World End

nao

文字の大きさ
上 下
118 / 273
第5章:ファレス武闘祭

ジンvsアスラン1 打つかり合い

しおりを挟む
【会場はすでに熱気で包まれております。それもそのはず!今日はいよいよ学園最強と噂されているアスラン・レーギスの初戦だからであります!しかもしかもっ、対戦相手は誰も予想だにしていなかったダークホースッ、実際私もそうでした!1年、ジン・アカツキです!一回戦を勝ち抜いた彼の実力は一体!?あれが全力だったのか?それともまだ実力を隠しているのか?もう間も無くその答えがわかるでしょう!!】

 ゾクゾクするほどの闘志だ。目の前にいるのは単なる年下の少年ではない。一目見ただけでもその鍛え上げられた肉体が分かる。今まで見てきた同年代の中でもこれほどまでに完成されている者はなかなかいない。これだけで彼がどれほど努力を積んできたのか、想像に難くない。

「前からお前とは闘ってみたかったんだよ」

 この言葉は本心だ。数ヶ月前の合成獣の事件の現場検証をした際、アスランは同行した。話ではシオンが追い詰めたところで最後にジンがとどめを刺したということになっていた。実際にSクラスの少女とEクラスの少年とが協力して闘ったなら、確実に前者の功績が大きかったと考える者がほとんどだろう。さらに現場はあたり一帯吹き飛んでおり、そんなことができるのはあの場ではシオンだけだったからだ。

 だがアスランはそうとは考えていなかった。理由は単純だ。あの合成獣にはシオンがつけたであろう傷がほとんど残っていなかったのだ。そして明らかに歪な攻撃痕が複数あった。検証に立ち会った一部の人間はそれに気がついたが、有り得ないということで結局シオンが活躍し、ジンがとどめを刺したと結論づけた。だがだからこそアスランは知りたい。目の前の男がどれほど強いのかを。使徒に覚醒してから久しく感じなかった高揚感だ。

「俺もですよ先輩。先輩が卒業する前に一回だけでも、本気で手合わせをしてみたいと思っていました」

「はは、そうか。そいつは光栄だな。だがすまねえな。ちょっと制約があって、俺はこの大会で法術が使えないんだよ」

 どうやら噂は本当だったようだ。そう言ってアスランは右腕につけたブレスレットをジンに見せた。紫色の鈍い光を放つ宝石を埋め込んだそれは、一目見ても禍々しさを感じさせる。

「なんですか、それ?」

「これは『封印環』っていって、簡単に言っちまえばとある魔物の魔核から創り出された物だ。そんでその魔物っていうのが法術を封じ込める力を持っているってわけだ。だからこれを填めている間、俺は全く術が使えない」

 その言葉にジンは顔をしかめる。事前にテレサから言われて覚悟していたとはいえ、本気で闘ってもらえないということを目の前で宣言されたのだ。

「ちょっと舐めすぎじゃないですか?」

「んー、そういうつもりはねえんだけど、やっぱそう思うよな。でも悪い、これだけはどうしようもねえんだ」

 本当にすまなそうな顔を浮かべるアスランに、大きくため息をついた。

「はあ、わかりました。それじゃあ先輩がその腕輪を外したくなるぐらい精一杯頑張りますよ」

「おお、それは楽しみだ。それじゃあ始めるか」

「ええ、始めましょう」

 気安く語り合う二人の間に審判が開始の合図を告げる。瞬間、彼らは鍔迫りあっていた。アスランはショートソードを、ジンは一対の短剣をぶつけ合う。だが二人はすぐに剣を放して距離を取る。

「素の力は互角ってところか」

「そうですね」

 剣をぶつけ合っただけで瞬時にわかった。

「それじゃあこれならどうだ?」

 アスランは一瞬にして濃密な闘気を練り上げると地面を蹴った。

「つっ!?」

 下から斬りあげる攻撃を防ごうとすると、キンッ、という音とともにジンの腕が浮き上がる。防いだ力が攻撃よりも弱かったのだ。ガラ空きになったジンの胴にアスランは流れるように踏み込むと体をぶつけて弾き飛ばした。舞台の上を転がるが、剣を弾かれた瞬間に全身を包む闘気を増やしたため差ほどのダメージはない。すぐさま起き上がるとアスランのいる方へと目を向けた。だが当然ながら既に彼はいない。陽の光が隠されたことで瞬時にアスランがどこにいるのかを理解したジンは右手に持っていた短剣を斬り上げる。それと同時に再びキンッ、という音が響いた。

 即座にアスランは攻撃が防がれることを理解して、器用にショートソードでバランスをとってジンの力を利用し、わざと吹き飛んだ。そしてふわりと着地すると子供っぽい笑顔を顔に浮かべた。

「やるじゃねえか」

「この程度でそんなことを言われたら困りますよ」

「はは、違いない」

「今度はこっちから行きますよ!」

「ああ、来い!」

 ジンが舞台を蹴る。ビキッという音が響き、舞台にヒビが入った。アスランはすぐに体ごと振り向いて剣を縦にする。そこに計ったようにジンの短剣がぶつかった。超高速で後ろに回ったのだ。しかし防がれても構わずジンは両手の短剣を繰り出して連続で斬りかかる。それをアスランは最小限の動きだけで弾き続け、息苦しくなったジンが呼吸をしようとした一瞬の隙に、彼の腹部に前蹴りを入れて弾き飛ばした。

 だが所詮は強引に放った蹴りだ。腰がそこまで入っていなかったので大してダメージはない。ジンは荒い笑みを浮かべた。そして再び駆け出すと左手に持った短剣を投擲する。それをアスランは容易に回避するが、その逃げた先にジンが放った『火球』が飛んでいた。アスランはそれを剣で切り落とすと、ジンが時間差で飛び込み剣を踏んで地面に固定する。靴が切れたような感触があるが、闘気で包んでいる足には何の痛痒もない。

「ちっ!」

 だが切り上げたジンの短剣はアスランには当たらない。彼は咄嗟に剣を手放して強引に後ろに頭を引いたのだ。そしてそのまま思いっきり頭を振り下ろした。ゴンッという音とともにジンがうめき声を上げる。あまりの痛みにバランスを崩しそうになりながらも、何とかショートソードが地面に突き刺さるように強く踏みつけてから距離をとった。

「痛っえ!」

 ジンが額を押さえて顔をしかめる。同様にアスランも笑いながら額を押さえていた。

「俺も痛えよ、ははは」

~~~~~~~~~~~

【す、すごいすごいすごいっ!まさに息もつかせぬ怒涛の展開!全くコメントを挟む暇もない!これがジン選手の隠していた力なのか!昨日の試合とは全く動きが違います!しかしそれすらも容易に回避し、攻撃を加えるアスラン選手!これが二人の全力なのか、それとも小手調べだったのか!期待が高まりますっ!どう思いますか、ガバルさん!?】

【えー、そうですね。えー、今までのはおそらくね、小手調べではないかと、えー、私は思】

【なるほど、ありがとうございます!おおっと両選手が再び動き始め……見えない、見えないぞ!早い、早すぎる!何が起こっているのでしょうか、ガバルさん!?】

【……えー、まあ普通に超高速戦闘とね、えー、言うやつですよね。膨大な闘気で足を包んで、スピードをね、えー、強引に】

【なるほど、つまりは普通の人じゃ把握できないほどのスピードということですね!これではコメントしようがない!凄い、凄すぎる!ジン選手は一体どれ程力を隠しているんだああ!】

 そんな声に会場はヒートアップする。不気味なほどに金属がぶつかり合う音と、何かが動く二本の線しか見えない。しかしそれだけで充分だった。学園最強に喰らいつくのが1年の、しかもEクラスの生徒なのだ。その事実に皆が興奮する。やがて何度目かの金属音が響いたところで、舞台の中央にジンとアスランが現れた。

~~~~~~~~~~~

「ははは、やっべえな、クソ楽しいぜ」

「あはは、俺もです」

 先程までの、いつも浮かべる紳士然とした笑みではなく、野獣のように目をギラギラさせながら獰猛な笑みをアスランが浮かべる。おそらくこちらが彼の本質なのだろう。

「それにしても、先輩雰囲気違いますね。いつもの好青年っぽい先輩よりも今の方が俺は好きですよ」

「あー、まあな。俺もこっちの方が楽なんだけど、まあ俺にも色々あんだよ。学校の顔ってえのは辛いぜ」

「ああ、なるほど。確かにその顔じゃ、無理ですね」

「ははは、だろ?だから内緒だぜ?そんじゃあ」

「あはは、了解です。それじゃあ」

 笑っていた顔を二人とも真顔に戻すと剣をしっかりと握りしめた。

「行くぜ!」「行きますよ!」

 観客が両者を見失った瞬間にジンとアスランのぶつかり合う音が響き渡った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

主人公を助ける実力者を目指して、

漆黒 光(ダークネス ライト)
ファンタジー
主人公でもなく、ラスボスでもなく、影に潜み実力を見せつけるものでもない、表に出でて、主人公を助ける実力者を目指すものの物語の異世界転生です。舞台は中世の世界観で主人公がブランド王国の第三王子に転生する、転生した世界では魔力があり理不尽で殺されることがなくなる、自分自身の考えで自分自身のエゴで正義を語る、僕は主人公を助ける実力者を目指してーー!

処理中です...