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第2章:魔物との遭遇
命懸けの戦い
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突然ヒュッという音がしたので、ジンは思わず右側に飛ぶように地面を蹴った。反転しながら体勢を崩した状態で木に背中を思いっきり打つけ、肺に残っていた空気が一気に吐き出された。そして今まで自分がいたところに剣を振り下ろしたゴブリンがいることを確認した。感覚を信じるのが一瞬でも遅れていれば自分は死んでいたことがわかり、背筋に冷たい汗が流れ落ちた。いつの間にかピクシーは消え、ゴブリン達の狙いの対象がジンに移っていることをようやく理解した。
ジンは覚悟を決めてベルトに差していた2本のサバイバルナイフを抜きはなった。なんの変哲のない鉄製の2本のナイフ。刃渡り20センチほどのそれは買った当初と比べて、非常に重く感じられた。手が、足が、いや体全体が震える。右手のナイフを前に、左手を少し後ろに下げる。棒立ちになり、構えというものに意識が向かない。
『体が重い。手が上がらない。闘気を発動しなきゃ…ダメだ。発動できない。どうしようどうしよう。何か手を考えないと』
槍を持ったゴブリンがジンに向かってそれを突き出してきた。なんとか体をよじってそれを躱す。そのまま槍はジンの後ろにあった木にそのまま突き刺さった。避けられたことを喜ぶ前に彼のわき腹に鋭い痛みが走った。
「ぐぁっ!」
『痛ってぇ。刺されたのか?血?ていうかこのままじゃ本当に死ぬ!』
そんなことを考えていると今度は弓矢を構えているゴブリンの姿が見えた。今度も避けようとするジンは、しかしわき腹からくる痛みに思わず顔をしかめ、体の動きを止めてしまう。その隙に放たれた矢はまっすぐと飛んでいき、そのままジンの左肩に突き刺さった。その痛みに思わず悲鳴をあげる。さらに左手に握っていたナイフを思わず地面に落としてしまう。しかしそれを拾い上げることはできなかった。
剣を持ったゴブリンが飛び上がって上から斬りかかってきたのだ。ようやく彼のからだが動き、右手のナイフでそれを防ごうとして前に突き出し、なんとか成功する。しかし彼の想像以上に、その攻撃は重く、徐々にからだを押されていき、ついには右膝を地面についてしまった。ジンの目には後ろにいるゴブリンが再度弓を引き絞り、ジンの行動をつぶさに観察しているところが、顔をわずかに動かすと、彼の左側には木の幹からようやく槍を抜いて再びジンに突っ込もうとしているゴブリンが見えた。
『動けない。逃げられない。死ぬのか』
頭の中であきらめの声が響く。姿勢の崩れているジンに向かってもう一度上から斬りおろそうと目の前のゴブリンが、剣を振りかぶる。心臓が早鐘を打つ。目の前の景色がゆっくりに感じられた。
そんな中でジンは瞬時に様々なことを思い出していた。レイやザックとはいつも一緒だった。3人でいっぱい馬鹿なことをやった。いつも泥だらけ、擦り傷だらけでよくナギを心配させたり、怒らせたりした。ミシェルにはいつも素直になれなかったけど、一緒に遊ぶ時は楽しかった。ザックにはからかわれたが、遊んでいる時はすごくドキドキした。お嫁さんになってあげると言われた時は、飛び上がりそうになるくらい嬉しかった。でも正直になれなくて何度も泣かせてしまった。
そんな彼の記憶の中心にはいつもナギがいた。いつも優しく頭を撫でてくれたり、子守唄を歌ったり、ご飯を作ってくれたり、怪我を治してくれたり、怖い夢を見た時は一緒に寝てくれた。悪いことをした時は叱ってくれた。いつも自分よりもジンたちのことを大切にしてくれて、何か問題があれば本気で心配してくれた。
そんなナギは彼にとってまさに姉であると同時に母親であり、もっと自分のことに時間を使って欲しい、誰よりも幸せになって欲しいと常々思った。だから彼女を守れるように強くなろうと努力をした。法術が全く使えないことがわかっても、闘気を使ってなんとか強くなろうとした。
実際にこれからだった。友との友情も、気になる女の子と仲良くなることも、姉にもらった様々な優しさに対して、恩を返したいと思っていた気持ちも、あの日全て唐突に奪われた。こんな世界でなければ、今でもナギ達は元気でジンのそばにいて、時には笑い、時には泣いて、ずっと一緒に居られたはずだった。それなのに現実は残酷で、狂った女神は彼の全てをたった数時間で粉々に破壊した。
友達に別れを告げることもできなかった。弔うこともできなかった。姉との最後の別れは血にまみれていた。レイもザックもミシェルもそんな風に死ぬべき奴らではなかった。ナギはそんな業を背負わされるべき人ではなかった。もうザックやレイ、ミシェルと会うことはできない。ナギの声を聞くことはない。ジンの心の中にナギの最後の願いが不意に浮かぶ。
『どんなことがあっても、絶対に負けない』
ジンのために最後まで己を犠牲にし続けた少女の、最愛の姉の最後の願い。彼女の前で誓ったその約束を、こんなところで何にも復讐もできないまま終わることを、自分は許せるのか。
『絶対に無理だ。姉ちゃんは怒るかもしれないけど、復讐できるなら死んでもいい。それをしないと俺は幸せにはなれない』
『なら今何をしなければならないのかな?』
頭の奥でラグナの声が響く
『目の前にいる化け物を殺す』
『それにはどうすればいいと思う?』
『決まってる。このナイフをゴブリンどもに叩き込めばいい』
『ならそうしなよ』
ラグナが笑っている気がした。
ジンの目に前の景色が再び映る。彼の体はいつの間にか闘気をまとっていた。
『体が軽い。いつもこんな感じだったのか』
ついに彼は力を取り戻した。もう手は震えなかった。
重いと感じていた剣ゴブリンの振り下ろしは羽のような軽さだった。右手に携えたナイフで簡単に受け止め、それをそのまま弾く。上体をのけぞらせたゴブリンの腹を右足に力を入れて立ち上がりながら搔っ捌いた。剣ゴブリンから吹き出る血がジンの体に降りかかる。それが目に入らないように目をかばいながら、思いっきり前蹴りで弓ゴブリンの方に蹴り飛ばす。
それからすぐさま体を左から来ていた槍ゴブリンに向ける。ズルリと臓物が垂れ落ちる音と、剣ゴブリンにぶつかり「ギギっ」と呻き声を漏らす弓ゴブリンの声が聞こえた。
槍ゴブリンは武器を携えて走りながら、その切っ先を前に突き出してきた。その動きはいまのジンにとってはとても遅い。それをナイフで受け流し、そのままゴブリンの懐に入り込む。そして右脇にナイフ差し込み、それを引き上げて右腕を肩から切断する。ゴブリンが絶叫しながら槍を落とす。そのまま一旦離れて距離を取り、再度詰めて首を切り落とす。
その間に体勢を立て直していたらしい弓ゴブリンが背後から矢を放ってきていた。ヒュッという音とともに矢が左足の太ももに後ろから突き刺さった。ジンは即座にそれを確認すると、飛んできた方に向かって右足に力を入れて一足飛びで近寄り、上からサバイバルナイフを振り下ろす。重力によって加速したそれはゴブリンの体を立てから引き裂いた。
周囲を確認し3匹のゴブリンが全員死んでいることを確認すると途端に痛みがぶり返してきた。槍で切られたわき腹からは血が流れ続け、弓が突き刺さった左肩と左足には激痛が走る。身体中が痛みと血が流れ出ることによる倦怠感に包まれる。とりあえず矢を抜こうとするが、もう右手を持ち上げることも億劫だ。
『こんなところで死ぬのか』
死が目前に迫ってきていることにジンは絶望とともに安堵していた。復讐できないことは確かに彼にとって激しい怒りを感じさせた。しかし同時にこのまま死ねばもう苦しまないで済む。もしかしたら、あるかどうかは知らないが、死後の世界で姉たちにまた会えるかもしれない。それはなんて素晴らしいことだろう。ならばもうこのまま死んでもいいのかもしれない。ジンはそんなことを考えながら、痛みと怠さから意識を手放した。
ジンは覚悟を決めてベルトに差していた2本のサバイバルナイフを抜きはなった。なんの変哲のない鉄製の2本のナイフ。刃渡り20センチほどのそれは買った当初と比べて、非常に重く感じられた。手が、足が、いや体全体が震える。右手のナイフを前に、左手を少し後ろに下げる。棒立ちになり、構えというものに意識が向かない。
『体が重い。手が上がらない。闘気を発動しなきゃ…ダメだ。発動できない。どうしようどうしよう。何か手を考えないと』
槍を持ったゴブリンがジンに向かってそれを突き出してきた。なんとか体をよじってそれを躱す。そのまま槍はジンの後ろにあった木にそのまま突き刺さった。避けられたことを喜ぶ前に彼のわき腹に鋭い痛みが走った。
「ぐぁっ!」
『痛ってぇ。刺されたのか?血?ていうかこのままじゃ本当に死ぬ!』
そんなことを考えていると今度は弓矢を構えているゴブリンの姿が見えた。今度も避けようとするジンは、しかしわき腹からくる痛みに思わず顔をしかめ、体の動きを止めてしまう。その隙に放たれた矢はまっすぐと飛んでいき、そのままジンの左肩に突き刺さった。その痛みに思わず悲鳴をあげる。さらに左手に握っていたナイフを思わず地面に落としてしまう。しかしそれを拾い上げることはできなかった。
剣を持ったゴブリンが飛び上がって上から斬りかかってきたのだ。ようやく彼のからだが動き、右手のナイフでそれを防ごうとして前に突き出し、なんとか成功する。しかし彼の想像以上に、その攻撃は重く、徐々にからだを押されていき、ついには右膝を地面についてしまった。ジンの目には後ろにいるゴブリンが再度弓を引き絞り、ジンの行動をつぶさに観察しているところが、顔をわずかに動かすと、彼の左側には木の幹からようやく槍を抜いて再びジンに突っ込もうとしているゴブリンが見えた。
『動けない。逃げられない。死ぬのか』
頭の中であきらめの声が響く。姿勢の崩れているジンに向かってもう一度上から斬りおろそうと目の前のゴブリンが、剣を振りかぶる。心臓が早鐘を打つ。目の前の景色がゆっくりに感じられた。
そんな中でジンは瞬時に様々なことを思い出していた。レイやザックとはいつも一緒だった。3人でいっぱい馬鹿なことをやった。いつも泥だらけ、擦り傷だらけでよくナギを心配させたり、怒らせたりした。ミシェルにはいつも素直になれなかったけど、一緒に遊ぶ時は楽しかった。ザックにはからかわれたが、遊んでいる時はすごくドキドキした。お嫁さんになってあげると言われた時は、飛び上がりそうになるくらい嬉しかった。でも正直になれなくて何度も泣かせてしまった。
そんな彼の記憶の中心にはいつもナギがいた。いつも優しく頭を撫でてくれたり、子守唄を歌ったり、ご飯を作ってくれたり、怪我を治してくれたり、怖い夢を見た時は一緒に寝てくれた。悪いことをした時は叱ってくれた。いつも自分よりもジンたちのことを大切にしてくれて、何か問題があれば本気で心配してくれた。
そんなナギは彼にとってまさに姉であると同時に母親であり、もっと自分のことに時間を使って欲しい、誰よりも幸せになって欲しいと常々思った。だから彼女を守れるように強くなろうと努力をした。法術が全く使えないことがわかっても、闘気を使ってなんとか強くなろうとした。
実際にこれからだった。友との友情も、気になる女の子と仲良くなることも、姉にもらった様々な優しさに対して、恩を返したいと思っていた気持ちも、あの日全て唐突に奪われた。こんな世界でなければ、今でもナギ達は元気でジンのそばにいて、時には笑い、時には泣いて、ずっと一緒に居られたはずだった。それなのに現実は残酷で、狂った女神は彼の全てをたった数時間で粉々に破壊した。
友達に別れを告げることもできなかった。弔うこともできなかった。姉との最後の別れは血にまみれていた。レイもザックもミシェルもそんな風に死ぬべき奴らではなかった。ナギはそんな業を背負わされるべき人ではなかった。もうザックやレイ、ミシェルと会うことはできない。ナギの声を聞くことはない。ジンの心の中にナギの最後の願いが不意に浮かぶ。
『どんなことがあっても、絶対に負けない』
ジンのために最後まで己を犠牲にし続けた少女の、最愛の姉の最後の願い。彼女の前で誓ったその約束を、こんなところで何にも復讐もできないまま終わることを、自分は許せるのか。
『絶対に無理だ。姉ちゃんは怒るかもしれないけど、復讐できるなら死んでもいい。それをしないと俺は幸せにはなれない』
『なら今何をしなければならないのかな?』
頭の奥でラグナの声が響く
『目の前にいる化け物を殺す』
『それにはどうすればいいと思う?』
『決まってる。このナイフをゴブリンどもに叩き込めばいい』
『ならそうしなよ』
ラグナが笑っている気がした。
ジンの目に前の景色が再び映る。彼の体はいつの間にか闘気をまとっていた。
『体が軽い。いつもこんな感じだったのか』
ついに彼は力を取り戻した。もう手は震えなかった。
重いと感じていた剣ゴブリンの振り下ろしは羽のような軽さだった。右手に携えたナイフで簡単に受け止め、それをそのまま弾く。上体をのけぞらせたゴブリンの腹を右足に力を入れて立ち上がりながら搔っ捌いた。剣ゴブリンから吹き出る血がジンの体に降りかかる。それが目に入らないように目をかばいながら、思いっきり前蹴りで弓ゴブリンの方に蹴り飛ばす。
それからすぐさま体を左から来ていた槍ゴブリンに向ける。ズルリと臓物が垂れ落ちる音と、剣ゴブリンにぶつかり「ギギっ」と呻き声を漏らす弓ゴブリンの声が聞こえた。
槍ゴブリンは武器を携えて走りながら、その切っ先を前に突き出してきた。その動きはいまのジンにとってはとても遅い。それをナイフで受け流し、そのままゴブリンの懐に入り込む。そして右脇にナイフ差し込み、それを引き上げて右腕を肩から切断する。ゴブリンが絶叫しながら槍を落とす。そのまま一旦離れて距離を取り、再度詰めて首を切り落とす。
その間に体勢を立て直していたらしい弓ゴブリンが背後から矢を放ってきていた。ヒュッという音とともに矢が左足の太ももに後ろから突き刺さった。ジンは即座にそれを確認すると、飛んできた方に向かって右足に力を入れて一足飛びで近寄り、上からサバイバルナイフを振り下ろす。重力によって加速したそれはゴブリンの体を立てから引き裂いた。
周囲を確認し3匹のゴブリンが全員死んでいることを確認すると途端に痛みがぶり返してきた。槍で切られたわき腹からは血が流れ続け、弓が突き刺さった左肩と左足には激痛が走る。身体中が痛みと血が流れ出ることによる倦怠感に包まれる。とりあえず矢を抜こうとするが、もう右手を持ち上げることも億劫だ。
『こんなところで死ぬのか』
死が目前に迫ってきていることにジンは絶望とともに安堵していた。復讐できないことは確かに彼にとって激しい怒りを感じさせた。しかし同時にこのまま死ねばもう苦しまないで済む。もしかしたら、あるかどうかは知らないが、死後の世界で姉たちにまた会えるかもしれない。それはなんて素晴らしいことだろう。ならばもうこのまま死んでもいいのかもしれない。ジンはそんなことを考えながら、痛みと怠さから意識を手放した。
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