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第6章:ギルド編
疾走
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拳を開き、抜き手の形をとる。そしてジンは魔人の胸の中央に右手を突き放った。その貫通力は凄まじく、魔人の強靭な肉体を容易く穿った。
「ぎゃああああああああああ!!!」
魔人の悲鳴が辺りに響き渡る。しかしジンの攻撃はまだ終わらなかった。そのまま相手の体を切り裂くように突き立てた右手を胸の中から、上方向へと動かした。気管を超え、喉を切り裂き、顎を砕き、舌を分断し、鼻を裂断し、頭蓋を破砕し、脳を二つに割き、頭皮を切り破った。
喉を切り裂かれた魔人は声すら出せず、ただよろめく。しかし倒れることはなかった。そうなることを理解していたジンは、再度『力』を込めてその手を振り下ろした。文字通り真っ二つになった魔人が倒れたのを確認した瞬間、ジンはさらにその『力』を黒炎へと変換させて、魔人へと放った。燃え上がる炎が周囲に人肉が焼ける匂いを漂わせる。それでも半分になった身体が炎の中でのたうち回るのをジンは観た。それで彼は素早く振り返ると、ハンゾーに向き直り、駆け寄った。
「じいさん、逃げるぞ!」
目の前の光景に覚悟を決めて、踏み込もうとしていたハンゾーは呆気にとられて身体が固まった。
「じいさん早く!」
「う、うむ」
しかしそこは伊達に歴戦の勇士では無い。すぐさまジンの言葉に頭を切り替えると、足に闘気を集中させて駆け出した。直後、二人の背後から光の線が方方に駆け巡った。これが、ジンが迷わず撤退を選んだ理由だった。
「身体が真っ二つにされてもまだ生きているとか、出鱈目にもほどがあるだろ!」
「全くです!」
ジンの言葉に頷きながらも足は止めない。二人は森の中を駆け抜け、背後から木々を貫通しながら近寄ってくる光線をなんとか躱しつつ、一気に森の外へと転がり出た。
流石にそこまでは光線は飛んでこなかった。それを確認した二人はようやく一息ついた。そんな二人の下に二つの人影が走り寄ってきた。当然のことながらミーシャとクロウだ。彼らは森の外から中の様子を伺っていたらしい。心配そうな顔を浮かべている二人を見て、ジンとハンゾーは立ち上がった。
「クロウ、今すぐ村に行き、村の連中をロヴォーラの街に避難させるぞ。魔人が現れた」
「っ、わかりました!」
ハンゾーの言葉にクロウは一つ頷くと駆け出した。
「ジン様、これはお返しいたします。それとあなたは姫様と共に街のギルドにこのことを報告してください。わしらも村人の避難が完了次第、そちらに向かいます」
そう言ってハンゾーはジンから貸し与えられた物を彼に手渡した。ジンはそれを受け取りながら、緊迫した表情を浮かべて頷いた。
「わかった。行くぞミーシャ!」
「う、うん」
魔人が出現したことに意識が向かっていたミーシャはハンゾーの言葉に違和感を感じつつも、それの正体には気がつかなかった。つい先ほどまで戦闘状態にあったジンは未だ興奮しており、さらに緊急事態であるため、ハンゾーの一言一句を気にも留めなかった。そして二人が駆け出したのを確認したハンゾーは先行したクロウを追いかけた。
~~~~~~~~~~~~~~
ハンゾーがクロウに追いついたのは村に着いてからだった。普段の彼ならばすぐにでも追いついたであろう。しかし戦闘による心身の疲労はあまりにも激しかった。
「全く、年は取りたく無いな」
ハンゾーは両手を膝について、息を切らせながらぼやいた。村では既に村人達が慌てふためいていた。クロウの指示により、何も持たずに街の方へと駆けて行く者もいれば、逃げる準備をしている者もいる。彼らはどうやら逃げるためには不要な家財道具をまとめているようだ。そんな呑気な行動を見て、ハンゾーは彼らを怒鳴りつけた。
「お前ら何をしている! さっさと逃げんか!」
「で、でも街に行っても、何も持ってないとどうにも……」
「このまま魔人が来て死にてえのか! いいからさっさと逃げろ、馬鹿野郎!」
ハンゾーのただならぬ様子に怯んだ何人かの村人達は、慌ててまとめた物だけを抱えて駆け出した。それを確認すると、ハンゾーは村長の住む家へと走る。家の前では、村長のヴィルドが混乱し、狼狽えていた。当然のことと言えば当然だ。魔人が出現するなど滅多に無いことだ。生きているうちに魔人と遭遇する人間の方が少ないだろう。
だが、今こうして魔人が近くに現れたことは事実なのだ。現実をすぐにでも受け入れて、村人達の避難指示をしてもらわねばハンゾーとしては困る。やはり時間というのは重要な要素だ。少しだけこの村に滞在したハンゾー達と、長年、村人達を導いてきたヴィルドとでは言葉の重みが全く違うのだ。
「ヴィルド殿! 何をしている、さっさと避難の手伝いをしろ!」
「ハンゾー殿! じ、事実なのですか、魔人が現れたというのは!?」
呑気な質問に思わず悪態を吐きそうになるも、なんとか堪えると真剣な顔を浮かべてハンゾーは頷いた。それを見たヴィルドはより一層恐怖の表情を浮かべて頭を抱えた。
「そんな、こんなことになるなんて!」
それを見たハンゾーはズンズンとヴィルドに近付くと、彼の頬を張った。
「お前がそんなんで村人達はどうする! このままいけば全員死ぬことになるのだぞ! いい加減目を覚まして、さっさと動け! この馬鹿野郎が!」
その言葉に叩かれた頬を抑えながら、ヴィルドはハッとした表情を浮かべた。そして彼の目に意志が宿った。
「ハンゾー殿、申し訳ない。その通りだ。悪いが手伝ってくれ」
ハンゾーは満足気に頷くとヴィルドとともに駆け出した。
「もちろんだ」
こうして二人は向こうで避難を促しているクロウに合流すると、村人達に呼びかけ始めた。
~~~~~~~~~~~~
少し離れていると言っても、村からロヴォーラの街まで歩いて1日ほどかかる。特に森を迂回するとなれば、かかる時間はその倍だ。しかし現状、森の中に魔人が潜んでいるため、迂回しない選択肢はジンとミーシャには無い。だからこそ二人は全速力で駆けていた。それでもおそらく今のペースでは、街に着くのは1日と少しかかるだろう。それは分かっているのだが、先程『力』を使った影響からか、ジンの体は非常に重かった。
「大丈夫? 少し休んだ方が……」
走りながらも、目に見えて疲れ切っているジンを見て、ミーシャが不安げな顔を浮かべる。しかし、ジンは首を振った。
「いや、いつあいつが動き出すかわからないんだ。そんな悠長にしていられない。いざとなれば俺を置いて先に行ってくれ」
ミーシャは暫し逡巡した後に、その言葉に頷いた。それを見てジンはさらに闘気を振り絞って足を強化した。
「それじゃあ行くぞ!」
「うん!」
ジンとミーシャはさらにペースを上げて駆け始めた。それから丸一日走って、二人は漸くロヴォーラに辿り着いた。しかし街の入り口で検問をしていた兵士たちは、ジンとミーシャに気がつく様子はない。彼らの前に何人もの人々が並んで検閲を待っていたからだ。当然のことながら、ジンとミーシャは列に並ぶことなく、彼らを追い抜いて兵士たちに駆け寄った。周囲から非難の声が上がったが、そんなことに構っている余裕は二人にはなかった。
「ちょっとちょっと、ちゃんと順番は守ってよお二人さ……」
何も知らない兵士達の内の一人がそんなことを言ってきたが、それを無視してその場で最も位の高そうな兵士に二人は突進した。
「な、なんだね君たち?」
二人のただならぬ様子に狼狽えつつも、その兵士が質問をしてきた。ジンは荒い息をなんとか整えてから、事のあらましを簡潔に伝えた。兵士は初めは訝しげな表情を浮かべていたが、ジンの話を聞いていくうちにその顔は緊張味を帯びていった。
