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第5章:ファレス武闘祭
ジンvsアスラン4 決着
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「はあ!」
「ぐっ」
アスランの拳がジンの顔にヒットする。瞼の上が切れたのか、流れてきた血がジンの右目を塞ぐ。口腔内も切れたらしい。ペッと口に溜まった血を吐き出すと、一緒になって奥歯が飛び出てきた。
「うわ、痛そ!」
「ええ、すっげぇ痛いです。あは、はははははは」
「ははははははははは、いいぞジン。こんなに楽しいのは久しぶりだ!」
「俺もです先輩!」
「しかし目が塞がっちまったな。時間やるから止血するか?」
「いえ大丈夫ですよ、これくらい」
「ははっ、まあお前が言うならいいけどさ。そんじゃあ続きやろうか」
「はい!」
二人は一気に駆け寄る。ジンは彼らしくない大振りの拳をアスランの顔に叩き込もうとする。当然のごとくアスランはそれを掻い潜り、ジンの顎に向けて拳を振り上げようとした。だがそれがジンの作戦であった。口にたまった血を思いっきりアスランの目を狙って吹きかけたのだ。
「くっ」
アスランは目が潰れたのもお構いなく拳をそのまま振り上げる。しかし的の見えていないその攻撃は威力も弱い。ジンの顎を撃ち抜くが、彼の闘気に阻まれて、さほどダメージは与えられなかった。それを肌で感じたアスランは後方に飛んで距離を取ろうとするがジンもそれを許さない。アスランにピッタリと張り付いて、一瞬で七発もの拳を彼の腹に叩き込んだ。
「がはっ」
アスランはたまらず前のめりになる。すかさずジンは足を振り上げ、アスランの頭に向けてかかとを落とす。だが風の流れでも読んだのか、咄嗟にアスランが横に体をずらす。そのままジンのかかとは地面を砕いた。
それを感じたところでようやくアスランは距離を取ることに成功した。すぐさま目をこすって血を振り払う。
「ごほっ、ごほっ、随分とエグい攻撃するな。お前も十分陰湿だろ」
「でも面白いっすよね?」
「ああ、お前ほんっとーに最高だよ」
「はは、ありがとうございます」
「でも悪いな、この勝負は俺がもらった」
「いやいや、俺がもらいますって」
互いに相手に向けてニヤリと笑う。ボロボロの顔には未だ闘志があふれていた。
「はああああ!」
ジンが闘気を練り上げる。全身を濃密な闘気が覆う。
「はは、化け物かよ」
アスランは苦笑いする。闘気の量に関してはジンは同世代とはレベルが違う。それどころか、下手したら使徒であるアレキウスにすら匹敵するのではないだろうか。
闘気は法術とは違い、万人が持つ力である。内包する量は才能にもよるが、鍛えることで増やすことができる。目の前にいる少年は、才能もあるのだろうが、血の滲む努力をしてきたのだろう。それほどまでに彼の練る闘気は洗練されている。闘気の集中する箇所を変化させるスピードもさることながら、微妙なコントロールもお手本と言っていいほどに、ある種の美しさすら秘めている。
「行きますよ!」
「ああ、来い!」
ジンの体が一瞬にして消え去る。闘気による身体強化がなければ、彼を把握することすらできないスピードだ。先ほどまでとは段違いである。つまりはギアを一段階上げたのだろう。
『まだ上があるのかよ。マジでやべえなこいつ』
アスランは頭の中で思わずジンを賞賛する。それと同時に全力で体に回避命令を発する。ギリギリ動いたところで、彼が直前までいた空間にジンの拳が飛び込んできた。空気が破裂するような音とともに、凄まじい風圧がアスランの体にぶち当たる。
「くっ」
その勢いによろけそうになるも、なんとか動いてさらなる追撃を躱そうとする。しかしそれは間に合わず、右から来た拳に脇腹を強打されそうになる。
「つっ!」
なんとか肘を落として直撃は避けるが、そのせいで右肘が痺れてしまう。即座に蹴りを放つがジンは後方に下がることで、難なくその攻撃を回避した。
「痛えな。それが全力か?」
アスランは獰猛な笑みを浮かべてジンを睨みつける。ジンもそれに笑い返す。
「さあ、どうでしょう?」
「ちっ、そんじゃあこっちも行くぜ」
アスランは目を閉じ、集中する。その姿は隙だらけで、絶好の機会である。しかしジンはそんなことをしない。ただ目の前にいる男の全力を確かめてみたいのだ。
そしてアスランは目を開ける。迸る黄金の闘気が稲妻のようにアスランの体の周りでバチバチと音を立てた。
「『黄気』っすか」
「知ってるのか。じゃあこれがどんなものかも分かるよな」
「ええ」
『黄気』とは『蒼気』の一段階手前の闘気だ。命を削ることはなく、しかしその力は絶大である。才能を持つ者が、さらに死ぬほどの努力をして、それでも身につけられるかは分からない。残念なことにジンはいくら努力しても会得することができなかった。
「行くぜ」
その言葉を聞いた瞬間、ジンは自身が上空に蹴り上げられているのを理解した。アスランはそのまま一気にジンの背後まで飛び上がると、無防備なジンの背中を殴りつけた。猛烈な勢いでジンは舞台に叩きつけられる。
「ぐっ」
だが身にまとっている闘気に助けられ、致命傷ではない。すぐさま上を見上げるもそこには誰もいなかった。
「こっちだ」
「くっ!」
今度は右側から、凄まじい衝撃がくる。あまりの威力にジンは無様に地面を転がる。急いで起き上がると、アスランがジンを眺めていた。
「三発目でもうタイミングを掴まれるとはな。やっぱすげえよお前」
「そりゃどうも」
アスランの攻撃が当たる瞬間、ジンもアスランに向けて蹴りを放っていた。しかしわずかに相手の蹴りが早くあたり、ジンは吹き飛ばされたのだ。
ジンはむくりと起き上がると、彼我の戦力差を高速で分析する。
『パワーもスピードも先輩の方が上。耐久力はどうか分からない。体術はウィルに匹敵するクラス。攻撃に対する反応と勘も凄まじい。何よりも戦闘のセンスが段違いだ』
だがそんなことは言っていられない。目の前にいる相手を倒せなければ、きっと上にいる存在を打ち倒すことなど夢のまた夢だ。だからこそ勝たなければならない。
『それなら……』
ジンは自身の肉体を無神術によって3倍まで強化し、構えをとった。急に威圧感が増したジンを見て、荒々しい笑みを浮かべたアスランは接近し、そして二人は殴り合いを再開する。舞台はひび割れ、めくれ上がり、もはや原型を残していない。だがそんなことは気にせずに、二人は全力を尽くして相手を打ち倒そうと、拳を、蹴りを繰り出し続ける。
『この人マジで化物だな』
ジンは内心で苦笑する。一向にアスランとの差が縮まった様子がない。それどころかむしろ押され始めている気がする。ジンの攻撃を避けられる機会が増え、反対に相手の拳が掠り始めていた。
「がっ!」
顔面にクリーンヒットした拳にジンの意識が一瞬飛ぶ。だがすぐさまお返しとばかりにアスランの鳩尾に膝をめり込ませる。
「かはっ!」
どうやら鼻が折れたらしく、呼吸がし辛い。却ってアスランもジンの一撃を受けて悶絶している。ダメージとしてはアスランの方が大きい。それを判断したジンは一気に詰め寄るとその顎に向けて拳を振り上げた。
「はあああああ!」
アスランが宙を舞う。舞台に叩きつけられた彼は、まだダメージのせいで起き上がることが出来ない。ジンはそんな彼の腹に追い討ちをかけるようにつま先をねじ込んだ。
「がはっ!」
たまらずアスランは舞台の上を転がる。そんな彼にジンは近づき、とどめを刺そうと拳を引いて放った。だがアスランはなんとか体をよじってそれを回避する。そしてそのまま流れるようにジンの足を払おうとした。それを察知したジンは冷静に距離を取る。そこでようやくよろよろとアスランが起き上がった。
「ま、全く、少しは先輩を立てろよな。上下関係は大事だぜ」
辛そうな顔を浮かべながら、口を尖らせて悪態をつく彼を前にしてもジンは気を抜かない。今の攻撃で倒しきれなかったことに内心で舌打ちをする。絶好のチャンスだった。恐らくこんなチャンスは二度と無いだろう。だが泣き言は言っていられない。チャンスは落ちているものではなく作るものだ。だからこそ、ジンは拳を、蹴りを繰り出し続けた。
「うおおおおおお!」
ジンの拳がアスランの顔を横殴りにする。よろけたアスランは踏みとどまって、攻撃の動作から戻ろうとしているジンの隙だらけの肋に蹴りを入れる。メキッという嫌な音が内側から響く。恐らくヒビが入ったか、折れたのだろう。
それでもジンは殴るのをやめない。強烈な拳が顔を守ろうとしたアスランの左腕にぶつかり、骨を砕いた。お互いの体を切らせながら、相手を倒すための必殺の一撃を狙う。舞台は彼らの血がそこかしこに飛び散り、赤く染められていった。
「うらああああ!」
ジンが一瞬で4回もの回し蹴りを放つ。ウィルから習ったジンの得意技だ。アスランはそれを食らってたたらを踏んだ。それを見たジンは追撃とばかりに右拳をアスランのこめかみにめがけて放つ。だがアスランはそれを超人的な戦闘センスによって回避すると反対に、ジンのこめかみに後ろ回し蹴りを食らわせた。しかしジンは想定外の攻撃を前に、なんとか意識を保っていた。
「うおおおお!」
「はああああ!」
よろけた二人は一歩舞台を強く踏み込むと、互いが互いの顔に目掛けて、拳を振り抜き、そして決着した。
ずるりとジンの足から力が抜けていく。アスランの拳は正確にジンのこめかみに入り、ついにジンの意識を刈り取った。ほんのわずかな差である。ジンの拳がアスランの頬に入る前に、アスランの拳はジンに届いていた。そしてその差異が勝敗を分けた。そのままジンはゆっくりと前に倒れる。アスランはそんな彼を支え、そっとボロボロの舞台に寝かせた。
「悪いな。今回は俺の勝ちだ」
アスランは静かに勝利を宣言した。
「ぐっ」
アスランの拳がジンの顔にヒットする。瞼の上が切れたのか、流れてきた血がジンの右目を塞ぐ。口腔内も切れたらしい。ペッと口に溜まった血を吐き出すと、一緒になって奥歯が飛び出てきた。
「うわ、痛そ!」
「ええ、すっげぇ痛いです。あは、はははははは」
「ははははははははは、いいぞジン。こんなに楽しいのは久しぶりだ!」
「俺もです先輩!」
「しかし目が塞がっちまったな。時間やるから止血するか?」
「いえ大丈夫ですよ、これくらい」
「ははっ、まあお前が言うならいいけどさ。そんじゃあ続きやろうか」
「はい!」
二人は一気に駆け寄る。ジンは彼らしくない大振りの拳をアスランの顔に叩き込もうとする。当然のごとくアスランはそれを掻い潜り、ジンの顎に向けて拳を振り上げようとした。だがそれがジンの作戦であった。口にたまった血を思いっきりアスランの目を狙って吹きかけたのだ。
「くっ」
アスランは目が潰れたのもお構いなく拳をそのまま振り上げる。しかし的の見えていないその攻撃は威力も弱い。ジンの顎を撃ち抜くが、彼の闘気に阻まれて、さほどダメージは与えられなかった。それを肌で感じたアスランは後方に飛んで距離を取ろうとするがジンもそれを許さない。アスランにピッタリと張り付いて、一瞬で七発もの拳を彼の腹に叩き込んだ。
「がはっ」
アスランはたまらず前のめりになる。すかさずジンは足を振り上げ、アスランの頭に向けてかかとを落とす。だが風の流れでも読んだのか、咄嗟にアスランが横に体をずらす。そのままジンのかかとは地面を砕いた。
それを感じたところでようやくアスランは距離を取ることに成功した。すぐさま目をこすって血を振り払う。
「ごほっ、ごほっ、随分とエグい攻撃するな。お前も十分陰湿だろ」
「でも面白いっすよね?」
「ああ、お前ほんっとーに最高だよ」
「はは、ありがとうございます」
「でも悪いな、この勝負は俺がもらった」
「いやいや、俺がもらいますって」
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「はああああ!」
ジンが闘気を練り上げる。全身を濃密な闘気が覆う。
「はは、化け物かよ」
アスランは苦笑いする。闘気の量に関してはジンは同世代とはレベルが違う。それどころか、下手したら使徒であるアレキウスにすら匹敵するのではないだろうか。
闘気は法術とは違い、万人が持つ力である。内包する量は才能にもよるが、鍛えることで増やすことができる。目の前にいる少年は、才能もあるのだろうが、血の滲む努力をしてきたのだろう。それほどまでに彼の練る闘気は洗練されている。闘気の集中する箇所を変化させるスピードもさることながら、微妙なコントロールもお手本と言っていいほどに、ある種の美しさすら秘めている。
「行きますよ!」
「ああ、来い!」
ジンの体が一瞬にして消え去る。闘気による身体強化がなければ、彼を把握することすらできないスピードだ。先ほどまでとは段違いである。つまりはギアを一段階上げたのだろう。
『まだ上があるのかよ。マジでやべえなこいつ』
アスランは頭の中で思わずジンを賞賛する。それと同時に全力で体に回避命令を発する。ギリギリ動いたところで、彼が直前までいた空間にジンの拳が飛び込んできた。空気が破裂するような音とともに、凄まじい風圧がアスランの体にぶち当たる。
「くっ」
その勢いによろけそうになるも、なんとか動いてさらなる追撃を躱そうとする。しかしそれは間に合わず、右から来た拳に脇腹を強打されそうになる。
「つっ!」
なんとか肘を落として直撃は避けるが、そのせいで右肘が痺れてしまう。即座に蹴りを放つがジンは後方に下がることで、難なくその攻撃を回避した。
「痛えな。それが全力か?」
アスランは獰猛な笑みを浮かべてジンを睨みつける。ジンもそれに笑い返す。
「さあ、どうでしょう?」
「ちっ、そんじゃあこっちも行くぜ」
アスランは目を閉じ、集中する。その姿は隙だらけで、絶好の機会である。しかしジンはそんなことをしない。ただ目の前にいる男の全力を確かめてみたいのだ。
そしてアスランは目を開ける。迸る黄金の闘気が稲妻のようにアスランの体の周りでバチバチと音を立てた。
「『黄気』っすか」
「知ってるのか。じゃあこれがどんなものかも分かるよな」
「ええ」
『黄気』とは『蒼気』の一段階手前の闘気だ。命を削ることはなく、しかしその力は絶大である。才能を持つ者が、さらに死ぬほどの努力をして、それでも身につけられるかは分からない。残念なことにジンはいくら努力しても会得することができなかった。
「行くぜ」
その言葉を聞いた瞬間、ジンは自身が上空に蹴り上げられているのを理解した。アスランはそのまま一気にジンの背後まで飛び上がると、無防備なジンの背中を殴りつけた。猛烈な勢いでジンは舞台に叩きつけられる。
「ぐっ」
だが身にまとっている闘気に助けられ、致命傷ではない。すぐさま上を見上げるもそこには誰もいなかった。
「こっちだ」
「くっ!」
今度は右側から、凄まじい衝撃がくる。あまりの威力にジンは無様に地面を転がる。急いで起き上がると、アスランがジンを眺めていた。
「三発目でもうタイミングを掴まれるとはな。やっぱすげえよお前」
「そりゃどうも」
アスランの攻撃が当たる瞬間、ジンもアスランに向けて蹴りを放っていた。しかしわずかに相手の蹴りが早くあたり、ジンは吹き飛ばされたのだ。
ジンはむくりと起き上がると、彼我の戦力差を高速で分析する。
『パワーもスピードも先輩の方が上。耐久力はどうか分からない。体術はウィルに匹敵するクラス。攻撃に対する反応と勘も凄まじい。何よりも戦闘のセンスが段違いだ』
