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第3章:魔人襲来
ドラゴン
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「ウィル、マリアが!」
「ミリエル、何があった!マリアはどうしたんだ!」
ウィルとジンはミリエルを確認すると急いで駆け寄る。
「わからない、森でドラゴンを見たら突然騒ぎ出して。逃げるために気絶させたんだけど、それから全く目覚めないの」
泣きそうな顔でそう伝えてくるミリエルにウィルの顔が強張る。
「…ドラゴンだと?」
「うん。手足に傷があって、黒くて赤い鬣、あと金色の目のドラゴンの幼体。それを見たらマリアが…」
その容姿を聞いたウィルの顔が見る見るうちに真っ青になっていくのに、ジンとミリエルは気がついた。
「バ、バカな!そいつは、いやそんなわけねえ!ここにいるはずがねえ!」
尋常ならざる空気を醸し出したウィルは叫ぶように言った。そしてしばらく逡巡したのちに彼は肩を落とした。それでも未だに小さく『ありえない』と呟いていた。その様子を訝しく思ったジンは恐る恐る尋ねた。
「ウ、ウィルどうしたの。何を知っているの?」
そして、苦虫を噛み潰したように顔を歪めながら、ウィルは吐き捨てるように言った。
「…俺の考えが間違ってなければ…そいつは、多分そいつは俺の、俺たちの仇だ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
マリアの絶叫により異変に気付いた。家に駆け込んだ時、真っ先に見たのは彼女に襲いかかろうとしているドラゴンの姿だった。赤い鬣に黒い鱗、金色に輝く瞳を持つそれは、今まさに彼女を喰らおうと、大きな口を開けていた。真っ白になった頭を瞬時に、そして強引に戦闘のために切り替える。不意打ちをついて、闘気で強化した拳をその頭に向けて打ち込む。
猛烈な勢いで吹き飛ばされたそれは、そのまま家の壁に衝突し、破壊し、外に転がり出た。足元に倒れる女性に素早く声をかける。意識が失われただけで、生きていることに安堵する。そして現状を確認し絶望する。
血の海に沈む、恐らく3人の子供たちはほとんど見分けがつかないほどにバラバラに、ぐちゃぐちゃに喰い散らかされていた。悲しみよりも怒りと憎しみが彼の心を締め付ける。体の大きさから考えるに、まだ幼体であろうドラゴンを殺すために血だまりの中を進む。
家の外に出て、まだ体にダメージが残り、うまく立ち上がることができていないそれに法術を放つ。土でできた槍を何本も、何本も化け物に打ち込む。強靭な鱗に覆われているはずのドラゴンに容易く突き刺さったことから、それがまだ幼体であることを確信した。
地面に串刺しにしてから、それを殺すために、背中に背負っていた大剣を構える。頭を動かして足掻くドラゴンを動かないように足で踏ん付けて固定する。そして断頭台の処刑人が如く、その首を切り落とそうと剣を持ち上げる。だがそれを振り下ろした瞬間、
『———————————』
ドラゴンが小さく何かを発した。その『言葉』を聞いた彼の剣は、その化け物の首に落ちることはなく、その横の地面に重い音とともに振り下ろされた。その隙をついて、ドラゴンは尻尾を振るい、彼を弾き飛ばした。そして身体中に突き刺さった槍を、器用に口と尻尾を使って抜くとそのまま彼の前から飛び去った。呆然としていた彼はただそれを眺めていることしかできなかった。
部屋の中に戻るとマリアが血まみれになりながら、子供の頭を抱きかかえて呆然としていた。その光景に顔が歪む。誰よりも愛情深い彼女が現実を受け入れられていないのが見て取れる。生気を失った彼女の表情を見ていられなかった。もしこの状態のマリアに真実を話せば、きっと完全に壊れてしまうだろう。
だから彼は嘘をつくことにした。自分たちの子供が、魔物になったことを、そしてそれが自分たちの他の子供を喰い散らかしたことを。ウィルは彼女に伝えることができなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ウィルはマリアをベッドに寝かせてから、居間に戻り、それからジンとミリエルにそう話した。
「…あの日以降、マリアは竜種を見ると気が狂っちまうようになった。しかも多分今回のやつは…」
ウィルの話にジンは言葉を失う。ティファニアに言われたことを思い出した。ウィル達が何を喪失したのかも、なぜそれをジンにひた隠しにしたのかも理解した。いつもの明るい二人からは想像もできないほどの話であった。
「俺は殺すことに失敗した。そしてあいつが逃げるのをただ黙って見ていることしかできなかった」
忌々しそうに言葉を吐くウィルを見て二人は押し黙る。
「…あり得るはずがねえんだ、あいつがいるなんて。ドラゴンの幼体なら通り抜けることができるかもしれねえが、あんな傷だらけであの結界を乗り越えることなんてできるはずがねえ」
「そんなこと言ったって実際にそのドラゴンはこっちにいるんだ!」
苛立ち混じりの声でミリエルがウィルに言う。
「…ああ、そうだったな。悪い、意味ねえことを言っちまった」
ウィルは申し訳なさそうに呟く。それを見てミリエルが何かを言おうと口を開き掛けたので、
「とりあえず今後の方針を決めようよ!」
と、強引に話を変えた。
それに不満げな表情をしつつもミリエルが賛同し、今後取るべき行動について、彼らは話し合い始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
一時間ほど話し合って、大まかな方針を2つ、彼らは決めた。
まず、早急にティファニアとヴォルクに連絡を取ること。
次に、彼らと協力して討伐隊を派遣すること。
少なくとも規格外の魔人とドラゴンが存在しているのだ。それを見越して可能な限りの最大戦力で向かわなければ叶わないだろうと言う考えからである。
「それじゃあ私はバジットに向かうわ」
「おおよろしく頼む。俺もマリアが目覚め次第ティファニア様に連絡するぜ」
それを聞いたミリエルは、
「任せたわよ」
と小さくつぶやいて家を出て行った。
「ミリエル、何があった!マリアはどうしたんだ!」
ウィルとジンはミリエルを確認すると急いで駆け寄る。
「わからない、森でドラゴンを見たら突然騒ぎ出して。逃げるために気絶させたんだけど、それから全く目覚めないの」
泣きそうな顔でそう伝えてくるミリエルにウィルの顔が強張る。
「…ドラゴンだと?」
「うん。手足に傷があって、黒くて赤い鬣、あと金色の目のドラゴンの幼体。それを見たらマリアが…」
その容姿を聞いたウィルの顔が見る見るうちに真っ青になっていくのに、ジンとミリエルは気がついた。
「バ、バカな!そいつは、いやそんなわけねえ!ここにいるはずがねえ!」
尋常ならざる空気を醸し出したウィルは叫ぶように言った。そしてしばらく逡巡したのちに彼は肩を落とした。それでも未だに小さく『ありえない』と呟いていた。その様子を訝しく思ったジンは恐る恐る尋ねた。
「ウ、ウィルどうしたの。何を知っているの?」
そして、苦虫を噛み潰したように顔を歪めながら、ウィルは吐き捨てるように言った。
「…俺の考えが間違ってなければ…そいつは、多分そいつは俺の、俺たちの仇だ」
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マリアの絶叫により異変に気付いた。家に駆け込んだ時、真っ先に見たのは彼女に襲いかかろうとしているドラゴンの姿だった。赤い鬣に黒い鱗、金色に輝く瞳を持つそれは、今まさに彼女を喰らおうと、大きな口を開けていた。真っ白になった頭を瞬時に、そして強引に戦闘のために切り替える。不意打ちをついて、闘気で強化した拳をその頭に向けて打ち込む。
猛烈な勢いで吹き飛ばされたそれは、そのまま家の壁に衝突し、破壊し、外に転がり出た。足元に倒れる女性に素早く声をかける。意識が失われただけで、生きていることに安堵する。そして現状を確認し絶望する。
