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第2章:魔物との遭遇
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夢を見ていた。黄金色に輝く草原の上に懐かしい顔ぶれが並んでいた。彼らの表情はとても穏やかだった。その顔からはいつものような悲しみや憎しみ、苦しみがなかった。ジンは彼らに近寄ろうとするが足が動かない。そして徐々に彼らは離れていくことに気がつき、何度も声を上げて呼ぼうとしたが声は出なかった。しかしジンは理解できた。彼らがジンを応援しにきてくれたことを。そして彼らからのエールがジンには聞こえたような気がした。夢であることはわかっている。すでに彼らの命は失われている。だがジンは少し救われた気がした。
目がさめると、そこは薄暗い家の中のベッドの上だった。壁は土でできており、天井は低く、ジンでも手を伸ばせば届きそうなほどだ。ゆっくり起きあがると、身体中に激痛が走った。特に脇腹と左腕がひどく傷んだ。
「あ、ジンー」
「ぐっ」
ピッピが顔面に体当たりをして来る。
「よかった、本当に良かった。おいら心配したんだぜ。傷治したのに起きねえんだもん。死んでんのかと思って、危うく土に埋めるところだったぜ」
にこやかにそう告げて来るピッピをとりあえず鷲掴むと、いつものように思いっきり揺さぶってやった。ピッピがまた嘔吐したが今度は体がうまくいかなかったため、顔に思いっきり浴びた。
「む?起きたか小僧。怪我の具合はどうじゃ?」
ピッピの声を聞いたのか別室から見事な白ひげとハゲ頭のドワーフが入ってきた。
「あなたは一体?」
「む。わしか、わしは鍛治師のトーリというものじゃ。お前さん、わしの家の前でよくもまあ暴れてくれたのぉ」
「ご、ごめんなさい」
「まあ良い。あの化け物にはわしも困っておったからのぉ。してお前さん怪我の具合はどうじゃ?」
「えっと、まだ体は痛むけど耐えられないほどじゃないです」
「ふむ、まあわしの剣を使ったんじゃ、当然じゃろう」
「それはどういうことですか?」
「なに、お前さんの封術具はな…」
「ジンの封術具はこのトーリ爺さんが造ったんだぜ。すげーよな。この爺さん一応これでもティターニアでは名工で知られてるんだよ。王家御用達ってやつだな」
「ぐ、む。まあそういうことじ」
「それは、ありがとうございました。おかげでなんとか生き残れました」
「うむ。あとお前さんの持っていたナイフもじゃな…」
「あ、あとお前さんが持ってたナイフもトーリ爺さんが打ったんだってよ。世界って狭いよなー。ウギャ!」
「……」
トーリの無骨な両手がピッピを掴むと、無言で振り回した。
「なんでぇ…」
「お前は、人のしゃべっている時ぐらい静かにせぇ」
ピッピはぐったりしながら「ごめんよぉ」と頷いた。
「それからのぉ、おい、早く入ってこい」
そう言って入り口を見ると、おずおずと罰が悪そうにトカゲ顔の少年が入ってきた。
「その、助けてもらってありがとうよ。それと、その、この前は悪かった」
ぼそりとそう呟き、深く頭をさげる。
「こやつはな…」
「こいつはな、森でパナケイアって薬草を探してたんだってよ」
ピッピはトーリを遮って言う。トーリに目に怪しい光がさすが、ピッピはそれに気づいていない。
「その、俺のばあちゃんが体調崩しててよ。どうしてもそいつが必要だったから…」
肩身の狭そうにポツリポツリと言う彼の話によると、どうやら両親は人間に殺されており、唯一の肉親である祖母も、先日病のために倒れたと言う。そのために万病に効くとされているパナケイアを取りにきたらしい。だがいつもなら縄張りでないはずのところにゴブリンが住み着いていたらしく、追われていたそうだ。
「俺、父ちゃん達が死んでから、どうしても人間が許せなくてよ。だからこの前、お前に止められた時にカッとなっちまって。わけがわからなくってよ。だからこの前は本当にすまなかった。謝って済む話じゃねぇのはわかってるけどよ」
じっと話を聞いていたジンは一つ深くため息をつく。
「お前の事情はわかった。確かにお前のせいで死にかけた。だから俺はお前を許す気は無い。でもお前が謝らなきゃいけないのは俺だけじゃないだろ」
「っ、ああ。今度ラルフにも謝るつもりだ」
「そうしてくれ。これでこの話は終わりだ」
「わかった。本当にすまなかった」
そう言ってレックスは再び頭を下げた。
「一つだけ聞いてもいいか」
「え、ああ」
「あの時、氷の壁を出してくれたのはお前か?」
「ああ、そうだ。俺がやった」
「そうか、ありがとう。お前のおかげで死なずに済んだ」
それを聞いてレックスは目を丸くした。
「お、俺が役に立ったなら、良かったよ」
「ほい、じゃあ話はそれぐらいにしてレックス、ちょいと食事の準備をしてくれんかのぉ。鍋に作っておるから取ってきておくれ。この坊主も腹が空いておるじゃろ。何せまる3日なにも食べておらんのじゃからのぉ。」
トーリの提案を聞いてジンはひどく腹が空いていることに気づいた。そしてテーブルに並べられた料理を、ジンは貪るように食い尽くした。
「それで、お主はこのあとどうするつもりかね?」
食後、トーリが尋ねてきた。
「とりあえず、このまま海を目指します。それがウィルと約束したことですから」
「ふむ、海まではお前さんの足じゃと、ここから10日ぐらいじゃな。しかしウィルのやつもとんでもない試練を与えおったのぉ」
トーリもウィルとマリアの知り合いであることを食事中に、ジンは教えてもらった。現在彼らが使っている武具は彼が造ったものらしい。
「それじゃあ、武器が必要じゃな。どれ、何かお主に見合うものはあったかのぉ」
そう言って立ち上がると、食堂を出て行った。そしていくつかの武器を持って戻ってきた。
「この中から、お主が気に入ったものを選びなさい。色々持ってきたんでな。もし気に入ったものがなかったら、遠慮なく言いなさい」
彼はジンの目の前に様々な武器を並べた。短槍や、短剣など彼のサイズに合う物である。
「それから防具ものぉ」
そう言って持ってきた皮の胸当てをジンに渡した。
「ありがとうございます。でも俺お金が…」
「よいよい、ラグナ様の使徒ならば、我らはお手伝いするのが道理じゃて。気にせんでよい」
「わかりました。それじゃあ遠慮なく…」
そう言って彼はおもむろに2振りの短剣を手にした。柄頭に紫色の宝玉がついた、つい先日使っていたナイフよりも、少しだけ分厚く、長い物である。
「これにしようかな」
「ほう、それにするのかい」
「ええ、なんとなく気になって」
「ふむ、実はな、その剣の宝玉はな、お主が倒した森の主の体の魔核なのじゃよ」
魔核とは魔物や魔獣の胸部にある、いわば心臓のようなものである。封術具の媒介にはこれが用いられる。
「剣に選ばれたのかもしれんのぉ。それじゃあそいつはお主のものじゃ。何か銘をつけてやろうか?」
「はい、お願いします」
「ふむ、それでは月並みじゃが、サルトゥスとレクスでどうじゃ?古代語で『森』と『王』という意味じゃ。その剣にぴったりじゃろ?」
「はい!それじゃあこの剣は今からサルトゥスとレクスです」
ジンはその場で軽く素振りをした。
「ほっほっほ、その武具に入れる術はどうするかね?」
「そうか、これ封術具なんだ。…うーん、それって今決めないとダメですか?」
「いやいや、そんなことはないぞ。ゆっくり時間をかけるとええ。どうするか決めたら、誰かにやってもらうといい」
「わかりました!」
そして新たに手に入れた剣を鞘にしまい、ベルトに掛けた。
「それで、お前さんたちはどうするのかね?」
トーリはピッピとレックスに目を向ける。
「もちろんおいらはジンと一緒に行くさ。こいつはおいらみたいな頼りになる奴がいないと危なっかしいからな。」
得意そうに言うそんな彼に拳を突き出す。
「ああ、よろしく頼む、ピッピ」
「任せとけ!」
そう言って小さな相棒はジンの拳に自分の拳をぶつけた。
「俺はばあちゃんのためにパナケイアを見つけなきゃなんねえ。それが終わり次第町に帰ろうと思います」
「ふむ、それならもう少しここで過ごすといい。少し離れたところじゃが、確か見た覚えがある」
「本当ですか!ありがとうございます!」
翌日、まだ痛みは少し残っているものの、不自由なく動けるようになったのでジンは出発することにした。
「それじゃあ、今までありがとうございました」
「構わんよ。それより残りの道中気をつけるんじゃぞ。それと剣は大事に使えよ?簡単に折ったりしようものならお主の頭をかち割るからのぉ」
笑顔で言ってきたが、トーリの目は笑ってはいなかった。ジンの背筋に汗が一筋流れ落ちた。
「それじゃあ、ジン、本当にありがとう。助けてくれたこと絶対に忘れねぇよ。またバジットに来てくれたら、もしよかったら声をかけてくれ。そん時はたっぷりお礼するからよ」
「ああ、その時はよろしく。それじゃあピッピ、行こうか!」
「おうよ!」
そうして2人は駆け出した。
目がさめると、そこは薄暗い家の中のベッドの上だった。壁は土でできており、天井は低く、ジンでも手を伸ばせば届きそうなほどだ。ゆっくり起きあがると、身体中に激痛が走った。特に脇腹と左腕がひどく傷んだ。
「あ、ジンー」
「ぐっ」
ピッピが顔面に体当たりをして来る。
「よかった、本当に良かった。おいら心配したんだぜ。傷治したのに起きねえんだもん。死んでんのかと思って、危うく土に埋めるところだったぜ」
にこやかにそう告げて来るピッピをとりあえず鷲掴むと、いつものように思いっきり揺さぶってやった。ピッピがまた嘔吐したが今度は体がうまくいかなかったため、顔に思いっきり浴びた。
「む?起きたか小僧。怪我の具合はどうじゃ?」
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「あなたは一体?」
「む。わしか、わしは鍛治師のトーリというものじゃ。お前さん、わしの家の前でよくもまあ暴れてくれたのぉ」
「ご、ごめんなさい」
「まあ良い。あの化け物にはわしも困っておったからのぉ。してお前さん怪我の具合はどうじゃ?」
「えっと、まだ体は痛むけど耐えられないほどじゃないです」
「ふむ、まあわしの剣を使ったんじゃ、当然じゃろう」
「それはどういうことですか?」
「なに、お前さんの封術具はな…」
「ジンの封術具はこのトーリ爺さんが造ったんだぜ。すげーよな。この爺さん一応これでもティターニアでは名工で知られてるんだよ。王家御用達ってやつだな」
「ぐ、む。まあそういうことじ」
「それは、ありがとうございました。おかげでなんとか生き残れました」
「うむ。あとお前さんの持っていたナイフもじゃな…」
「あ、あとお前さんが持ってたナイフもトーリ爺さんが打ったんだってよ。世界って狭いよなー。ウギャ!」
「……」
トーリの無骨な両手がピッピを掴むと、無言で振り回した。
「なんでぇ…」
「お前は、人のしゃべっている時ぐらい静かにせぇ」
ピッピはぐったりしながら「ごめんよぉ」と頷いた。
「それからのぉ、おい、早く入ってこい」
そう言って入り口を見ると、おずおずと罰が悪そうにトカゲ顔の少年が入ってきた。
「その、助けてもらってありがとうよ。それと、その、この前は悪かった」
ぼそりとそう呟き、深く頭をさげる。
「こやつはな…」
「こいつはな、森でパナケイアって薬草を探してたんだってよ」
ピッピはトーリを遮って言う。トーリに目に怪しい光がさすが、ピッピはそれに気づいていない。
「その、俺のばあちゃんが体調崩しててよ。どうしてもそいつが必要だったから…」
肩身の狭そうにポツリポツリと言う彼の話によると、どうやら両親は人間に殺されており、唯一の肉親である祖母も、先日病のために倒れたと言う。そのために万病に効くとされているパナケイアを取りにきたらしい。だがいつもなら縄張りでないはずのところにゴブリンが住み着いていたらしく、追われていたそうだ。
「俺、父ちゃん達が死んでから、どうしても人間が許せなくてよ。だからこの前、お前に止められた時にカッとなっちまって。わけがわからなくってよ。だからこの前は本当にすまなかった。謝って済む話じゃねぇのはわかってるけどよ」
じっと話を聞いていたジンは一つ深くため息をつく。
「お前の事情はわかった。確かにお前のせいで死にかけた。だから俺はお前を許す気は無い。でもお前が謝らなきゃいけないのは俺だけじゃないだろ」
「っ、ああ。今度ラルフにも謝るつもりだ」
「そうしてくれ。これでこの話は終わりだ」
「わかった。本当にすまなかった」
そう言ってレックスは再び頭を下げた。
「一つだけ聞いてもいいか」
「え、ああ」
「あの時、氷の壁を出してくれたのはお前か?」
「ああ、そうだ。俺がやった」
「そうか、ありがとう。お前のおかげで死なずに済んだ」
それを聞いてレックスは目を丸くした。
「お、俺が役に立ったなら、良かったよ」
「ほい、じゃあ話はそれぐらいにしてレックス、ちょいと食事の準備をしてくれんかのぉ。鍋に作っておるから取ってきておくれ。この坊主も腹が空いておるじゃろ。何せまる3日なにも食べておらんのじゃからのぉ。」
トーリの提案を聞いてジンはひどく腹が空いていることに気づいた。そしてテーブルに並べられた料理を、ジンは貪るように食い尽くした。
「それで、お主はこのあとどうするつもりかね?」
食後、トーリが尋ねてきた。
「とりあえず、このまま海を目指します。それがウィルと約束したことですから」
「ふむ、海まではお前さんの足じゃと、ここから10日ぐらいじゃな。しかしウィルのやつもとんでもない試練を与えおったのぉ」
トーリもウィルとマリアの知り合いであることを食事中に、ジンは教えてもらった。現在彼らが使っている武具は彼が造ったものらしい。
「それじゃあ、武器が必要じゃな。どれ、何かお主に見合うものはあったかのぉ」
そう言って立ち上がると、食堂を出て行った。そしていくつかの武器を持って戻ってきた。
「この中から、お主が気に入ったものを選びなさい。色々持ってきたんでな。もし気に入ったものがなかったら、遠慮なく言いなさい」
彼はジンの目の前に様々な武器を並べた。短槍や、短剣など彼のサイズに合う物である。
「それから防具ものぉ」
そう言って持ってきた皮の胸当てをジンに渡した。
「ありがとうございます。でも俺お金が…」
「よいよい、ラグナ様の使徒ならば、我らはお手伝いするのが道理じゃて。気にせんでよい」
「わかりました。それじゃあ遠慮なく…」
そう言って彼はおもむろに2振りの短剣を手にした。柄頭に紫色の宝玉がついた、つい先日使っていたナイフよりも、少しだけ分厚く、長い物である。
「これにしようかな」
「ほう、それにするのかい」
「ええ、なんとなく気になって」
「ふむ、実はな、その剣の宝玉はな、お主が倒した森の主の体の魔核なのじゃよ」
魔核とは魔物や魔獣の胸部にある、いわば心臓のようなものである。封術具の媒介にはこれが用いられる。
「剣に選ばれたのかもしれんのぉ。それじゃあそいつはお主のものじゃ。何か銘をつけてやろうか?」
「はい、お願いします」
「ふむ、それでは月並みじゃが、サルトゥスとレクスでどうじゃ?古代語で『森』と『王』という意味じゃ。その剣にぴったりじゃろ?」
「はい!それじゃあこの剣は今からサルトゥスとレクスです」
ジンはその場で軽く素振りをした。
「ほっほっほ、その武具に入れる術はどうするかね?」
「そうか、これ封術具なんだ。…うーん、それって今決めないとダメですか?」
「いやいや、そんなことはないぞ。ゆっくり時間をかけるとええ。どうするか決めたら、誰かにやってもらうといい」
「わかりました!」
そして新たに手に入れた剣を鞘にしまい、ベルトに掛けた。
「それで、お前さんたちはどうするのかね?」
トーリはピッピとレックスに目を向ける。
「もちろんおいらはジンと一緒に行くさ。こいつはおいらみたいな頼りになる奴がいないと危なっかしいからな。」
得意そうに言うそんな彼に拳を突き出す。
「ああ、よろしく頼む、ピッピ」
「任せとけ!」
そう言って小さな相棒はジンの拳に自分の拳をぶつけた。
「俺はばあちゃんのためにパナケイアを見つけなきゃなんねえ。それが終わり次第町に帰ろうと思います」
「ふむ、それならもう少しここで過ごすといい。少し離れたところじゃが、確か見た覚えがある」
「本当ですか!ありがとうございます!」
翌日、まだ痛みは少し残っているものの、不自由なく動けるようになったのでジンは出発することにした。
「それじゃあ、今までありがとうございました」
「構わんよ。それより残りの道中気をつけるんじゃぞ。それと剣は大事に使えよ?簡単に折ったりしようものならお主の頭をかち割るからのぉ」
笑顔で言ってきたが、トーリの目は笑ってはいなかった。ジンの背筋に汗が一筋流れ落ちた。
「それじゃあ、ジン、本当にありがとう。助けてくれたこと絶対に忘れねぇよ。またバジットに来てくれたら、もしよかったら声をかけてくれ。そん時はたっぷりお礼するからよ」
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