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第4章:学園編
再会2
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「悪いな。取り乱しちまった。そんで一体今までどこにいやがったんだ?あっちこっち探したがなんもわからなかったのに。それにその身なりは一体…」
真っ赤に目を腫らしながらマティスが聞いてきたので、ジンは今までの経緯を話すことにした。あの晩に何があったのか、今までどこで何をしていたのか。
ただ、マティスにもエデンのことなどは語ることはできなかった。もし仮に誰かの口からその情報が流れれば、今後他の使徒たちの行動に影響する可能性がある。肝心なところをボカしつつ、自分が今何をしているのかをマティスに語った。
ジンが話すのをマティスは時には質問しながらも、しばらく聞き続け、気づけば数時間経っていた。
「つまり、ナギ嬢ちゃんが魔人になっちまって、ザックたちはナギ嬢ちゃんに…ってことか。そいでお前は、そのお前を助けてくれたってやつと一緒に暮らしてたってことか」
「うん、その人たちも俺と同じ経験をしていた。だから俺のことを知って、色々と世話をしてくれたんだ」
「…まあそれはわかった。だがそんならなんで今まで連絡の一つも寄越さなかったんだよ…俺はなぁ、お前たちが死んじまったと思ってよ…」
そう言って再びマティスは肩を震わせ始めた。先ほどまで険のある表情を浮かべていた男とは全く異なっていた。
「ごめん。ここからかなり遠くの街に行ったし、そもそもスラム宛に手紙をお願いしたらどこでも断られちゃって、どうすることもできなかったんだ。それにまさかこんなにおじさんを苦しめているとは思ってなかったんだよ。本当にごめん」
「…まあ…でもよ、お前が生きていてくれたことがどんだけ嬉しいか…なあこれからどうするつもりなんだ?」
「ファレスに入学しようと思ってる。ウィル…俺を育ててくれた人が学校には行けって言ってくれて。それならせっかくだから昔から行きたかった学校に行きたいって言ったら許してくれたんだ」
「なるほどな、確かにあそこは騎士になりたい奴らの登竜門だからな。それにあそこの教員のほとんどは引退した騎士どもばっかだし、現役の奴らもちょくちょく来るしな。いい考えだと思うぜ」
「うん。それで…またこうしてここに来てもいいかな?どんだけ時間が経ってもやっぱり俺の家はここだし…」
ジンは口ごもる。スラムから離れて久しい。もうここは自分の居場所ではないとなんとなく感じていた。だがそれは少し彼にとって物悲しいものだった。かつてザックやレイと遊んだ空き地や、ミシェルと並んで歩いた道。ナギと一緒に過ごしたあちこちの場所。それらは全て彼の心を強く締め付ける、彼にとっての原風景だったからだ。
「ガハハ、何バカなこと言ってんだ、そんなもんいいに決まってんだろう!」
マティスはジンの言葉を聞いて嬉しくなる。8年の月日が流れようとも、彼の知るジンは確かにそこにいた。思わず彼の頭に手を置いて髪をくしゃくしゃにする。
「ちょっ!おじさんやめてよ!」
そう言いながらも顔に笑みが浮かぶのをジンは止められなかった。マティスが再び自分を受け入れてくれたことが、自分の居場所がまだ確かに存在していたことが嬉しかったのだ。
「…ただ、な。それも学校に入るまでだ」
先ほどとは打って変わってマティスが真面目な顔をしてそう言った。
「え、なんで?」
「お前は、騎士になりたいんだろ?そんな奴がスラムをうろついていたら他の奴らにどう思われると思う?」
「それは…」
「そう、お前にとってマイナスにしかなんねえんだよ。だから学校に入ったら、よっぽどのことがない限り絶対に来ちゃならねえ」
「…うん」
マティスの言葉を聞いて、ジンは俯く。
「ただ…まあ今日は別だ!せっかくだし俺んとこによってけ、精一杯もてなしてやるからよ、ガハハハ!」
