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第6章:ギルド編
冒険者登録
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荷物に囲まれ、ゴトゴトと揺れる居心地の悪い馬車に乗って、ボーッと空を見上げていると前から声をかけられた。
「おう坊主、おめ街に行ったら何すんだっぺ?」
御者台に座っている老人はこの馬車の持ち主である、フレッドだ。とぼとぼと道を歩いていたジンに親切にも声をかけてくれた上に、行く方向が同じだからと馬車に乗せてくれたのだ。
「んー、ギルドで冒険者登録しようと思って」
「はー、ほれはなじだべ?」
「ほれ? なじ?」
「理由だべ」
「ああ、金掏られてね。稼がなきゃいけないんだ」
「ほお、ほれはほれはとんだごどで。ま、しゃーんめ、頑張っぺよ」
「はは、ありがとう」
訛りが強いので先ほどから何度も話しかけてきてくるのだが、なかなか意味がわからない。ただ心配してくれているのは分かる。
それからしばらく老人とのコミュニケーションに悪戦苦闘しているうちに、遠くの方に街、ロヴォーラを囲う外壁が見えてきた。
~~~~~~~~~~~
「したっけがんばっぺよ坊主」
「ありがとう爺さん」
街の中に入るとフレッドと別れて、彼から場所を教わったギルドを目指す。街の活気は学校のあったオリジンほどではないがなかなかだ。道の両側にある店先には様々な食べ物や品物が販売されている。空腹の彼を襲う肉の焼けるいい匂いや、道ゆく人々が持つ食べ物に目を向ける。
金を落とした時に備えて隠し持っていた虎の子の硬貨の入った袋を覗き込み、諦めた。ギルドに登録する際に登録料がかかるのだそうだ。フレッドはそれがいくらか分からないそうなので無駄遣いはできない。仕方なく目を逸らすと、ギルドへと足を早めた。
すると前方にようやくギルドの看板が見えてきた。女神フィリアを模した女性が剣を持った絵が彫られた木製の看板が入り口にぶら下がっている。ギルドの大きなスイングドアを押し開けると中には見るからに屈強な男たちや装備を整えた女性たちがいた。ある者は最奥にあるカウンターの先にいる職員と話していたり、ある者は収集物をおそらく換金所らしき場所で渡していたり、ある者はいくつも並べられた長テーブルについて酒や料理を口に入れている。どうやらギルドは食事場としての役割も兼ねているようだ。
それらを無視してまっすぐカウンターを目指す。5人の職員が冒険者達の応対をしていた。そのうちの4人はそれぞれ雰囲気の違ったなかなか美人な女性で、なぜか一人だけどう見ても冒険者にしか見えない厳つい男性がいた。案の定ほとんどの男冒険者は4人の女性職員に群がっており、男のところに並んでいるのは数名だ。
ジンは迷わず男の職員の列に並ぶ。さっさと登録を終わらせたかったからだ。金を稼ぐために可能な限り早くクエストを始めたい。
「次!」
すぐにジンの番になり、男の前に立つと彼はねめつける様にジンを見てきた。ジンも素早くネームプレートに目を落とすと、目の前の男はどうやらエミリオという名前の様だ。
「要件は?」
ぶっきらぼうな言葉に面食らいつつも、ジンは目的を伝えた。
「ふん、登録か。ちょっと待て」
そう言うと男はカウンターの下に手を伸ばしてゴソゴソと何かを探した。そして見つけたそれをバンッとカウンターの上に叩きつけた。
「これに必要事項を書け」
「あ、ああ」
その言葉に従って用紙に目を落とし、必要事項を埋めていく。その間に男はさらにカウンターの下から手の平大のカードを取り出した。
「これにサインしろ」
「わかった」
それが終わると『初めてのギルド』と書かれた本を手渡してきた。
「これで登録は終わりだ。お前は最低ランクのFからスタートだ。受けられるクエストの難易度は単独なら一つ上まで、チームならそのチームが受けられるランクのものまでだ。あとはその本を読め」
そこまで言うとエミリオは口を閉じた。どうやらこれ以上話すつもりは無い様だ。
「あの、一つだけ聞きたいんだけど、狩った動物の買取ってここでもできるの?」
ジンの質問にエミリオは面倒臭そうにギルドの一箇所を指差した。先ほどジンが換金所だと推測したところだ。どうやら正解だったらしい。
「……ありがとう」
「ふん、次!」
~~~~~~~~~~~
換金所でここまで来るのに狩った小動物の毛皮や希少部位と金銭を交換してようやく人心地つき、最も安い定食を購入し、その場で受け取り、席につこうとして、突如出てきた足に引っかかって盛大に転んだ。
「あああああああああああ!!」
ジンの悲鳴の様な、泣きそうな声が響いた。
「ははは、前に気をつけなルーキー、なっ!?」
何事かと周囲がジンの方に目を向けると、彼は足を出した男に掴みかかっていた。
「この野郎! 俺の飯を、俺の飯をおおおお!」
あまりの剣幕にふざけて足を出した男とその仲間たちの方が目を丸くしている。なにせ2メートル近くあるその大男が持ち上げ始めたのだ。とんでもない膂力である。
「お、おい悪かったって。じょ、冗談だって!」
「おい離せ、離せよ!」
大男の仲間たちが慌てて駆け寄ってジンを止めようとすると、今度は恐ろしいことに片手で大男を掴んで睨みつけたまま、近づいてきた男達を片手で迎撃し始めた。その都度ガクガクと大男を掴んだ手が動き大男は苦しさに顔を歪める。
「い、いい加減にしろよ! そいつ死んじまうよ!」
「はっ!」
その言葉にようやくジンは現実に戻った。そしてパッと大男の胸ぐらから手を放した。ドスンと音を立てて男は尻餅をついた。
その成り行きを周囲の人間は驚嘆の顔を浮かべて観察して、やがて自分のやっていたことへと目を戻していった。どうやらこの程度の小競り合いは荒くれ者の集まるギルドでは日常茶飯事らしい。
「おい、大丈夫か、おい! ダメだ気絶してやがる……」
男の仲間の一人が大男の様子を確認して首を振った。
「てめえ、よくもタウルを!」
怒りの籠った目でジンを睨みつける彼に対してジンは手を差し出す。
「んっ」
「な、なんだよその手は?」
先ほどのジンの力を見て若干恐れているのか、目に灯る怒りの感情にわずかに怯えをのぞかせる。
「飯代」
「はあ?」
「お前の仲間のせいで俺は飯が食べられなかった。だから飯代を寄越せ」
今にも殴り掛かるのではないかというほどの凄みを見せつけるジンに、その男は今度は完全に怯んだ。
「あ、ああ悪かった」
そう言ってジンに、彼が食べようとしていた定食の代金を渡した。しかしジンはなぜか手を引っ込めない。
「んっ」
「な、なんだよ渡したじゃねえか!」
「足りない」
「はあ!? お前が頼んだのは一番安いやつだろ?それで十分じゃねえか!」
「違う。俺が頼んだのは一番高いやつだ」
一番高い定食と最安値の定食では、銀貨数枚分もの開きがある。床に散らばっている食べ物の種類からしてどう見ても、彼が頼んだのは一番安い定食であった。
「嘘言ってんじゃねえよ!」
「俺が頼んだのは一番高いやつだ」
「いや、だから……」
「俺が頼んだのは一番高いやつだ」
ジンの目からどんどん光が消えていく。その代わりに殺意が瞳の奥で湧き上がり始めている様に男には感じられた。
「お、おい。いいから渡しとけって」
「わ、わかったよ。これでいいんだろ!」
そう言うと男は硬貨をしまっていた袋から、さらに数枚取り出してジンに手渡した。
「毎度!」
ジンは先ほどの雰囲気をガラリと変えて、男たちに笑いかけると再度、今度は一番高い定食を買いに向かった。
「若ぇくせにやべぇやつだな……」
「ああ、ああいうのは絶対に関わっちゃいけないタイプだ」
今だ気絶している仲間の大男を床に放置して、ジンに目を向けて小声で囁き合った。
~~~~~~~~~~
「あいつ、なかなかいいかも」
そんな彼らの様子を興味深そうに見つめる、目深にフードをかぶって顔を隠した人物がいた。高く、少し幼さが残った声からしておそらくはまだ10代半ばの少女であろう。
フードを被ったその少女の目の前には、どう見ても成人男性10人分はあろうかと言うほどの大量の料理が並んでいた。少女はそれらをあっという間に食べ終えると、立ち上がってジンの方へと歩き出した。
「おう坊主、おめ街に行ったら何すんだっぺ?」
御者台に座っている老人はこの馬車の持ち主である、フレッドだ。とぼとぼと道を歩いていたジンに親切にも声をかけてくれた上に、行く方向が同じだからと馬車に乗せてくれたのだ。
「んー、ギルドで冒険者登録しようと思って」
「はー、ほれはなじだべ?」
「ほれ? なじ?」
「理由だべ」
「ああ、金掏られてね。稼がなきゃいけないんだ」
「ほお、ほれはほれはとんだごどで。ま、しゃーんめ、頑張っぺよ」
「はは、ありがとう」
訛りが強いので先ほどから何度も話しかけてきてくるのだが、なかなか意味がわからない。ただ心配してくれているのは分かる。
それからしばらく老人とのコミュニケーションに悪戦苦闘しているうちに、遠くの方に街、ロヴォーラを囲う外壁が見えてきた。
~~~~~~~~~~~
「したっけがんばっぺよ坊主」
「ありがとう爺さん」
街の中に入るとフレッドと別れて、彼から場所を教わったギルドを目指す。街の活気は学校のあったオリジンほどではないがなかなかだ。道の両側にある店先には様々な食べ物や品物が販売されている。空腹の彼を襲う肉の焼けるいい匂いや、道ゆく人々が持つ食べ物に目を向ける。
金を落とした時に備えて隠し持っていた虎の子の硬貨の入った袋を覗き込み、諦めた。ギルドに登録する際に登録料がかかるのだそうだ。フレッドはそれがいくらか分からないそうなので無駄遣いはできない。仕方なく目を逸らすと、ギルドへと足を早めた。
すると前方にようやくギルドの看板が見えてきた。女神フィリアを模した女性が剣を持った絵が彫られた木製の看板が入り口にぶら下がっている。ギルドの大きなスイングドアを押し開けると中には見るからに屈強な男たちや装備を整えた女性たちがいた。ある者は最奥にあるカウンターの先にいる職員と話していたり、ある者は収集物をおそらく換金所らしき場所で渡していたり、ある者はいくつも並べられた長テーブルについて酒や料理を口に入れている。どうやらギルドは食事場としての役割も兼ねているようだ。
それらを無視してまっすぐカウンターを目指す。5人の職員が冒険者達の応対をしていた。そのうちの4人はそれぞれ雰囲気の違ったなかなか美人な女性で、なぜか一人だけどう見ても冒険者にしか見えない厳つい男性がいた。案の定ほとんどの男冒険者は4人の女性職員に群がっており、男のところに並んでいるのは数名だ。
ジンは迷わず男の職員の列に並ぶ。さっさと登録を終わらせたかったからだ。金を稼ぐために可能な限り早くクエストを始めたい。
「次!」
すぐにジンの番になり、男の前に立つと彼はねめつける様にジンを見てきた。ジンも素早くネームプレートに目を落とすと、目の前の男はどうやらエミリオという名前の様だ。
「要件は?」
ぶっきらぼうな言葉に面食らいつつも、ジンは目的を伝えた。
「ふん、登録か。ちょっと待て」
そう言うと男はカウンターの下に手を伸ばしてゴソゴソと何かを探した。そして見つけたそれをバンッとカウンターの上に叩きつけた。
「これに必要事項を書け」
「あ、ああ」
その言葉に従って用紙に目を落とし、必要事項を埋めていく。その間に男はさらにカウンターの下から手の平大のカードを取り出した。
「これにサインしろ」
「わかった」
それが終わると『初めてのギルド』と書かれた本を手渡してきた。
「これで登録は終わりだ。お前は最低ランクのFからスタートだ。受けられるクエストの難易度は単独なら一つ上まで、チームならそのチームが受けられるランクのものまでだ。あとはその本を読め」
そこまで言うとエミリオは口を閉じた。どうやらこれ以上話すつもりは無い様だ。
「あの、一つだけ聞きたいんだけど、狩った動物の買取ってここでもできるの?」
ジンの質問にエミリオは面倒臭そうにギルドの一箇所を指差した。先ほどジンが換金所だと推測したところだ。どうやら正解だったらしい。
「……ありがとう」
「ふん、次!」
~~~~~~~~~~~
換金所でここまで来るのに狩った小動物の毛皮や希少部位と金銭を交換してようやく人心地つき、最も安い定食を購入し、その場で受け取り、席につこうとして、突如出てきた足に引っかかって盛大に転んだ。
「あああああああああああ!!」
ジンの悲鳴の様な、泣きそうな声が響いた。
「ははは、前に気をつけなルーキー、なっ!?」
何事かと周囲がジンの方に目を向けると、彼は足を出した男に掴みかかっていた。
「この野郎! 俺の飯を、俺の飯をおおおお!」
あまりの剣幕にふざけて足を出した男とその仲間たちの方が目を丸くしている。なにせ2メートル近くあるその大男が持ち上げ始めたのだ。とんでもない膂力である。
「お、おい悪かったって。じょ、冗談だって!」
「おい離せ、離せよ!」
大男の仲間たちが慌てて駆け寄ってジンを止めようとすると、今度は恐ろしいことに片手で大男を掴んで睨みつけたまま、近づいてきた男達を片手で迎撃し始めた。その都度ガクガクと大男を掴んだ手が動き大男は苦しさに顔を歪める。
「い、いい加減にしろよ! そいつ死んじまうよ!」
「はっ!」
その言葉にようやくジンは現実に戻った。そしてパッと大男の胸ぐらから手を放した。ドスンと音を立てて男は尻餅をついた。
その成り行きを周囲の人間は驚嘆の顔を浮かべて観察して、やがて自分のやっていたことへと目を戻していった。どうやらこの程度の小競り合いは荒くれ者の集まるギルドでは日常茶飯事らしい。
「おい、大丈夫か、おい! ダメだ気絶してやがる……」
男の仲間の一人が大男の様子を確認して首を振った。
「てめえ、よくもタウルを!」
怒りの籠った目でジンを睨みつける彼に対してジンは手を差し出す。
「んっ」
「な、なんだよその手は?」
先ほどのジンの力を見て若干恐れているのか、目に灯る怒りの感情にわずかに怯えをのぞかせる。
「飯代」
「はあ?」
「お前の仲間のせいで俺は飯が食べられなかった。だから飯代を寄越せ」
今にも殴り掛かるのではないかというほどの凄みを見せつけるジンに、その男は今度は完全に怯んだ。
「あ、ああ悪かった」
そう言ってジンに、彼が食べようとしていた定食の代金を渡した。しかしジンはなぜか手を引っ込めない。
「んっ」
「な、なんだよ渡したじゃねえか!」
「足りない」
「はあ!? お前が頼んだのは一番安いやつだろ?それで十分じゃねえか!」
「違う。俺が頼んだのは一番高いやつだ」
一番高い定食と最安値の定食では、銀貨数枚分もの開きがある。床に散らばっている食べ物の種類からしてどう見ても、彼が頼んだのは一番安い定食であった。
「嘘言ってんじゃねえよ!」
「俺が頼んだのは一番高いやつだ」
「いや、だから……」
「俺が頼んだのは一番高いやつだ」
ジンの目からどんどん光が消えていく。その代わりに殺意が瞳の奥で湧き上がり始めている様に男には感じられた。
「お、おい。いいから渡しとけって」
「わ、わかったよ。これでいいんだろ!」
そう言うと男は硬貨をしまっていた袋から、さらに数枚取り出してジンに手渡した。
「毎度!」
ジンは先ほどの雰囲気をガラリと変えて、男たちに笑いかけると再度、今度は一番高い定食を買いに向かった。
「若ぇくせにやべぇやつだな……」
「ああ、ああいうのは絶対に関わっちゃいけないタイプだ」
今だ気絶している仲間の大男を床に放置して、ジンに目を向けて小声で囁き合った。
~~~~~~~~~~
「あいつ、なかなかいいかも」
そんな彼らの様子を興味深そうに見つめる、目深にフードをかぶって顔を隠した人物がいた。高く、少し幼さが残った声からしておそらくはまだ10代半ばの少女であろう。
フードを被ったその少女の目の前には、どう見ても成人男性10人分はあろうかと言うほどの大量の料理が並んでいた。少女はそれらをあっという間に食べ終えると、立ち上がってジンの方へと歩き出した。
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