World End

nao

文字の大きさ
上 下
41 / 273
第3章:魔人襲来

合流

しおりを挟む
 大キマイラの尻尾の攻撃をしゃがんで躱す。すかさず襲ってきた尻尾を切り落とそうと短剣を上に振るい、その攻撃は見事に蛇の頭を切り飛ばした。そして一足飛びで後方に下がり、距離をとった。

「—————————————!」

 尻尾を切り落とされた大キマイラは憤怒の形相をジンに向ける。互いに睨み合いを続ける彼らの周囲にはすでに事切れた、中、小キマイラが転がっていた。

 ジリジリとひりつくような時間の中で、唐突に大キマイラが勢いよくジンに飛びかかり爪を伸ばしてくる。だがジンはその攻撃を冷静に、体をわずかに右に動かして躱す。その躱しざまに左手に持った短剣でヤギの首の喉笛を切り裂く。そして、痛みに苦しむキマイラの背に飛び乗ると、背中側から心臓のあたりに狙いをつけて剣を振り下ろす。ある程度のところまで突き刺さると、分厚い毛皮と骨に阻まれて進まなくなるが、

「レクス、発動!」

と叫ぶと、右手に持っていた短剣レクスに封じられた金神術が発動する。剣身が伸び、刃幅が広がり、切れ味が鋭くなった。そしてそのままキマイラの心臓部まで容易く切り裂いた。血が吹き出しジンの体を赤く染める。ビクンビクンと何度か痙攣したのち、大キマイラは事切れた。それを確認し、大きく深呼吸をして乱れた息を整えた。

 金神術を魔核に封じ込めるというのはウィルのアイディアだった。短剣は使い続ければ、切れ味が落ち、また付着した血によって錆びてしまう。金神術ならこの点を克服できた。加えて強固な鎧を身につけた相手であっても容易に切り裂く切れ味を付与することができる。

 もう一本の剣サルトゥスには雷神術が込められている。金神術との相性を考えた上で、これもまたウィルにアドバイスされたのだ。雷化の神術を発動させれば、強化された肉体をさらに活性化させ、まさに稲妻のような速度で動くことができる。相手を一時的に麻痺させてその隙をつくことも可能である。

 川で体に付着した血を軽く洗い流した後、ジンはレックスたちを追いかけることにした。先ほどの戦闘で体にはいくらか疲労が残っているが、嫌な予感がするため、体を闘気と無神術で補強し走り始める。身体能力を一気に3倍近くまで強化した彼は猛スピードで河原を駆け、森を抜ける。小高い丘の近くまでついたところで、遠くから爆発音や、何かの騒ぎ声が大量に聞こえてきた。一瞬、最悪の光景が頭をよぎる。

「まさか…」

思わず足を止めてしまった彼は、再び走り始めた。今度は自分が今できる最大である5倍の身体強化を自身に施す。丘の天辺まで一息で駆け上がった彼の目に映ったのは、大量の魔獣たちに襲われたバジット砦であった。

「嘘…だろ」

 あまりの光景に言葉を失うジンであったがすぐさま仲間たちのことを思い出し、周囲に目を向ける。

「レックスたちは一体どこに?」

自分よりも先にこの光景を見たであろうレックスたちは、他の魔獣に襲われていなければ周辺にいるはずだった。しかしその姿はどこにも見えない。

「レックス、ラルフ!ヨーク、ラビ、ザルク!誰か、誰かいないのか!」

反応が戻ってこないため、焦燥感に苛まれる。

「誰か!誰かいたら返事をしてくれ!」

大声で友人たちの名前を呼び、周囲を駆け回る。すると彼の近くにあった木の根が突如動き出し、中からレックスたちが現れた。

「みんな!よかった、無事だったのか」

 全員の無事を確認してジンは安堵の息をこぼした。張り詰めていた意識がわずかに緩む。

「お前こそな。それで、キマイラの方は倒したのか?」

「ああ、ま、あの程度俺なら余裕だね」

レックスの言葉に冗談めかしく返答する。

「はは、うるせえよ」

そう言ってレックスは拳を前に突き出してきたので、ジンはそれに自分の拳を軽くぶつけた。

「それで…今どんな状況かわかるか?砦の方がどうなっているかとか、マリアたちはどうしているかとか」

「とりあえず、マリアたちは無事だ。砦の方も門はまだ保つらしいけど、それもせいぜい1日から2日らしい」

「そうか…それでこのことはもうウィルには伝えたのか?」

「ああ、ついでにティファニア様にもな。ウィルは多分あと20分ぐらいで来るんじゃねえかな。ティファニア様は兵隊を送ってくれるらしいんだが、そいつらが来るにはまた2時間ぐらいかかるらしい」