「それは事実なのかね?」
「ああ」
「分かった。いいだろう。中に入ることを許可する。今すぐギルドまでそのことを伝えに行ってくれ」
その言葉にジンとミーシャは頷くと、再び駆け出した。
「ぎゃああああああああああ!!!」
魔人の悲鳴が辺りに響き渡る。しかしジンの攻撃はまだ終わらなかった。そのまま相手の体を切り裂くように突き立てた右手を胸の中から、上方向へと動かした。気管を超え、喉を切り裂き、顎を砕き、舌を分断し、鼻を裂断し、頭蓋を破砕し、脳を二つに割き、頭皮を切り破った。
喉を切り裂かれた魔人は声すら出せず、ただよろめく。しかし倒れることはなかった。そうなることを理解していたジンは、再度『力』を込めてその手を振り下ろした。文字通り真っ二つになった魔人が倒れたのを確認した瞬間、ジンはさらにその『力』を黒炎へと変換させて、魔人へと放った。燃え上がる炎が周囲に人肉が焼ける匂いを漂わせる。それでも半分になった身体が炎の中でのたうち回るのをジンは観た。それで彼は素早く振り返ると、ハンゾーに向き直り、駆け寄った。
「じいさん、逃げるぞ!」
目の前の光景に覚悟を決めて、踏み込もうとしていたハンゾーは呆気にとられて身体が固まった。
「じいさん早く!」
「う、うむ」
しかしそこは伊達に歴戦の勇士では無い。すぐさまジンの言葉に頭を切り替えると、足に闘気を集中させて駆け出した。直後、二人の背後から光の線が方方に駆け巡った。これが、ジンが迷わず撤退を選んだ理由だった。
「身体が真っ二つにされてもまだ生きているとか、出鱈目にもほどがあるだろ!」
「全くです!」
ジンの言葉に頷きながらも足は止めない。二人は森の中を駆け抜け、背後から木々を貫通しながら近寄ってくる光線をなんとか躱しつつ、一気に森の外へと転がり出た。
流石にそこまでは光線は飛んでこなかった。それを確認した二人はようやく一息ついた。そんな二人の下に二つの人影が走り寄ってきた。当然のことながらミーシャとクロウだ。彼らは森の外から中の様子を伺っていたらしい。心配そうな顔を浮かべている二人を見て、ジンとハンゾーは立ち上がった。
「クロウ、今すぐ村に行き、村の連中をロヴォーラの街に避難させるぞ。魔人が現れた」
「っ、わかりました!」
ハンゾーの言葉にクロウは一つ頷くと駆け出した。
「ジン様、これはお返しいたします。それとあなたは姫様と共に街のギルドにこのことを報告してください。わしらも村人の避難が完了次第、そちらに向かいます」
そう言ってハンゾーはジンから貸し与えられた物を彼に手渡した。ジンはそれを受け取りながら、緊迫した表情を浮かべて頷いた。
「わかった。行くぞミーシャ!」
「う、うん」
魔人が出現したことに意識が向かっていたミーシャはハンゾーの言葉に違和感を感じつつも、それの正体には気がつかなかった。つい先ほどまで戦闘状態にあったジンは未だ興奮しており、さらに緊急事態であるため、ハンゾーの一言一句を気にも留めなかった。そして二人が駆け出したのを確認したハンゾーは先行したクロウを追いかけた。
~~~~~~~~~~~~~~
ハンゾーがクロウに追いついたのは村に着いてからだった。普段の彼ならばすぐにでも追いついたであろう。しかし戦闘による心身の疲労はあまりにも激しかった。
「全く、年は取りたく無いな」
ハンゾーは両手を膝について、息を切らせながらぼやいた。村では既に村人達が慌てふためいていた。クロウの指示により、何も持たずに街の方へと駆けて行く者もいれば、逃げる準備をしている者もいる。彼らはどうやら逃げるためには不要な家財道具をまとめているようだ。そんな呑気な行動を見て、ハンゾーは彼らを怒鳴りつけた。
「お前ら何をしている! さっさと逃げんか!」
「で、でも街に行っても、何も持ってないとどうにも……」
「このまま魔人が来て死にてえのか! いいからさっさと逃げろ、馬鹿野郎!」
ハンゾーのただならぬ様子に怯んだ何人かの村人達は、慌ててまとめた物だけを抱えて駆け出した。それを確認すると、ハンゾーは村長の住む家へと走る。家の前では、村長のヴィルドが混乱し、狼狽えていた。当然のことと言えば当然だ。魔人が出現するなど滅多に無いことだ。生きているうちに魔人と遭遇する人間の方が少ないだろう。
だが、今こうして魔人が近くに現れたことは事実なのだ。現実をすぐにでも受け入れて、村人達の避難指示をしてもらわねばハンゾーとしては困る。やはり時間というのは重要な要素だ。少しだけこの村に滞在したハンゾー達と、長年、村人達を導いてきたヴィルドとでは言葉の重みが全く違うのだ。
「ヴィルド殿! 何をしている、さっさと避難の手伝いをしろ!」
「ハンゾー殿! じ、事実なのですか、魔人が現れたというのは!?」
呑気な質問に思わず悪態を吐きそうになるも、なんとか堪えると真剣な顔を浮かべてハンゾーは頷いた。それを見たヴィルドはより一層恐怖の表情を浮かべて頭を抱えた。
「そんな、こんなことになるなんて!」
それを見たハンゾーはズンズンとヴィルドに近付くと、彼の頬を張った。
「お前がそんなんで村人達はどうする! このままいけば全員死ぬことになるのだぞ! いい加減目を覚まして、さっさと動け! この馬鹿野郎が!」
その言葉に叩かれた頬を抑えながら、ヴィルドはハッとした表情を浮かべた。そして彼の目に意志が宿った。
「ハンゾー殿、申し訳ない。その通りだ。悪いが手伝ってくれ」
ハンゾーは満足気に頷くとヴィルドとともに駆け出した。
「もちろんだ」
こうして二人は向こうで避難を促しているクロウに合流すると、村人達に呼びかけ始めた。
~~~~~~~~~~~~
少し離れていると言っても、村からロヴォーラの街まで歩いて1日ほどかかる。特に森を迂回するとなれば、かかる時間はその倍だ。しかし現状、森の中に魔人が潜んでいるため、迂回しない選択肢はジンとミーシャには無い。だからこそ二人は全速力で駆けていた。それでもおそらく今のペースでは、街に着くのは1日と少しかかるだろう。それは分かっているのだが、先程『力』を使った影響からか、ジンの体は非常に重かった。
「大丈夫? 少し休んだ方が……」
走りながらも、目に見えて疲れ切っているジンを見て、ミーシャが不安げな顔を浮かべる。しかし、ジンは首を振った。
「いや、いつあいつが動き出すかわからないんだ。そんな悠長にしていられない。いざとなれば俺を置いて先に行ってくれ」
ミーシャは暫し逡巡した後に、その言葉に頷いた。それを見てジンはさらに闘気を振り絞って足を強化した。
「それじゃあ行くぞ!」
「うん!」
ジンとミーシャはさらにペースを上げて駆け始めた。それから丸一日走って、二人は漸くロヴォーラに辿り着いた。しかし街の入り口で検問をしていた兵士たちは、ジンとミーシャに気がつく様子はない。彼らの前に何人もの人々が並んで検閲を待っていたからだ。当然のことながら、ジンとミーシャは列に並ぶことなく、彼らを追い抜いて兵士たちに駆け寄った。周囲から非難の声が上がったが、そんなことに構っている余裕は二人にはなかった。
「ちょっとちょっと、ちゃんと順番は守ってよお二人さ……」
何も知らない兵士達の内の一人がそんなことを言ってきたが、それを無視してその場で最も位の高そうな兵士に二人は突進した。
「な、なんだね君たち?」
二人のただならぬ様子に狼狽えつつも、その兵士が質問をしてきた。ジンは荒い息をなんとか整えてから、事のあらましを簡潔に伝えた。兵士は初めは訝しげな表情を浮かべていたが、ジンの話を聞いていくうちにその顔は緊張味を帯びていった。
「それは事実なのかね?」
「ああ」
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