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再会は晴れた日に
第30話 戦ってみる
しおりを挟む世理くんはもうすぐ退院の許可が出るのだそうだ。そうしたら昔住んでいた家に戻ってくるらしい。
もう家族は引っ越しを済ませていて、あとは自分だけなんだと世理くんはふくれていた。部屋の荷物を勝手にまとめられて運ばれたのが嫌だったと文句を言う。
それはさあ、仕方ないじゃない。そう私に笑われて世理くんはもっとふくれたけど、そんな話ができるなんて嬉しいと思ったのは秘密にした。
とにかく、世理くんも晴れて同級生になるんだ。先生たちもちゃんと準備してくれているらしい。
「とりあえず同じクラスにしてあるよ」
他の子にはまだ内緒だけど、と萩野先生が教えてくれた。
「どうかな? 別クラスの方がいい?」
実際に会ってみたら、ケガをさせたりなんだりで二人の間にわだかまりが、なんてことを先生たちは心配しているそうだ。まだ変更できるからさ、と言われて私はアハハと笑ってしまった。
「だいじょうぶです。世理くんも、同じクラスだといいなって言ってたし」
「へええ、うまくいってるじゃない」
「……先生、なんか嫌な感じなんですけど」
なんのことかな、と逃げてしまった先生に唇をとがらせてから、私は明日の時間割をながめた。
明日、私は教室に戻る。ひとりで。
世理くんはまだいないけど、その前にね。私だけでも大丈夫だということを確かめたいんだ。
緊張はするけれど、誰かに頼らずにやりたいと思ったのは――撫子に対して、恥ずかしくないようにしていたいから。
がんばるよ、私。
これまで私は朝のホームルーム中を狙って登校していた。他の生徒に会わずにすむように。
久しぶりにみんなと同じ時間に門をくぐり昇降口に向かうと、あれ、という視線がいくつか飛んできた。少し痛い。
でも大丈夫。これぐらい、まだまだ平気。
「あれ、尾花だ」
下駄箱の手前で声をかけてきたのは、蓮くんだった。
蓮くんは幼稚園からの友だちの一人。魂揺らの世界でも普通に世理くんと話していて、保健相談室に『セリもいるだろ』と押しかけてきたヤツだ。
「あ、おはよ……」
「はよ。何、教室くんの?」
「行ってみよっかなって」
「いいんじゃね? これまでドコいたのさ」
「相談室……いるのは知ってたんだ?」
「たりめーじゃん。靴あったし」
ああ、そうだよね。まさに今、上履きにはき替えているけど、体育に出る時とかに靴があることには気づくんだ。
「蓮くん同じクラス?」
「ん」
蓮くんは言葉少なく返事する。それは相手が私だからじゃなくて、女子全体にだろう。
小さい時は私のこと『はこべちゃん』だったのに小学校高学年ぐらいで『尾花』と呼び捨てるようになった。なんか男子って面倒だよね。女子と距離を置きたいオトシゴロなのか。
それなのに話しかけてきたのは、たぶん気をつかってくれたんだ。なんだかありがとう。
「えー! はこべちゃーん!」
後ろからはしゃいだ声がした。麻美ちゃんだ。これも幼稚園からの子。となりには鈴菜ちゃんもいて、小さく手を振っている。それを見て、蓮くんはスッと先に行ってしまった。
「もうケガだいじょうぶなの?」
「うん、治った」
「そうなんだ。体育祭は?」
「あ」
麻美ちゃんはいきなり来月のことを言い出す。といってももう二週間ちょっとだった。梅雨入り前にやるんだから。
「ええと、どうしよう。いきなりじゃ走れないかも」
「見学? 運チ仲間なのにー」
教室に向かいながらそんな話をしていたけど、麻美ちゃんは隣のクラスだった。じゃあ、体育祭では敵じゃないか。で、鈴菜ちゃんは私と一緒のクラスなんだって。
「見学するなら、私の応援してて」
背が高くて手足の長い鈴菜ちゃんは足が速い。自信たっぷりに笑ってみせられて、私はガッツポーズでこたえた。私、声は大きいよ。
彼女たちは事故のことなんて一言も言わなかった。ただ私が戻ってきたことを歓迎してくれる。何があったかではなくて、これからのことを話してくれるだけでこんなに安心するんだな。
鈴菜ちゃんと並んで教室に入ると、ザワ、とみんなが私を見た。う、だいぶ痛い。
でもがんばる。魂揺らの世界の中学校で予習済みだから、何かひどいこと言われても平気。ちょっとなら、言い返せばいいんだよ。
「ひさびさじゃん。おはよ」
幼稚園から一緒のよっしーこと佳浩くんがチラと見て挨拶してくれた。それだけで、あとは無視してくる。これは……たぶん、わざと普通にしてるんだ。だって彼のところに蓮くんがいるもん。私が来るって事前に知ってたよね。
もう――どうしよう、そっとしておいてくれるだけですごく嬉しい。当たり前に受け入れてるよ、と態度で示す人がいるせいで、他の同級生を牽制してくれているみたいだった。
「席、そこね」
鈴菜ちゃんも廊下側から二列目の後ろの机を私に教えて、平然と自分の席に行ってしまう。でもそこは斜めに二つしか離れていなくて、すぐに私を振り返ってニコリと笑ってくれた。
でもその一つ前にいたのは、撫子をすごく嫌っていた女子だった。視線が流れてぶつかってしまう。なのに向こうがすぐ、プイと目をそらした。あれ。
なんだろう。やっぱり私も嫌われているんだろうか。それとも何か、言いたいことがあるんだろうか。
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