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第3章:魔人襲来
ティファニアの実力
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「ティファニア様!一体どうして…ティターニアの方はいいんですか?さっき魔獣を警戒しているって言ってたのに」
レックスがザルクを左手で持ち上げたまま、驚いた顔で彼女を見つめる。
「ええ。面倒なことは全部、サリオンとトルフィンに任せて来ちゃいました。あと安心して、兵隊たちはまだ準備中だから私だけ先に来ただけで、ちゃんと後から来ますからね」
そう言ってウインクしてきた彼女は一瞬にして張り詰めた空気を和らげた。
「それで…レックス、あなたが持ち上げている子をそろそろ降ろしてあげた方がいいんじゃないかしら。ちょっと顔が大変な色になってきているわよ」
「え?」
そう言ってレックスが左手に目を向けると首が締まり、息も絶え絶えな表情でわずかに泡を吹き、白目を向いているザルクがぶら下がっていた。
「うわ、済まねえ!」
そう言って彼がパッと手を放すとザルクは地面に崩れ落ちた。
「それであなたたちはこれからどうしようと考えていたの?」
ザルクを介抱するレックスたちを横目に、ティファニアがジンに話しかけてきた。
「それが…具体的な案はまだ見つかってないんです。どう考えても今の俺たちじゃ、抜けようとしている途中で絶対に殺されると思います」
「ふーん。まあそうね、私もそう思うわ。よく我慢したわね」
そう言って背伸びをして、偉い、偉いと言いながらジンの頭を撫でようとする。この3年間で、彼はティファニアの背丈を追い越していた。それが不満なのかティファニアは頬を膨らませる。
「まったく、いつの間にジンくんはこんなに大きくなっちゃったの?エルフ以外の子供ってすぐに大きくなっちゃうんだもん。あんなに小ちゃくて可愛かったのに…」
ブツブツと文句を言っているが、そういう様子は非常事態の最中ではあるが、ジンは微笑ましく思った。多分この聡明な女王のことだ、半分はあえてそういう態度を演じていて、もう半分はおそらく本音だろうと彼は推測したが、彼女の優しさを素直に受け入れることにした。すると再び空間が歪曲し、今度は兜を冠り、魔核が埋め込まれた銀の槌を持ったずんぐりとした、ティファニアと同じくらいの背丈の髭面の男が現れた。
「陛下!勝手に一人で行かんで下さい!」
ティファニアの側近であるトルフィンが慌てていたのか、鎧の装着もおざなりに現れた。
「あらトルフィン。着いて来たの?」
「当然でさぁ。陛下の側近である俺が行かずに誰が行きますか!」
鼻を鳴らしながら、息巻くトルフィンを見てティファニアはクスクスと笑った。
「あなたが来たってことはサリオンも来るつもりなのかしら?」
「いや、あいつは俺より弱いけど、机仕事は俺以上なんで、俺の分の仕事を任せて来ました」
そう言ってトルフィンがニンマリと笑う。
「ふふ、そうですか。兵士の皆さんは後どれぐらいで来れそうですか?」
それを聞いてトルフィンは髭を撫でながら、ちらりと砦の方を見る。
「そうですな…だいたい後1時間ぐらいですかな。準備できた者からこちらに来るように伝えますか?」
「そうね、ちょっとこれは想像以上だわ。サリオンに伝えてくれる?」
ちらりと丘を見下ろしてティファニアが言う。
「任せてくだせえ。ほいじゃあ、『氷鏡』」
そう言ってトルフィンは自分の前に氷の鏡を作り出す。
「おーいサリオン、聞こえとるか?」
『…トルフィンか?』
「おお、そうじゃ」
『貴様!この俺に仕事を押し付けていくとは何様のつもりだ!だいたい今お前はどこにいるんだ!?』
「うるさいのう。今ティファニア様と一緒だ」
『何!?ティファニア様だと!』
「ああ、そんでバジットの前におる」
『じょ、冗談だろ!今そこは魔獣が…』
「いいえ、本当ですよサリオン」
なかなか話が進まないので、ティファニアが横から口を挟む。
