召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

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 いよいよ出立の日――。
 あいにくの曇り空だが、命懸けの戦いを前に、レヴィはコンラートから騎士の誓いを受けていた。

「レヴィ様のことは、必ずお守り致します」

 黒地の騎士服を身に纏う使用人たちは、普段より勇ましく見えた。
 レヴィに一生仕えることとなった彼らは、レヴィの盾となり、この旅で命を落とす可能性もある。
 だが、誰ひとりとして怯えた目をしていない。

「僕のために、ありがとうございますっ」

 レヴィが深々と頭を下げれば、コンラートが目元を和らげた。

「ふふっ。初めて出逢った日から、私たちはレヴィ様に忠誠を捧げていますので。今更といった感じではありますが……」

「っ、ベアテル様ではなく……? 僕に?」

 コンラートだけでなく、全員が同じ気持ちだと頷き、レヴィは目を見張った。

「僕も足手纏いにならないよう、みんなのことを守りたいと思います。――……誰も死なせません、絶対に」

 目頭が熱くなるレヴィだが、声を振り絞る。
 すると、急に自身の体を抱きしめたコンラートが、ぶるぶるっと震えていた。

「っ……嗚呼、またその瞳を拝めることになろうとは……っ。痺れるっ」

「おい」

 ベアテルが、すかさずコンラートを一喝する。
 鋭い瞳に睨まれたものの、「ベアテル様には見つめられたくありません」と逃げるコンラートは、リンドヴィルムに助けを求めていた。

『魔王の前に、ベアテルに怯えてどうする』

 リンドヴィルムが呆れたように溜息を吐けば、コンラートの灰色の瞳はレヴィに助けを求める。
 半泣きである。

(コンラートさんも整った顔立ちなのに、言動は残念だ……)

「今日のコンラートさんは、いつもよりかっこいいって思ってたのに……。やっぱり、コンラートさんはコンラートさんでした」

「っ、レヴィ様……。わ、私のことを、かっこいいと思ってくださっていたのですね!?」

 なぜか歓喜するコンラートがやる気に満ち溢れ、嬉々として馬に飛び乗った。
 「さあ、早く行きますよ!」と、まるでピクニックにでも行くかのような軽やかさである。
 ベアテルを差し置いて先頭に立つコンラートに、使用人たちが笑いだし、レヴィもつられて笑ってしまった。

(これから長い戦いになる。きっとコンラートさんは、明るい雰囲気を作ってくれたんだ)

 コンラートは密かに想いを寄せる人に褒められたことで、浮かれていただけだったが。
 そんなこととは知らないレヴィは、コンラートたちと出会えたことに心から感謝していた。

 そしてリンドヴィルムが、静かにレヴィの前で頭を下げる。
 まるでドラゴンがレヴィに忠誠を誓っているようにも見えるが、これからレヴィは、リンドヴィルムの口の中に入るのだ。

(この子のためにも、一番安全な場所だとは思うけど……。やっぱり恐れ多いっ!!)

 躊躇するレヴィを、ベアテルが抱き上げる。

「くれぐれも、レヴィをよろしくお願いします」

『……我は、ご主人様を飲み込むようなヘマはしないぞ?』

 リンドヴィルムがニタッと笑う。
 わざと怖がらせるような顔をするリンドヴィルムは、お茶目な性格だった――。

 主に、湖の水を飲んでいたリンドヴィルムは、人間や動物を口にすることはないそうだ。
 リンドヴィルム曰く、臭いらしい。
 それでもレヴィの作ったスープは別物らしく、それを飲んでからは、大好物になったそうだ。

「それでは、失礼します」

 食べられる心配をしていたわけではないのだが、レヴィは大きな口の中にそっと足を踏み入れる。
 レヴィが舌の上に腰を下ろせば、ゆっくりと口が閉まり、視界は真っ暗になった。

「……なんでだろう。すごく安心する場所だ」

 なんの匂いもしないドラゴンの口内は、とても暖かかった。
 馬車移動するより揺れを感じない。
 むしろ、クローディアスの背に乗るより安心できると思ったことは、内緒である。







 ひとり快適に移動するレヴィは、時間に遅れることもなく、意気揚々と王宮に到着していた。

「お待たせしましたっ!」

 地面に腰を下ろす人々を、リンドヴィルムの口内から見回す。

(やっぱり、リンドヴィルム様はすごいやっ!!)

 ドラゴンを崇拝する人々が、リンドヴィルムに平伏すことになるのは予想していたため、特に驚くこともなく、その状況を受け入れていた――。


 正確には全員が腰を抜かしているわけだが、レヴィは普段よりかなり高い位置にいるため、表情まではよく見えていなかった。


「陛下」

「っ…………あ、ああ。すまないな」

 キリッと表情を引き締めるベアテルが手を貸し、ヴィルヘルムが立ち上がる。
 額から汗が止まらない様子のヴィルヘルムは、ベアテルの手を離すことができないようだった。

(きっと驚きすぎて、陛下は今にも気絶しそうなんだってわかるけど……。落ち着き払っているベアテル様の方が、この国の王のように見えちゃった)

 皆が放心状態だというのに、未だリンドヴィルムの口の中で待機しているレヴィは、ひとりベアテルに惚れ直していた。


『我が名はリンドヴィルム。愛し子と、その子を守るために参上した』


 リンドヴィルムの厳かな声が脳天に響いた。



















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