World End

nao

文字の大きさ
129 / 273
第5章:ファレス武闘祭

エピローグ1

しおりを挟む
「死傷者多数、精神に異常を来した者複数名。そして龍魔王の出現か。幸運と思うべきか、不幸と思うべきか」

 シオンの父、グルードは執務室で独りごちていた。目の前には多くの報告書があり、ここ一週間、宮殿にあるこの部屋に缶詰状態であった。もう3日は眠っていない。疲労で隈のできた目で次の報告書に目を落とすとそこに書かれた内容を見て、また頭を抱えたくなった。

「シオン・フィル・ルグレには光属性にも適正が見受けられ、使徒へと覚醒する可能性が高い……か」

 自分には大して才能がないのに、なぜこれほどの才を娘が手に入れてしまったのか。子煩悩だと自覚しているグルードにとって、娘の才能を心から喜んでいる反面、宰相である彼は使徒が兵器としての側面を持っていることも知っている。その上、四魔人のうちの一体、『龍魔』まで現れた。このままでは確実に娘は戦線に送られるだろう。この報告書を上に提出する前に揉み消せればどれだけいいだろうか。そんな無駄なことを遠い目をしながら考える。

「はぁぁぁぁぁ」

 もう何度目になるかわからない重い溜息してから、その下にあるもう一枚の紙に目を落とす。そこには一人の少年について書かれていた。この少年も彼が頭を悩ませる原因の一つだ。今までに記録されていない未知の力を使った。そのことから魔人の可能性があるとして検査してわかったのは、彼が『加護なし』であるということだった。それではなぜ法術が使えたのか?意味がわからない。その上個人的に身辺調査をした結果、学校に入る以前の彼を知る者がいないのだ。まさに正体不明だ。

 このことをイース王に報告した際、ひとしきり笑った後に放っておけと言われた。何か策があるように見られた。

「全く、王は言葉が少なすぎる」

 なにを考えているのか全く理解できない。危険因子は早々に排除すべきではないのか。頭に血が上ってくるのがわかる。

「いや、少々感情的になり過ぎているか」

 深呼吸して再度少年についての報告書に目を落としてから、ある一文を見てぐしゃりと握りつぶした。

『シオン・フィル・ルグレとの関係について……』

「うちの娘に指一本でも触れたら殺す」

 そう言ってから、握りつぶした報告書を丁寧に直して、娘のお見舞いついでに救護院で見た少年の顔を思い浮かべる。妙に既視感を感じさせる顔だった。まだ娘もその少年も目が覚めていないので、詳しい話を聞くことができない。果たしてシオンは大丈夫なのだろうか。いつの間にか彼は最愛の娘であるシオンの事ばかり考えていた。

~~~~~~~~~~~~

 目覚めると、夜なのかベッド脇に置かれたランプがうっすらと明かりが灯っているだけだった。起き上がろうとすると身体中に激痛が走る。顔をしかめながらもなんとか上半身だけ起こす。目を落とすと身体中が包帯だらけだった。無理もない。あれほど力を使ったのだ。その上何度も何度もレヴィに壊されては強引に回復を繰り返したのだ。包帯の下は想像したくもないほどボロボロだろう。

 ただ不思議なことに黒龍爪に魂を捧げたことによって、体に走っていた不気味な龍の模様は、右肩までの部分を残して綺麗さっぱり消え去っているようだ。その代わりその部分の感覚が碌に感じられないのは、呪いの影響なのだろう。動かそうと力を入れても、動く気配もない。それでも生きているということへの安堵が胸の内にあふれた。

 ふとベットの近くに、ランプに照らされた小さなカレンダーに気がつく。どうやらあれから一週間も経過しているらしい。よろよろと起き上がってベッドから抜け出す。それだけでドッと体力が奪われた。近くに置いてあった服になんとか着替えてから、同じく置かれていた装備に手を伸ばした。それから壁に体を預けながらズルズルと部屋から出た。

【俺がここにいれば皆に迷惑がかかる】

 レヴィは自分を狙ってきた。つまりここに居続ければきっと、もっとひどい目にあうだろう。自分だけではなく、友達も、そしてあいつも。それだけはあってはならない。だからこそ、今すぐにでもここから離れる必要がある。相手がいつ攻めてくるのか分からないのだから。

 必死に進んでいると、ある部屋の名札が目に入った。ドアを開き中を覗く。そこには傷一つ無いシオンが眠っていた。あの試合のことを思い出す。炎に包まれた彼女。炭化した肉体に雷で貫かれた見るも無惨なその姿。なぜか今、彼女は完全に治癒している。それでもシオンを一目見ただけでジンの心は締め付けられた。

 シオンのそばまで行き、動かせる左手でそっとその頬を優しく撫でた。わずかに反応がある。耳に意識を集中すれば彼女の穏やかな吐息が聞こえてきた。それが分かり胸を撫で下ろした。

「ごめんな」

 蚊の鳴くような声で囁く。果たしてシオンには聞こえているのだろうか。それは分からない。それからしばらくジンはシオンの側から離れなかった。やがて立ち上がると彼女に背を向けて部屋から出ようとする。

 突然右袖を引っ張られ、後ろを振り向くとうっすらと目を開けたシオンがジンに顔を向けていた。

「ど…こ行くの?」

 その言葉にジンは答えない。ジンにも答えはないからだ。だがその手を振り解けなくてただ立ちすくんだ。そして痛む体をこらえてゆっくりと振り返り、シオンと目を合わせる。彼女の瞳には、ジンを責めるような感情は見受けられなかった。彼女をこのような目に合わせた自分を、だ。それが今の彼には無性に怖かった。許されているということが怖かった。

「ねえ…どこ行くの?」

 もう一度、今度ははっきりと聞いてきた。何か言おうと何度か口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返し、結局何も思い浮かばなかった。

「ごめん」

 だからただ謝ることしかできなかった。そんな自分が酷く惨めだった。

「嫌…だよ。どこにも…行かな…でよ」

 不穏な空気を察知したのか、つっかえながらシオンが言ってきたその言葉に胸が掻き毟られる。だがそれでも、もう決意したのだ。

 ジンは近寄って彼女の額にキスをする。以前、彼女が自分が落ち込んでいた時にしてくれたことだ。シオンはくすぐったそうに、でも嬉しそうな顔を浮かべた。ランプに照らされた彼女の顔は目を奪われるほどに綺麗だった。それを見てジンも小さく笑う。

「今までありがとう。………縁が……縁があったらまた会おう」

 それはジンとシオンだけが分かる2人だけの言葉。その言葉にシオンの手に力がこもった。決してジンの服を手放さないように。ジンはその手を外そうとするがさっきまで寝ていた少女は、信じられないほどの力でぎゅっと握りしめていた。だからジンは仕方なくその袖を破いた。

「…いで、行かないでよ」

 ジンは彼女の声を無視してゆっくりと部屋から出る。すすり泣く声が聞こえてきた。気がつけば自分の頬にも一筋、涙がこぼれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

処理中です...