『陛下!その場は非常に危険です、どうかお戻りください!』
「心配してくれてありがとう、でもダメです。私たちの想像以上にひどい状況よ。私が動いた方が手っ取り早く解決するわ」
『し、しかし!』
「それともなあに、サリオンは私の力を疑っているの?」
『い、いえそのようなことは決してございませんが…』
ティファニアの言葉に慌てて答えるサリオンを見てティファニアはクスクスと笑った。
「それじゃあ、私のお願いを聞いてくれる?」
あざといようにかわいらしい表情と仕草を作って、サリオンに言うと
『か、可愛い…ごほん、わかりました。それでは、私はどのようなことをすれば良いのでしょうか?』
鏡の向こう側から彼が居住まいをただしたことが伝わって来た。
「それでは、現在準備が完了した兵士を即刻こちらに転移させてください。私とトルフィンは何人か合流したら、早速殲滅を開始します。」
『了解致しました。それではそのように手配させていただきます』
「お願いね、サリオン」
『はっ!』
「それじゃあ一旦通信は切るけど何かあったら呼び出してちょうだい」
『わかりました!』
その言葉を聞いてトルフィンは氷鏡の神術を解除した。
「今聞いた通りです。これから私の兵がすぐに集まります。あなたたちは私たちと一緒に行動しますか?それなら砦まで送ってあげるけれど?それともやっぱり今すぐ行きたい?」
「あの、俺はできるなら、なるべく早くマリアに合流したいんですけど…」
ジンがティファニアにそう言うと、
「うーん、私の兵を待って、一緒に行動した方が安全よ?」
「それでも、マリアの役に立てることがあるなら、すぐにでもしたいんです。」
「そう、マリアも幸せ者ね。よーし、それなら特別に私が道を作ってあげましょう!」
自分の胸をトンと叩いて任せろと言わんばかりの表情でティファニアが言う。
「でも一体どうやってこの中を突破するんですか?」
「ふふ、まあ見てなさいな」
そう言ってティファニアはフードから顔を出すと、瞑想を始めた。すると彼女の体を緑色の淡い光が包み込み、それに付随して彼女の周りに生えていた雑草が一斉に花を咲かせ始めた。
「な、こ、これは一体?」
ジンの言葉に賛同するかのようにレックスたちも目を丸くしている。
「静かにしてな、坊主。今から陛下がすげえものを見せてくれるからよ」
トルフィンの言葉に従って、ジンたちは静かにティファニアを見守る。今や彼女の周囲一面には花々が広がり、幻想的な光景を醸し出していた。やがて彼女を包む光が、彼女の持つ杖の先端に取り付けられた魔核に収束していく。
すべての光が魔核に宿ると、ティファニアは目をカッと見開き、叫んだ。
「『大樹林』!」
魔核から放たれる光に目が眩み、ジンは思わず目を瞑る。地割れのような轟音と魔獣たちの叫び声、そして強烈な大地の揺らぎを感じる。
「もう目を開けて大丈夫ですよ?」
ティファニアのその声に、ジンが恐る恐る目を開けて、前方に目を向けると、そこには凄まじい光景が広がっていた。
数百メートル先の砦とこの丘の間に、一つの森と、それを貫くように一本道が出現していたのだ。そしてその木々の枝には、多くの串刺しにされた魔物がぶら下がっていた。それらは未だ息があるのか体を動かしているらしく、まるで木々が蠢いているように森が揺らいでいた。風に乗って今にも血臭がこちらに流れてくるのではないかというほどに、この丘からでも、大地におびただしい量の血が流れ落ちているのがわかった。
「な、なんだこれ!」
呆然とその光景をジンが眺めていると、ラビが叫んだ。その場にいるジンたちは皆同じ気持ちであった。ジンは以前ウィルが、ティファニアを最強のラグナの使徒であると評していたことを思い出した。確かにそれを目の前の光景が証明していると言える。
「さすが陛下、相変わらずのお手前で」
トルフィンが何事もなかったかのように手を叩きながらそう述べる。
「そうでもないですよ?この技も一日に5回ぐらいしか出来るものではないですし、それもこの杖の補助あってのことですからね」
彼女は自分の持つ杖に目を向ける。見事な装飾が施されてはいるが一見するとただの杖にしか見えない。だが目の前の状況は確かに彼女の持つ杖が大きく関わっていた。
「ど、どういうことですか?」
ラルフがおずおずとティファニアに尋ねると、
「ふふ、このつ…」
「この杖にはな、エルフの女王であったエルミア様の考案された強化の無神術が込められているんだよ。そのおかげで何倍もの威力が出るのさ。そんでこの杖を作ったのが俺のご先祖様ってわけだ。って痛い、痛い、陛下なんで蹴るんですか!」
とトルフィンが自慢げに語った。だが自分のセリフを遮られたティファニアは見た目相応に頬を膨らませると無言でゲシゲシとトルフィンの脛を蹴り飛ばした。
「こほん、これで砦までの道が拓けたわ。でも気をつけて、多分しばらくしたら魔獣たちがまた押し寄せてくるだろうから。それじゃあいってらっしゃい。あ、あとマリアにこの森は薪にしていいわよって言っといて。」
眼下の光景を作り出した者とは思えないほど柔和な笑顔を人に向けてきたティファニアに一瞬ぞっとした。無垢な表情の中にはどことなく危険なものが含まれているように感じられたからだ。だがその考えをすぐさまぬぐい捨てる。
「わかりました、マリアに伝えときます。ありがとうございますティファ様!」
そう言ってジンは頭をさげて砦に向かって走り出した。今度は最初から全身を最大限まで強化する。高速で走る彼はあっという間に見えなくなった。
「それで、レックスたちはどうするの?ジンと一緒に行く?それとも私たちと?」
「ティファニア様たちと一緒に行こうと思っています。いくらティファニア様があの周辺の魔獣を根こそぎ狩り尽くしてくれたとはいえ、もしかしたら生き残ってるやつに襲われるかもしれません。そしたら多分ジンに迷惑がかかると思うんで」
「そう、賢明な判断ね。あんな無茶をしたあなたからそんな言葉を聞けるとは驚いたわ」
レックスの言葉を聞いて、ティファニアは以前ピッピから聞いた話を思い出していた。あれからたった3年しか過ぎていないが、彼が精神的な成長を遂げたことを喜ばしく思った。
レックスがザルクを左手で持ち上げたまま、驚いた顔で彼女を見つめる。
「ええ。面倒なことは全部、サリオンとトルフィンに任せて来ちゃいました。あと安心して、兵隊たちはまだ準備中だから私だけ先に来ただけで、ちゃんと後から来ますからね」
そう言ってウインクしてきた彼女は一瞬にして張り詰めた空気を和らげた。
「それで…レックス、あなたが持ち上げている子をそろそろ降ろしてあげた方がいいんじゃないかしら。ちょっと顔が大変な色になってきているわよ」
「え?」
そう言ってレックスが左手に目を向けると首が締まり、息も絶え絶えな表情でわずかに泡を吹き、白目を向いているザルクがぶら下がっていた。
「うわ、済まねえ!」
そう言って彼がパッと手を放すとザルクは地面に崩れ落ちた。
「それであなたたちはこれからどうしようと考えていたの?」
ザルクを介抱するレックスたちを横目に、ティファニアがジンに話しかけてきた。
「それが…具体的な案はまだ見つかってないんです。どう考えても今の俺たちじゃ、抜けようとしている途中で絶対に殺されると思います」
「ふーん。まあそうね、私もそう思うわ。よく我慢したわね」
そう言って背伸びをして、偉い、偉いと言いながらジンの頭を撫でようとする。この3年間で、彼はティファニアの背丈を追い越していた。それが不満なのかティファニアは頬を膨らませる。
「まったく、いつの間にジンくんはこんなに大きくなっちゃったの?エルフ以外の子供ってすぐに大きくなっちゃうんだもん。あんなに小ちゃくて可愛かったのに…」
ブツブツと文句を言っているが、そういう様子は非常事態の最中ではあるが、ジンは微笑ましく思った。多分この聡明な女王のことだ、半分はあえてそういう態度を演じていて、もう半分はおそらく本音だろうと彼は推測したが、彼女の優しさを素直に受け入れることにした。すると再び空間が歪曲し、今度は兜を冠り、魔核が埋め込まれた銀の槌を持ったずんぐりとした、ティファニアと同じくらいの背丈の髭面の男が現れた。
