が着くよりも先に奴が動き出す可能性も高い。というよりそっちの方がかなりありえる。もしかしたらお前に力を借りる事があるかもしれねえ。何せ相手は法魔だからな。その時は頼む。それまでは大人しくしていてくれ」
「ああ、分かった」
アレキウスはそれを聞くとスコットに目配せする。
「それじゃあ、仕事があるんでこれで失礼する。おっと、シオン、お前は召集がかかるまで休んでいていいぞ」
「ほ、本当ですか!」
シオンが食い気味に尋ねると、彼はニヤリと笑った。
「ああ、せっかく男が出来たのに、邪魔をするほど野暮じゃねえよ。まあ程々にな。召集かかった時に色々とヤりすぎてヘトヘトだと迷惑だからな」
何を意味しているか察して、シオンは顔を赤くした。
「そ、そんな事しません!」
「がははははは! せいぜい祭りに行くだけにしとけよ!」
そうしてアレキウスはスコットを引き連れて部屋から出て行った。それを確認すると、ジンはハンゾーに目を向ける。
「ハンゾー」
「はっ、今の話をミコト達にも伝えておいてくれ」
「了解いたしました」
そう言うと、ハンゾーも部屋からそそくさと出て行き、中には2人だけになった。暫しの沈黙が流れたのち、ジンは気を取り直して、シオンに顔を向けた。
「さてと……この前のやり直しをしないか?」
「うん!」
元気よく頷くシオンに頬を緩ませながら、ジンは彼女と共に兵舎を出て、街へと向かった。
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