血の海に沈む、恐らく3人の子供たちはほとんど見分けがつかないほどにバラバラに、ぐちゃぐちゃに喰い散らかされていた。悲しみよりも怒りと憎しみが彼の心を締め付ける。体の大きさから考えるに、まだ幼体であろうドラゴンを殺すために血だまりの中を進む。
家の外に出て、まだ体にダメージが残り、うまく立ち上がることができていないそれに法術を放つ。土でできた槍を何本も、何本も化け物に打ち込む。強靭な鱗に覆われているはずのドラゴンに容易く突き刺さったことから、それがまだ幼体であることを確信した。
地面に串刺しにしてから、それを殺すために、背中に背負っていた大剣を構える。頭を動かして足掻くドラゴンを動かないように足で踏ん付けて固定する。そして断頭台の処刑人が如く、その首を切り落とそうと剣を持ち上げる。だがそれを振り下ろした瞬間、
『———————————』
ドラゴンが小さく何かを発した。その『言葉』を聞いた彼の剣は、その化け物の首に落ちることはなく、その横の地面に重い音とともに振り下ろされた。その隙をついて、ドラゴンは尻尾を振るい、彼を弾き飛ばした。そして身体中に突き刺さった槍を、器用に口と尻尾を使って抜くとそのまま彼の前から飛び去った。呆然としていた彼はただそれを眺めていることしかできなかった。
部屋の中に戻るとマリアが血まみれになりながら、子供の頭を抱きかかえて呆然としていた。その光景に顔が歪む。誰よりも愛情深い彼女が現実を受け入れられていないのが見て取れる。生気を失った彼女の表情を見ていられなかった。もしこの状態のマリアに真実を話せば、きっと完全に壊れてしまうだろう。
だから彼は嘘をつくことにした。自分たちの子供が、魔物になったことを、そしてそれが自分たちの他の子供を喰い散らかしたことを。ウィルは彼女に伝えることができなかった。
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ウィルはマリアをベッドに寝かせてから、居間に戻り、それからジンとミリエルにそう話した。
「…あの日以降、マリアは竜種を見ると気が狂っちまうようになった。しかも多分今回のやつは…」
ウィルの話にジンは言葉を失う。ティファニアに言われたことを思い出した。ウィル達が何を喪失したのかも、なぜそれをジンにひた隠しにしたのかも理解した。いつもの明るい二人からは想像もできないほどの話であった。
「俺は殺すことに失敗した。そしてあいつが逃げるのをただ黙って見ていることしかできなかった」
忌々しそうに言葉を吐くウィルを見て二人は押し黙る。
「…あり得るはずがねえんだ、あいつがいるなんて。ドラゴンの幼体なら通り抜けることができるかもしれねえが、あんな傷だらけであの結界を乗り越えることなんてできるはずがねえ」
「そんなこと言ったって実際にそのドラゴンはこっちにいるんだ!」
苛立ち混じりの声でミリエルがウィルに言う。
「…ああ、そうだったな。悪い、意味ねえことを言っちまった」
ウィルは申し訳なさそうに呟く。それを見てミリエルが何かを言おうと口を開き掛けたので、
「とりあえず今後の方針を決めようよ!」
と、強引に話を変えた。
それに不満げな表情をしつつもミリエルが賛同し、今後取るべき行動について、彼らは話し合い始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
一時間ほど話し合って、大まかな方針を2つ、彼らは決めた。
まず、早急にティファニアとヴォルクに連絡を取ること。
次に、彼らと協力して討伐隊を派遣すること。
少なくとも規格外の魔人とドラゴンが存在しているのだ。それを見越して可能な限りの最大戦力で向かわなければ叶わないだろうと言う考えからである。
「それじゃあ私はバジットに向かうわ」
「おおよろしく頼む。俺もマリアが目覚め次第ティファニア様に連絡するぜ」
それを聞いたミリエルは、
「任せたわよ」
と小さくつぶやいて家を出て行った。
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