39 / 131
37
しおりを挟む「レヴィ。兄上と、なにを話したの? どうして兄上と踊ることになったんだい? 詳しく聞かせてくれるよね?」
ご立腹のテレンスに問い詰められるレヴィは、返事もできないまま、テラスに向かって引きづられていた――。
レヴィを待つテレンスが、勇者アカリとの関係に興味津々の者たちに囲まれている間、レヴィは、エルネストとユリアンと踊っていた。
その結果、テレンスとは踊れなかったのだ。
テレンスが怒るのも無理はない。
だが、アカリと踊ってから機嫌の良いユリアンのことが、レヴィはどうしても気になったのだ。
もしユリアンが、アカリに好意を抱いたのなら、恋人である聖女アニカを悲しませることになる。
レヴィの心配は杞憂に終わったが、その確認をしたかったのだ。
『ご主人様っ!! 大丈夫だったか!?!?』
レヴィがテラスに出た途端、突風が吹いた。
凄まじい勢いの黄色っぽい物体に、突撃されていたのだ。
「うわっ!」
レヴィのローブに張り付くロッティは、何度声をかけても決して離れようとはしなかった。
(ほんの数時間離れただけだったのに、寂しかったみたい……。可愛いっ)
「レヴィ。私がレヴィとファーストダンスを踊らなかったことが、そんなに気に食わなかった?」
ロッティを優しく撫でていたが、テレンスの刺すような視線に、レヴィは息を呑んだ。
別人のように鋭くなる青い瞳に、背筋に冷たいものが走る。
カタカタと震えるレヴィを暫く眺めていたテレンスは、満足そうに顔を綻ばせた。
笑うところではないというのに、幸せそうに笑うテレンスが、レヴィは怖くてたまらなかった。
「私たちは、レヴィに仲直りしたところを見せたくて踊ったんだよ? 私だって、レヴィと踊りたかったのに……。どうしてそんな意地悪するの?」
「っ、い、意地悪だなんて……。僕、そんなつもりじゃ――」
「今回は許すけど、もう二度と同じことはしないで? いいね」
ガラリと雰囲気が変わったテレンスが、愛おしそうにレヴィの目尻に口付けを落とす。
優しく頭を撫でられ、頷いたものの、レヴィはなぜだかモヤモヤとしていた。
ふたりが仲良くなってくれたらいい、とは思っていた。
だが、いくら仲直りしたところを見せたかったとはいえ、ファーストダンスを婚約者以外と踊る行為は、間違ったことだと思ったからだ。
「レヴィにダンスを拒否されて、すごく傷ついた……」
ハッとしたレヴィが顔を上げれば、悲しげに微笑むテレンスに、抱き寄せられていた。
レヴィが納得していないことに気付いたのか、テレンスに再度お願いをされたレヴィは、今度こそ深く頷いていた。
「っ、僕、テリーを傷つけるつもりじゃなかった。ただ、約束を守らないとって思って……。テリーを傷付けて、ごめ――」
『レヴィ、謝るな!!』
怒りの孕む声に、レヴィは息を呑んだ。
『なぁにが仲直りしたところを見せたかった、だ。テメェの魂胆は見え見えなんだよ! 兄貴を差し置いて、国王になりたいんだろ? だから、アカリとファーストダンスを踊ったんだよ。ご主人様、コイツに騙されるな』
(……え? テリーは、国王になりたいの?)
テレンスが玉座を望んだことはないと思っていたレヴィは、ロッティの言葉に困惑するしかない。
『レヴィ、よく聞け』と、ロッティの真剣な声が届き、レヴィはごくりと唾を飲む。
『ご主人様の婚約者は、無能な男か?』
テレンスに気付かれないよう、レヴィは小さく首を横に振る。
『それなら、王子が勇者とファーストダンスを踊れば、周りがどんな目でふたりを見るのか。コイツはそれをわかっていて、アカリの手を取ったんだ。コイツは、玉座を望んでいる』
「っ……」
『俺様を信じろとは言わない。だが、レヴィがコイツを信じたいのなら、次はレヴィを選ぶように約束させろ。コイツが玉座を望まず、本当にレヴィを愛しているのなら、二度とアカリとはファーストダンスを踊らないと誓うはずだ』
パニックになりかけているレヴィだが、ロッティもテレンスも、どちらのことも信頼している。
そして国王は、フワイト王国の王子を婚約者に迎えている、リュディガーでなければならない。
いくらテレンスに国王の器があったとしても、エルネストが王妃にならなければ、フワイト王国と戦になってしまう。
(……それに、兄弟で争ってほしくない……)
意を決したレヴィは、テレンスを見上げた。
「それなら、テリーも、もう同じことはしな――んんっ!?!?」
身動きが取れないレヴィは、これ以上言葉を紡ぐことができなかった。
レヴィの口は、テレンスによって塞がれていたのだ――。
なにが起こったのかわからない。
呆然としている間に、そっと離れたテレンスが、指先でレヴィの唇を撫で、うっとりと微笑んだ。
「なにか言った?」
「――――…………ッ!!」
驚愕するレヴィは、開いた口が塞がらなかった。
信じられない思いのまま、テレンスを見上げる。
恍惚とした表情のテレンスが話し続けているが、レヴィはまったく頭に入ってこない。
レヴィの言葉は、聞かなかったことにされているのだから――。
「それで、兄上とは何を話したの?」
「…………家族として、認めてくれたよ」
「――ふふっ、そっか。婚姻する日が待ち遠しいよ。必ず幸せにするからね、レヴィ」
頬を染めるテレンスは、どう見ても嘘をついているようには見えなかった。
(テリーは、僕を騙してる? アカリ様を、利用したの……?)
この時レヴィは、全幅の信頼を寄せるテレンスに対して、初めて不信感を抱いていた――。
140
お気に入りに追加
2,029
あなたにおすすめの小説
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる