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第7章:再会編
愛
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ゆっくりと目を開けると、先ほど見た天井だった。ジンは上体を起こして首を摩った。
「お目覚めになりましたか」
声のした方を向くと、ハンゾーが水で濡れたタオルを絞っていた。
「ああ」
ぶっきらぼうに答えると、おずおずとハンゾーは聞いてきた。
「先ほどのことは覚えていらっしゃいますか」
「……ああ」
ジンの頭の中に泣きじゃくるシオンの顔が浮かぶ。自分が彼女にそんな顔をさせたという事実に胸が痛み、息苦しくてギュッとシャツの胸元を掴む。荒い息をつくジンの様子を心配そうにハンゾーが伺う。
「大丈夫でしょうか」
「……ああ」
無理をしている事が目に見えて分かるものの、主人の意を汲んでハンゾーはそれ以上追及しなかった。
「………あいつは?」
誰のことを指しているかは一目瞭然であった。だがハンゾーにはジンが何をするのかが読めなかった。もしハンゾーが想像する最悪の状況になったとしたら、自分の主人は自らの手で彼にとっての絶望を生み出すかもしれない。2人がどのような関係であるかは不明瞭ではあるが、想い合っているのは手に取るように分かる。だからこそハンゾーは口籠った。これ以上ジンに苦痛を与えたくなかったから。
「それは……」
「教えてくれ。あいつは今どうしている?」
しかし、ハンゾーの予想とは異なり、ジンの瞳には悲しみと絶望は籠もっていたが、狂気が宿っていなかった。それを感じ取ったハンゾーは意を決した。
「別室におります。会いに行かれますか?」
ハンゾーの質問にジンはすぐに答えず俯いた。
「先ほど、相手の方が、起きたら会えないかと聞いてきましたが、いかがいたしましょう?」
その質問にジンは顔を上げて、皮肉気に笑った。
「会う? 会うだと? どうやって? どんな顔で? どんな気持ちで!」
泣きそうな顔で叫ぶ。これほどまでに弱っている彼を見るのはハンゾーにとって初めてだった。
「分かっている。ああ、分かっているんだ! あいつが悪くないことも! 悪いのは全てフィリアだということも! 全部、全部分かっているんだ! だけどどうすればいい? どう受け入れればいい? くそっ、くそっ、くそっ!」
髪を掻き毟る。爪にはうっすらと血がついている。
「なんで……なんで、あいつなんだ! なんで! どうして!!」
吐き出す言葉と共に涙が溢れ出す。どれだけ辛い事があっても、どれだけ挫けそうになっても、耐えきれずに泣くこともあったが、それでも泣くまいと思い努めてきた。だが、今回の事だけは無理だった。姉のことも、シオンの事も、耐えるにはあまりにも重かった。
「落ち着いてください、ジン様!」
ハンゾーは頭を掻き毟るジンの手を掴み、動きを止めさせる。
「もう、もう嫌だ! もう無理だ! もう耐えられない!」
泣きじゃくりながらジンが叫ぶ。ハンゾーは必死になってジンを宥めるが、ジンは小さな子供のように頭を振る。その時、ドアを誰かが開けた。
「おっす! 元気してる? って、あたしマズい時に来た?」
先ほどまで同じく治療を受けているゴウテンの所に行っていたミコトが能天気に部屋に入ってきたが、すぐに部屋の中に流れる空気を察知した。
「ひ、姫様! よく来てくだされた! ジン様を抑えるのを手伝ってくだされ!」
「あわわわ!?」
ハンゾーの叫びにミコトが慌てて駆け寄り、タックルするかのようにジンの腰に抱きついた。ジンの意識が一瞬そっちに移る。
「御免!」
その隙にハンゾーはジンの首に手刀を落とす。再びジンは意識を失った。
「びっくりしたー! 何があったの?」
ミコトは額に浮かんでいた汗を拭いながらハンゾーに尋ねる。
「実は……」
