召喚された最強勇者が、異世界に帰った後で

ぽんちゃん

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 一週間後、少数精鋭の魔王討伐部隊を見送ったレヴィは、教会に向かう馬車の中で、ぼんやりと窓の外を見ていた。
 うららかな春の日差しが心地よく、魔王討伐に向かうには絶好の日和であった。

(みんなが、無事に帰ってきますように――)

 アカリ、テレンス、ベアテル、ジークフリート、ひとりひとりの顔を思い出し、祈りを捧げる。
 討伐に向かう前から、何度も何度も祈っているレヴィは、小さく息を吐いた。

(……さすがに疲れちゃった)

 少しだけ窓を開ければ、活気のある声と共に、ちらほらと綻んだ花の香りが馬車の中に流れてくる。
 勇者が魔王の討伐に向かったことは、民にも知らされており、街はお祭り騒ぎだった。

「……アカリ様、すごく泣いてたね……」

 出発するその時まで、レヴィに抱きつき涙するアカリを思い出し、独りごちる。
 『いつか、夢でもいいから会いに来て……』と、別れの挨拶をしたアカリの言葉が蘇る。
 もう二度と会えないと、覚悟しているような表情に見えたのは、レヴィの気のせいではないだろう。
 アカリの無事を祈ることしかできないレヴィは、安全な場所に残った己の情けなさに、胸が締め付けられる思いだった。

「でも、ロッティさんがいるから、きっと大丈夫――」

 空っぽになったポケットを撫でたレヴィは、そっと窓を閉める。

『おう、俺様に任せとけ。魔王のもとまで、最短ルートで案内してやるぜ!』

 水色の空を見上げれば、頼もしいハスキーな声が聞こえてきた気がした。
 アカリのことが心配でたまらなかったレヴィは、共についていくことはできないが、信頼するロッティに全てを託していた――。
 自ら決めたことだったが、ロッティの不在を少しだけ寂しく思っていたレヴィは、知らぬ間に顔を綻ばせる。

 本当ならば、魔物討伐に慣れているクローディアスに頼みたかった。
 だが、どれだけレヴィが頼んでも、クローディアスは決してアカリを認めなかった。
 普段は子供っぽいクローディアスだが、背に乗せる者は、彼が真に認めた者のみ。
 ウィンクラー辺境伯家の者とレヴィ以外は、頑なに認めなかった。

 そのことをわかっていたのか、ロッティが案内役を名乗り出てくれたのだ。
 魔王の棲家は把握している、と豪語していたロッティだが、そんなことはどうでもよかった。
 ただ、いつもレヴィのそばにいてくれたように、アカリの癒やしとなってくれたらそれでいい、とレヴィは思っていた。



 教会に戻れば、聖女候補たちに迎えられる。
 その中に、いつもそばにいてくれたマリアンナの姿はない。
 辺境伯領の隣であり、頻繁に魔物が姿を現す危険地帯でもある、ハーバル男爵領の聖女として活動しているのだ。
 テレンスとレヴィのことを祝福してくれていたマリアンナが不在のため、自室に戻ってひとりになった瞬間に、嫌な考えばかりが脳裏を過ぎる。

(魔王討伐に向かった勇敢なふたりは、きっと結ばれるんだろうなあ……)

 出立前、テレンスから贈られた指輪を手にするレヴィは、深い溜息を吐き出した。
 テレンスとは、『帰還後は、すぐに婚姻しよう』と約束している。
 テレンスを信じて待つレヴィであったが、あまり期待しないように心がけている。
 魔王討伐部隊が去った後、親切な大人たちが教えてくれたのだ。

 魔王討伐に向かい、様々な困難を乗り越えるであろうアカリとテレンスの間には、きっと愛が芽生えるはずだ、と――。

(ウィンクラー辺境伯夫夫が結ばれたのも、魔王を倒しに行った旅でのことだったみたいだし……)

 きらきらとした指輪を指にはめようとしたレヴィだが、小さな箱に仕舞う。
 ポケットには入れたが、指輪をはめる時は、テレンスと再会した時にするつもりだ。

(テリーが心変わりをしていなければ、その時に指輪をつけよう……)

 周囲の大人たちの言葉が耳にこびりついているレヴィは、帰還したふたりを笑顔で祝福できるよう、今から心の準備をしていた――。







 それからレヴィのもとには、エルネストやユリアンが、度々顔を出してくれるようになっていた。
 テレンスが魔王討伐に向かったことで、レヴィが寂しい思いをしているかもしれないと、心配してくれているのだろう。
 他愛のない会話の中で、知らぬ間にレヴィの世界はどんどん広がっていた。

 そして、手紙のやりとりをする相手も増えた。
 レヴィの主な文通相手は、第一王子のリュディガーと、英雄のひとりであるマクシムといった大物である。

 手紙をしたためるだけでも緊張する相手だが、多忙なリュディガーは、とても心のこもった文を送ってくれる。
 毎回、長文だった。
 そしてマクシムは、辺境伯領で飼っている動物のことを教えてくれる。
 動物の足の形をしたスタンプのようなものも押してくれているため、レヴィにとっては密かな楽しみでもあった。


 それからゆるやかに時は流れ、三ヶ月が経過した頃――。

 
 日課の祈りを捧げていたレヴィは、ヴィルヘルム国王陛下から呼び出しを受けていた。
















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