「わかった。それで、レックスたちは何をしてたんだ?」

「何って、俺らはお前が来るのを待ってたんだ。どう考えても、俺らにこの中を突っ切れるほどの実力はねえしな。それに…」

『俺たちが見えなかったら、お前が無理やり突っ込むんじゃねえかと思ってな』

 そう続けようとしたがレックスは結局言わなかった。ジンが意識的にか、無意識的にかはわからないが、仲間や知り合いが傷つくこと、あるいは死にそうになることを非常に恐れていることにレックスは気がついていた。だからこそ、その精神の脆さが気になるところだが、今そんなことを話している暇はない。

「え?それに、どうしたんだ?」

「いやなんでもねえ、忘れてくれ。さてと…これからどうするよ?」

「そうだな…なんとかマリアに合流できないかな?」

「そりゃ、それができりゃあ一番だけどよ。俺たちがあん中突っ切んのは無理だぜ?少し進んだところでぶっ殺されんのがオチだ」

「そうなんだよなぁ。どうすっかな…」

「あ、あのジンくんはやっぱりあの中を行くつもりなの?」

ラルフがおずおずとジンに尋ねてくる。

「ん?ああ、そのつもりだけど」

「む、無理だよ!そりゃあジンくんとレックスくんならなんとか行き着けるかもしれないけどさ、僕にはとてもじゃないけどそんなことできないよ!」

ラルフがヒステリックに声を上げる。そしてそれに同意するように他の3人が頷く。彼らはジンやレックスのように修行などしていない。ある程度神術は扱えはするが、所詮素人に毛の生えたようなものであった。

「お、落ち着けって!だから今みんなであの中を突破できる方法を考えてるんじゃないか」

ジンが宥め賺すようにラルフに言う。

「で、でも!」

それでも彼は食い下がってくる。だが、

「ラルフ、少し黙ってろ」

グルグルと唸りながら、レックスが凄むとラルフはヒッと小さく悲鳴をあげ手から、すごすごと静かになった。だがその顔には不満と恐怖の色が見て取れた。さっ、とレックスが他の面々を見やると彼らもやはり同じような顔をしていた。

「そ、そうは言ってもよお、マジで俺たちはどうすればいいんだよ?」

「だからそれを考えてるって言ってんだろ!」

怖いのは理解しているが、何度も似たようなことを聞かれて、イラついたレックスの語気が思わず強くなる。

「でも実際に無理だろ!なあもう俺たちだけでも逃げたほうがいいんじゃね?」

「てめえ!何寝ぼけたこと言ってんだ!」

ザルクの言葉を聞いて、レックスは怒りのあまり彼の胸ぐらを掴み、持ち上げた。

「ぐ、くっ、ぐるじい…」

「砦の中には俺たちみてえなやつらの面倒を見てくれた人達が一杯いんだろ!その人達を見捨てろって言ってんのか!」

 首を絞められているザルクの顔がどんどん青くなっていくが、興奮したレックスはそれに気がつかない。冷静に見えるが焦っているのは、現状に恐怖感を抱いているのは彼も同じなのだ。

「おい、レックス落ち着けって!それ以上やったらザルクが死んじまう」

そんな彼にジンは慌てて声をかける。

「うるせえ!こいつは一発殴らなきゃ気が済まねえ!」

 ザルクがその言葉を聞いて青い顔をより一層青くする。レックスが左手で襟を掴んだまま、右手を後ろに引いて思いっきり殴るために力を込める。だが結局その拳はザルクに届くことはなかった。突如レックスの背後の空間が歪曲したからだ。それに気がついたジンとレックスは素早くラルフたちの手を引いて、距離をとった。

「あらあら、そんなに大声を出してどうしたんですか?」

 すると、中から淡い緑色のフード付きローブに、頂点に紫色の宝玉が飾られ、金と銀の複雑な装飾が施された木の杖を手にしたティファニアが現れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

処理中です...