ハンゾーはミコトに先ほどまでの話を全て話した。ナギの事、シオンの事、そして今のジンの精神状態の事。それらを説明するうちに、ミコトはだんだんと顔をしかめていった。
「じゃあなに? ジンの想い人が、お姉さんが命を落とす切っ掛け? それでこいつが受け止めきれなくて暴れてたの?」
「そういう事になりますな。誠に可哀想な御方だ」
ハンゾーが困ったように眉間にシワを寄せた。
「はぁ、こいつもあんたも本当に馬鹿ねぇ」
「……どういう事でしょうか?」
ハンゾーがジロリと睨む。ミコトの事は目に入れても痛くないほど可愛くて仕方がないが、相手を思いやるように育ててきたつもりだった。それなのに、今のジンの気持ちを蔑ろにするような発言をしたのだ。
「だって、お姉さんが大事だったから復讐しようとしてきたんでしょ? それなのに自分の想い人がその問題に関係してたら悩みすぎてこうなったんだよね。ならもう答えなんて決まってんじゃん」
「答え……とは?」
「もちろん、愛でしょ!」
「……はぁ?」
何を言っているのか分からず、ハンゾーの口から思わず疑問の声が溢れる。
「愛よ、愛。復讐と恋愛を天秤にかけて、どっちも同じぐらい大切だったからこんなに辛そうにしてるんじゃん?」
「た、確かにおっしゃる通りですが、話はそんな簡単な事では……」
「何言ってんのよ。超簡単な話じゃん。どんなに割りきんのが難しくても受け入れるしかないんだから、今後のことを考えた方が絶対にいいに決まってるじゃん」
「それはそうかもしれませんが……」
「あー、もう! まだろっこしいな! ほら起きなジン!」
先ほど気絶させたジンをミコトは揺する。
「ひ、姫様!?」
ハンゾーのことを無視して、今度はジンの頬をバシバシと叩き始めた。
「……た…いた、痛! や、止めろ!」
「あ、起きた?」
どれほどの威力で叩いたのか、ジンの頬が赤く腫れている。ジンは呆然としていたが、すぐに涙が溢れ始めた。しかしミコトはそんな彼の両頬を思いっきり叩き挟む。
「泣くな、女々しい奴め! 一つだけ答えなさい!」
怒ったように眉を吊り上げていたミコトが、フッと優しい笑みを浮かべた。
「あんたはあの子をどうしたいの?」
その言葉に、ギュッと目を閉じてジンは黙りこくる。しかし、暫しの時間が経つと、その目を再び開けた。そして涙を流しながら叫んだ。
「俺は、俺はあいつを失いたくない! たとえ、姉ちゃんをまた殺す事になったとしても、これ以上あいつを傷つけたくない!!」
「うん、それならそれがあんたの答えじゃん」
ジンはハッとする。彼にとって今までは復讐が全てだと思っていた。しかしそうでは無かった。彼にはもうそれ以上に掛け替えの無いものがあったのだ。その事を自覚し、ジンは目が覚めた様に感じた。
「そうか……俺はそんな風に思うようになったのか……なれたのか」
ジンは小さく呟いた。そしてバッとベッドから飛び出ると、ハンゾーに顔を向けた。
「あいつは今どこにいる?」
その瞳の奥にはもう、悲しみも、絶望も、憎しみもなく、ただ会いたいという切実な願いがあった。ハンゾーはそれを見て顔を綻ばせて、シオンのいる場所を伝えた。ジンはそれを聞くと、急いで部屋を駆け出した。
「ほら、やっぱり単純な事じゃん」
得意げな顔を浮かべるミコトに、ハンゾーは頭を深々と下げる。
「姫様、このハンゾー、誠に感服いたしました。ところで、ゴウテンが何か話があると言っておりましたが、あやつの様子はいかがでしたか?」
「あ、忘れてた。えっと、なんだっけ……てへっ」
ジンと同じく治療を受けていたゴウテンは、彼よりも早く目覚め、ミコトに何かを伝えたいと言って、彼女を呼んだのだ。しかし、ミコトはハンゾーの質問を受けて、何を聞いたか思い出そうとして、諦めた。せっかく話した事すら忘れられてしまうゴウテンに、今後訪れるであろう彼の苦労を思い、ハンゾーは苦笑した。
~~~~~~~~~~
「シオン!」
バンッとドアを開けると、窓際に少女が立って、外を見ていた。ゆっくりと振り向いた彼女に、ジンは駆け寄り、強く抱きしめた。シオンは一瞬目を丸くしてから俯き、それからまたポロポロと涙をこぼし始めた。
「……ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさ」
肩を震わせながら謝罪を続けようとするシオンに対して、ジンはそれ以上言わせないように彼女の言葉を遮る。
「もういい、もういいんだ。どんなにお前が苦しんできたか、分かってる。分かってるから」
シオンはその言葉を聞いて涙を流す。必死に押し退けようと、ジンの胸に手を当てて力を込めるが、ジンは決して放そうとしなかった。
「好きだ。シオン」
「え?」
「お前のことが好きだ」
再びの言葉にシオンは目を丸くし、いっそう涙が溢れ出した。
「ぼ、僕に、お前が好きだって言ってくれるほどの、か、価値なんて無い!」
「そんなことどうでもいい。俺はお前が好きだ」
「だ、だって、僕はナギお姉さん、お前のお姉さんが死ぬきっかけになったんだよ!」
「それでも、俺はお前が好きだ」
「で、でも僕は……んむ!?」
それ以上何かを言おうとするシオンの口を、ジンは強引にキスをして塞ぐ。勢いのあまり、歯と歯がぶつかる。唇を離すと、シオンは俯いた。
「……痛いよ」
「……すまん」
「……強引すぎるし」
「……悪い」
「……僕、これでも初めてなんだよ?」
「……そうか」
2人の間に気まずい沈黙が流れる。
「……ねえ、もう一度、言ってくれるかな?」
その質問が何を意味しているか、聞き返すまでも無かった。
「俺は、お前が……ん!?」
今度はシオンがジンの不意をついてキスをした。またしても歯が当たる。だが唇を離した時、シオンは涙を流しながら笑った。
「僕も、お前が好きだ」
その言葉を聞いたジンは再び強く抱きしめた。シオンも強く抱きしめ返した。そして顔を見合わせると、互いに涙を流しながら笑い合った。
「お目覚めになりましたか」
声のした方を向くと、ハンゾーが水で濡れたタオルを絞っていた。
「ああ」
ぶっきらぼうに答えると、おずおずとハンゾーは聞いてきた。
「先ほどのことは覚えていらっしゃいますか」
「……ああ」
ジンの頭の中に泣きじゃくるシオンの顔が浮かぶ。自分が彼女にそんな顔をさせたという事実に胸が痛み、息苦しくてギュッとシャツの胸元を掴む。荒い息をつくジンの様子を心配そうにハンゾーが伺う。
「大丈夫でしょうか」
「……ああ」
無理をしている事が目に見えて分かるものの、主人の意を汲んでハンゾーはそれ以上追及しなかった。
「………あいつは?」
誰のことを指しているかは一目瞭然であった。だがハンゾーにはジンが何をするのかが読めなかった。もしハンゾーが想像する最悪の状況になったとしたら、自分の主人は自らの手で彼にとっての絶望を生み出すかもしれない。2人がどのような関係であるかは不明瞭ではあるが、想い合っているのは手に取るように分かる。だからこそハンゾーは口籠った。これ以上ジンに苦痛を与えたくなかったから。
「それは……」
「教えてくれ。あいつは今どうしている?」
しかし、ハンゾーの予想とは異なり、ジンの瞳には悲しみと絶望は籠もっていたが、狂気が宿っていなかった。それを感じ取ったハンゾーは意を決した。
「別室におります。会いに行かれますか?」
ハンゾーの質問にジンはすぐに答えず俯いた。
「先ほど、相手の方が、起きたら会えないかと聞いてきましたが、いかがいたしましょう?」
その質問にジンは顔を上げて、皮肉気に笑った。
「会う? 会うだと? どうやって? どんな顔で? どんな気持ちで!」
泣きそうな顔で叫ぶ。これほどまでに弱っている彼を見るのはハンゾーにとって初めてだった。
