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第2章:魔物との遭遇
ティターニアにて1
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そんなことを話していると料理ができたという知らせをサリオンが持って来た。そこでピッピを含めた4人は下の階にあった食堂に移動した。この階はティファニアの生活空間であり、彼女の家族、いわゆるこの国の王族の居住区だった。といっても先代の国王が崩御してからは彼女一人しか暮らしていないらしい。食堂まで皆で歩いて向かうことにした。
「この血を残さなければ…とは思っているんですけど、なかなか素晴らしい出会いがありませんから。私これでも乙女なんですよ?一度でもいいですから身を焦がすような素敵な恋がしたいと常々思っているんですけど…」
ティファニアは寂しげにそう言った。それを聞いてジンがそうなんだと、王族の人もなかなか大変なんだなと思っていると横からトルフィンがそっと耳打ちしてきた。
「あんなこと言ってるけど、あの方はとことん男運が悪くてな。何よりあの容姿だろ?求婚してくるやつはみんなロリコンなんだよ」
と笑いをかみ殺していってきた。
「ロリコンって何?」
「ロリコンっていうのは、ちっちゃい子が大好きな大きなお兄さんのことを言うんだぜ」
横からピッピが割り込んで説明してくる。
「口を慎めトルフィン!ティファニア様の御前であらせられるぞ!」
「なんでぇ、ロリコンの癖に」
「なっ!」
サリオンが絶句している。どうやら彼はロリコンなのだそうだ。そう言われると確かにティファニアを見る目が怪しい気がする。その顔はみるみる赤くなっていき、声を張り上げようとしたのか口を大きく開けたところで、
「ねぇトルフィン?さっきから聞いてれば誰が、ロリコンが求愛してくるほど容姿が幼いっていうの?それに私は男運がないんじゃなくてまだ素敵な殿方が私の前に現れていないだけよ?」
「でも陛下…それ50年近く前からずっと言ってますぜ」
トルフィンが指摘すると、首をギギギっという音が聞こえるかのようにゆっくりと動かしてティファニアが彼を見つめた。
「トルフィン、お仕置きが必要なのかしら?」
「ひっ!申し訳ありやせんでした女王様!調子に乗りました、ごめんなさい!」
そう言って勢いよく振り下ろした。自分のイメージしている王と違って、配下にもだいぶ砕けた人柄に驚きつつも、そんな光景が面白くてジンが眺めていると、横からぼそぼそとしゃべるサリオンの声が聞こえてきた。
「…女王様は夫となる男を求めている。それならばやはり求婚をするべきか?いやしかし一人の臣下と女王の恋などあっていいものだろうか?それなら周囲の目が気になるのは確かではあるな。しかし陛下は外見こそ10歳に満たないがその実300歳を超えている。これはエルフでももう結婚できる年齢だ。つまりロリではない。いやしかし彼女ほど魅力的な女性はそうはいない。それならば彼女が求めている良き出会いがいつ起こるかわからない。私のように彼女との真実の愛を育みたいものは大勢いるはずだ。いやそんな気がする。それならばその前に私が。彼女と結婚することになったら、どうなるだろう。やはりまずは彼女にふさわしい盛大な結婚式を開こう。それにどこか他のエルフの里に旅行に行くのもいいな。それから私と彼女がすべきはやはり子作りだな。それも早急に。彼女の血を絶やしてしまえば、この国の結界は消え去り、魔物や魔獣が入り込んできてしまう。だからこそ私たちはすぐにでも子供を作らなければ…あ!でももし子供が出来たとして出産する時に、母胎は大丈夫なのだろうか?出産は体力を使うという。彼女の容姿は少し幼い。もしかしたら出産に耐えられないかもしれない。よし一流の木神術の使い手を探そう。出産の最中はその者に常に回復術をかけてもらえばいい、そうだそうしよう…」
と延々と小さな声でぼそぼそと喋り続けている。ジンはサリオンがティファニアとの子育てについての未来予想図を語り出したところで聞くのをやめた。するとピッピがジンの肩に乗って耳元で囁く。
「ジン気にすんなよ。こいつはこういうやつだからよ」
「でもこんな人をティファ様の横に置くなんて大丈夫なのかよ。どう考えてもいつ襲われるかわからないだろ。しかもティファ様の守護騎士なんだろ。そんな強そうな奴が危ないってどうなんだ?」
「あー、まあ確かにあいつは守護騎士長でめちゃくちゃ強いけど、多分大丈夫だ」
「え、なんで?」
「そりゃ決まってる。ティファ様の方が圧倒的に強いからさ、念のために言っておくとあの方も使徒様だぜ。だから他の奴らと比べて段違いに強いのさ。あ!それはそうとなんでおいらに使徒様だって教えてくれなかったんだよ。水臭いじゃないか」
そういってピッピはジンの頭をバシバシと叩いてくる。まあ小さいのでたいして痛くはないのだが。
「いやべつにそこまで話さなきゃいけないことか?そりゃ使徒なんてそんなにいないだろうけど、いちいち言うほどのことじゃないだろ?」
「カァー、これだから世間知らずのガキは。いいか、使徒様はこのエデンでのヒーローなんだ。あの人たちのおかげでドラゴンみたいな凶悪な魔獣にも怯えないで済むからな。ティファ様もああ見えて20メートル級のドラゴンとか、何体も倒してるんだぜ。あ!しかもおまえ人間の使徒じゃねぇか。魔術使えるんだろ?後でサインくれよ」
矢継ぎ早にピッピがしゃべってくるので少し困りながらも、
「いやサインって。それに俺は魔術は使えないんだよ。ラグナが俺を法術の能力を全く持たないように作ったらしくてな」
「んだよつかえねえな。ならおまえ、なんのために使徒になってんだよ?せっかくサイン貰ったらフィズちゃんにあげようと思ったのに。あ!フィズちゃんていうのはさっきおいらが話した、花をあげようとした子でとにかくかわいいんだよ。どんなところが可愛いかっていうとだな…」
明らかにがっかりされたようなトーンの声を上げたうえに、そのまま自分の意中の相手がいかに素晴らしいかの話を延々と耳元でし始めた。
ジンはそれにうんざりしていたがようやく、食堂についたらしい。大きな扉の前にジンたちが立つとそばにいた門番がドアを開けて彼らを中に案内した。そして細長いテーブルに用意された席に着くとしばらくして料理が運ばれてきた。その料理は今までに見たことがないほどの豪華なものだった。
野菜や果物をメインにしたものが多く、色とりどりのそれらがテーブルに並べられている。またトルフィンとジンの近くには魚や肉料理が置かれた。エルフは肉を食さないらしい。それらの料理からは今まで嗅いだことのない匂いがしてくる。
ジンは初めて見て、嗅いだ、これらの料理がなんなのか、なんの匂いなのか、全くわからなかったが、とにかく人界でもこれほどの料理を食べられる者はそういないだろうというのだけはわかった。そしてやはりその料理は素晴らしく美味しかった。
あっという間になくなった皿を見て、ティファニアは微笑み
「ふふ、よっぽどお腹が空いてたのね。どう?美味しかったでしょ?これ全部サリオンが作ったのよ?」
ジンはそれを聞いて驚く。
「この人料理作れたんだ…」
あまりの驚きに思った言葉が口に出る。
「当然だ。胃袋を掴めば…いや紳士のたしなみというものだ。口にあったようなら幸いだ」
危なそうな匂いのする発言だった。この料理の隠し味は下心だったようだ。
「さてそれではこの後のことについて話しましょう。ジン君はこの森に修行に来たっていうけど、どんな内容なの?」
「えっと、この谷を抜けてその先にある海まで行くっていうのがウィルから言われたことです」
「まあそれはそれは、困ったわね。ここからそこまで君の足だと少なくとも2ヶ月近くはかかるわよ。他には何か言われたことはない?」
「いえ、とにかく生き残れとだけ言われたので」
「まあウィルったら相変わらず大雑把なんだから」
「でもおかげで僕はまた戦えるようになったんです」
「どういうことかしら?」
そうしてジンは今までの話をした。使徒になってから突然力が使えなくなったこと、体が震えてまともに対峙することができなくなったこと、しかしそれが今日初めてまともに戦えるようになったこと。ティファニアは彼の話を熱心に聞いてくれた。
「そう。大変だったのね。それじゃあゆっくりとしていくといいわよ。少しでもここで英気を養ってから出発すればいいんじゃないかしら?出発したくなった時はいつでも言ってね?そうだ!寝るところはこの階にいっぱいあるからどれでも好きなのを選んでいいわよ」
「陛下!それはあまりにも破格の待遇ではないでしょうか。恐れ多くも御身は未だ婚前でございます。もしこのお客人が何かをしでかしでもしたら。そうだこやつの監視も兼ねて私も泊まりましょう。そうしましょう」
鼻息を荒くしてそう述べるサリオンを見て、
「いえ、あなたの方が身の危険を感じます。それにジン君はまだ8歳よ?そんなことするわけないじゃない。それに私がとっても強いのは知ってるでしょう?」
「ですが!」
「くどいわよ、サリオン。あんまりしつこいとお仕事を解任しちゃうんだから」
「それだけはどうかご勘弁を了解しましたジン殿はこちらにお泊りになられるということですねはいわかりました」
頭を地面になすりつけるような土下座をしながら一息でいうサリオンを見て、ジンの中での彼の株はだだ下がりだった。初めて見た時のクールな姿はどこにもなかった。
「ありがとうございます。そうします」
ジンがそう言うと、ティファニアに見えないように角度をつけながらサリオンがものすごい顔で睨んできた。
「今日はもう疲れてるでしょうから、ゆっくりお休みなさい」
そう言って可愛らしい笑顔で微笑んだ。
ジンが一礼してピッピとともに部屋から去ったのを確認した後、トルフィンが口を開けた。
「陛下、なぜ先ほどジンに嘘をついたんですかい?」
「うそ?なんのこと?」
「心が読めないということです。あなたはいつも初対面のものが悪しきものかを確かめるのに、そのお力を使いなさるでしょう?ジンにもそれを使ったのではないんですかい?」
「トルフィンは目敏いはね。確かに私はあの子の心を覗いたわ。それで嘘って言えばあの子は安心できると思ったの」
「それだけですかい?いつもならはっきりとそれっぽいことを言うのに、今日は…ラグナのお告げがあったとか初耳ですぜ?」
「それはまあ…ケースバイケースってやつよ。あの子の場合心を覗き込めるといったときに、かわいそうなほどに警戒したでしょ?あんな記憶からというのはわかるけど、本当に気の毒に思っちゃってね。あんなこと言わなければよかったって少し反省してるの」
「そんなにひどかったんですかい。ちなみに少し教えてくれたりは?」
「だめよ。あの子のプライバシーに関わるもの。ただ一つ言うならあの年齢の子がよく心を壊さなかったとは思うわ…いえ、むしろ壊せなかったという方が正しいかもね」
「この血を残さなければ…とは思っているんですけど、なかなか素晴らしい出会いがありませんから。私これでも乙女なんですよ?一度でもいいですから身を焦がすような素敵な恋がしたいと常々思っているんですけど…」
ティファニアは寂しげにそう言った。それを聞いてジンがそうなんだと、王族の人もなかなか大変なんだなと思っていると横からトルフィンがそっと耳打ちしてきた。
「あんなこと言ってるけど、あの方はとことん男運が悪くてな。何よりあの容姿だろ?求婚してくるやつはみんなロリコンなんだよ」
と笑いをかみ殺していってきた。
「ロリコンって何?」
「ロリコンっていうのは、ちっちゃい子が大好きな大きなお兄さんのことを言うんだぜ」
横からピッピが割り込んで説明してくる。
「口を慎めトルフィン!ティファニア様の御前であらせられるぞ!」
「なんでぇ、ロリコンの癖に」
「なっ!」
サリオンが絶句している。どうやら彼はロリコンなのだそうだ。そう言われると確かにティファニアを見る目が怪しい気がする。その顔はみるみる赤くなっていき、声を張り上げようとしたのか口を大きく開けたところで、
「ねぇトルフィン?さっきから聞いてれば誰が、ロリコンが求愛してくるほど容姿が幼いっていうの?それに私は男運がないんじゃなくてまだ素敵な殿方が私の前に現れていないだけよ?」
「でも陛下…それ50年近く前からずっと言ってますぜ」
トルフィンが指摘すると、首をギギギっという音が聞こえるかのようにゆっくりと動かしてティファニアが彼を見つめた。
「トルフィン、お仕置きが必要なのかしら?」
「ひっ!申し訳ありやせんでした女王様!調子に乗りました、ごめんなさい!」
そう言って勢いよく振り下ろした。自分のイメージしている王と違って、配下にもだいぶ砕けた人柄に驚きつつも、そんな光景が面白くてジンが眺めていると、横からぼそぼそとしゃべるサリオンの声が聞こえてきた。
「…女王様は夫となる男を求めている。それならばやはり求婚をするべきか?いやしかし一人の臣下と女王の恋などあっていいものだろうか?それなら周囲の目が気になるのは確かではあるな。しかし陛下は外見こそ10歳に満たないがその実300歳を超えている。これはエルフでももう結婚できる年齢だ。つまりロリではない。いやしかし彼女ほど魅力的な女性はそうはいない。それならば彼女が求めている良き出会いがいつ起こるかわからない。私のように彼女との真実の愛を育みたいものは大勢いるはずだ。いやそんな気がする。それならばその前に私が。彼女と結婚することになったら、どうなるだろう。やはりまずは彼女にふさわしい盛大な結婚式を開こう。それにどこか他のエルフの里に旅行に行くのもいいな。それから私と彼女がすべきはやはり子作りだな。それも早急に。彼女の血を絶やしてしまえば、この国の結界は消え去り、魔物や魔獣が入り込んできてしまう。だからこそ私たちはすぐにでも子供を作らなければ…あ!でももし子供が出来たとして出産する時に、母胎は大丈夫なのだろうか?出産は体力を使うという。彼女の容姿は少し幼い。もしかしたら出産に耐えられないかもしれない。よし一流の木神術の使い手を探そう。出産の最中はその者に常に回復術をかけてもらえばいい、そうだそうしよう…」
と延々と小さな声でぼそぼそと喋り続けている。ジンはサリオンがティファニアとの子育てについての未来予想図を語り出したところで聞くのをやめた。するとピッピがジンの肩に乗って耳元で囁く。
「ジン気にすんなよ。こいつはこういうやつだからよ」
「でもこんな人をティファ様の横に置くなんて大丈夫なのかよ。どう考えてもいつ襲われるかわからないだろ。しかもティファ様の守護騎士なんだろ。そんな強そうな奴が危ないってどうなんだ?」
「あー、まあ確かにあいつは守護騎士長でめちゃくちゃ強いけど、多分大丈夫だ」
「え、なんで?」
「そりゃ決まってる。ティファ様の方が圧倒的に強いからさ、念のために言っておくとあの方も使徒様だぜ。だから他の奴らと比べて段違いに強いのさ。あ!それはそうとなんでおいらに使徒様だって教えてくれなかったんだよ。水臭いじゃないか」
そういってピッピはジンの頭をバシバシと叩いてくる。まあ小さいのでたいして痛くはないのだが。
「いやべつにそこまで話さなきゃいけないことか?そりゃ使徒なんてそんなにいないだろうけど、いちいち言うほどのことじゃないだろ?」
「カァー、これだから世間知らずのガキは。いいか、使徒様はこのエデンでのヒーローなんだ。あの人たちのおかげでドラゴンみたいな凶悪な魔獣にも怯えないで済むからな。ティファ様もああ見えて20メートル級のドラゴンとか、何体も倒してるんだぜ。あ!しかもおまえ人間の使徒じゃねぇか。魔術使えるんだろ?後でサインくれよ」
矢継ぎ早にピッピがしゃべってくるので少し困りながらも、
「いやサインって。それに俺は魔術は使えないんだよ。ラグナが俺を法術の能力を全く持たないように作ったらしくてな」
「んだよつかえねえな。ならおまえ、なんのために使徒になってんだよ?せっかくサイン貰ったらフィズちゃんにあげようと思ったのに。あ!フィズちゃんていうのはさっきおいらが話した、花をあげようとした子でとにかくかわいいんだよ。どんなところが可愛いかっていうとだな…」
明らかにがっかりされたようなトーンの声を上げたうえに、そのまま自分の意中の相手がいかに素晴らしいかの話を延々と耳元でし始めた。
ジンはそれにうんざりしていたがようやく、食堂についたらしい。大きな扉の前にジンたちが立つとそばにいた門番がドアを開けて彼らを中に案内した。そして細長いテーブルに用意された席に着くとしばらくして料理が運ばれてきた。その料理は今までに見たことがないほどの豪華なものだった。
野菜や果物をメインにしたものが多く、色とりどりのそれらがテーブルに並べられている。またトルフィンとジンの近くには魚や肉料理が置かれた。エルフは肉を食さないらしい。それらの料理からは今まで嗅いだことのない匂いがしてくる。
ジンは初めて見て、嗅いだ、これらの料理がなんなのか、なんの匂いなのか、全くわからなかったが、とにかく人界でもこれほどの料理を食べられる者はそういないだろうというのだけはわかった。そしてやはりその料理は素晴らしく美味しかった。
あっという間になくなった皿を見て、ティファニアは微笑み
「ふふ、よっぽどお腹が空いてたのね。どう?美味しかったでしょ?これ全部サリオンが作ったのよ?」
ジンはそれを聞いて驚く。
「この人料理作れたんだ…」
あまりの驚きに思った言葉が口に出る。
「当然だ。胃袋を掴めば…いや紳士のたしなみというものだ。口にあったようなら幸いだ」
危なそうな匂いのする発言だった。この料理の隠し味は下心だったようだ。
「さてそれではこの後のことについて話しましょう。ジン君はこの森に修行に来たっていうけど、どんな内容なの?」
「えっと、この谷を抜けてその先にある海まで行くっていうのがウィルから言われたことです」
「まあそれはそれは、困ったわね。ここからそこまで君の足だと少なくとも2ヶ月近くはかかるわよ。他には何か言われたことはない?」
「いえ、とにかく生き残れとだけ言われたので」
「まあウィルったら相変わらず大雑把なんだから」
「でもおかげで僕はまた戦えるようになったんです」
「どういうことかしら?」
そうしてジンは今までの話をした。使徒になってから突然力が使えなくなったこと、体が震えてまともに対峙することができなくなったこと、しかしそれが今日初めてまともに戦えるようになったこと。ティファニアは彼の話を熱心に聞いてくれた。
「そう。大変だったのね。それじゃあゆっくりとしていくといいわよ。少しでもここで英気を養ってから出発すればいいんじゃないかしら?出発したくなった時はいつでも言ってね?そうだ!寝るところはこの階にいっぱいあるからどれでも好きなのを選んでいいわよ」
「陛下!それはあまりにも破格の待遇ではないでしょうか。恐れ多くも御身は未だ婚前でございます。もしこのお客人が何かをしでかしでもしたら。そうだこやつの監視も兼ねて私も泊まりましょう。そうしましょう」
鼻息を荒くしてそう述べるサリオンを見て、
「いえ、あなたの方が身の危険を感じます。それにジン君はまだ8歳よ?そんなことするわけないじゃない。それに私がとっても強いのは知ってるでしょう?」
「ですが!」
「くどいわよ、サリオン。あんまりしつこいとお仕事を解任しちゃうんだから」
「それだけはどうかご勘弁を了解しましたジン殿はこちらにお泊りになられるということですねはいわかりました」
頭を地面になすりつけるような土下座をしながら一息でいうサリオンを見て、ジンの中での彼の株はだだ下がりだった。初めて見た時のクールな姿はどこにもなかった。
「ありがとうございます。そうします」
ジンがそう言うと、ティファニアに見えないように角度をつけながらサリオンがものすごい顔で睨んできた。
「今日はもう疲れてるでしょうから、ゆっくりお休みなさい」
そう言って可愛らしい笑顔で微笑んだ。
ジンが一礼してピッピとともに部屋から去ったのを確認した後、トルフィンが口を開けた。
「陛下、なぜ先ほどジンに嘘をついたんですかい?」
「うそ?なんのこと?」
「心が読めないということです。あなたはいつも初対面のものが悪しきものかを確かめるのに、そのお力を使いなさるでしょう?ジンにもそれを使ったのではないんですかい?」
「トルフィンは目敏いはね。確かに私はあの子の心を覗いたわ。それで嘘って言えばあの子は安心できると思ったの」
「それだけですかい?いつもならはっきりとそれっぽいことを言うのに、今日は…ラグナのお告げがあったとか初耳ですぜ?」
「それはまあ…ケースバイケースってやつよ。あの子の場合心を覗き込めるといったときに、かわいそうなほどに警戒したでしょ?あんな記憶からというのはわかるけど、本当に気の毒に思っちゃってね。あんなこと言わなければよかったって少し反省してるの」
「そんなにひどかったんですかい。ちなみに少し教えてくれたりは?」
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