World End

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第3章:魔人襲来

救援要請

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『ん?おおお、レックスじゃねえか!久しぶりだなあ、どうしたんだ一体!?なんだ、なんか面白いことでもあったんか?』

緊迫した空気に全く気づかない、陽気で呑気な声がレンズ越しに聞こえてくる。

「いや、やべえことになっててな。お前今どこにいる?ティターニアか?」

『ん?ああ今ティターニアさ。今からカトレアちゃんとデートに行くところだったんだよ。そんでやべえことってなんだよ?』

「また違う女かよ!ってそんなこと話してる場合じゃねえんだ。今バジットが魔獣どもの暴走で襲われてんだ。ティファニア様に連絡取れるか?」

『えぇ~、これから俺デートなんだけど。どうせ魔獣どもとか言ったって20匹ぐらいだろ?そんなんお前たちでやれよ』

鼻くそをほじりながら言ってくるピッピを腹立たしく思いながらもレックスは我慢した。

「そんなレベルじゃねえんだよ!とりあえずこいつを見ろ」

そう言って彼はピッピに見えるようにレンズを砦の方に向けた。

『…ふぁ?…ふひゃぁぁぁぁぁ!?』

 眼前に広がる光景を見てピッピが奇声をあげる。ことの重大さをようやく理解したようだった。

『えっ、なにこれ、えっ、え、やばくねおい、やべぇってこれマジで!』

「だからやべえっつてんだろ。早くティファニア様んとこに行ってくれ、そんでこのことを伝えてくれ!」

『お、おうわかったすぐ行く。すぐ行くからちょっと待ってろ!ま、まずカトレアちゃんにドタキャンすることになったって謝りに行くから!』

「馬鹿野郎!早く行け、羽根毟ってからぶっ殺すぞ!」

 レックスがグルグルと低いうなり声をあげながら牙を見せて凄む。

『ひっ!い、嫌だなあ、冗談だよ冗談。今すぐティファニア様のところ行くから、そう怖い顔すんなよぉ、ちびんだろ。全くやっとカトレアちゃんと…』

ブツブツと小さく恨み言を言いながらタキシードを着たピッピはレンズの前から姿を消した。

「とりあえずこれでティファニア様にも話が通るだろう。あの方が来てくれたら少しはこの状況も改善されるはずだ」

「ティファニア様ってゴデック渓谷にあるティターニアの女王様だよね?使徒の一人の。」

「ああ、今いる使徒の中で最強クラスの人だからな。マリアとあの人とそれと砦の兵士たちがいればきっと…」

「レックス、それならウィルは呼ばないのか?こんな時こそあのおっさんの出番だろ」

「そうだよ。おっさんならこのモンスターの囲いも余裕で突破できるはずじゃん」

「いや、多分無理だ」

「なんで!?」

「ジンの話を聞いてなかったのか?おっさんは昨日大怪我したって言ってたじゃねえか。まともに動けるかわかんねえだろ」

「でも一応連絡を取って見てもいいんじゃないかな。おじさんならもう普通に動けるかもしれないよ、なんてったって使徒の一人なんだから」

「そうそう」

「だがよ…」

「ラルフの言った通りもしかしたら大丈夫かもしれないじゃん。一応連絡だけでもしてみようぜ」

「…わかった、ちょっと待ってろ」

 レックスは再びレンズを覗き込む。

「ウィルのおっさん、いるか?」

 しかし反応はなかった。

「おっさん、おっさん、おっさんいるか?いたら返事してくれ」

何度かレンズに向かって話しかけていると向こう側から人の動く気配が伝わって来た。

『うるせえな、人が気持ちよく寝てたのにどこのどいつだ、ってレックスじゃねえか、どうしたんだ急に?』

頭をぼりぼりと掻いているコングのような体躯の、緑髪と緑髭の男ウィルがレンズに映った。

「おっさん、体の調子はどうだ?すぐ動けそうか?」

『ん?なんだジンから聞いたのか?まあぼちぼちってところかな。そんで急にどうしたんだよ?』

「とにかくこいつを見てくれ」

 そう言ってレンズをバジット砦の方に向けて、辺り一面に群がる魔獣の大群をウィルに見せる。
その光景にウィルは言葉を失う。

『…な、なんだこいつは?お前ら一体今どこにいるんだ!?ジンとマリアはどうした!』

「今俺たちは街の外にいる。そんでジンは襲って来たキマイラから俺たちを守るために一人で残って別の場所にいる。マリアは多分あの中だ」

『…街の様子は?まだ持ちこたえているか?』

そうウィルが尋ねたところで砦の方からボゥッと巨大な火柱が立ち上った。

「うわっ!」「うひゃあ!」「ひ!」「うきゃ!」「——!」

 その爆音に各々が戦々恐々とする。

『こいつは…マリアだな』

「マリアさんが?」

『ああ、あいつの範囲魔法だ』

レックスが爆発のあった地点に目を向けてみると、半径数百メートルはあるだろうクレーターができていた。まだ延焼し続けており、多くの魔獣を巻き込んで燃え上がっている。

「すげぇ…」

レックスの後ろにいた四人も目の前の光景に息を呑んでいた。

「これなら勝てるじゃん!」

「うん!さすがマリアおばさんだよ!」

彼らの目には希望が宿っていた。だが、

『いや、あの魔法はそう何度も放てるもんじゃねえ。あいつの調子がいい時でもせいぜい4発ぐらいが限界だ。それを一発放ったってことはあん中で何かあって早く動かなきゃいけないってことかもしんねえ。レックス街の様子はどうなっている?」

レックスは自分が実際に見ている光景をウィルに伝える。それを聞いていたウィルは、

『もうティファニア様には連絡したか?』

「ああ、もうしてある」

『わかった。俺も今すぐ行くからよ。一旦切るぞ』

「どれぐらいかかりそうだ?」

『全力で行って1時間ぐらいだな』

「わかった」

『レックス、わかってると思うが無理はするなよ?』

「わかってる」


 その言葉を聞くと、ウィルはすぐに準備に取り掛かり始めた。武器、防具を保管庫から取り出し、装備する。薬類を詰めたウエストバッグを腰に巻きつける。それらの準備が終えてから家を出る。

「『雷化』」

と呟くと身体中から稲妻が迸る。肉体を一時的に雷と同化させる神術である。肉体にかかる負荷は大きいが、その分スピード、攻撃力は闘気を纏っている時と比較できないほど跳ね上がる。

「っ!」

雷化した彼の体を鋭い痛みが襲う。昨日、ジンの攻撃を食らったところだ。しかし彼は一つ大きく深呼吸すると、その痛みを無視して走り始めた。


「よっしゃ!ウィルが来てくれるならきっといけるぜ!」

「マジでよかった!」

 ウィルが来ることに思わず喜びの声をあげたヨークとザルクを横目に、レックスは目をつぶって思案していた。これ以上自分に何ができるか、自分たちが生き残るにはどうすればいいか。そんなことを考えていると、レンズの向こう側からピッピが声をかけて来た。

『おーい、レックス、聞いているかぁ~』

間の抜けたような声がしてレックスの意識は戻る。

「ピッピか、ティファニア様に連絡は取れたのか?」

『おうよ、つーより今替わるから』

そう言ってピッピが画面から離れると、幼さを残しつつも、どことなく妖艶な美少女が現れた。

『久しいですね、レックス』

「お久しぶりです、ティファニア様。失礼ですが早速本題に入らせてもらってもいいですか?」

『ええ、構いませんよ。それであなたの望みというのは私たちのところからの援軍ということでいいのですね?』

「はい、しばらくは保つと思いますけど、いつ決壊するかわからない状況です。魔獣の数もまだどれぐらいいるかわかっていないし…」

『…わかりました。それではこちらからは精鋭300人をそちらに送りましょう』

「300人ですか…」

『ごめんなさいね。こっちでも最近魔獣たちの様子がおかしくて、そんなに大部隊を動かすことはできないの』

「いえ大丈夫です、送っていただけるだけでありがたいです。それで、到着までにどれぐらいの時間がかかりそうですか?」

『そうですね…部隊を編成して、装備を整えて…だいたい3時間以内にはそちらにいけると思います』

「3時間!そんなに早く、どうやってくるんですか?」

『ふふ、私たちの国にはね、エルミア様がお創りになった転移門というものがあるんですよ。これを使えばどこにでも転移することができるのです。それと今の話はマリアにしてますか?』

「あ!」

『その様子だと忘れていたみたいね。それじゃあこっちから連絡しておくわね』

「あ、ありがとうございます」

 レックスはなんだかんだで自分も平静を保てていなかったことに気がついた。今この時に到るまで、マリアに連絡を取ることを忘れていたのだ。

『それじゃあ3時間後に』

「は、はい!よろしくお願いします!」

思わず氷鏡の前で頭を下げた。ティファニアはそれを見てクスクス笑いながら鏡の前から去って行った。

「…それで、これから僕たちどうするの?」

ラルフが再度レックスに尋ねてきた。

「隠れる、そんでジンを待つ」

「え?」

「今んところ俺たちにできるのはこれ以上何もねえ。下手に動けばこん中の誰かは確実に死ぬ。そんなら少しでも助かる可能性にかけるしかねえだろ」

「で、でもよ、ジンが来るかわかんねえじゃん?それにあいつが来る前に街が攻め落とされるかもしれねえし…」

「そんなら他に何か案があるのかよ?」

「い、いやねえけどよぅ」

「そんなら黙って俺に従え。それにあいつは絶対に戻って来る。なにせ使徒の一人で、森の主を倒して、しかも無神術の使い手なんだからな」

そう言ってレックスは不敵に笑った。
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