「分かっている。ああ、分かっているんだ! あいつが悪くないことも! 悪いのは全てフィリアだということも! 全部、全部分かっているんだ! だけどどうすればいい? どう受け入れればいい? くそっ、くそっ、くそっ!」
髪を掻き毟る。爪にはうっすらと血がついている。
「なんで……なんで、あいつなんだ! なんで! どうして!!」
吐き出す言葉と共に涙が溢れ出す。どれだけ辛い事があっても、どれだけ挫けそうになっても、耐えきれずに泣くこともあったが、それでも泣くまいと思い努めてきた。だが、今回の事だけは無理だった。姉のことも、シオンの事も、耐えるにはあまりにも重かった。
「落ち着いてください、ジン様!」
ハンゾーは頭を掻き毟るジンの手を掴み、動きを止めさせる。
「もう、もう嫌だ! もう無理だ! もう耐えられない!」
泣きじゃくりながらジンが叫ぶ。ハンゾーは必死になってジンを宥めるが、ジンは小さな子供のように頭を振る。その時、ドアを誰かが開けた。
「おっす! 元気してる? って、あたしマズい時に来た?」
先ほどまで同じく治療を受けているゴウテンの所に行っていたミコトが能天気に部屋に入ってきたが、すぐに部屋の中に流れる空気を察知した。
「ひ、姫様! よく来てくだされた! ジン様を抑えるのを手伝ってくだされ!」
「あわわわ!?」
ハンゾーの叫びにミコトが慌てて駆け寄り、タックルするかのようにジンの腰に抱きついた。ジンの意識が一瞬そっちに移る。
「御免!」
その隙にハンゾーはジンの首に手刀を落とす。再びジンは意識を失った。
「びっくりしたー! 何があったの?」
ミコトは額に浮かんでいた汗を拭いながらハンゾーに尋ねる。
「実は……」
ハンゾーはミコトに先ほどまでの話を全て話した。ナギの事、シオンの事、そして今のジンの精神状態の事。それらを説明するうちに、ミコトはだんだんと顔をしかめていった。
「じゃあなに? ジンの想い人が、お姉さんが命を落とす切っ掛け? それでこいつが受け止めきれなくて暴れてたの?」
「そういう事になりますな。誠に可哀想な御方だ」
ハンゾーが困ったように眉間にシワを寄せた。
「はぁ、こいつもあんたも本当に馬鹿ねぇ」
「……どういう事でしょうか?」
ハンゾーがジロリと睨む。ミコトの事は目に入れても痛くないほど可愛くて仕方がないが、相手を思いやるように育ててきたつもりだった。それなのに、今のジンの気持ちを蔑ろにするような発言をしたのだ。
「だって、お姉さんが大事だったから復讐しようとしてきたんでしょ? それなのに自分の想い人がその問題に関係してたら悩みすぎてこうなったんだよね。ならもう答えなんて決まってんじゃん」
「答え……とは?」
「もちろん、愛でしょ!」
「……はぁ?」
何を言っているのか分からず、ハンゾーの口から思わず疑問の声が溢れる。
「愛よ、愛。復讐と恋愛を天秤にかけて、どっちも同じぐらい大切だったからこんなに辛そうにしてるんじゃん?」
「た、確かにおっしゃる通りですが、話はそんな簡単な事では……」
「何言ってんのよ。超簡単な話じゃん。どんなに割りきんのが難しくても受け入れるしかないんだから、今後のことを考えた方が絶対にいいに決まってるじゃん」
「それはそうかもしれませんが……」
「あー、もう! まだろっこしいな! ほら起きなジン!」
先ほど気絶させたジンをミコトは揺する。
「ひ、姫様!?」
ハンゾーのことを無視して、今度はジンの頬をバシバシと叩き始めた。
「……た…いた、痛! や、止めろ!」
「あ、起きた?」
どれほどの威力で叩いたのか、ジンの頬が赤く腫れている。ジンは呆然としていたが、すぐに涙が溢れ始めた。しかしミコトはそんな彼の両頬を思いっきり叩き挟む。
「泣くな、女々しい奴め! 一つだけ答えなさい!」
怒ったように眉を吊り上げていたミコトが、フッと優しい笑みを浮かべた。
「あんたはあの子をどうしたいの?」