だがそんなことは言っていられない。目の前にいる相手を倒せなければ、きっと上にいる存在を打ち倒すことなど夢のまた夢だ。だからこそ勝たなければならない。
『それなら……』
ジンは自身の肉体を無神術によって3倍まで強化し、構えをとった。急に威圧感が増したジンを見て、荒々しい笑みを浮かべたアスランは接近し、そして二人は殴り合いを再開する。舞台はひび割れ、めくれ上がり、もはや原型を残していない。だがそんなことは気にせずに、二人は全力を尽くして相手を打ち倒そうと、拳を、蹴りを繰り出し続ける。
『この人マジで化物だな』
ジンは内心で苦笑する。一向にアスランとの差が縮まった様子がない。それどころかむしろ押され始めている気がする。ジンの攻撃を避けられる機会が増え、反対に相手の拳が掠り始めていた。
「がっ!」
顔面にクリーンヒットした拳にジンの意識が一瞬飛ぶ。だがすぐさまお返しとばかりにアスランの鳩尾に膝をめり込ませる。
「かはっ!」
どうやら鼻が折れたらしく、呼吸がし辛い。却ってアスランもジンの一撃を受けて悶絶している。ダメージとしてはアスランの方が大きい。それを判断したジンは一気に詰め寄るとその顎に向けて拳を振り上げた。
「はあああああ!」
アスランが宙を舞う。舞台に叩きつけられた彼は、まだダメージのせいで起き上がることが出来ない。ジンはそんな彼の腹に追い討ちをかけるようにつま先をねじ込んだ。
「がはっ!」
たまらずアスランは舞台の上を転がる。そんな彼にジンは近づき、とどめを刺そうと拳を引いて放った。だがアスランはなんとか体をよじってそれを回避する。そしてそのまま流れるようにジンの足を払おうとした。それを察知したジンは冷静に距離を取る。そこでようやくよろよろとアスランが起き上がった。
「ま、全く、少しは先輩を立てろよな。上下関係は大事だぜ」
辛そうな顔を浮かべながら、口を尖らせて悪態をつく彼を前にしてもジンは気を抜かない。今の攻撃で倒しきれなかったことに内心で舌打ちをする。絶好のチャンスだった。恐らくこんなチャンスは二度と無いだろう。だが泣き言は言っていられない。チャンスは落ちているものではなく作るものだ。だからこそ、ジンは拳を、蹴りを繰り出し続けた。
「うおおおおおお!」
ジンの拳がアスランの顔を横殴りにする。よろけたアスランは踏みとどまって、攻撃の動作から戻ろうとしているジンの隙だらけの肋に蹴りを入れる。メキッという嫌な音が内側から響く。恐らくヒビが入ったか、折れたのだろう。
それでもジンは殴るのをやめない。強烈な拳が顔を守ろうとしたアスランの左腕にぶつかり、骨を砕いた。お互いの体を切らせながら、相手を倒すための必殺の一撃を狙う。舞台は彼らの血がそこかしこに飛び散り、赤く染められていった。
「うらああああ!」
ジンが一瞬で4回もの回し蹴りを放つ。ウィルから習ったジンの得意技だ。アスランはそれを食らってたたらを踏んだ。それを見たジンは追撃とばかりに右拳をアスランのこめかみにめがけて放つ。だがアスランはそれを超人的な戦闘センスによって回避すると反対に、ジンのこめかみに後ろ回し蹴りを食らわせた。しかしジンは想定外の攻撃を前に、なんとか意識を保っていた。
「うおおおお!」
「はああああ!」
よろけた二人は一歩舞台を強く踏み込むと、互いが互いの顔に目掛けて、拳を振り抜き、そして決着した。
ずるりとジンの足から力が抜けていく。アスランの拳は正確にジンのこめかみに入り、ついにジンの意識を刈り取った。ほんのわずかな差である。ジンの拳がアスランの頬に入る前に、アスランの拳はジンに届いていた。そしてその差異が勝敗を分けた。そのままジンはゆっくりと前に倒れる。アスランはそんな彼を支え、そっとボロボロの舞台に寝かせた。
「悪いな。今回は俺の勝ちだ」
アスランは静かに勝利を宣言した。
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