「陛下!勝手に一人で行かんで下さい!」
ティファニアの側近であるトルフィンが慌てていたのか、鎧の装着もおざなりに現れた。
「あらトルフィン。着いて来たの?」
「当然でさぁ。陛下の側近である俺が行かずに誰が行きますか!」
鼻を鳴らしながら、息巻くトルフィンを見てティファニアはクスクスと笑った。
「あなたが来たってことはサリオンも来るつもりなのかしら?」
「いや、あいつは俺より弱いけど、机仕事は俺以上なんで、俺の分の仕事を任せて来ました」
そう言ってトルフィンがニンマリと笑う。
「ふふ、そうですか。兵士の皆さんは後どれぐらいで来れそうですか?」
それを聞いてトルフィンは髭を撫でながら、ちらりと砦の方を見る。
「そうですな…だいたい後1時間ぐらいですかな。準備できた者からこちらに来るように伝えますか?」
「そうね、ちょっとこれは想像以上だわ。サリオンに伝えてくれる?」
ちらりと丘を見下ろしてティファニアが言う。
「任せてくだせえ。ほいじゃあ、『氷鏡』」
そう言ってトルフィンは自分の前に氷の鏡を作り出す。
「おーいサリオン、聞こえとるか?」
『…トルフィンか?』
「おお、そうじゃ」
『貴様!この俺に仕事を押し付けていくとは何様のつもりだ!だいたい今お前はどこにいるんだ!?』
「うるさいのう。今ティファニア様と一緒だ」
『何!?ティファニア様だと!』
「ああ、そんでバジットの前におる」
『じょ、冗談だろ!今そこは魔獣が…』
「いいえ、本当ですよサリオン」
なかなか話が進まないので、ティファニアが横から口を挟む。
『陛下!その場は非常に危険です、どうかお戻りください!』
「心配してくれてありがとう、でもダメです。私たちの想像以上にひどい状況よ。私が動いた方が手っ取り早く解決するわ」
『し、しかし!』
「それともなあに、サリオンは私の力を疑っているの?」
『い、いえそのようなことは決してございませんが…』
ティファニアの言葉に慌てて答えるサリオンを見てティファニアはクスクスと笑った。
「それじゃあ、私のお願いを聞いてくれる?」
あざといようにかわいらしい表情と仕草を作って、サリオンに言うと
『か、可愛い…ごほん、わかりました。それでは、私はどのようなことをすれば良いのでしょうか?』
鏡の向こう側から彼が居住まいをただしたことが伝わって来た。
「それでは、現在準備が完了した兵士を即刻こちらに転移させてください。私とトルフィンは何人か合流したら、早速殲滅を開始します。」
『了解致しました。それではそのように手配させていただきます』
「お願いね、サリオン」
『はっ!』
「それじゃあ一旦通信は切るけど何かあったら呼び出してちょうだい」
『わかりました!』
その言葉を聞いてトルフィンは氷鏡の神術を解除した。
「今聞いた通りです。これから私の兵がすぐに集まります。あなたたちは私たちと一緒に行動しますか?それなら砦まで送ってあげるけれど?それともやっぱり今すぐ行きたい?」
「あの、俺はできるなら、なるべく早くマリアに合流したいんですけど…」
ジンがティファニアにそう言うと、
「うーん、私の兵を待って、一緒に行動した方が安全よ?」
「それでも、マリアの役に立てることがあるなら、すぐにでもしたいんです。」
「そう、マリアも幸せ者ね。よーし、それなら特別に私が道を作ってあげましょう!」
自分の胸をトンと叩いて任せろと言わんばかりの表情でティファニアが言う。
「でも一体どうやってこの中を突破するんですか?」
「ふふ、まあ見てなさいな」
そう言ってティファニアはフードから顔を出すと、瞑想を始めた。すると彼女の体を緑色の淡い光が包み込み、それに付随して彼女の周りに生えていた雑草が一斉に花を咲かせ始めた。
「な、こ、これは一体?」
ジンの言葉に賛同するかのようにレックスたちも目を丸くしている。
「静かにしてな、坊主。今から陛下がすげえものを見せてくれるからよ」
トルフィンの言葉に従って、ジンたちは静かにティファニアを見守る。今や彼女の周囲一面には花々が広がり、幻想的な光景を醸し出していた。やがて彼女を包む光が、彼女の持つ杖の先端に取り付けられた魔核に収束していく。
すべての光が魔核に宿ると、ティファニアは目をカッと見開き、叫んだ。
「『大樹林』!」
魔核から放たれる光に目が眩み、ジンは思わず目を瞑る。地割れのような轟音と魔獣たちの叫び声、そして強烈な大地の揺らぎを感じる。
「もう目を開けて大丈夫ですよ?」
ティファニアのその声に、ジンが恐る恐る目を開けて、前方に目を向けると、そこには凄まじい光景が広がっていた。
数百メートル先の砦とこの丘の間に、一つの森と、それを貫くように一本道が出現していたのだ。そしてその木々の枝には、多くの串刺しにされた魔物がぶら下がっていた。それらは未だ息があるのか体を動かしているらしく、まるで木々が蠢いているように森が揺らいでいた。風に乗って今にも血臭がこちらに流れてくるのではないかというほどに、この丘からでも、大地におびただしい量の血が流れ落ちているのがわかった。
「な、なんだこれ!」
呆然とその光景をジンが眺めていると、ラビが叫んだ。その場にいるジンたちは皆同じ気持ちであった。ジンは以前ウィルが、ティファニアを最強のラグナの使徒であると評していたことを思い出した。確かにそれを目の前の光景が証明していると言える。
「さすが陛下、相変わらずのお手前で」
トルフィンが何事もなかったかのように手を叩きながらそう述べる。
「そうでもないですよ?この技も一日に5回ぐらいしか出来るものではないですし、それもこの杖の補助あってのことですからね」
彼女は自分の持つ杖に目を向ける。見事な装飾が施されてはいるが一見するとただの杖にしか見えない。だが目の前の状況は確かに彼女の持つ杖が大きく関わっていた。
「ど、どういうことですか?」
ラルフがおずおずとティファニアに尋ねると、
「ふふ、このつ…」
「この杖にはな、エルフの女王であったエルミア様の考案された強化の無神術が込められているんだよ。そのおかげで何倍もの威力が出るのさ。そんでこの杖を作ったのが俺のご先祖様ってわけだ。って痛い、痛い、陛下なんで蹴るんですか!」
とトルフィンが自慢げに語った。だが自分のセリフを遮られたティファニアは見た目相応に頬を膨らませると無言でゲシゲシとトルフィンの脛を蹴り飛ばした。
「こほん、これで砦までの道が拓けたわ。でも気をつけて、多分しばらくしたら魔獣たちがまた押し寄せてくるだろうから。それじゃあいってらっしゃい。あ、あとマリアにこの森は薪にしていいわよって言っといて。」
眼下の光景を作り出した者とは思えないほど柔和な笑顔を人に向けてきたティファニアに一瞬ぞっとした。無垢な表情の中にはどことなく危険なものが含まれているように感じられたからだ。だがその考えをすぐさまぬぐい捨てる。
「わかりました、マリアに伝えときます。ありがとうございますティファ様!」
そう言ってジンは頭をさげて砦に向かって走り出した。今度は最初から全身を最大限まで強化する。高速で走る彼はあっという間に見えなくなった。
「それで、レックスたちはどうするの?ジンと一緒に行く?それとも私たちと?」
「ティファニア様たちと一緒に行こうと思っています。いくらティファニア様があの周辺の魔獣を根こそぎ狩り尽くしてくれたとはいえ、もしかしたら生き残ってるやつに襲われるかもしれません。そしたら多分ジンに迷惑がかかると思うんで」
「そう、賢明な判断ね。あんな無茶をしたあなたからそんな言葉を聞けるとは驚いたわ」
レックスの言葉を聞いて、ティファニアは以前ピッピから聞いた話を思い出していた。あれからたった3年しか過ぎていないが、彼が精神的な成長を遂げたことを喜ばしく思った。
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