その言葉に、ギュッと目を閉じてジンは黙りこくる。しかし、暫しの時間が経つと、その目を再び開けた。そして涙を流しながら叫んだ。
「俺は、俺はあいつを失いたくない! たとえ、姉ちゃんをまた殺す事になったとしても、これ以上あいつを傷つけたくない!!」
「うん、それならそれがあんたの答えじゃん」
ジンはハッとする。彼にとって今までは復讐が全てだと思っていた。しかしそうでは無かった。彼にはもうそれ以上に掛け替えの無いものがあったのだ。その事を自覚し、ジンは目が覚めた様に感じた。
「そうか……俺はそんな風に思うようになったのか……なれたのか」
ジンは小さく呟いた。そしてバッとベッドから飛び出ると、ハンゾーに顔を向けた。
「あいつは今どこにいる?」
その瞳の奥にはもう、悲しみも、絶望も、憎しみもなく、ただ会いたいという切実な願いがあった。ハンゾーはそれを見て顔を綻ばせて、シオンのいる場所を伝えた。ジンはそれを聞くと、急いで部屋を駆け出した。
「ほら、やっぱり単純な事じゃん」
得意げな顔を浮かべるミコトに、ハンゾーは頭を深々と下げる。
「姫様、このハンゾー、誠に感服いたしました。ところで、ゴウテンが何か話があると言っておりましたが、あやつの様子はいかがでしたか?」
「あ、忘れてた。えっと、なんだっけ……てへっ」
ジンと同じく治療を受けていたゴウテンは、彼よりも早く目覚め、ミコトに何かを伝えたいと言って、彼女を呼んだのだ。しかし、ミコトはハンゾーの質問を受けて、何を聞いたか思い出そうとして、諦めた。せっかく話した事すら忘れられてしまうゴウテンに、今後訪れるであろう彼の苦労を思い、ハンゾーは苦笑した。
~~~~~~~~~~
「シオン!」
バンッとドアを開けると、窓際に少女が立って、外を見ていた。ゆっくりと振り向いた彼女に、ジンは駆け寄り、強く抱きしめた。シオンは一瞬目を丸くしてから俯き、それからまたポロポロと涙をこぼし始めた。
「……ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさ」
肩を震わせながら謝罪を続けようとするシオンに対して、ジンはそれ以上言わせないように彼女の言葉を遮る。
「もういい、もういいんだ。どんなにお前が苦しんできたか、分かってる。分かってるから」
シオンはその言葉を聞いて涙を流す。必死に押し退けようと、ジンの胸に手を当てて力を込めるが、ジンは決して放そうとしなかった。
「好きだ。シオン」
「え?」
「お前のことが好きだ」
再びの言葉にシオンは目を丸くし、いっそう涙が溢れ出した。
「ぼ、僕に、お前が好きだって言ってくれるほどの、か、価値なんて無い!」
「そんなことどうでもいい。俺はお前が好きだ」
「だ、だって、僕はナギお姉さん、お前のお姉さんが死ぬきっかけになったんだよ!」
「それでも、俺はお前が好きだ」
「で、でも僕は……んむ!?」
それ以上何かを言おうとするシオンの口を、ジンは強引にキスをして塞ぐ。勢いのあまり、歯と歯がぶつかる。唇を離すと、シオンは俯いた。
「……痛いよ」
「……すまん」
「……強引すぎるし」
「……悪い」
「……僕、これでも初めてなんだよ?」
「……そうか」
2人の間に気まずい沈黙が流れる。
「……ねえ、もう一度、言ってくれるかな?」
その質問が何を意味しているか、聞き返すまでも無かった。
「俺は、お前が……ん!?」
今度はシオンがジンの不意をついてキスをした。またしても歯が当たる。だが唇を離した時、シオンは涙を流しながら笑った。
「僕も、お前が好きだ」
その言葉を聞いたジンは再び強く抱きしめた。シオンも強く抱きしめ返した。そして顔を見合わせると、互いに涙を流しながら笑い合った。
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