134 / 273
第6章:ギルド編
結成
しおりを挟む
「何を言っておるんですか姫様!」
「そうですよ! 幾ら何でも急すぎますよ!」
「それにこんな何処の馬の骨とも分からない小僧を我々の仲間にするなど、何かあったらどうするのですか!」
「そうですそうです。姫様に何かあったらお師匠様も俺もお館様に殺されてしまいますよ!」
ミーシャに向けて喚き立てる2人に、彼女は何も言わずに、ただにこりと笑った。それを見て老人もクロウも諦めるしかなかった。小さい頃から面倒を見てきた彼女は、一度決めたことはよっぽどのことがない限り、変えることはない。その上、笑顔まで浮かべているということはもはや聞く耳持たないということだろう。
「はあああ、わかりました。それで、なぜこの小僧を仲間にしようと?」
その老人の質問に、ミーシャは自信満々に答えた。
「『勘』よ!」
「「……………」」
呆然とした表情をお付きの2人が浮かべ、次第に老人が顔を真っ赤にして吠えた。
「いい加減にしろ、この馬鹿姫が!!」
「あっ! 馬鹿って言った! 馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ!」
「馬鹿を馬鹿と言って何が悪い! どうしていつもいつも姫様はそう馬鹿なのですか!」
「また言った!」
「ええ、いくらでも言いましょう。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」
「じいの方がもっと馬鹿でしょ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」
「姫様、これは姫様が悪いですよ。いい加減、そこら辺の冒険者を『勘』でパーティーに誘うのはやめてください。毎度問題を収拾させられる俺たちの身にもなってくださいよ」
クロウの言葉は老人と程度の低い舌戦を繰り広げるミーシャには届かない。それが分かり、クロウはこめかみを押さえて深いため息をついた。
「あの~、そもそも俺、まだミーシャの申し出を受け入れたわけではないんだけど」
舌戦は繰り広げつつもジンに意識は向けていたらしい。鋭い目で老人はジンを睨みつけてくる。
「お主、姫様の申し出を断るだと?」
先ほどまでの荒い声ではなく空気を何度か下げるような冷たい声を発する。その凄みに少々怯みつつも、ジンははっきり言った。
「断るも何も、俺まだあんたらのパーティーのランクと人数以外何も教えられてないんだよ」
~~~~~~~~~~
「先ほどは失礼した。改めて、わしの名はハンゾー、そしてこっちが……」
「クロウだ。よろしく」
ようやく『じい』の名がわかった。どうやらハンゾーというらしい。
「して、お主の名は?」
「ジンだ」
「ふむ、ジンか。お主にはうちの馬鹿姫が迷惑をかけた。姫様に代わって謝罪させていただく」
礼儀正しく頭を下げるハンゾーに追従するようにクロウも頭を下げた。ミーシャは未だ腹を立てているのか席にはついているもののテーブルに右肘を乗せ、右拳を頬につけてそっぽを向いている。
「それで、姫様がお主に依頼したことだが、受けてはいただけないだろうか」
「さっきと言っていることが違うな」
「図々しいことは承知しているが、ミーシャ様はこうと決めたら決して曲げてはくれないのだ。わしらと組んでくれたら報酬も半々にしても良い」
確かに先ほどの様子を見るとその通りなのだろう。それに任務報酬を半分貰えるというのはジンにとって非常に魅力的な申し出だ。
「それに身なりから察するに、お主には金銭が必要なのであろう? わしらと組んでくれれば、最低限の装備も保障しよう」
これまた魅力的な話だ。だがそのせいで余計に怪しさが増してくる。
「確かにCランクの任務を受けられるようになるのも、装備の保障をしてくれるのもありがたいけど、なんでそこまでしてくれるんだ? 幾ら何でも収支が合わないだろ」
「それはお館様から姫様の望みに絶対従うことを俺たちは厳命されているからなんだ」
クロウが口を挟む。
「こりゃクロウ、余計なことを言うんでない」
「あ、すいませんお師匠様!」
何やら色々と裏のある話のようだ。あまり関わり合いにならない方がいいかもしれない。
「どうだろうか、受け入れてもらえんか?」
