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第2章:魔物との遭遇
女王ティファニア
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「すごい…」
ジンの口から感嘆の言葉が零れ落ちる。
「そうだろそうだろ。これ全部妖精女王様が管理してるんだぜ!」
「妖精女王?」
「そう。妖精女王。この楽園、ティターニアっていうんだけど、ここを維持するための結界石は特定の血を持つ一族にしか使えないようになってるそうで、今の妖精女王はかれこれ数百年、これを維持してるんだって。」
「数百年!?それもピクシーなの?」
「いんや、エルフ」
「エルフ?こんなところにエルフがいるの?」
「おう、しかも混じりっけなしのハイエルフだぜ。ティファニア様っていって、めちゃくちゃ美人!もしおいらがエルフならソッコーでナンパしてるね」
興奮しながらピッピがそう言った。
「あ!あとこれからティファニア様に会わなきゃいけないから、今からジンも王城に行くぞ!」
「へ?俺も行くの?なんで?」
「おいおい、折角ここに入れてもらっておいて挨拶なしとはいい度胸じゃねーか。ちゃんと礼儀は見せようぜ」
確かにピッピの言う通りであった。ジンは空腹ではあったがもう少しだけ我慢することにした。さっさと謁見して何か食べたかった。
そうこう話しているうちに一際でかい木の目の前に来た。その木の幹はとても太く少なくともバジットの半分ぐらいはあった。さらに高さは数十メートルはあり、頭頂部は天井に届いているところから、まるで地下空間を支える柱のようでもあった。
ジンが視線を上げて眺めていると、
「この国の住人のほとんどがこの木の中で暮らしてんだ。あとで俺の家も見せてやるよ。ほらボサボサしてると置いてくぞ!」
と言ってどんどん進んで行ってしまったので慌ててついて行った。
木の中の光景はジンにさらなる驚きを与えた。そこには様々な種類の亜人がいたからだ。しかも獣人ではなく、人界からの侵略で数を減らしたというドワーフやエルフなど、亜人の中でも少数の種族がいた。木の中では商店や工房が並び、そこかしこからいい匂いや、槌を打ち付ける音、酒場からは騒ぎ声が聞こえる。
ピッピによるとここは商業フロアだという。ジンと同い年ぐらいの子たちが集まっている店先からは見たこともないお菓子が並べられ、別の場所では複数人が集まってコマ回しなどに興じている。
大人たちは商売をしたり、酒を飲んだり、喧嘩をしたりと賑やかだ。たいていの場合エルフとドワーフが殴り合いをしている。ピッピにそのことを聞くと、エルフとドワーフは顔をあわせると四六時中喧嘩をしているらしい。それなのに次の日にはその二人が酒を飲み交わしていたりするそうだ。仲が良いのか悪いのかわからない。
その目抜き通りを抜けて一気に最上階である10階まで上がる。各階には移送場といって上の階と下の階を吹き抜けにした場所があり、そこには木製のかごが置かれていた。これに乗ると無属性の神術が発動し、上下に運んでくれるそうだ。どんな効果の術なのかと聞くと、よくわからないと返ってきた。ピッピは羽があるので使ったことがないそうだ。
「ただなんかじゅーりょくとかいう力を使っているらしいぜ?」
「なんだじゅーりょくって?」
「さあしらね」
そうして最上階まで一気に登る。移送場から出るとまっすぐの巨大な一本道が先にある部屋まで伸びていた。長さはおよそ100メートル幅50メートルはあるそこにはまるで数千人の軍隊でも入るのではないかというスペースであった。聞くと緊急時には避難所の役割を担うのだという。
その通路を抜けて巨大な扉の前に立つ。門の前には鎧を身につけて帯剣した二人の門番がいた。片方はずんぐりむっくりとした茶色いゴワゴワの上に髭だるまのおそらく120センチ半ばのジンより少しだけ背丈が大きいドワーフで、もう一方は金色の上に尖った耳、身長はウィルと同じぐらいの、でも彼よりはだいぶ細身の男のエルフだった。
「おっす、メネディルにレギン!さっきぶり」
「ピッピか、ではそちらがお客人か。私はメネディル。妖精女王ティファニア様の守護騎士だ。それでこちらが…」
「俺はレギンだ。同じくティファニア様の守護騎士団に所属している。坊主お前の名前は?」
「ジンです」
「ジン。ジンか、よろしくなジン!」
レギンがごつい右手を差し出してきたので握手を交わす。そのあまりの力強さに手が少し赤くなった。
「にしてもその歳で武器持ったゴブリン3匹を簡単にぶっ殺したらしいじゃねえか。たいしたもんだ」
屈託のない笑顔でそう言ってくるレギンは矢継ぎ早に質問してくる。
「どこでそんなに鍛えたんだ。」「なんでエデンに来たんだ?」「森にいたのはなんでだ?」などなど話し出すと止まらなかった。次第にその話は自分が森の中でどんな魔獣に勝ったかといった脇道の話題に逸れ始めた。そしてようやくメネディルが一つ咳をして、
「レギン。そろそろそのお客人をティファニア様のご紹介したいのだが?」
片方の眉を吊り上げながらそう言った。レギンと比べたせいかどことなく冷たい感じのする声だった。
「おお!悪かった。そんじゃ早速会っていきな。その後また俺の武勇伝をたっぷり聴かせてやるよ」
「おいレギン、ジン殿を困らせるな」
「へいへいわかったよ」
それからようやく二人が扉を開けてくれた。
扉の中の部屋には、一面に高価そうな真っ赤な絨毯が敷き詰められていた。もちろんジンにはそんなことを判断する目は持ち合わせていないが。そして部屋の奥に三人の亜人がいた。
中央には豪奢な純白のドレスを着て、精密に作られ、中央に青い宝玉がはめられたたティアラを被った金色の髪の真っ白な肌の少女が、その脇には先程と同様に武装したドワーフとエルフが立っていた。しかしジンの瞳は中央にいるエルフの少女に釘付けだった。
その姿はまさに神が作った芸術だった。ジンと同い年くらいに見える少女はしかしてピッピの言によれば数百歳だという。しかし目の前の少女には老いというものが一切感じられず、口元に浮かべているその微笑はジンには見た目相応の幼さを感じさせた。呆然と彼女を眺めていたジンの袖をピッピが引っ張る。
「おい、ジン跪け!頭を下げろ!頼む下げてくれ、お願いします。ほら早く!サリオン様が睨んでるから。めっちゃ強い目線向けてきてるから、お願いしますよぉ!あの人切れるとめっちゃ怖いんだから…あ!いえなんでもないですよ、サリオン様。すいませんなにぶんこいつはまだ8歳のガキなもんで礼儀とか知らんのですよ」
ピッピと彼の間に何かあったようだった。そんな彼らの様子を見て鈴のような音色が鳴り響く。それはティファニアの笑い声だった。
「ふふ、サリオンもそれくらいにしましょう?あんまりピッピをいじめないであげてください。それにお客様の前ですよ?」
「失礼いたしました、我が君」
深々と頭をさげるサリオンに反対にいたドワーフが
「全くお前はお堅いんだよ。もうちょっち心にゆとりを持てねーのか?そんな堅物じゃ疲れんだろう」
「あいにくお前のように常にだらしない行いはエルフの美徳に反するのでな。お前こそティファニア様の御前なのだ。もう少し態度というもの考えろ」
「なんだと!?」
「なんだ?」
こちらにいるドワーフとエルフもなかなかに仲が悪そうだ。
「まあまあ二人とも。お客さんの前ですよ?じゃれるのはやめましょうね?」
笑いながらもティファニアから凄まじい気迫が感じられた。それは長年生きたものが発することができるような威厳に満ち溢れたものであり、ジンはようやく目の前の少女が遥かな時を生きてきた存在であるように感じられた。
「ごめんなさいね。ようこそ小さな人間の使徒さん。私の名前はティファニア。この国を収める妖精の女王です。それでこちらの背の高い、怖い眼のお兄さんがサリオンで、こっちの可愛らしい眼をした子がトルフィンです」
ジンを含め全員が驚く。
「え?あれ?なんで俺のこと使徒だって知ってるんだ?」
怪訝そうな顔を浮かべるジンに、
「ふふ、実は私、あなたの記憶を読み通すことができるのよ」
ティファニアは妖艶に笑う。
「ほ、ほんとうに?」
それを聞いてジンは驚いた。この人は自分のことを全てを知ってしまっているのか。自分の知られたくないことはすでに全部お見通しなのか。そう考えると目の前にいる少女がひどく怖い存在に感じられた。
「冗談ですよ?そんなに警戒しないで。あなたのことはラグナ様から聞いていたのよ。そのうちジンという小さな黒髪の人間の男の子が来るかもしれないから、その時は手助けしてあげてってね」
「そうですか、びっくりしました」
ホッとしたようにジンの口から息が吐き出される。そしてその瞬間にジンの胃袋が盛大に鐘を鳴らした。
「あらあら、お腹が空いてるのね?それじゃあ用意させましょう。ちょうどいい時間ですからね。サリオン、お願い」
「はっ、かしこまりました。我が君」
サリオンは外のドアにいるであろう門番にそのことを伝えに行った。そしてそのままどこかに行ったらしくしばらく戻ってこなかった。その間にジンはティファニアと様々なことを話すことになった。
「ジンはなんでこの森に来たの?」
「えっと、ウィル…師匠がおれ、僕の修行の一環でここに突き落としたんです」
「まあウィルが!?あの子もなかなかわんぱくなところがあるからね」
「ティファニア様はウィルのこと知ってるんですか?」
「ティファニアは呼びにくいでしょ?だからティファでいいわよ?そうね彼とマリアとはかれこれ10年来の友人ね。あの子たちがここの世界に来てから知り合いましたからね」
40歳前後のウィルとマリアを子供扱いしているあたり、目の前の少女の年齢を感じさせた。
「そう、あの子達帰って来たのね」
小さな声でティファニアが呟いていた。
「それじゃあティファ様。どうやって二人と知り合ったんですか?」
「えっ?ああ、ふふ、ティファ様か、新鮮ね。他の子たちはそう呼んでくれないのだもの。それで二人と知り合った時の話だけど、ごめんなさい。それは私が勝手に話していいようなお話じゃないの。ただ私があの子達に会った時は…そうね、あなたと似たような境遇だったわ」
ジンは押し黙る。なんとなく気づいてはいた。時折マリアが向けてくる視線に悲しみが含まれていたこと、ジンと過ごしている時のウィルが遠い眼をしていることが多々見られたこと、そしてつい先日聞いた子供の話。ジンだって馬鹿ではない。ナギたちを失い苦しんでいるジンを支えてくれる二人が一体何をフィリアに奪われたのか想像がついた。
「そうですか…」
「その様子だとまだ詳しいことは知らないのね。きっとあの子たちもまだ全部受け入れられていないんだわ」
「……」
「でも、きっといつかあなたに話してくれるから、その時はしっかりと聞いてあげてね?」
「…はい」
ジンの口から感嘆の言葉が零れ落ちる。
「そうだろそうだろ。これ全部妖精女王様が管理してるんだぜ!」
「妖精女王?」
「そう。妖精女王。この楽園、ティターニアっていうんだけど、ここを維持するための結界石は特定の血を持つ一族にしか使えないようになってるそうで、今の妖精女王はかれこれ数百年、これを維持してるんだって。」
「数百年!?それもピクシーなの?」
「いんや、エルフ」
「エルフ?こんなところにエルフがいるの?」
「おう、しかも混じりっけなしのハイエルフだぜ。ティファニア様っていって、めちゃくちゃ美人!もしおいらがエルフならソッコーでナンパしてるね」
興奮しながらピッピがそう言った。
「あ!あとこれからティファニア様に会わなきゃいけないから、今からジンも王城に行くぞ!」
「へ?俺も行くの?なんで?」
「おいおい、折角ここに入れてもらっておいて挨拶なしとはいい度胸じゃねーか。ちゃんと礼儀は見せようぜ」
確かにピッピの言う通りであった。ジンは空腹ではあったがもう少しだけ我慢することにした。さっさと謁見して何か食べたかった。
そうこう話しているうちに一際でかい木の目の前に来た。その木の幹はとても太く少なくともバジットの半分ぐらいはあった。さらに高さは数十メートルはあり、頭頂部は天井に届いているところから、まるで地下空間を支える柱のようでもあった。
ジンが視線を上げて眺めていると、
「この国の住人のほとんどがこの木の中で暮らしてんだ。あとで俺の家も見せてやるよ。ほらボサボサしてると置いてくぞ!」
と言ってどんどん進んで行ってしまったので慌ててついて行った。
木の中の光景はジンにさらなる驚きを与えた。そこには様々な種類の亜人がいたからだ。しかも獣人ではなく、人界からの侵略で数を減らしたというドワーフやエルフなど、亜人の中でも少数の種族がいた。木の中では商店や工房が並び、そこかしこからいい匂いや、槌を打ち付ける音、酒場からは騒ぎ声が聞こえる。
ピッピによるとここは商業フロアだという。ジンと同い年ぐらいの子たちが集まっている店先からは見たこともないお菓子が並べられ、別の場所では複数人が集まってコマ回しなどに興じている。
大人たちは商売をしたり、酒を飲んだり、喧嘩をしたりと賑やかだ。たいていの場合エルフとドワーフが殴り合いをしている。ピッピにそのことを聞くと、エルフとドワーフは顔をあわせると四六時中喧嘩をしているらしい。それなのに次の日にはその二人が酒を飲み交わしていたりするそうだ。仲が良いのか悪いのかわからない。
その目抜き通りを抜けて一気に最上階である10階まで上がる。各階には移送場といって上の階と下の階を吹き抜けにした場所があり、そこには木製のかごが置かれていた。これに乗ると無属性の神術が発動し、上下に運んでくれるそうだ。どんな効果の術なのかと聞くと、よくわからないと返ってきた。ピッピは羽があるので使ったことがないそうだ。
「ただなんかじゅーりょくとかいう力を使っているらしいぜ?」
「なんだじゅーりょくって?」
「さあしらね」
そうして最上階まで一気に登る。移送場から出るとまっすぐの巨大な一本道が先にある部屋まで伸びていた。長さはおよそ100メートル幅50メートルはあるそこにはまるで数千人の軍隊でも入るのではないかというスペースであった。聞くと緊急時には避難所の役割を担うのだという。
その通路を抜けて巨大な扉の前に立つ。門の前には鎧を身につけて帯剣した二人の門番がいた。片方はずんぐりむっくりとした茶色いゴワゴワの上に髭だるまのおそらく120センチ半ばのジンより少しだけ背丈が大きいドワーフで、もう一方は金色の上に尖った耳、身長はウィルと同じぐらいの、でも彼よりはだいぶ細身の男のエルフだった。
「おっす、メネディルにレギン!さっきぶり」
「ピッピか、ではそちらがお客人か。私はメネディル。妖精女王ティファニア様の守護騎士だ。それでこちらが…」
「俺はレギンだ。同じくティファニア様の守護騎士団に所属している。坊主お前の名前は?」
「ジンです」
「ジン。ジンか、よろしくなジン!」
レギンがごつい右手を差し出してきたので握手を交わす。そのあまりの力強さに手が少し赤くなった。
「にしてもその歳で武器持ったゴブリン3匹を簡単にぶっ殺したらしいじゃねえか。たいしたもんだ」
屈託のない笑顔でそう言ってくるレギンは矢継ぎ早に質問してくる。
「どこでそんなに鍛えたんだ。」「なんでエデンに来たんだ?」「森にいたのはなんでだ?」などなど話し出すと止まらなかった。次第にその話は自分が森の中でどんな魔獣に勝ったかといった脇道の話題に逸れ始めた。そしてようやくメネディルが一つ咳をして、
「レギン。そろそろそのお客人をティファニア様のご紹介したいのだが?」
片方の眉を吊り上げながらそう言った。レギンと比べたせいかどことなく冷たい感じのする声だった。
「おお!悪かった。そんじゃ早速会っていきな。その後また俺の武勇伝をたっぷり聴かせてやるよ」
「おいレギン、ジン殿を困らせるな」
「へいへいわかったよ」
それからようやく二人が扉を開けてくれた。
扉の中の部屋には、一面に高価そうな真っ赤な絨毯が敷き詰められていた。もちろんジンにはそんなことを判断する目は持ち合わせていないが。そして部屋の奥に三人の亜人がいた。
中央には豪奢な純白のドレスを着て、精密に作られ、中央に青い宝玉がはめられたたティアラを被った金色の髪の真っ白な肌の少女が、その脇には先程と同様に武装したドワーフとエルフが立っていた。しかしジンの瞳は中央にいるエルフの少女に釘付けだった。
その姿はまさに神が作った芸術だった。ジンと同い年くらいに見える少女はしかしてピッピの言によれば数百歳だという。しかし目の前の少女には老いというものが一切感じられず、口元に浮かべているその微笑はジンには見た目相応の幼さを感じさせた。呆然と彼女を眺めていたジンの袖をピッピが引っ張る。
「おい、ジン跪け!頭を下げろ!頼む下げてくれ、お願いします。ほら早く!サリオン様が睨んでるから。めっちゃ強い目線向けてきてるから、お願いしますよぉ!あの人切れるとめっちゃ怖いんだから…あ!いえなんでもないですよ、サリオン様。すいませんなにぶんこいつはまだ8歳のガキなもんで礼儀とか知らんのですよ」
ピッピと彼の間に何かあったようだった。そんな彼らの様子を見て鈴のような音色が鳴り響く。それはティファニアの笑い声だった。
「ふふ、サリオンもそれくらいにしましょう?あんまりピッピをいじめないであげてください。それにお客様の前ですよ?」
「失礼いたしました、我が君」
深々と頭をさげるサリオンに反対にいたドワーフが
「全くお前はお堅いんだよ。もうちょっち心にゆとりを持てねーのか?そんな堅物じゃ疲れんだろう」
「あいにくお前のように常にだらしない行いはエルフの美徳に反するのでな。お前こそティファニア様の御前なのだ。もう少し態度というもの考えろ」
「なんだと!?」
「なんだ?」
こちらにいるドワーフとエルフもなかなかに仲が悪そうだ。
「まあまあ二人とも。お客さんの前ですよ?じゃれるのはやめましょうね?」
笑いながらもティファニアから凄まじい気迫が感じられた。それは長年生きたものが発することができるような威厳に満ち溢れたものであり、ジンはようやく目の前の少女が遥かな時を生きてきた存在であるように感じられた。
「ごめんなさいね。ようこそ小さな人間の使徒さん。私の名前はティファニア。この国を収める妖精の女王です。それでこちらの背の高い、怖い眼のお兄さんがサリオンで、こっちの可愛らしい眼をした子がトルフィンです」
ジンを含め全員が驚く。
「え?あれ?なんで俺のこと使徒だって知ってるんだ?」
怪訝そうな顔を浮かべるジンに、
「ふふ、実は私、あなたの記憶を読み通すことができるのよ」
ティファニアは妖艶に笑う。
「ほ、ほんとうに?」
それを聞いてジンは驚いた。この人は自分のことを全てを知ってしまっているのか。自分の知られたくないことはすでに全部お見通しなのか。そう考えると目の前にいる少女がひどく怖い存在に感じられた。
「冗談ですよ?そんなに警戒しないで。あなたのことはラグナ様から聞いていたのよ。そのうちジンという小さな黒髪の人間の男の子が来るかもしれないから、その時は手助けしてあげてってね」
「そうですか、びっくりしました」
ホッとしたようにジンの口から息が吐き出される。そしてその瞬間にジンの胃袋が盛大に鐘を鳴らした。
「あらあら、お腹が空いてるのね?それじゃあ用意させましょう。ちょうどいい時間ですからね。サリオン、お願い」
「はっ、かしこまりました。我が君」
サリオンは外のドアにいるであろう門番にそのことを伝えに行った。そしてそのままどこかに行ったらしくしばらく戻ってこなかった。その間にジンはティファニアと様々なことを話すことになった。
「ジンはなんでこの森に来たの?」
「えっと、ウィル…師匠がおれ、僕の修行の一環でここに突き落としたんです」
「まあウィルが!?あの子もなかなかわんぱくなところがあるからね」
「ティファニア様はウィルのこと知ってるんですか?」
「ティファニアは呼びにくいでしょ?だからティファでいいわよ?そうね彼とマリアとはかれこれ10年来の友人ね。あの子たちがここの世界に来てから知り合いましたからね」
40歳前後のウィルとマリアを子供扱いしているあたり、目の前の少女の年齢を感じさせた。
「そう、あの子達帰って来たのね」
小さな声でティファニアが呟いていた。
「それじゃあティファ様。どうやって二人と知り合ったんですか?」
「えっ?ああ、ふふ、ティファ様か、新鮮ね。他の子たちはそう呼んでくれないのだもの。それで二人と知り合った時の話だけど、ごめんなさい。それは私が勝手に話していいようなお話じゃないの。ただ私があの子達に会った時は…そうね、あなたと似たような境遇だったわ」
ジンは押し黙る。なんとなく気づいてはいた。時折マリアが向けてくる視線に悲しみが含まれていたこと、ジンと過ごしている時のウィルが遠い眼をしていることが多々見られたこと、そしてつい先日聞いた子供の話。ジンだって馬鹿ではない。ナギたちを失い苦しんでいるジンを支えてくれる二人が一体何をフィリアに奪われたのか想像がついた。
「そうですか…」
「その様子だとまだ詳しいことは知らないのね。きっとあの子たちもまだ全部受け入れられていないんだわ」
「……」
「でも、きっといつかあなたに話してくれるから、その時はしっかりと聞いてあげてね?」
「…はい」
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