そんなジンを見たマティスは大きく口を開けて笑いながら、バシバシと背中を叩いた。
「痛っ、痛いっておじさん!」
その声を聞いて一層気分が良くなったかマティスはそのままジンの肩を組んで歩き出した。
二人が廃教会の前に着くと門の前で血相を変えた男が待ち構えていた。
「マ、マティスさん!よかった、ようやく戻って来たんですね!実は信じられない報告が!」
男は口早に喋る。よほど慌てているのかその声は非常に大きい。
「お、おい落ち着け、一体何があった?」
「あっ、す、すいません。じ、実はですね…先ほど、ジンと名乗る少年が現れたそうなんです!もしかして、もしかしてあの子のことなんじゃ!」
ジンは男の顔をよく見てみる。記憶の中にあるスラムの住人を次々と思い出していくと、ようやく昔ナギが手当をした男であることを思い出した。
目の前の男の慌てっぷりを見て思わずマティスと目を合わせ、互いに苦笑した。その様を見て、男がジンの存在に気がつき、眼を大きく見開いた。
「何笑ってるんですかって…え、え?ま、まさか!」
「うん、久しぶりワットさん」
「ジ、ジン!本当にジンなのか!?」
そこからは先ほどのマティスと同じように泣き付かれた。しばらくして、ワットはようやく落ち着いたので、ジンに質問を開始しようとした。だがそれはマティスに止められた。
「まあ、待てワット。これから宴会を開くから、古株に呼びかけてくれや。いろいろ聞きたいことはあるだろうがそん時にしてくれ」
「は、はい!すぐに準備して来ます!じゃあまた後でなジン!」
慌てているため、度々転びそうになりながらも、ワットはスラムの奥へと消えて行った。
それからはあっという間だった。マティスの指示が一つ飛ぶと、一斉に彼の配下の者たちが宴会の準備を始めたのだ。それを眺めながらマティスと話していると、次から次へとジンの顔見知りがやって来た。
ナギ達や自分の面倒を見てくれた娼婦たちや、色々必要な物を用立ててくれた怪しい男たち、いろんな話をしてくれた老人たち。それぞれと固い握手やハグを交わし、笑い合い、時に涙を流しながら再会を喜んだ。
やがて宴会が始まるとジンはあっちこっち引っ張りだこで、かつての知り合いに質問責めにあった。そうしていつのまにか長い時間が経っていた。
夕方ごろから始まったはずが、今はすでに太陽が白んでいる。気がつけばそこら中に、嵐が通り過ぎたかのように、あらゆるものが人を含めて散らばっていた。そんな中でジンはマティスとともに廃協会の門へと足を進めていた。
やがてそこにたどり着くと、二人はしばし黙る。そしてジンが口を開きマティスに話しかけた。
「それじゃあ、また会いに来るね」
「ああ、同じ街に暮らしてんだ。なんかあったら俺を頼れよ?」
「うん、そうさせてもらう」
「おし!そんじゃあ行ってこい!試験頑張れよ」
久しぶりに再会した時の険のある表情をマティスはしていなかった。まるで憑き物が落ちたかのように、ただただ穏やかな顔でジンに向き合っていた。
「うん、ありがとう!それじゃあ行って来ます!」
ジンはマティスにそう告げると、まだ店も開いていない街中へと繰り出して行った。
「頑張れよ…」
マティスは通りへと歩き出したジンの後ろ姿を、見えなくなるまで眺めた。それから彼は宴会場へと戻って行った。
「行ったんですか?」
後ろからふとワットが話しかけて来た。
「ああ、行った」
「そうですか、それにしても驚きました」
「何がだ?」
「あなたが久しぶりに心から喜んでいるのを見ることができましたので。僕もすごく嬉しいです。それと、安心しました」
ワットはスラムの中で誰よりもマティスを尊敬していた。だからこそマティスの過去を知る彼は、今まで心苦しかったのだ。だがもうマティスはあの日から立ち直ることができたように見えた。
「ああ、そうだな…お前たちにも悪いことをしちまった…」
「そうですね、だから一つずつ、できることからやり直し始めましょうや」
「おう…なあ、これからもお前に頼ってもいいか?」
「当たり前ですよ、俺はあなたの右腕ですからね」
ワットはニヤリと笑った。それを見てマティスは苦笑する。
「ありがとうよ…」
真っ赤に目を腫らしながらマティスが聞いてきたので、ジンは今までの経緯を話すことにした。あの晩に何があったのか、今までどこで何をしていたのか。
ただ、マティスにもエデンのことなどは語ることはできなかった。もし仮に誰かの口からその情報が流れれば、今後他の使徒たちの行動に影響する可能性がある。肝心なところをボカしつつ、自分が今何をしているのかをマティスに語った。
ジンが話すのをマティスは時には質問しながらも、しばらく聞き続け、気づけば数時間経っていた。
「つまり、ナギ嬢ちゃんが魔人になっちまって、ザックたちはナギ嬢ちゃんに…ってことか。そいでお前は、そのお前を助けてくれたってやつと一緒に暮らしてたってことか」
「うん、その人たちも俺と同じ経験をしていた。だから俺のことを知って、色々と世話をしてくれたんだ」
「…まあそれはわかった。だがそんならなんで今まで連絡の一つも寄越さなかったんだよ…俺はなぁ、お前たちが死んじまったと思ってよ…」
そう言って再びマティスは肩を震わせ始めた。先ほどまで険のある表情を浮かべていた男とは全く異なっていた。
「ごめん。ここからかなり遠くの街に行ったし、そもそもスラム宛に手紙をお願いしたらどこでも断られちゃって、どうすることもできなかったんだ。それにまさかこんなにおじさんを苦しめているとは思ってなかったんだよ。本当にごめん」
「…まあ…でもよ、お前が生きていてくれたことがどんだけ嬉しいか…なあこれからどうするつもりなんだ?」
「ファレスに入学しようと思ってる。ウィル…俺を育ててくれた人が学校には行けって言ってくれて。それならせっかくだから昔から行きたかった学校に行きたいって言ったら許してくれたんだ」
「なるほどな、確かにあそこは騎士になりたい奴らの登竜門だからな。それにあそこの教員のほとんどは引退した騎士どもばっかだし、現役の奴らもちょくちょく来るしな。いい考えだと思うぜ」
「うん。それで…またこうしてここに来てもいいかな?どんだけ時間が経ってもやっぱり俺の家はここだし…」
ジンは口ごもる。スラムから離れて久しい。もうここは自分の居場所ではないとなんとなく感じていた。だがそれは少し彼にとって物悲しいものだった。かつてザックやレイと遊んだ空き地や、ミシェルと並んで歩いた道。ナギと一緒に過ごしたあちこちの場所。それらは全て彼の心を強く締め付ける、彼にとっての原風景だったからだ。
「ガハハ、何バカなこと言ってんだ、そんなもんいいに決まってんだろう!」
マティスはジンの言葉を聞いて嬉しくなる。8年の月日が流れようとも、彼の知るジンは確かにそこにいた。思わず彼の頭に手を置いて髪をくしゃくしゃにする。
「ちょっ!おじさんやめてよ!」
そう言いながらも顔に笑みが浮かぶのをジンは止められなかった。マティスが再び自分を受け入れてくれたことが、自分の居場所がまだ確かに存在していたことが嬉しかったのだ。
「…ただ、な。それも学校に入るまでだ」
先ほどとは打って変わってマティスが真面目な顔をしてそう言った。
「え、なんで?」
「お前は、騎士になりたいんだろ?そんな奴がスラムをうろついていたら他の奴らにどう思われると思う?」
「それは…」
「そう、お前にとってマイナスにしかなんねえんだよ。だから学校に入ったら、よっぽどのことがない限り絶対に来ちゃならねえ」
「…うん」
マティスの言葉を聞いて、ジンは俯く。
「ただ…まあ今日は別だ!せっかくだし俺んとこによってけ、精一杯もてなしてやるからよ、ガハハハ!」
そんなジンを見たマティスは大きく口を開けて笑いながら、バシバシと背中を叩いた。
「痛っ、痛いっておじさん!」
その声を聞いて一層気分が良くなったかマティスはそのままジンの肩を組んで歩き出した。
二人が廃教会の前に着くと門の前で血相を変えた男が待ち構えていた。
「マ、マティスさん!よかった、ようやく戻って来たんですね!実は信じられない報告が!」
男は口早に喋る。よほど慌てているのかその声は非常に大きい。
「お、おい落ち着け、一体何があった?」
「あっ、す、すいません。じ、実はですね…先ほど、ジンと名乗る少年が現れたそうなんです!もしかして、もしかしてあの子のことなんじゃ!」
ジンは男の顔をよく見てみる。記憶の中にあるスラムの住人を次々と思い出していくと、ようやく昔ナギが手当をした男であることを思い出した。
目の前の男の慌てっぷりを見て思わずマティスと目を合わせ、互いに苦笑した。その様を見て、男がジンの存在に気がつき、眼を大きく見開いた。
「何笑ってるんですかって…え、え?ま、まさか!」
「うん、久しぶりワットさん」
「ジ、ジン!本当にジンなのか!?」
そこからは先ほどのマティスと同じように泣き付かれた。しばらくして、ワットはようやく落ち着いたので、ジンに質問を開始しようとした。だがそれはマティスに止められた。
「まあ、待てワット。これから宴会を開くから、古株に呼びかけてくれや。いろいろ聞きたいことはあるだろうがそん時にしてくれ」
「は、はい!すぐに準備して来ます!じゃあまた後でなジン!」
慌てているため、度々転びそうになりながらも、ワットはスラムの奥へと消えて行った。
それからはあっという間だった。マティスの指示が一つ飛ぶと、一斉に彼の配下の者たちが宴会の準備を始めたのだ。それを眺めながらマティスと話していると、次から次へとジンの顔見知りがやって来た。
ナギ達や自分の面倒を見てくれた娼婦たちや、色々必要な物を用立ててくれた怪しい男たち、いろんな話をしてくれた老人たち。それぞれと固い握手やハグを交わし、笑い合い、時に涙を流しながら再会を喜んだ。
やがて宴会が始まるとジンはあっちこっち引っ張りだこで、かつての知り合いに質問責めにあった。そうしていつのまにか長い時間が経っていた。
夕方ごろから始まったはずが、今はすでに太陽が白んでいる。気がつけばそこら中に、嵐が通り過ぎたかのように、あらゆるものが人を含めて散らばっていた。そんな中でジンはマティスとともに廃協会の門へと足を進めていた。
やがてそこにたどり着くと、二人はしばし黙る。そしてジンが口を開きマティスに話しかけた。
「それじゃあ、また会いに来るね」
「ああ、同じ街に暮らしてんだ。なんかあったら俺を頼れよ?」
「うん、そうさせてもらう」
「おし!そんじゃあ行ってこい!試験頑張れよ」
久しぶりに再会した時の険のある表情をマティスはしていなかった。まるで憑き物が落ちたかのように、ただただ穏やかな顔でジンに向き合っていた。
「うん、ありがとう!それじゃあ行って来ます!」
ジンはマティスにそう告げると、まだ店も開いていない街中へと繰り出して行った。
「頑張れよ…」
マティスは通りへと歩き出したジンの後ろ姿を、見えなくなるまで眺めた。それから彼は宴会場へと戻って行った。
「行ったんですか?」
後ろからふとワットが話しかけて来た。
「ああ、行った」
「そうですか、それにしても驚きました」
「何がだ?」
「あなたが久しぶりに心から喜んでいるのを見ることができましたので。僕もすごく嬉しいです。それと、安心しました」
ワットはスラムの中で誰よりもマティスを尊敬していた。だからこそマティスの過去を知る彼は、今まで心苦しかったのだ。だがもうマティスはあの日から立ち直ることができたように見えた。
「ああ、そうだな…お前たちにも悪いことをしちまった…」
「そうですね、だから一つずつ、できることからやり直し始めましょうや」
「おう…なあ、これからもお前に頼ってもいいか?」
「当たり前ですよ、俺はあなたの右腕ですからね」
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「ありがとうよ…」
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