ジンは考える。少女は偽名を使い、姫様と呼ばれ、2人のお付きの者を引き連れている。しかもどちらもかなりの強者だ。また、少女の性格には少々難があり、それなのにハンゾーもクロウも絶対に服従しなければならないのだと言う。巻き込まれることは必至だ。その上、先ほど何度も似たような理由で冒険者を雇ったというようなことを言っていた。おそらく何らかの問題をミーシャが起こして、彼らにパーティーを抜けられたようだ。
どう考えても、申し出を受け入れるべきではない。しかし、彼は今、金を稼ぐことが急務である。こんな好条件を受けなければ、確実にエイジエンに行くために必要な路銀を稼ぐのに時間がかかり過ぎる。しばしの逡巡の後、ジンは結論を出した。
「わかった、その条件でならパーティーに入るよ」
その言葉にハンゾーとクロウが安堵の息を漏らした。
「ほんと!? やった、ありがとうジン!!」
バッと身を乗り出してジンの手掴むとブンブンと縦に振った。
「こらこら姫様はしたないですぞ」
「えへへ、まあいいじゃん。あ、でもでも組む前に一つだけ、あたしには超イケメンで金持ちの彼氏がいるから勘違いしない様にねっ」
ジンは思わずミーシャの言葉にイラっとする。ハンゾーとクロウも深いため息をついた。
「ミーシャ様、本当に頼みますから、あのお方をそのように表現しないでください」
「えー、でも嘘ではないでしょ。あいつ、顔もいいし、金持ちじゃん」
「姫様、さすがにお師匠様の言う通りですよ。今のお言葉をあの方がお聞きになったら、多分泣きますよ」
「あー、確かに。じゃあ訂正、あたしには見目麗しく、資産家の殿方がいるので、勘違いはしないように」
「……姫様、何も変わっておりませんぞ」
「えー」
不満そうに頬をぷくりと膨らませるミーシャに、ジンははっきりと断言した。
「そもそも、勘違いなんかしねえよ」
その言葉にミーシャは一層不満そうな顔を浮かべた。
「むっ、なんかそこまで断言されると傷つくんですけど」
「めんどくさい女だな、じゃあなんて言えばいいんだよ」
ああ言えばこう言う、という彼女の反応に、すでに話を受けたことを後悔し始めた。
「そこは『そんな、この世の天女であらせられるミーシャ様に懸想することができないなんて! こんな人生になんの意味がありましょうか、いや、ない!』ぐらいは言って欲しい」
「言うわけねえだろ!」
そんなやりとりにもう何度目になるか分からない深いため息が、ハンゾーとクロウの口から漏れ出た。
~~~~~~~~~
「それで、具体的な話なんだけどあんたらのこともう少し教えてくれないか?せめてどんなことが得意とか、パーティーでの役割とか、あとそもそもパーティーの名前とか」
「そうだな。わしらは『カンナヅキ』と言う。武器を見て分かるかも知れんが、このクロウが前衛を、わしが前衛または中衛を、そして姫様が後衛をしておる」
武器を見ても、どうしてもハンゾーの持つ剣では中距離からの攻撃は出来ない気がするが、おそらく何かしらの手段を持っているのだろう。
「それじゃあ、あんたらの関係について聞いてもいいか?」
「先ほどの様子を見ていれば分かると思うが、この姫様はさる高貴な御方のご息女でな、わしらはその護衛ということだ」
「じゃあ、なんでそんなに偉い奴が普通に冒険者やってるんだ?」
「それはねー、お父様と喧嘩しちゃって家から飛び出したんだけど、せっかくなら全力で行けるところまで行ってみようかなぁ、って思ってたらいつの間にかこうなってた、あはっ」
ケラケラと笑いながら言うミーシャを見てハンゾーの額に青筋が浮かび上がった。
「笑い話ではありませんぞ! よもや国まで出ていくとは! 常識知らずもいい加減にして下され!」
「まあまあ、お師匠様、落ち着いて下さい。そんな感じで、俺たちが追いついたはいいんですけど、姫様が路銀を使い切りましてね。それで故郷に戻るための金策に、冒険者になったのですよ」
とんでもない理由にジンも頭が痛くなってきた。
「それでそちらはどんな理由で冒険者に?」
後ろで舌戦を繰り広げ始めたミーシャとハンゾーを無視してクロウが話を進める。
「同じく金のためかな。実は情けない話だけど財布を掏られてね。俺もこれ以上旅を続けられなくなったんだよ」
「ほお、それは災難だったね。まあせっかくだし、旅は道連れということで一緒に頑張ろう。ちなみにどこに行く予定だったんだ?」
「東の方に用事がね。そっちは?」
「それは偶然! 俺たちも大陸の東の方まで行くつもりなんだよ」
