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しおりを挟む国王から謹慎を命じられたテレンスは、あっという間に騎士に拘束されていた。
テレンスは、こちらの都合で召喚した勇者を騙していたのだ。
いくら異世界に帰るとしても、勇者は敬意を払うべき、大切な客人あることには違いない。
己の犯した罪を反省し、アカリに謝罪すべきだ、とレヴィは思っていた。
「ち、父上っ! 落ち着いてくださいっ!」
「…………」
誰よりも取り乱すテレンスが叫ぶものだから、レヴィは呆気に取られる。
処罰されるのは当然のこと。
それなのに、テレンスは今もなお、みっともなく足掻いている。
最後まで己の非を認めないテレンスの姿に、貴族たちも呆れていた。
「アカリは、レヴィの親友ですよ!? 私たちが話す前に、内密に告げていたのかもしれませんっ! そうだっ。こんなもの、茶番にすぎません!!」
テレンスの訴えを、誰も信じてはいない。
だが、確かにこの騒動が起きる前に、レヴィはアカリと話していた。
アカリの口からは、テレンスの名すら上がってはいなかったが……。
「レヴィは、アカリを助けるために虚偽の報告をしたのです!」
「これ以上、口を開くな! 愚か者め」
ヴィルヘルムに叱り飛ばされたテレンスが、半泣きになる。
それでもテレンスは、必死になって無罪を訴え続けていた。
まるで駄々を捏ねる子供のようだと、レヴィは思った。
「連れて行け」
そう命令したヴィルヘルムは、テレンスの話を聞くつもりはないようだった。
だが、レヴィはなんとなくわかっていた。
不死鳥を従えているレヴィを非難し、これ以上罪を重ねるな、と。
ヴィルヘルムなりの優しさなのではないのか、と――。
「っ、レヴィ!! 私がアカリを選んだことを、恨んでいるのだろう? だから私をはめるようなことをしたんだね? 違うかい?」
しかし、今のテレンスには、父親の愛が伝わっていなかった。
国王が説得できないならばと、今度はレヴィに訴え始める。
「充分反省しているよ。レヴィを手放したことを、私はずっと後悔しているっ」
情に訴えかけられるのだが、ベアテルがレヴィを背に庇った。
(……僕が、テレンスの話に耳を貸すと思ったのかな?)
レヴィを、心優しい天使のように思っているベアテルのことだ。
きっと流されないようにと、守ってくれているのだろう。
だが、レヴィはテレンスに反省してほしいと願っているため、助けるつもりはなかった。
「レヴィ? 今なら許してあげるっ。真実を話すんだっ!」
上から目線のテレンスに、レヴィは呆れて物も言えない。
みっともなく暴れるテレンスだが、ジークフリートに片手で捻り上げられていた。
「レヴィッ!!」
とにかくレヴィが話すまでは諦められないといった態度のテレンスを、レヴィは哀しげに見つめる。
「テレンス殿下は、僕が動物と話せることを、今も信じていないんですね……」
「っ、」
今まで騒いでいたテレンスが、息を呑む。
薄紫色の瞳は、深い悲しみに満ちていた。
「僕の秘密を一番最初に話したのは、貴方だったのに……」
心を痛めるレヴィに気付いた者たちの咎めるような視線を、テレンスは一心に浴びる。
しかし、動揺するテレンスの青い瞳には、レヴィしか映っていなかった。
その視線を遮るように、ベアテルに抱き寄せられる。
「レヴィ、すまない」
「…………ベアテル様?」
どうしてベアテルが謝罪するのか。
レヴィは首を傾げたが、いつにも増して真剣な表情のベアテルは、国王にこうべを垂れる。
「ご報告があります。ウィンクラー辺境伯領の湖にて、リンドヴィルム様にお会いしました」
「「「――……ッ!!!!」」」
銀のドラゴン――リンドヴィルムの名を出した途端に、ベアテルが注目の的となった。
だが、ベアテルが約束を破ったことに、レヴィは驚いていた。
(だから謝ったんだ……)
レヴィはアカリを気遣い、報告はパーティーの後にと判断したが、ベアテルは違う。
可能な限り、レヴィの願いを叶えるつもりではあったが、ベアテルが最も大切なのはレヴィだ。
僅かにでもレヴィが疑われ、心を痛めることを避ける為に、ベアテルはこの場で報告する決断をしていた――。
「私の伴侶が、毎日欠かさず祈りを捧げたことにより、死の森は今や、かつてのような神聖な場所に変わっています。その御礼にと、リンドヴィルム様より、貴重な鱗を頂戴いたしました」
「なっ! なんとっ! それは、まことか」
驚愕するヴィルヘルムだったが、ベアテルを咎めることはなかった。
ベアテルが目配せをすれば、ウィンクラー辺境伯家の使用人たちが、続々と会場に現れる。
「っ……ま、まさか、」
ほんの数枚だと思っていたのか、大きな箱を手にした者たちが登場し、皆一様に度肝を抜かれる。
まだ鱗を目にしていないというのに、ヴィルヘルムは喜びを隠しきれずに、頬は上気していた。
その一方で、テレンスだけは顔面蒼白だった。
レヴィが不死鳥だけでなく、ドラゴンとも交流したとなれば、いくらテレンスが訴えたところで、皆が無条件にレヴィを信じることになるだろう。
それだけドラッヘ王国の民にとって、ドラゴンは絶対的存在なのだ。
誇らしげな表情の使用人五名が箱を開ければ、きらきらと、眩い光が放たれる――。
「「「っ、おおおおおおおっ!!!!」」」
その瞬間、感嘆の声が上がった。
五つの大きな箱には、銀色の鱗がぎっしりと詰まっていたのだ。
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