奇妙な偶然にジンは不思議に思う。
「どうやらしばらく一緒になりそうだ。これからよろしくな」
「ああ、よろしく」
差し伸べてきた手をジンは硬く掴んだ。
~~~~~~~~~~~
「それで『勘』とのことでしたが、彼がそうだと?」
ジンと別れてから、ミーシャたちは借りている宿屋の一室に集まっていた。
「うん、絶対ね!」
「でもミコト様の『勘』は外れることが多いではないですか。また今回もこの前の男と同じでハズレなのでは?」
「もー、少しは巫女であるあたしの発言を信じなさいよね。今度は今までと違って、こうビビビッてきたのよ。それにほら、肖像画の叔母様と少し似てなかった? 年の頃だってそれぐらいじゃない? あと名前だって、あたしたちの国の名前っぽかったし」
「それは……そうかも知れませんが」
ハンゾーは記憶の中にある美しい少女を思い出す。次いでに、今尚殺したいほどのあの男の顔も。自分が忠義を捧げた少女を攫って行った男だ。駆け落ちしたということは分かっているのだが、どうしても許せない。だが確かにどことなく似ている気がしなくもない。
「いや、やはりあのお方と、あのクソ野郎のご子息様ではないとわしは思います。あの髪色はどちらにも似ておりませぬ。あのお方の髪色は銀に近く、あのクソ男は黒に近かった。しかしあの小僧の髪は赤茶色だ」
「んー、そうかなぁ?似てると思うんだけどなぁ、染めたとかじゃないの?」
「いや、瞳の色すら違いましたから」
「まあいいじゃないですか。あいつも俺たちと同じで東まで行くつもりらしいから、しばらく一緒に居られるみたいなんで、おいおい調べていくって感じで」
「そうよそうよ、これからじっくり調べればいいのよ! ところでそろそろお腹空かない?」
先ほどの勢いとは打って変わって、恥ずかしそうな顔を浮かべながら、ミーシャ、ミコトはお腹を押さえた。
「先ほど何人前も食べたではないですか!」
「うるさいわね~、空いたんだから仕方ないじゃない!」
ギャアギャアと喧嘩を始めたミコトとハンゾーを眺めながらクロウは財布の紐を解いて中を覗く。いくら任務をこなしても、一向にたまらない路銀に、彼の頭は痛み始めていた。
「そうですよ! 幾ら何でも急すぎますよ!」
「それにこんな何処の馬の骨とも分からない小僧を我々の仲間にするなど、何かあったらどうするのですか!」
「そうですそうです。姫様に何かあったらお師匠様も俺もお館様に殺されてしまいますよ!」
ミーシャに向けて喚き立てる2人に、彼女は何も言わずに、ただにこりと笑った。それを見て老人もクロウも諦めるしかなかった。小さい頃から面倒を見てきた彼女は、一度決めたことはよっぽどのことがない限り、変えることはない。その上、笑顔まで浮かべているということはもはや聞く耳持たないということだろう。
「はあああ、わかりました。それで、なぜこの小僧を仲間にしようと?」
その老人の質問に、ミーシャは自信満々に答えた。
「『勘』よ!」
「「……………」」
呆然とした表情をお付きの2人が浮かべ、次第に老人が顔を真っ赤にして吠えた。
「いい加減にしろ、この馬鹿姫が!!」
「あっ! 馬鹿って言った! 馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ!」
「馬鹿を馬鹿と言って何が悪い! どうしていつもいつも姫様はそう馬鹿なのですか!」
「また言った!」
「ええ、いくらでも言いましょう。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」
「じいの方がもっと馬鹿でしょ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」
「姫様、これは姫様が悪いですよ。いい加減、そこら辺の冒険者を『勘』でパーティーに誘うのはやめてください。毎度問題を収拾させられる俺たちの身にもなってくださいよ」
クロウの言葉は老人と程度の低い舌戦を繰り広げるミーシャには届かない。それが分かり、クロウはこめかみを押さえて深いため息をついた。
「あの~、そもそも俺、まだミーシャの申し出を受け入れたわけではないんだけど」
舌戦は繰り広げつつもジンに意識は向けていたらしい。鋭い目で老人はジンを睨みつけてくる。
「お主、姫様の申し出を断るだと?」
先ほどまでの荒い声ではなく空気を何度か下げるような冷たい声を発する。その凄みに少々怯みつつも、ジンははっきり言った。
「断るも何も、俺まだあんたらのパーティーのランクと人数以外何も教えられてないんだよ」
~~~~~~~~~~
「先ほどは失礼した。改めて、わしの名はハンゾー、そしてこっちが……」
「クロウだ。よろしく」
ようやく『じい』の名がわかった。どうやらハンゾーというらしい。
「して、お主の名は?」
「ジンだ」
「ふむ、ジンか。お主にはうちの馬鹿姫が迷惑をかけた。姫様に代わって謝罪させていただく」
礼儀正しく頭を下げるハンゾーに追従するようにクロウも頭を下げた。ミーシャは未だ腹を立てているのか席にはついているもののテーブルに右肘を乗せ、右拳を頬につけてそっぽを向いている。
「それで、姫様がお主に依頼したことだが、受けてはいただけないだろうか」
「さっきと言っていることが違うな」
「図々しいことは承知しているが、ミーシャ様はこうと決めたら決して曲げてはくれないのだ。わしらと組んでくれたら報酬も半々にしても良い」
確かに先ほどの様子を見るとその通りなのだろう。それに任務報酬を半分貰えるというのはジンにとって非常に魅力的な申し出だ。
「それに身なりから察するに、お主には金銭が必要なのであろう? わしらと組んでくれれば、最低限の装備も保障しよう」
これまた魅力的な話だ。だがそのせいで余計に怪しさが増してくる。
「確かにCランクの任務を受けられるようになるのも、装備の保障をしてくれるのもありがたいけど、なんでそこまでしてくれるんだ? 幾ら何でも収支が合わないだろ」
「それはお館様から姫様の望みに絶対従うことを俺たちは厳命されているからなんだ」
クロウが口を挟む。
「こりゃクロウ、余計なことを言うんでない」
「あ、すいませんお師匠様!」
何やら色々と裏のある話のようだ。あまり関わり合いにならない方がいいかもしれない。
「どうだろうか、受け入れてもらえんか?」
ジンは考える。少女は偽名を使い、姫様と呼ばれ、2人のお付きの者を引き連れている。しかもどちらもかなりの強者だ。また、少女の性格には少々難があり、それなのにハンゾーもクロウも絶対に服従しなければならないのだと言う。巻き込まれることは必至だ。その上、先ほど何度も似たような理由で冒険者を雇ったというようなことを言っていた。おそらく何らかの問題をミーシャが起こして、彼らにパーティーを抜けられたようだ。
どう考えても、申し出を受け入れるべきではない。しかし、彼は今、金を稼ぐことが急務である。こんな好条件を受けなければ、確実にエイジエンに行くために必要な路銀を稼ぐのに時間がかかり過ぎる。しばしの逡巡の後、ジンは結論を出した。
「わかった、その条件でならパーティーに入るよ」
その言葉にハンゾーとクロウが安堵の息を漏らした。
「ほんと!? やった、ありがとうジン!!」
バッと身を乗り出してジンの手掴むとブンブンと縦に振った。
「こらこら姫様はしたないですぞ」
「えへへ、まあいいじゃん。あ、でもでも組む前に一つだけ、あたしには超イケメンで金持ちの彼氏がいるから勘違いしない様にねっ」
ジンは思わずミーシャの言葉にイラっとする。ハンゾーとクロウも深いため息をついた。
「ミーシャ様、本当に頼みますから、あのお方をそのように表現しないでください」
「えー、でも嘘ではないでしょ。あいつ、顔もいいし、金持ちじゃん」
「姫様、さすがにお師匠様の言う通りですよ。今のお言葉をあの方がお聞きになったら、多分泣きますよ」
「あー、確かに。じゃあ訂正、あたしには見目麗しく、資産家の殿方がいるので、勘違いはしないように」
「……姫様、何も変わっておりませんぞ」
「えー」
不満そうに頬をぷくりと膨らませるミーシャに、ジンははっきりと断言した。
「そもそも、勘違いなんかしねえよ」
その言葉にミーシャは一層不満そうな顔を浮かべた。
「むっ、なんかそこまで断言されると傷つくんですけど」
「めんどくさい女だな、じゃあなんて言えばいいんだよ」
ああ言えばこう言う、という彼女の反応に、すでに話を受けたことを後悔し始めた。
「そこは『そんな、この世の天女であらせられるミーシャ様に懸想することができないなんて! こんな人生になんの意味がありましょうか、いや、ない!』ぐらいは言って欲しい」
「言うわけねえだろ!」
そんなやりとりにもう何度目になるか分からない深いため息が、ハンゾーとクロウの口から漏れ出た。
~~~~~~~~~
「それで、具体的な話なんだけどあんたらのこともう少し教えてくれないか?せめてどんなことが得意とか、パーティーでの役割とか、あとそもそもパーティーの名前とか」
「そうだな。わしらは『カンナヅキ』と言う。武器を見て分かるかも知れんが、このクロウが前衛を、わしが前衛または中衛を、そして姫様が後衛をしておる」
武器を見ても、どうしてもハンゾーの持つ剣では中距離からの攻撃は出来ない気がするが、おそらく何かしらの手段を持っているのだろう。
「それじゃあ、あんたらの関係について聞いてもいいか?」
「先ほどの様子を見ていれば分かると思うが、この姫様はさる高貴な御方のご息女でな、わしらはその護衛ということだ」
「じゃあ、なんでそんなに偉い奴が普通に冒険者やってるんだ?」
「それはねー、お父様と喧嘩しちゃって家から飛び出したんだけど、せっかくなら全力で行けるところまで行ってみようかなぁ、って思ってたらいつの間にかこうなってた、あはっ」
ケラケラと笑いながら言うミーシャを見てハンゾーの額に青筋が浮かび上がった。
「笑い話ではありませんぞ! よもや国まで出ていくとは! 常識知らずもいい加減にして下され!」
「まあまあ、お師匠様、落ち着いて下さい。そんな感じで、俺たちが追いついたはいいんですけど、姫様が路銀を使い切りましてね。それで故郷に戻るための金策に、冒険者になったのですよ」
とんでもない理由にジンも頭が痛くなってきた。
「それでそちらはどんな理由で冒険者に?」
後ろで舌戦を繰り広げ始めたミーシャとハンゾーを無視してクロウが話を進める。
「同じく金のためかな。実は情けない話だけど財布を掏られてね。俺もこれ以上旅を続けられなくなったんだよ」
「ほお、それは災難だったね。まあせっかくだし、旅は道連れということで一緒に頑張ろう。ちなみにどこに行く予定だったんだ?」
「東の方に用事がね。そっちは?」
「それは偶然! 俺たちも大陸の東の方まで行くつもりなんだよ」
奇妙な偶然にジンは不思議に思う。
「どうやらしばらく一緒になりそうだ。これからよろしくな」
「ああ、よろしく」
差し伸べてきた手をジンは硬く掴んだ。
~~~~~~~~~~~
「それで『勘』とのことでしたが、彼がそうだと?」
ジンと別れてから、ミーシャたちは借りている宿屋の一室に集まっていた。
「うん、絶対ね!」
「でもミコト様の『勘』は外れることが多いではないですか。また今回もこの前の男と同じでハズレなのでは?」
「もー、少しは巫女であるあたしの発言を信じなさいよね。今度は今までと違って、こうビビビッてきたのよ。それにほら、肖像画の叔母様と少し似てなかった? 年の頃だってそれぐらいじゃない? あと名前だって、あたしたちの国の名前っぽかったし」
「それは……そうかも知れませんが」
ハンゾーは記憶の中にある美しい少女を思い出す。次いでに、今尚殺したいほどのあの男の顔も。自分が忠義を捧げた少女を攫って行った男だ。駆け落ちしたということは分かっているのだが、どうしても許せない。だが確かにどことなく似ている気がしなくもない。
「いや、やはりあのお方と、あのクソ野郎のご子息様ではないとわしは思います。あの髪色はどちらにも似ておりませぬ。あのお方の髪色は銀に近く、あのクソ男は黒に近かった。しかしあの小僧の髪は赤茶色だ」
「んー、そうかなぁ?似てると思うんだけどなぁ、染めたとかじゃないの?」
「いや、瞳の色すら違いましたから」
「まあいいじゃないですか。あいつも俺たちと同じで東まで行くつもりらしいから、しばらく一緒に居られるみたいなんで、おいおい調べていくって感じで」
「そうよそうよ、これからじっくり調べればいいのよ! ところでそろそろお腹空かない?」
先ほどの勢いとは打って変わって、恥ずかしそうな顔を浮かべながら、ミーシャ、ミコトはお腹を押さえた。
「先ほど何人前も食べたではないですか!」
「うるさいわね~、空いたんだから仕方ないじゃない!」
ギャアギャアと喧嘩を始めたミコトとハンゾーを眺めながらクロウは財布の紐を解いて中を覗く。いくら任務をこなしても、一向にたまらない路銀に、彼の頭は痛み始めていた。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる